今,とても話題になっている櫛木理宇先生の作品。2022年5月に映画化されました。
映画化されたことで一気に櫛木先生の知名度は上がったのではないでしょうか。
かつては「チェイン・ドッグ」という名前で出版されていたようですが,改題されたらしいです。
「死刑にいたる病」と「チェイン・ドッグ」という,全く異なるタイトルに秘められた意図は何なのか。鎖につながれた犬?
全く違う意味のタイトルのように思えましたけど,最後の最後にその理由がわかります。なるほど,と。
話は,Fランのある法学部の大学生が,幼い頃の恩がある拘置所の男性から冤罪を晴らしてほしいという依頼を受けるところから始まります。
この大学生の調査で,冤罪を証明することができるのか,それとも別の結末が待っているのか,ということがポイントとなります。
最後の最後のどんでん返しに驚愕します。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 弁護を引き受ける法学部生
3.2 恩人のために調査をする雅也
3.3 榛村の真意
4. この作品で学べたこと
● かつてのタイトル「チェイン・ドッグ」は何を意味するのかを知りたい
● 一介の法学部生は,恩人の冤罪を解決できるのか知りたい
● 最後の最後のどんでん返しを味わいたい
鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也(かけいまさや)に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和(はいむらやまと)からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」地域で人気のあるパン屋の元店主にして、自分のよき理解者であった大和に頼まれ、事件の再調査を始めた雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていき……一つ一つの選択が明らかにしていく残酷な真実とは。
『チェインドッグ』を改題・文庫化。
-Booksデータベースより-
榛村大和・・・24人もの人々を殺害した殺人鬼
筧井雅也・・・榛村から冤罪を調査することを依頼される
根津かおる・・・榛村が冤罪と訴える相手の被害者
新井実葉子・・・雅也の母
榛村織子・・・・榛村の養母
金山一輝・・・・かつての榛村の被害者
筧井衿子・・・・雅也の母
嘉納灯里・・・・雅也の同級生
1⃣ 弁護を引き受ける法学部生
2⃣ 恩人のために調査をする雅也
3⃣ 榛村の真意
筧井雅也は、法学部の大学生。中学時代は神童と呼ばれて成績優秀だったが,現在はFラン大学に在籍していました。ある日、筧井の元に,筧井の地元でパン屋を営んでいた榛村大和から手紙が届きます。
榛村は連続殺人鬼で,現在は警察の拘置所にいました。そして筧井へ向け,ある依頼をしてきました。
「24件の殺人のうち、最後の一件だけは冤罪だ。君がそれを証明してくれないか」かつて,雅也は榛村のパン屋によく足を運んでいました。ある意味「恩」がある雅也。
大学生になって平凡な生活を送っていた雅也でしたが,法学部生としての使命感に駆られたのか,その依頼を受けることにします。
榛村は先に書いたように,街で美味しいと評判のパン屋の店主でした。誰にでも優しく,誰からも好かれるような人間がなぜ24件もの殺人を犯してしまったのか。
このままいけば,おそらく極刑になるであろうこの事件のうち,1件だけは冤罪であると。
「根津かおるという女性だけは殺害していない」と訴えるのです。
なぜこの1件にこだわるのかが疑問ですよね。依頼を受けた雅也は早速調査を始めます。根津かおるは23歳です。確かに10代の女性を狙う榛村とは確かにターゲット層が違っています。さらに事件の手口も他のものとは異なっていました。
そこに雅也は注目します。榛村の弁護に一生懸命の雅也は調査のために動き回ります。
さらに雅也は榛村の過去についても調査します。
まずは,榛村の母親である新井実葉子です。
彼女は常にろくでもない男をとっかえひっかえ家に連れ込んでいた。榛村は,IQが非常に高かったのですが、母が連れてくる男たちに殴られたり、性的虐待を受けていました。
高い知能を持ち,読書も好きだった榛村は不憫にも思えました。
しかしその一方で,幼少期の榛村をたまに預かっていた実葉子のいとこは,何やら不信感を感じていたようです。
