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【氷菓】米澤穂信|33年前の古典部の謎とは

氷菓

米澤穂信先生のデビュー作です。以前「満願」という短編小説を読みました。

米澤先生の作品は深みがあって,しかも読みやすい

という印象を持ったのを覚えていて,今回はその原点とも言うべき作品を読んでみようと購入したのが本作品です。

2022年には「黒牢城」で何と「直木三十五賞」も受賞されている,今最も注目されている作家先生の一人でしょう。

それ以外にも多くの賞を受賞されていて,僕自身も米澤先生の作品をこれから読み漁ってみようかと思っているところです。

本作品は,高校に入学したばかりの主人公が,姉からの依頼でなぜか「古典部」を立ち上げるところから始まります。

古典部」って,一体何をするところなのかよくわからないですが,知らなくても十分楽しめます。

まさに「一気読み」の作品です。

こんな方にオススメ

● 主人公はなぜ「古典部」に入部したのか知りたい

● 33年前に神山高校で何があったのかを知りたい

● 「氷菓」の真の意味を知りたい

作品概要

何事にも積極的に関わらないことをモットーとする奉太郎は、高校入学と同時に、姉の命令で古典部に入部させられる。
さらに、そこで出会った好奇心少女・えるの一言で、彼女の伯父が関わったという三十三年前の事件の真相を推理することになり――。
米澤穂信、清冽なデビュー作!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

折木奉太郎・・主人公。姉の依頼で「古典部」を立ち上げる

千反田える・・ある意味,折木を古典部に引き込む

福部里志・・・折木の昔からの親友

伊原摩耶花・・折木,福部の幼馴染

本作品 3つのポイント

1⃣ 古典部の復活

2⃣ 文集「氷菓」の調査

3⃣ 33年前の真実とは

古典部の復活

神山高校に入学した折木奉太郎は,姉から手紙を受けていました。

古典部に入りなさい」 手紙神山高校の古典部は,姉自身もOBであり,部員数が減って死活問題にまで発展していました。

その伝統ある古典部を復活させるのが奉太郎の役割です。

古典部の部室に入った際,奉太郎は千反田えるという女性と出会います。どうやら彼女も古典部に入部しようとしているようです。奉太郎と千反田ただ「一身上の都合」での入部ということで,千反田には何か古典部へのこだわりがあるようなんですね。これが今回の話のポイントとなります。

そしてさらに奉太郎は自分の幼馴染をも巻き込みます。福部里志です。

こうやって,廃部寸前だった古典部が復活したというわけです。

古典部って,そもそもどんな部活なのでしょうか。昔の文学を研究する活動なのでしょうか。

古典部室ネットで検索しても,米澤先生の作品「古典部シリーズ」のことばかり出てくるので,詳細はよくわかりませんでした。

でも検索しただけで本作品のことが引っ掛かるということは,それだけ本作品がすごい作品なんだなと知るわけです。

ところで,神山高校の活動は,千反田が発案します。

10月に行われる文化祭で文集を出すこと

折木たち部員は,過去の文集のバックナンバーを探そうと図書室へ行きます。

この図書室にいたのが福部のことを慕っている伊原摩耶花でした。

図書室全員で探し回りますが,過去の文集が見つかりません。

司書の糸魚川先生に聞いても文集の行方はつかめませんでした。

ある日,千反田は奉太郎に相談します。

かつて神山高校古典部部長だった伯父から,古典部に関するあることを告白され,泣き出してしまった」と。

奉太郎は成績はちょうど真ん中くらいのレベルですが,多くのことを冷静に分析し,仮説を立てて推理する能力があるようです。だから千反田は奉太郎に相談したと。

聞くと,どうやら千反田には「関谷純」という伯父がいて,約7年前に亡くなっているようなのです。

その「泣き出した」原因をどうしても思い出せないらしいのです。泣き出した千反田なるほど,だから千反田はその謎を知るために古典部に入部したんですね。

一体,千反田は何を言われ,何を思ったのか。

そして伯父は何を知っているのかというのが本作品の大きなポイントになりそうです。

文集「氷菓」の調査

ある日,奉太郎の元に,再び姉からの手紙が届きます。

彼らの行動を監視しているかのタイミングでやってくる手紙。そこには過去の文集の在りかが書かれていました。

それは「薬品金庫」の中にあるというのです。でも部室の中にはどこにもありません。

どうも「壁新聞部」の部室にあるようなんですね。早速探しに行く奉太郎たち。

しかし,壁新聞部の部長からは「そんなものはない」とあしらわれますが,後に薬品金庫があることがわかります。

そしてとうとう過去の文集を手に入れるのです。文集その名前が「氷菓」でした。氷菓って「アイス」のこと?

