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【毒島刑事最後の事件】中山七里|刑事時代の毒島のすごさ

毒島刑事最後の事件

この作品が文庫本になって店頭に並んでいるのを見た時「あれ? 毒島? 何か聞いたことあるぞ」って思ってました。

以前,中山先生の作品に「作家刑事毒島」を読んだことがあって,あの「毒島かぁ」って感じでした。

でもこの作品が毒島が作家になってからの話だったんで,本作品はタイトルにもあるように「警視庁に在籍中で,作家になる前の最後の事件の話」ということになります。毒島刑事これまで毒島=作家だと思ってたので,彼が警視庁にいた頃の作品が読めるとは思ってませんでした。作家刑事とはそういう意味だったんですね。

毒島は苗字にもあるように本当に「毒舌」で,本人は悪気はないんだけど,さりげなく人の嫌な部分をつつくのが非常にうまい。

でも出世にはまったく興味がないときています。無欲な人間に思えますが,かといって人格者にも見えないという謎のキャラクターです。

上司だったらきっと彼への扱いは大変だろうし,彼の部下だったら相当悪影響与えられそうです。

だから部下の犬養は気を遣っているのがわかるし,上司の麻生なんかは「信用はしているが,信頼はしていない」なんて言葉が出るのでしょう。

でも,頭はすごくいい。だから作品として成り立つんですよね。

今回はいくつかの事件が短編となって登場します。実はそこには繋がりがありました。

果たして事件の真相は何か,「教授」とは何者か,という作品になっています。

こんな方にオススメ

● 頭脳明晰な毒島の刑事時代の話を読んでみたい

● 加害者を操る「教授」の正体を知りたい

● 加害者をどうやって操ったのかを知りたい

作品概要

皇居周辺で二人の男が射殺された。世間が〈大手町のテロリスト〉と騒ぐ中、警視庁一の検挙率を誇る毒島は殺人犯を嘲笑。犯罪者を毒舌で追い詰めることが生きがいの彼は「チンケな犯人」と挑発し、頭脳戦を仕掛ける――。出版社の連続爆破、女性を狙った硫酸攻撃。事件の裏に潜む〈教授〉とは何者なのか?人間の罪と業を暴く、痛快ミステリ!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

毒島真理・・・主人公。警視庁捜査一課刑事。毒舌がすごい

犬養隼人・・・警視庁捜査一課の刑事で,毒島の後輩で後継者

麻生・・・警視庁捜査一課の班長。毒島の上司

本作品 3つのポイント

1⃣ 各章の事件概要

2⃣ 1~3章の結末

3⃣ 真犯人「教授」とは

各章の事件概要

① 不倶戴天(ふぐたいてん)

不倶戴天とは「この世に共存できない,どうしても許せないと思うほど深く恨むこと」とあります。

ここでは「大手町射殺事件」が発生します。これは皇居に近い場所で,二人の男が銃で撃たれてしまったという事件です。

警視庁の麻生班が捜査を開始します。

どうやら撃たれた状況が二人ともかなり至近距離から発砲されており,銃創が一致したところから同一犯と断定されます。

果たして,事件の真相は何なのか?

皇居近く

② 伏竜鳳雛(ふくりゅうほうすう)

伏竜鳳雛とは「まだ世に知られていない,大人物と有能な若者のたとえ」とあります。

ある日「出版社連続爆破事件」が発生します。

複数の出版社に爆破物をしかけた,これもまさにテロリストのような手口です。やはりこの事件も同一犯の可能性が大のようです。

犯人の動機と手口とは?

連続爆破事件

③ 優勝劣敗(ゆうしょうれっぱい)

優勝劣敗とはその名の通り「優れたものが勝ち,劣った者が負けること」をいいます。

連続暴行事件」が発生します。これは女性の顔面に「硫酸」をかけるという非情なものです。女性にとって顔は特別なものですから,デリケートな大問題になってしまいます。

被害者にはある「共通点」がありました。一体誰がこんなひどいことを行うのか。

その動機に驚かされます。

硫酸通り魔事件

④ 奸佞邪智(かんねいじゃち)

