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【水車館の殺人】綾辻行人|水車館の秘密と殺人トリックとは

水車館の殺人

「館シリーズ」第二弾です。

本作品を読む前に「迷路館の殺人」と「人形館の殺人」を先に読んでしまいました。

ただ,これ順番に読んでも読まなくても,それほど違和感ないです。

どの作品にも登場するのが「中村青司」と「十角館の殺人」です。

中村青司は館シリーズに登場する「館」の設計者,そして十角館の殺人はあの伝説のアガサクリスティー作「そして誰もいなくなった」のオマージュ作品です。

あの「十角館の殺人」の読了後の衝撃は未だに忘れることができません。

本作品も一気読みでした。とにかく先が読みたいと思わせられるし,読者に読みやすく描かれている印象があります。

現在(1986年)と過去(1985年)の話が交互に描かれ,わかりやすく,見事な構成に仕上がっている作品です。

こんな方にオススメ

● 「館シリーズ」の第二弾を読んでみたい

● 真犯人と真相を推理してみたい

● 本格推理小説を読んでみたい

作品概要

仮面の当主と孤独な美少女が住まう異形の館、水車館。1年前の嵐の夜を悪夢に変えた不可解な惨劇が、今年も繰り返されるのか? 密室から消失した男の謎、そして幻想画家・藤沼一成の遺作「幻影群像」を巡る恐るべき秘密とは……!? 本格ミステリの復権を高らかに謳(うた)った「館」シリーズ第2弾、全面改訂の決定版!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

藤沼一成・・・画家ですでに亡くなっている。水車館を建設させた

藤沼紀一・・・一成の息子。過去に事故に遭い,車椅子で生活

藤沼由里絵・・紀一の妻。一成の弟子の娘。

倉本庄司・・・執事で,水車館を守っている使用人

根岸文江・・・水車館の使用人。紀一の身の回りのことをする

正木慎吾・・・かつて紀一と一緒に車に乗り,事故を起こす

大石源造・・・美術商。水車館にある重要な絵に興味がある

森滋彦・・・・某大学の美術の教授

三田村則之・・外科医師

古川恒仁・・・住職

本作品 3つのポイント

1⃣ 一年前の事件とは

2⃣ 真相を推理する島田

3⃣ 真犯人と驚愕の真相

一年前の事件とは

かつて「幻視者」と呼ばれた藤沼一成という伝説の画家がいました。

彼の晩年には誰も見たこともない「幻影群像」という絵を描きます。

しかし,彼が亡くなった後,莫大な遺産で息子の紀一は「水車館」を建てました。

彼が最後に描いた絵は幻の絵である言われ,水車館のどこかにあると言われていましたが,息子の紀一以外は見たことがないものでした。

紀一は父が描いた絵を,水車館のどこかに隠しているという噂はありました。

紀一は、毎年同じ客を招待し,一成がかつて描いた絵を広間に飾って「展示会」のような催しをしていました。

大広間実は紀一には辛い過去がありました。かつて自動車に乗っている時,事故で手足と顔に大けがを負ってしまっていたのです。

彼は車椅子に乗り,そして白いゴムの仮面をつけて傷を隠して生活しています。

何かその仮面「犬神家の一族」を思い出しました。不気味ですよね。

水車館を監視する倉本,紀一の身の回りの世話をする根岸という女性に守られながら生活しているのです。

この水車館では,一年前(1985年)に事件が起こっていました。実は二人の人物が亡くなっているのです。

ここに一人の人物がやってきます。島田という人物です。ひょっとしてあの島田潔か?