大人しいくせに動物を虐待したり,時々ニヤニヤと笑う姿を見ていました。
ある日,母親の実葉子が薬物の過剰摂取により亡くなってしまいます。葬儀の際、榛村は何と母親の遺骨を食べていたと。。。
遺骨を食べる?? ん~,なんか気味悪いなぁ。。。その頃から榛村は悪事を働きだします。14歳の時には小学生の女児に暴行し、大怪我を負わせ少年院に入ったこともありました。
出所しますが,今度は小学生の男児を監禁し、指を折って爪を剥がすなど拷問を加えます。
サイコパス? 読みながら,そんな言葉が頭をよぎります。
しかし,榛村かばい、養母になったのが榛村織子でした。榛村は彼女の姓なんですね。
人格者の榛村織子の家で育ち,更生するかと思いましたが,それで終わりませんでした。
雅也にとって衝撃な過去が明らかになるのです。
雅也はさらに榛村の過去を調査します。そこで驚くべき過去を知ることになります。
雅也は織子がボランティア施設にいた頃の集合写真を目にした時です。
その中に雅也が知る人物がいました。何と,母親である衿子の若い頃の姿でした。つまり,榛村と雅也の母親は、昔から知り合いだった可能性が大きくなってきます。
そして調査を続け,雅也は、母親の衿子の深い過去を知るのです。
実は衿子は親から虐待されていた経験があり,榛村同様,衿子までも榛村織子に引き取られていたようなんですね。
榛村と衿子は同じ養母に引き取られた 養子同士だったのです。雅也が母親に詰め寄ります。榛村のことを知っていたのかと。
そして衿子は語るのです。虐待され養子になった衿子にとって,頼れるのは榛村だったみたいです。
養母の織子は異性同士の交渉についてはとても厳しい人だったようです。
しかし,衿子は子供を妊娠してしまうのです。堕ろすこともできない衿子は,養母にもそのことがバレてしまい,衿子は家から追い出されたのです。
えっ? ひょっとして,雅也の父親は榛村? かなり衝撃を受けます。
それを知っていて,榛村は雅也に自分の弁護の依頼をしてきたのですね。榛村が父親だと知った雅也。何か人が変わったような感覚になります。
自分の父親を弁護しなければならないという気持ちも大きくなってきているようでした。
衝撃的な事実を知ったにも関わらず,雅也は大学でも多くの人たちと堂々と話せるようになります。
さらに就職試験の面接でも堂々と受け答えができるようになってくるのです。
弁の立つ,榛村の性格が乗り移ったかのように。やっぱり筧井は榛村の息子?
しかし逆に雅也は、幼くかわいい女の子がいると目で追うようになってしまいます。
女の子に暴力を振るう想像をして興奮するようにもなってしまいます。何かよくない先入観も受け継いでしまったような感覚。。。
少しずつ変貌を遂げてきた雅也はさらに金山一輝という男性に辿り着きます。
金山自身はかつて榛村に洗脳されてしまいます。榛村の言葉に誘導され,自分の弟とやり合ったりするようになりました。
つまり金山には榛村にある種の恨みがあるということになります。
その金山が榛村の事件の裁判に出廷します。そして「俺は榛村が近くにいるのを見た」証言するのです。実は,金山は被害者である根津かおるとは,仕事上でお互い知っていました。
根津かおるが何者かに殺害された後にも墓参りに行っていたようです。
ここで雅也は、金山がかおるへの復讐のため、榛村の犯行と見せかけてかおるの命を奪ったのではないかと推測するのです。
ん~,何か動機がイマイチ違うような。墓参りにも行くのに,かおるの命を奪うことができるのだろうか。。。でも完全に雅也は父親を守ろうとしているようです。
雅也は拘置所にいる榛村に会いに行きます。自分が父親であることも認めます。
「本当は言わないつもりだった。でも君に知って欲しくなった。いま、きみの手を握れたらいいんだけどな」
そんな言葉を聞いた雅也は,榛村の冤罪を覆そうと誓うのです。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
雅也は、自分の性格が榛村と同じように,つまり「サイコパス」のような人間になっていくのを感じていました。
そして最後の決断を下すために、母親の衿子に電話をかけます。
「榛村大和は,おれの本当の父親なんだろう?」
と衿子に直接聞くのです。そして帰ってきた答えは意外なものでした。
「あなたは大和さんの子供ではない」は? どういうこと? これまで榛村に対する慈悲の気持ち,雅也の気持ちは全くお門違いだったということか。
では衿子が妊娠した子供の父親は誰なのか?