奸佞邪智とは「心がねじ曲がっていて,よこしまな様子」のことをいいます。

老人復讐殺人事件」が発生します。

江ノ島という老人が,かつて殺害された自分の息子の仇を取るため,3人のターゲットを次々に狙っていくというものです。

江ノ島は認知症も入っているらしく,残された事件で復讐を成し遂げようとします。しかしそれを操る人間の存在が。。。

一体,誰が江ノ島を操っているのか。

江ノ島の復讐

⑤ 自業自得
自業自得とは説明するまでもないですね。もちろん,自分でやった行いのしっぺ返しがそのまま自分に返ってくることです。
ここの部分は話の核心に触れるところなので,ここではこれで止めておきたいと思います。

第1~3章の結末

① 不倶戴天(ふぐたいてん)

連続射殺事件が「大手町のテロリスト」と世間から恐れられる事件になります。

使用された銃は「トカレフ」。今ではこんな恐ろしいものまでがネットで取引されてるってことなんで,怖い時代になりましたね。

麻生班は被害者に共通点はないのかを捜査しますが,どうもなさそうなんですね。では犯人の意図は何なのか。

ここで毒島の登場です。すでに犯人像を推理しているようです。さすが毒島。

では今回の真犯人は誰なのか。話の途中から犯人の視点で話が進みます。

今回の犯人は29歳。かつては都内の有名大学に合格し,エリート街道をまっしぐらの予定でした。しかし,彼が望んでいる人生は実現しなかったのです。

2008年に起きた「リーマンショック」が一つのきっかけでした。新卒の求人が激減し,彼が望む仕事に就くことができませんでした。

リーマンショックで確かに求人減ったかもしれないけど,それでもちゃんと就職できた人はいるわけで,ただ単に「承認欲求の強い人間の末路」にしか映りませんでした。

だから,エリートのたくさんいる大手町で犯行を仕掛けたんですね。嫉妬です。

最後は,囮捜査をした毒島に犯人自らが声をかけてしまい,ジ・エンド。結局エリートでもなんでもなかったという話でした。

しかし,裏に「教授」と呼ばれる人物がいることを匂わせて話は終わります。

エリートへの嫉妬

② 伏竜鳳雛(ふくりゅうほうすう)

双龍社とトレジャー社という総合出版社の2件で爆破事件が起きてしまいました。それほど大規模な爆破ではないが,ケガ人が出ている模様。

麻生班は捜査に乗り出します。どうやらこの2社の賞に応募した人間が怪しいと踏みます。

怪しかったのはペンネーム<天馬虎太郎>と<滝沢DQN>という二人で,この二人の筆跡が一致しました。このペンネームを名乗る人物が誰なのかというのがポイントです。

つまり,両社の賞に応募して「落選した」人物だと毒島はプロファイリングしているようです。

○○賞という「冠」欲しさに作品を応募し,その後も描き続けられる人もいるでしょうが,それはほんの一握りのような気がします。

毒島は取り調べをしながら,どちらが犯人かを彼らが話す言葉でアンテナ張り巡らしているようでした。毒島の誘導でポカをしてしまった人物が一人いました。

毒島がトレジャー社の中のフロアについてさりげなく話を振った時,社屋の中の部屋について語ってしまった人物がいました。社内には入ったことがないはずなのに

こういうのを「秘密の暴露」とでも言うのでしょうか。相手を怒らせ,冷静さを失わせ,ボロを出させる毒島の話術は面白かったです。

そしてまたもや「教授」という存在が出てきました。一体彼は何者なのか。

秘密の暴露で逮捕

③ 優勝劣敗(ゆうしょうれっぱい)

三人の女性が顔に硫酸をかけられるという事件。

この三人の共通点は「ランコントル」という,お見合いパーティなどの結婚相談所のようなところの会員になっていたことでした。

世の中の男女が結婚を考える場合,圧倒的に男性が余るそうです。では男性の方が不利なのかというとそうとは限りません。毒島の指摘はこうです。

女性には結婚適齢期というものがあって,子供や結婚生活のことを考えると取り残された気持ちになる。

そして男性の年収にも注目し,安定した生活を求めようとする。必然的に相手の男性のレベルによって女性が集中し,それがマッチすれば成婚までたどり着く。そしてさらに周囲はあせる。その繰り返しだというのです。

三人の女性はその中でも,あまりにも露骨に男性にアプローチする人たちだったようです。

それを客観的に見ていたのが深瀬という相談員の女性でした。相談員でありながら,彼女自身も目の前でどんどん成婚していき,自分が取り残される境遇を味わっていった。

だから積極的にアタックする女性に対して嫌悪感,劣等感を持ったというわけです。これが犯罪の動機になるというのですから,恐ろしいですね。

この事件の最期にも「教授」が登場。どうやらこの教授が裏で一連の事件を操作しているようです。

結婚相談所の相談員

真犯人「教授」とは

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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ここからが核心に迫る内容に入っていきます。