島田というのは「館シリーズ」でもおなじみの人物です。探偵のように事件を解決します。
今回も解決することができるのか。

島田は一年前の事件に疑問を持っていました。一年間に何があったのかを。

大広間紀一をはじめ,今回の招待客,そして使用人も含め,一年前のことを聞き出すのです。

今年(1986年)も,父一成の命日である9月28日に招待客がやってきました。彼らはどうしてもあの「幻の絵がみたい」と思っているようです。

でも紀一は頑なに拒んできたようなんですね。

島田は一年間の状況を集まった面々から聞き出し,考え始めるのでした。一年間に何があったのか。考える島田「この家を出ていけ!」という脅迫状のような紙を見つけた人物が島田でした。

その紙を見た紀一は胸騒ぎがします。

招待客が集まった大雨の日。外では雷が鳴り、水路は激流でした。

最初に亡くなったのは家政婦の根岸でした。

どうやら塔の2階から、何者かに突き落とされたようです。落ちる瞬間を目撃したのが倉本。犯人の姿は見ていません。落下根岸は水路の激流にのまれ、一気に流されてしまいました。警察も大雨で増水している中、なかなか捜査ができない状況です。

ただ倉本は、エレベーターがベランダのある「2」、つまり2階に止まっていたことを確認しています。

一体これは何を意味するのか。。。

根岸の事件も忘れられたかのように、客人が集まった夜のシーンになります。

大広間三田村と森はチェスをしていて、正木がそれを眺めている。古川は一早く2階にある自分の部屋へ戻っていきました。

古川は経済的に苦しい状況であり、何となく元気のない様子。

そして正木も2階の自分の部屋に戻っていきます。しかし,ここで大事件が起きるのです。

焼却炉の中に、誰かを燃やした形跡があるのです。そしてそこには切られた「薬指」が。。。焼却炉薬指には指輪の跡があり、これは「正木のものだ」と指摘します。誰が正木を殺害したのか。

古川が行方不明になっていました。そして、飾ってあった「噴水の絵」も一緒になくなっています。

経済的に苦しかった古川が正木を殺害し、館の扉から逃げたという結論になります。

これが一年前に起こっていた事件でした。

真相を推理する島田

島田は一年前の状況を聞き、もう一度整理しようとします。

まず、正木が殺害された件。犯人は古川だろうと推測されていましたが、三田村と森がいる階段前のホールからは、古川が降りてきた感じはなかったと言います。

階段二階には窓がありましたが、人間が出れるような窓ではありません。

古川が三田村と森の目をすり抜けて階下へ降り、絵を盗んで逃げたのではないかとも考えますが、三田村たちはそんな見落としはしていないと言い張ります。

ここで島田は一つの可能性を考えます。

前作の「迷路館」でもそうだったんですが、中村青司が設計した建築物には「からくり」があるかもしれないと。

水車館内を隈なく探しますが「からくり」らしきものは見つかりません。

今回はどこにもないんでしょうか。抜け道とか,のぞき穴とか。

島田は客人の中に「しっくりこない人物がいる」と,何かに気になっているようでした。

例えば,三田村が左手の指をねじるようにしてみたり,紀一が左手でハイプやグラスを握る時,二本の指を立てること。

森教授もやたらとメガネをなおす仕草をするなどなど。みんな癖はありますが,島田は何か違和感を感じているようです。いろいろな癖そしてここから「現在」の話。

三田村は由里絵に興味を抱いたようでした。

夜の12時に会うことを約束しているところを夫の紀一は聞いてしまいます。

紀一は悩みます。なぜ由里絵は断らないのか。結局、由里絵を問い詰めることもなく夜を迎えるのでした。

そして夜になり、館内は落雷のせいか、一時停電となります。ここで一時解散となり、宿泊客それぞれが部屋に戻っていきます。

そして夜中を過ぎた頃、館内に悲鳴が上がります。その悲鳴は由里絵でした。

駆けつける島田たち。そこには恐ろしい光景が。家政婦が絞殺されていたのです。

そして三田村の部屋に行くと、三田村が撲殺されています。

三田村の遺体

なぜこの二人が殺害されたのか。

三田村はダイイングメッセージらしきものを遺していました。

右手で左手の指を掴んだまま亡くなっていたのです。

これは何を示しているのか。一年前の正木の件を示しているのか。

そうだとすると犯人は。。。はっ,これはわかったかもしれない!

