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人間性を学ぶ

【海の底】有川浩|横須賀の自衛隊基地に現れた巨大生物

海の底

海の底には見たこともない深海生物はたくさんいるのだと思います。

しかし,もし地上に巨大な生物が出現したら,人間たちはどんな行動を起こすのか。そんなことを考えさせられる作品でした。

話は,米軍が在留している横須賀基地で桜祭りというイベントが行われていたところから始まります。そのイベントの途中で大事件が発生します。

横須賀の基地に停泊中の海上自衛隊潜水艦付近に,巨大なザリガニのような生物が大量に上陸してくるのです。巨大生物が横須賀基地を襲う巨大な甲殻類は,どんどん人間たちを襲います。その表現が生々しく,最初はかなり衝撃を受けます。

一体この強大な甲殻類,なぜこんなに巨大で,どんな理由で上陸してきたのか。

この生物に海上自衛隊の二人が立ち向かいます。そして潜水艦内に逃げ込んだ子供たちと共に生活しながら,彼らの勇気や決断,成長を描いた作品となっています。。

こんな方にオススメ

● 巨大な生物が自衛隊基地を襲うシーンを知りたい

● 潜水艦の中に逃げ込んだ自衛隊員と子供たちの人間模様を読みたい

● 潜水艦で生活する子供たちの成長を知りたい

作品概要

四月。桜祭りでわく米軍横須賀基地を赤い巨大な甲殻類が襲った! 次々と人が食われる中、潜水艦へ逃げ込んだ自衛官と少年少女の運命は!? ジャンルの垣根を飛び越えたスーパーエンタテインメント!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

夏木大和・・・主人公。海上自衛隊の幹部

冬原春臣・・・海上自衛隊の幹部

森生望・・・・高校3年生。横須賀基地のイベントで事件に遭う

森生翔・・・・小学6年生。望の弟

遠藤圭介・・・中学3年生。森生姉弟とあまり仲がよくない

本作品 3つのポイント

1⃣ 巨大生物から逃げる人々

2⃣ 潜水艦内での生活

3⃣ レガリスの撃退なるか

巨大生物から逃げる人々

米軍横須賀基地に上陸した巨大な甲殻類。

巨大なハサミで,逃げまとう人間たちが手足などを切断され,基地内がパニックになります。巨大生物から逃げる住民たち「バッサバッサ」とハサミで切り落として人間を食するシーンなど,何かグロい表現があって,想像しただけで「この作品,最後まで読めるのだろうか」って思いながら読んでました。

基地から逃げ出そうとする人々。しかし脱出ルートさえも塞がれてしまいます。

海上自衛隊の夏木と冬原の2人は,逃げ遅れた子供たちを発見します。

行く手を阻まれ,逃げる場所に選んだのが停泊中の「潜水艦きりしお」でした。潜水艦きりしお外では大変なことになっていました。警察も出動しますが,巨大化した甲殻類を倒す武器もないため,どんどん死傷者が出てしまいます。街中も大パニックです。

自衛隊が総力を上げて攻撃すればこの甲殻類を一掃できるはずですが,その許可が下りないんですね。

自衛隊だけでなく,米軍の応援も頼めばこの事態を逆転できそうなのに。。。読んでる方もイライラしてしまう展開です。

そんな頃,自衛隊員たちは,潜水艦へ子供たちの誘導を始めました。

潜水艦の艦長が先頭に立って,潜水艦内に子供たちの誘導を始めます。しかしその最中に,艦長は巨大生物にやられてしまいました。

残された夏木と冬原。2人で子供たちを護らなければならなくなりました。

夏木,冬原と子供たちはしばらくの間,潜水艦で生活しなければなりません。二人の自衛隊員は子供たちを守ることができるのでしょうか。子供たちを2人の自衛官が護るところがここで問題が出てきました。生活するためには食事が必要なんですけど,誰もまともな食事を作れないんですね。

夏木と冬原も作れないし,それ以外は子供たちばかりですから。不協和音な感じの潜水艦内。

「食事も作れないのか」と声を荒げたのが遠藤圭介という中学生です。どうやら彼は森生望にそれを言っているようです。何も言えない望。

望には親がいなかったので,それを言うのはかなり酷かなって思いました。これを機に,子供たちは圭介のグループと望のグループに分かれてしまいます。

圭介がなぜ望に厳しく言うのか,夏木と冬原の二人は困っているようでした。

何かギクシャクした感じの潜水艦内。この状況でいつまでも生きていられるかもわからない状況です。圭介と望の言い争いそんな時,潜水艦を取り囲んでいる甲殻類の正体が,明らかになってきました。

一体この甲殻類は何者なのでしょうか。

潜水艦内での生活

相模水産研究所の研究員が重要な報告を伝えてきました。彼が書いた報告書の中には

「巨大な甲殻類は,サガミ・レガリスという深海生物が巨大化したものではないか」

と書かれているのです。

限られた時間の中で子供たちを救出したい夏木と冬原。ここで「きりしお」内の子供たちを救出する作戦が練られます。救出の期待に沸く子供たち。

そして自衛隊の決死の救助が行われます。しかしこれがなかなかうまくいかないんですね。

3回の救助がトライされましたが,いずれもあと少しのところで失敗していまします。

打つ手なしの様子の自衛隊。意気消沈する子供たち。しかも相変わらず自衛隊による直接の攻撃に許可がおりない様子。自衛隊の攻撃の許可が下りないん~,決断にこんなに時間がかかるものなんですかね。。。やはり有事に対するの憲法が縛りを与えているんでしょうか。それは巨大生物に対しても同じなのでしょうか。