④ 奸佞邪智(かんねいじゃち)

江ノ島という老人は息子の仇を討つため,三人の行方を追い,注射器を使って毒物を打つという殺人を犯してしまいます。

江ノ島は誰かに誘導されているようでした。それが誰なのかがわからない。あの「教授」が誘導しているのでしょうか。

ターゲットの最後の一人は,刑務所内にいました。どうやら江ノ島は,刑務所で接見するタイミングで注射器で毒物を打とうとしているようです。

ところが,江ノ島の持ち物をチェックされ,あっさり注射器が見つかってしまいました。当然警察はこの中身を調べます。

すでに殺害された2人の手口と一致しました。これで江ノ島が犯人だと毒島たちも確信します。

江ノ島は認知症が進んでいました。自分の息子と思っていた人物も,実は甥っ子であったことがわかります。

そして江ノ島を密かに操っていた人物がわかりました。江ノ島を介護していた女性でした。

この女性,鵺野(ぬえの)といって,かつて心理学を学んだ女性でした。

彼女が「教授」として江ノ島を誘導していたのでしょうか。怪しむ毒島。真意はどうなのか。

心理学で操る鵺野

⑤ 自業自得

鵺野静香という女性。かつて心理学を学んだ女性でした。彼女が「教授」として江ノ島を誘導していたのでしょうか。

毒島はこの女性を「教授」と判断したようにも見えますが,何か違和感があります。まだ何か裏がある感じです。

鵺野自身が江ノ島という老人を陰で操っていたのは間違いないです。江ノ島を介護することで接近し,得意の心理学を応用して江ノ島を殺人に誘導したんですね。

いわゆる「殺人教唆」です。

ここまでは毒島も予想していたみたいですけど,ただ「教授=鵺野」という構図に疑問を持ち始めたようです。まだ裏があるのでしょうか?

毒島が注目したのは,鵺野が宗教団体に入信していたことでした。

その教祖が実は「教授」だったんですね。

教祖の教えに,少しずつ自分のオリジナルの教えをミックスさせ,あたかも鵺野が自分で江ノ島を殺人教唆したと思わせた。

自分の手をかけずに犯罪を起こすというまさに完全犯罪

殺人教唆の教唆」と言えばいいのでしょうか。

教えに忠実な人間を手玉にとり,殺人教唆まで行わせるという,本当に許せないことが真相でした。まさに「洗脳」です。

では,この「教授」は罪に問われないのか。確かに裁けない気がしますよ。しかし,彼にも罪はあったんです。しかもだいぶ過去の話。

少女暴行事件です。彼は逮捕され,刑務所で過ごしました。周りの囚人たちから虐められ,暴行され,屈辱的なことをされ,されるがままの日々を送ったのが発端でした。

出所後,彼は宗教によって他を支配するという行動に出たのです。それが今回の動機でした。

人を操る「教授」

今回の話は短編集でしたが,それぞれの事件の犯人には必ず動機がありました。

それがエスカレートし,誰かを貶めたい,そんな気持ちで事件を起こしてしまっていたんですね。

ただ,この「教授」の存在がなければ犯罪を起こすまでなかったかもしれません。

殺人教唆をするという心理的誘導の巧みさ,人に行動を起こさせるという話術を持っていました。

過去に同じようなことを実際にされたことがあるか,あるいは誰かに嵌められた経験があったのでしょうか。

そのくらい「言葉」というのは良くも悪くも人を動かす力があるのだと思います。

毒島はこんな感じで人に誘導される人間ではなさそうです。

でも毒島はある人間の考えに従って行動しているようでもありました。それは毒島自身です。

誰が何と言おうと全く意に介していない。自分の信念を一番信じて行動しているようでした。毒島の信念よほど自分に自信がないと,ここまで冷静に,理路整然と相手を落とすことはできないと思います。完全に先の先を読んで言葉を発しているようでした。

あの「教授」を手玉にとるくらいですから。

この作品で考えさせられたこと

● 作家毒島が刑事時代の話を知れて面白かった

● 自分では手を下さずに「完全犯罪」を成し遂げるものがいるということ

● それはあるいみ「洗脳」を意味している

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