「わたしが、あの時妊娠したのは大和さんの子じゃない。体の関係なんて一度もなかった。あの子は産まれてすぐ死んだわ。だって私が首を締めたんだもの。。。」
自分の罪を自白するも,雅也の父は榛村ではないことを告白します。
つまり,雅也は榛村が父親であると勘違いしていたのです。
衿子は、養子時代にやっていたボランティアで,仲間の男性から暴行され,妊娠してしまいます。
その男性は既婚者でした。そのまま行方不明になり,お腹の赤ちゃんは5ヶ月月を過ぎており堕胎することもできなかったのです。困った衿子は大和に相談したのです。衿子が産んだ子供の亡骸の始末してもらったという「恩」こそが衿子の秘密だったわけなんです。
しかし,なぜ榛村は拘置所で雅也が誤解するような発言をしたのか。
実は、衿子が妊娠したということを養母の榛村織子に密告した張本人が榛村だったのです。自分の勘違い,そして榛村に対する忠誠心。雅也は、もう何を信じていいのかわからなくなります。
榛村の性格が一時は乗り移ったかのようでしたが,徐々にその性格は雅也の中から消えていくようでした。
雅也は拘置所に入るのをためらっている金山一輝に会います。
そして雅也は金山に「最後の事件で知ってることを教えて欲しい」と聞きます。
今から5年前,金山は榛村に呼び出されます。
「僕に痛いことされるの、好き?」金山はかつて榛村に虐待されていたことを思い出し,恐怖感を味わいます。
「じゃあ,君は見逃してあげる。そのかわりきみが、身代わりの生贄を選んでくれないか」
金山は完全に操られていました。そしてその生贄と指さしたのが「根津かおる」でした。後日,その根津かおるが殺害されたことを知り,罪悪感でいっぱいになった金山。
金山は根津かおるの墓参りに行っていたのは,償いの意味があったんですね。
榛村の本当の目的は、元獲物である子どもたちを、罪悪感で縛りつけることことで支配することだった。
やはり,根津かおるを殺害したのは「榛村大和」だったのです。雅也に弁護を依頼した榛村。しかし,事実はもっと奥深いものでした。
榛村が依頼したのは雅也だけではなかったんです。
金山や金山の弟など,榛村と関わった多くの人々に手紙を出していたのです。
榛村は拘置所の中から自分の知る人物たちを操ろうとした,本当のサイコパスでした。
その手紙という「餌」に食いついた一人が雅也だったというわけです。
最後に,榛村の弁護士は,榛村に渡されたリストから雅也の名を二重線を引いて消します。何とそのリストには、雅也の小学校からの同級生・加納灯里も入っていたのでした。
雅也たちは完全に弄ばれました。榛村大和という知能の高い人間に。人間のちょっと弱い部分をひねるだけでみんな誘導されていたと。
最後はちょっと唸ってしまった。完全に的が外れた。
榛村という男は恐ろしい。彼の近くにいた人間たちは,みんな彼の手のひらで踊らされていたわけです。
まさに鎖につながれた,チェインドッグ。
人の善意をも操る恐ろしい人物。普段は人の良さそうな顔をしていても,実は裏の顔は恐ろしい人ってたくさんいるのでしょうか。
冒頭に書いた,作品のかつてのタイトル「チェイン・ドッグ」
まさに多くの人間が鎖につながれた犬のような状態。その一人が筧井雅也という法学部生。
人の気持ちも理解できず,いや理解せず,平気で操ろうとする人間がこの世の中にはいるということなのか。
僕自身の周りにもそういう人間がいるのかもしれないし,これまでに会ったこともあるのかもしれない。
榛村の頭の中にある世界の中で,単に一人の登場人物として行動させられていたということに最後は唸ってしまいました。
機会があれば映画も観てみようと思います。
● 善人の気持ちを操る人間がこの世の中にいるのだろうか
● 人の頭の中で描いた世界の中で行動させられた人間の末路