本作品を観たのは,レンタルビデオでDVDを借りたのが最初です。
観た後にどうしても原作を読んでみようと購入したのがこの本との出会いです。
映画では表現されていない部分もわかり,改めていろいろなことを考えさせられる作品だと思いました。
やはり「特攻」という言葉が思い浮かびます。
戦後80年近くが経っても,毎年終戦記念日の頃には必ず誰かが話しますし,僕自身も思い出します。
そして,思い出すのは必ず本作品です。
昨年,90を迎えた僕の親戚が「自分だけ生き残ってしまった」と号泣してました。ずっと苦悩していたのだと思います。そして今年,亡くなりました。
「特攻」という手段に対して人によって考え方や思いが異なり,僕自身の今を考えされられる大切な作品に一つとなっています。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 本当の祖父は臆病者?
3.2 宮部久蔵の真の姿
3.3 宮部が遺したもの
4. この作品で学べたこと
● 宮部久蔵という人間像を知りたい
● 本当の祖父が宮部久蔵であることを,なぜ隠していたのかを知りたい
● 特攻隊員の真の思いを知りたい
物語の主人公・佐伯健太郎は、祖母の葬儀の日に実の祖父・宮部久蔵の存在を知らされる。零戦パイロットとして天才的な操縦技術を持ちながら、生きることに執着し、仲間から「臆病者」と蔑まれた宮部の実像を調べようと、健太郎は彼を知る人たちを訪ね歩く。「家族の元に帰る」ことを妻・松乃と娘に誓った宮部がなぜ特攻を志願したのか、その謎が健太郎の手により解き明かされていく。
-Booksデータベースより-
佐伯健太郎・・自分の本当の祖父,宮部久蔵を調べる
佐伯慶子・・・健太郎の姉。フリーライター
宮部久蔵・・・健太郎と慶子の本当の祖父で,特攻隊員
大石賢一郎・・健太郎と慶子の祖父。本当の祖父ではない
1⃣ 本当の祖父は臆病者?
2⃣ 宮部久蔵の真の姿
3⃣ 宮部が遺したもの
司法試験に不合格になり,浪人している佐伯健太郎と,フリーライターで姉の慶子は突然祖父に打ち明けられます。「俺はお前たちの本当の祖父ではない」
この言葉を聞いた健太郎と慶子は「宮部久蔵」という人物が本当の祖父であることを知るのです。特攻で命を失った人々が多い中,二人は戦時中の頃を知る数少ない人たちを探し出し,当時の話,そして宮部久蔵について知ろうとします。
ところが最初に聞いた話で衝撃を受けます。
「生きて帰りたいとばかり言う臆病者だった」と。
そんな話を聞かされ,健太郎たちはショックを受けていたようでした。その後も取材を続けます。しかし徐々に証言が変わってくるのです。
「とても優秀なパイロットで,身分がどんな人にも謙虚に接する人間だった」
聞くによって証言が異なるのは一体どこからくるのか。
健太郎たちはもっと本当の祖父のことを知りたいという気持ちが強くなっていきます。
健太郎は多くの人から話を聞くにつれ,本当の祖父の真の姿を見るようになってきてました。
まず,宮部は軍でもトップレベルの技術を持った戦闘員でした。
アメリカと戦っている間に,彼のフォローにより命を救われた人も多かったのです。
宮部は誰よりも命を大切にする人間でした。
さらに宮部が戦闘員の育成に携わるようになった時も,彼は合格点を与えない人だったようです。
自分の教え子たちを「特攻」へ行かせたくなかったからなんですね。
「特攻はテロリストである」と言う人もいました。でも決して正しいとは言えない。
日本の「特攻という作戦」に対しての宮部の抵抗だったようにも思います。
彼が「生きて帰りたい」と仲間に言っていたのは,決して臆病者だったからではなかったのです。
必ず帰ると約束した,妻とまだ見ぬ娘に会いたいという思いが強かったからなのですね。しかし,ある日宮部が特攻を志願していたことがわかります。
あれだけ命を大事にしていた宮部がなぜ。。。
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宮部は教官で、部下たちを指導することで成長させていました。
しかしその成長が特攻へ直接つながっているという葛藤に苦しんでもいました。
その苦しみが宮部を徐々に追い詰めていったのです。
「自分のやっていることは,果たして正しいことなのだろうか」
宮部の真面目な性格から,自分で自分を苦しめているようにも思いました。
宮部は鹿屋にいました。その頃には宮部の人相は変わっていたようです。相当苦しんだのでしょう。
そしてある日,とうとう宮部は特攻を志願します。
宮部はある予備士官になぜか「飛行機を交換してくれ」と頼むのです。
旧式のゼロ戦に搭乗するはずだった予備士官は疑問に思いつつもそれに従います。
そして旧式に乗り込み,最後に敵艦にアタックするのです。
予備士官の乗ったゼロ戦は不具合のため,途中で不時着します。
健太郎たちはこの話を聞いてとうとう知ったのです。その予備士官だった男こそが今の祖父,大石賢一郎であることを。
大石のゼロ戦にはある手紙が遺されていました。
「もしあなたが運よく生き残っていたなら,私の家族を助けてほしい」
宮部はわかっていたのです。自分が乗るはずだったゼロ戦に不具合があることを。
終戦後,大石は,宮部の妻である松乃の元を訪れます。そこで娘の清子とも会うのです。
そう,健太郎と慶子の本当の母親でした。
終戦から9年後,松乃は大石と結婚することになるのです。
旧日本軍は、真珠湾攻撃では確かに勝ったかも知れません。あの奇襲に賛否両論あるのも事実だとは思います。
いわゆる「ゼロ戦」は,戦時中は相当能力の高い戦闘機で,また軍の訓練により,当初はアメリカを翻弄していたようです。
しかし,アメリカも「どうすればゼロに勝てるか」ということを追求したのでしょう。
気が付けば日本は足元にも及ばない状況になってしまっていました。ついには崖っぷちに追い込まれる日本。
特攻で出撃する人間は純粋な人間が多く、恐れながらも敵艦にアタックしていったのです。
僕が知覧の特攻会館を訪れた時,その展示物に唖然としました。
特攻隊員の多くが手紙を書いていました。もちろん「日本国のため」という手紙もありました。
しかし「父へ」「母へ」「弟へ」など、決して日本が勝つために散ったとは思えない手紙が多かったことに驚きました。
そして特攻隊員が10人くらいで写った写真。それは全員笑顔でした。とてもあと数日の命である人間の笑顔とは思えませんでした。
「涙みせぬように、笑顔でさよならを(主題歌「蛍」より)」と言って飛び立って行った人々。
日本と家族の平和を願っていたのだと思います。
敗戦間近の日本がとった「特攻」という選択。この選択がどうだったに意見を述べるつもりはありません。
ただ言えるのは,どんなことがあっても自分の命を粗末にしてはいけないということです。
生きたくても生きることができなかった人がいたという事実。
過去の過ちを繰り返さず,特攻隊員たちが願った平和をこれからも願い続けたいと思います。
● 宮部久蔵がなぜ特攻に対して反感を持っていたのかを知ることができた
● 特攻隊員の真の思いを知ることができた
● だからこそ,私たちは命を粗末にしてはならない
最後に,映画の佐伯健太郎役だった三浦春馬さんに追悼の意を表します。
僕にとって本当に大好きな俳優さんでした。本作品でのシーンが忘れられません。
今でも愛される彼の笑顔を思い浮かべながら,残された人生を生きる力にしたいと思っています。