こんな時,夏木たちは子供たちにどんな声をかけてあげればいいのだろうかと,かなり苦悩している様子もうかがえました。

そしてさらに事態はおかしな方向へといきます。ある日,艦内のテレビを見ている時,衝撃的な言葉を聞きます。

「きりしおの隊員が,子供たちに虐待をしている」ということです。

なぜ? ここまで子供たちのことを考えている二人に対して,なぜこんなデマが流れてしまっているのか。

どうやら,圭介が隙をみて自宅に電話をかけ,そんなデマを流していたようなんですね。意地悪な圭介何のために? どうやら圭介は,望が夏木たちを頼り,心を寄せていると思ったからでした。つまり「嫉妬」でしょうか。

圭介からすると,夏木たちに付いて自分に反抗してくる望に対する嫌がらせのようなものだったのでしょう。

ん~,子供心というものは難しい。いや,大人でも同じようなことはありますけど。。。

そしてクライマックスへ。潜水艦内に閉じ込められて6日目。食料も限界に近づいていました。

そしてとうとう日本は大きな決断を下すことになるのです。

レガリスの撃退なるか

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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圭介は調子に乗って,奇跡の脱出劇を演じようとします。テレビに映っている時に潜水艦から見事に脱出という映像でも思い浮かべたのでしょうか。

ヘリが救出にやってきました。甲板に登った圭介。ここでヘリに救出されようという英雄気取りでもやろうとしているようです。しかし,うまくはいきませんでした。ヘリの救助下からはレガリスたちが徐々に迫ってきていました。その状況を見て,ヘリはレガリスたちを撃ち始めます。もちろん圭介もその銃弾の中にいるわけです。圭介,大ピンチ。

そこに夏木が救助にきていました。危機一髪救助に成功した夏木。

「いいか,お前らを助けるために艦長が死んだんだ。艦長に助けられたお前たちに勝手に死ぬ権利はない」

圭介に向かって一喝する夏木。ここで圭介は夏木に救われ,自分がこれまで我がままで,親に褒められたいために生きてきたことに深く反省するのです。

そしてようやくレガリス一掃作戦が開始します。自衛隊の機動隊がとうとう出動したのです。
街中を移動していたレガリスたちに自衛隊の攻撃が始まります。

トラックに装填された無反動砲,装甲車の攻撃。自衛隊員による携行火器の放射などなど。自衛隊の攻撃開始一気にレガリスを攻撃していきます。攻撃を受けたレガリスは「原型をとどめない」という表現からも,一網打尽にたたきのめされていく様子がわかります。

銃しか持たない警察ではびくともしなかったレガリス群が,どんどん一掃されていくのです。そしてレガリスたちはどんどん逃げ出していきます。

最初からこれすればよかったのにとも思いましたが,やはり自衛隊が武器で「防衛する」というのと実際に「攻撃する」というのでは扱いが全く違うのかなって思ったりもしました。だから政府からの許可が下りない。

これだけの戦力がありながら出さなかったために,多くの住民や,抵抗した警察たちが亡くなってしまったことを思うと,何とも言えない気持ちになりました。

最終的にはレガリス群を自衛隊,そして米軍も加勢して全滅させることに成功します。

街中に散らばるレガリスの死骸。もちろん街も壊滅状態です。それだけレガリス掃討のために多くの攻撃が行われたということなのでしょう。

約一週間かけてレガリスの死骸を集め,海に沈め,ようやく横須賀に平和が戻ってきたのでした。

今回の話は,レガリスという巨大な生物を日本がどう掃討するのか,というところがポイントなのかなって思ってました。

でもよくよく考えると,実は潜水艦隊員の夏木・冬原の自衛隊員と一緒に生活した子供たちやの成長の話だったのかなって思います。子供たちを護った自衛官の2人特に子供たちの振る舞いは印象的でした。

思いやりのある子供もいれば,親がいない子供だったり,親の顔色を伺いながら生きている子供もいる。

自衛官に逆らったりする子供もいる。そんな彼らがこの究極の事態でどんな行動をするのか。

子供にとって育った環境というのはとても重要だと思う。それはこれまで多くの作品を読んできて思います。

虐待された子供,イジメっ子やイジメに遭った子供。不遇な環境で育つ子供に大きな影響を与える。

そんな子供たちが生きるか死ぬかわからない状況の中,成長していきました。自分の過去の出来事を思い出しながら,生きるためにそれぞれが多くのことを考えているようでした。

特に印象に残ったのは,親の言うことが正しいと思い込んで生きてた圭介。親の目をいつも気にして,褒められるために親の喜ぶ人間になることが正しいと思い込んでいた。

結局それは親の自己満足でした。親って,子供が褒められようとしてることにも疎く,実際それを知ったとしても子供の成長に影響があるとは思わないんじゃないかと思います。

あれをやってはいけない,これをやってはいけない。自分の子供は優等生である。それは実はまやかしで,自分のことが一番だと思い込んでいるだけ。

その証拠に,この作品のクライマックスで,圭介が無事だった姿を見て喜ぶと思いきや,圭介がマスコミに発した言葉を責めた。それは世間体を気にする親の傲慢さである。

やはり,育つ環境というのはとても大事で,誰と巡りあうか,どんなことを諭されてきたのか,自分の言葉や存在の意味を痛感させられた。

大人にはその責任があり,決して自分の私利私欲で言葉を発してはいけない。子供たちの将来のことを考えて伝えないといけない。

自分の言葉,行動,所作。その一つ一つを子供たちはよく見ているのだと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 人間の生命を脅かす巨大な深海生物が本当にいるのか

● 人間は,追い詰められたときにこそ成長するのではないか

● 日本に有事が起こった場合,自衛隊などは正しく機能するのか

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