このネーミングの理由は最後の最後に判明します。

今はこの氷菓を調査することが先決です。氷菓には以下のようなことが書かれていました。

関谷先輩が去ってからもう一年になる。

この一年で先輩は英雄から伝説になった。文化祭は今年も5日間盛大に行われる。

(中略)

争いも犠牲も,先輩のあの微笑みさえも,全ては時の彼方に流されていく。

覚えていてはならない。何故なら,英雄譚などでは決してなかったのだから。

いつの日か,現在の私たちも,未来の誰かの古典になるのだろう。

– 本文より –

この文章を読み,奉太郎,里志,千反田,摩耶花は独自で仮説を考えるのです。

一体,この文章に秘められた過去の秘密とは何なのでしょうか。

千反田の伯父が在籍していた33年前に,一体何が行われたのでしょう。

再び集まった4人は,順番に自分自身の「推理」を話していきます。

4人の推理そしてとうとう真実に近づくことになります。

33年前の真実とは

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4人の推理は千反田の家で話し合われることになりました。

はじめましょうか。検討会

それぞれが独自に資料を集め,徐々に過去のイメージが出来上がっていきます。検討会千反田,摩耶花,里志と自分の意見を推理し,最後に奉太郎が自分の推理を披露します。

奉太郎は,それまで他の3人が調べ上げたことを元に,「33年前に世間で何があったか」

「神山高校50年の歩み」などを考慮し,得意の「推理」を組み立てていました。

5W1Hで説明してもいいか

つまり,「いつ,どこで,誰が,なぜ,どのように,何をしたのか」を話し始めるのです。

いつ(When)
33年前の6月と10月(事件が6月,関谷が去ったのが10月)
どこで(Where)
神山高校
誰が(Who)
古典部部長 関谷純と全校生徒
なぜ(Why)
生徒の自主性が損なわれる可能性があるから
どのように(How)
関谷の指導で,神山高校の教師陣に対しての異議
何を(What)
非暴力的ではあるが,大人数で行う抗議運動

つまり,神山高校の文化祭(カンヤ祭)において,教師陣たちは機関を5日間から3日間に短縮しようとしたが,これに異を唱えたのが関谷率いる全校生徒だったということです。

教師陣の横暴により自主性が損なわれると判断した関谷たちは,この短縮案に猛抗議。抗議デモ文化祭は予定通り5日間で行われたものの,その主導者である関谷を,教師陣が10月に退学に追い込んだ,というのです。

そんな時,奉太郎の元にまた姉からの手紙が届きます。

カンヤ祭は禁句である」と。

そしてとうとう「氷菓」を書いた人物を特定するのです。その名は「郡山養子」

しかし彼女は結婚して姓が変わっていました。現在の名は「糸魚川養子」と言います。

そう,あの図書館の司書の女性でした。糸魚川先生奉太郎たちは糸魚川先生に自分たちの推理を話します。そして言われるのです。

驚いた。見てきたようだわ。折木君が言ったことはほとんど事実通りよ

当時は「6月闘争」と呼ばれていたようです。

文化祭の短縮に反対するも,リーダー的な存在がいませんでした。

そのリーダーになってしまったのが関谷純だったのです。

運動はエスカレートし,校庭で「キャンプファイヤー」をするまでになっていました。

その時の火が,神山高校の「格闘場」に飛び火してしまい,一部が焼けてしまうのです。

格闘場の火事当然その責任は関谷にいってしまいます。その責任をとって,関谷は10月に退学させられたのでした。

「カンヤ祭」というのは「関谷祭」とも言われ,奉太郎が禁句であると言ったのはこれが理由だったんですね。

そして最後に「氷菓」の意味。先ほど,アイスのことかな? って書きましたけど,これを英語で書くと「Icecream」ですが,違う場所で区切ると

I scream」となります。つまり「私は悲鳴をあげる」ということでしょうか。

千反田の伯父である関谷純は,自分の姪に

もし自分が弱かったら,悲鳴も上げられなくなる日がきて,生きたまま死んでしまう抗議と言ったのです。この言葉に恐ろしくなって千反田は伯父の前で泣いてしまったんですね。

奉太郎は,神山高校入学を機に,姉から依頼を受けました。

「古典部を立ち上げる」ということでしたが,これは遠回しな依頼で,実際には

「33年前のことを調査せよ」

と,姉に操られていたのかも知れませんね。

姉に操られる今でこそあまりみられなくなりましたが,僕がかつて在籍していた大学でも「学生運動」というものは行われていました。

そのメンバーは仮面を着け,一生懸命叫んでいました。

僕自身はその良し悪しも考えずに,ただ眺めていたように思います。

中には覚悟を持って,そして勇気を持って何かと戦おうとする人たちもいたのですね。

生徒と教師。僕自身は教師という仕事をやりながら,生徒は本当に学校生活に満足しているのだろうか,学校生活を楽しんでいるのだろうか,と疑問に思うこともあります。

生徒側に不満があれば意見もあるでしょう。かと言って指導する教師側にも言い分はあります。何でも受け入れるわけにはいきませんから。

その両方を経験してきた僕自身とすれば,本作品の過去の出来事は「対岸の火事」とはどうしても思えないです。

声を上げ,自分たちが訴えたいことをしっかり伝えようとする

それは生徒だけでなく,組織で働く労働者にも言えることではないかと思います。

言えないまま終わってしまっては,何も変わらないですから。

この作品で考えさせられたこと

● 33年前の事件を「古典部」のメンバーが解き明かす面白さ

● 自分の意見を声に出すということも時には重要なのではないか

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