これは僕自身の仮説なので今は述べませんが,そう考えると辻褄があってくるぞぉ。

この後に島田によって,過去のそして現在の真相と真犯人が明かされることになるのです。

真犯人と驚愕の真相

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島田はとうとう推理を披露します。島田の推理まず、一年間にバラバラにされ、焼却炉で焼かれて殺害されたのは正木だと思っていましたが、実は違いました。

何とそれは古川だったのです。それは行方不明になってしまっていたはずです。

では、正木の薬指は偽物? のはずはないですよね。警察が捜査しているわけですから。

あの薬指はまさしく正木のものでした。何と彼は自分で薬指だけを切り落としていたのです。ナイフつまり、薬指だけは正木のもので、焼かれた遺体も正木のものと見せかけるためのトリックだったのです。

なぜそこまでのことができるのか。。。

正木は一年前、先に部屋に戻った古川を絞殺します。そしてバラバラにして焼却炉で焼いた。

焼いてしまったら、誰なのかもわからないですからね。

そして、さらに紀一にも手を出します。彼が隙を見せている間に、後ろから後頭部を何かで打ちます。

ただここで計算外だったのは、正木が目を外した隙に,紀一が消えてしまったことです。

彼はどこに消えてしまったのか。正木は何か紀一の存在に怯えているようです。

そう考えながらも、正木はゴムの仮面をつけ、ここから紀一になりすましたのでした。正木が仮面をかぶるそこまでの計画を考えていたから,紀一の使用人である根岸を最初に葬ったんですね。

根岸は紀一の身に回りの世話をしていたから,それが正木に代わっていたらすぐに気づくはずですから。

なぜ根岸が最初に殺害されたのかがずっと気になってました。やはり理由があったんですね。

そして,正木は由里絵と親しかったようなんです。だから古川を殺害した後も、二人は共犯で焼却炉を使用し,古川を始末したのです。

そして現在。あの脅迫状を書いたのは実は由里絵でした。由里絵なぜ書いたのか。彼女はこの閉じ込められた空間,すなわち水車館から出て行きたかったのです。

正木にそれを訴えたかった。そうすれば出られると。

しかしそれに正木は気づかなかったのです。近くを通ったにも拘らずです。

実は正木は過去の自動車事故の際に,色覚に異常が出始めました。

正木の視界に入るのは,カラーではない,モノクロのような世界。だから脅迫状にも気づかなかったわけなんです。

そして今回は三田村をも殺害しました。なぜ殺害したのか。

それは停電の際,三田村がたまたま正木の薬指をさわったのです。驚く「はっ!」とした三田村の姿を見て,彼は正木が犯人であること,生きていることを悟ったのです。なるほど。。。

三田村を殺害後,バッタリ出くわしたのが新しい家政婦である野沢朋子でした。

彼女が殺害されたのは「足が不自由なはずの紀一が,いや正木が廊下を勢いよく飛び出した」のを目撃したからだったんです。

では肝心の紀一はどこへ行ったのか。

彼はこの水車館の唯一の「からくり」の入り口からある場所につながる空間に倒れて亡くなっていました。

そこには「幻影群像」と言われる,紀一の父一成が描いた絵がありました。

幻影群像その絵はまるで未来を予測しているかのような絵。

水車館があり,黒髪の美少女,仮面で顔を隠した男も描かれていました。

正木がさらに驚いたのは絵の片隅に描かれていたものでした。最後の正木の言葉です。

ああ,何ということだろう。

畢竟(ひっきょう)この私も,紀一と同じ運命の下で喘ぎつづけていたという話なのか。

掌をこちらに向けている。こわばった指をこちらに向けている。

右から二番目の指を失い『灰色の血』に染まった人間の左手が,そこには描かれていたのである。

過去と現在を行き来しながら構成された本作品。

しっかりと二つがリンクしていて,とても読みやすかったです。

真犯人と真相には本当に驚きましたが,これが綾辻先生に真骨頂だと思いました。

犯罪を犯した理由,そしてその伏線もしっかり描かれていて「きっと何か意味があるんだろうな」って思わせられました。

そしてなかなか真相に辿り着けないように描くって,本当に難しいだろうなと思います。

それだけ,読者の気持ちになって描いている証であると思います。

やはり「館シリーズ」は面白いです。

また,他の「館シリーズ作品」を読んでみたいと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 真犯人と真相に驚いた

● しっかりと伏線の張られた,圧巻の構成でした。

● やっぱり「館シリーズ」は面白い!

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