2020年に出版され,2022年には映画化された作品です。
この作品を知ったのは,ある番組で映画の紹介コーナーで出たからです。
主演が広瀬すずさんと松坂桃李さんと,二人とも好きな俳優さんだったので,気になってすぐに買いに行きました!
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 誘拐事件発生?
4.2 視点によって事実は異なって見える
4.3 いろいろな幸せのかたち
5. この作品で学べたこと
● 本作品の「佐伯文」は本当に誘拐犯なのかどうかを考えたい
● 視点を変えると違ったものが見えてくるという体験をしたい
● いろいろな幸せのかたちについて考えてみたい
最初にお父さんがいなくなって、次にお母さんもいなくなって、わたしの幸福な日々は終わりを告げた。すこしずつ心が死んでいくわたしに居場所をくれたのが文だった。それがどのような結末を迎えるかも知らないままに――。だから十五年の時を経て彼と再会を果たし、わたしは再び願った。この願いを、きっと誰もが認めないだろう。周囲のひとびとの善意を打ち捨て、あるいは大切なひとさえも傷付けることになるかもしれない。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
-Booksデータベースより-
作者は「凪良ゆう」さんです。
家内更紗・・・主人公。公園で佐伯文と出会い,一緒に住むようになる
佐伯 文・・・更紗と住むようになるが,誘拐犯として逮捕されてしまう
中瀬 亮・・・後に更紗の彼氏になる人物。佐伯に嫉妬する
安西佳菜子・・更紗の同僚。更紗に娘を預けるようになる
安西梨花・・・佳菜子の娘
家内更紗という少女は両親と離れ離れになり,伯母の家に引き取られました。
彼女が公園にいるとき,佐伯文という少年に声を掛けられるところから話は始まります。
1⃣ 誘拐事件発生?
2⃣ 視点によって事実は異なって見える
3⃣ いろいろな幸せのかたち
雨が降る日,佐伯文は更紗に傘を差し出します。「帰らないの?」と。
でも更紗は家に帰りたくなかったんですね。
伯母には「しょうがないから面倒をみてやってんだよ!」と思われているし,夜になると伯母の息子のたかひろが更紗の体を触ってくるからです。
結局,更紗は佐伯についていくのです。
伯母の家から離れられたのと,佐伯の優しさが居心地がよかったのでしょうか。
更紗は佐伯の家に住むようになります。
そうなると当然,捜索願が出るわけです。テレビでその報道を見るわけですね。
自分の名前がテレビに出てしまった時の気持ちってどんなものなんでしょうか。
「あっ,自分は誘拐されたことになっているんだ」
更紗の視点はきっとこんな感じだったのではないでしょうか。
もうすでに2ヶ月が経過してました。
どんどん捜査の手が佐伯に伸びてきます。
そしてとうとう最悪の瞬間が訪れるのです。
更紗にとっては幸せな日々だったことでしょう。
しかし,佐伯と二人で湖にいるところに警察がやってきました。
佐伯文,逮捕。更紗は無事保護されました。。。
というのは,世間一般的な視点でしょう。
おそらく僕がこの報道を見たとしても,同じことを考えると思います。
人質が無事に帰ってきてよかったな,と。
でも,更紗にとってはとてもとても辛い出来事になるわけです。
自分のせいで佐伯が逮捕されたわけですから。自分を責める更紗。
そもそも彼女は誘拐されたなんて思ってもいない。
更紗が苦しむ姿が目に浮かびます。そして話は15年後,更紗は24歳になり,彼氏もできるわけです。
佐伯のことなど忘れていたある日,とうとう二人は再会することになるのです。
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ファミレスでアルバイトをしていた更紗は,送別会の後,同僚の安西と,あるカフェへ行きます。
そこで働いていたのが佐伯文でした。でも佐伯は普通に注文を取るのです。
更紗は考えます。人違いか,いやそれとも佐伯に知らないふりをされているのか。
今度は彼氏である亮も疑い始めます。
あのカフェに行きだすようになってから更紗がおかしくなったと。
そしてとうとう暴力も振るいだします。
この作品にも書いてあるんですけど,暴力を振るう人ってすぐに謝るけど,また同じことを繰り返すみたいですね。
更紗は幸せなのでしょうか。どんどん佐伯に気持ちが傾いているのがわかります。
そして昔の「誘拐犯」だと気づいた亮は,ネットに佐伯のいるカフェのことを書き込んでしまいます。
この辺りから更紗の不信感が大きくなっていくようでした。
ある日,安西の娘である梨花を更紗が預かることになります。
安西はシングルマザーで,この時を境に梨花を預けるようになるんですね。
何かこの佐伯,更紗,梨花の三人は,不遇の環境で育ってしまっているなと感じました。
ここから佐伯の15年間の空白の期間に何があったかが語られます。
あの「誘拐事件」の後,佐伯は少年院に送られたようです。
その後,母親と過ごすことになるんですけど,うまくいかなかったようです。
彼女もできますが,自分が小児性愛者だとカミングアウトし,彼女も去っていきます。
佐伯は苦悩していたんです。
自分自身が全裸を更紗に見せることで「第二次性徴」が来ていないことを見せるんですね。
ん~,これは僕もかなり考えました。それで悩んでいる人が世の中にはいるんだろうなと。
自分自身は普通に成長しているからわからないけど,世の中には他人の目を気にして生きている人がいるわけなんですね。
でも同時に思ったのは,更紗に正直に話したことで,彼は大人になりたかったのではないかな。
更紗の前だからこそできた行動。
更紗だけに本当の自分を見せることができたのは,好きだったからというよりは,「更紗のことを一番信頼している証拠」だったのではないかと思うのです。
自分の弱さを見せられるのは,本当に信頼している人だけですから。
不遇の環境に育った佐伯,更紗,そして梨花の三人にとって,同じ場所にいることが一番の幸せだったのではないでしょうか。
● 同じ事実でありながら,視点・立場によって違った見え方をする場合もある
● 血のつながった人間同士が一緒にいることが幸せとは限らない
● 人は自然と自分が幸せと思う方向に流れ,その形もさまざまである
人にはいろいろな幸せのかたちがあるのだと考えさせられる作品でした。
彼らはこれからも流れに身をまかせて生きていくのでしょうね。