言わずと知れた,宮部みゆき先生の超大作です。
2001年に毎日出版文化賞受賞,2002年には芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されています。
この作品がこれまでにない超大作であるというのは巻数からも想像できます。なんせ,五巻ありますから。覚悟して読みました。
ブログを書き始めた頃って,感想を書けるのは上下巻くらいだろうなって思ってました。
巻数が増えるほど,圧縮して話の構成を考えるのがとても難しいです。だから以前は購入するのもためらっていたんですね。
しかし,とうとう5冊とも購入してしまいました。やっぱり,「模倣犯」だけ読んでいないのがどうしても心残りで。
でも読みながらストーリーに引き込まれる感覚がありました。意外とあっと言う間に読めます。
2002年に映画化されています。主演は中居正広さんで,観客総動員数100万人を記録する大ヒット作となりました。
結構キツかったですけど,簡単にまとめました。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 孫娘を殺害された復讐
3.2 真犯人の正体とは
3.3 真犯人の弱点
4. この作品で学べたこと
● 「模倣犯」とは何を意味するのか知りたい
● 一世を風靡した宮部先生の超大作を読んでみたい
● 真犯人の心理について考えてみたい
公園のゴミ箱から発見された女性の右腕、それは史上最悪の犯罪者によって仕組まれた連続女性殺人事件のプロローグだった。比類なき知能犯に挑む、第一発見者の少年と、孫娘を殺された老人。そして被害者宅やテレビの生放送に向け、不適な挑発を続ける犯人――。が、やがて事態は急転直下、交通事故死した男の自宅から、「殺人の記録」が発見される、事件は解決するかに見えたが、そこに、一連の凶行の真相を大胆に予想する人物が現れる。死んだ男の正体は? 少年と老人が辿り着いた意外な結末とは? 宮部みゆきが“犯罪の世紀”に放つ、渾身の最長編現代ミステリ。
-Booksデータベースより-
1⃣ 孫娘を殺害された復讐
2⃣ 真犯人の正体とは
3⃣ 真犯人の弱点
第一巻の冒頭から何やら不気味な事件が起こります。
街のゴミ捨て場に,女性の腕の部分だけ切断されたものが捨てられていたのです。なんか,ちょっと残虐な犯罪の匂いがします。。。
ここでひとりの人物にスポットが当たります。
それは,自分の孫(古川鞠子)が行方不明になって,3ヶ月経っても帰ってこないことに心を痛めている有馬義男という祖父です。少女の母親である自分の娘を気遣いながら,鞠子を誘拐したと思われる犯人からの電話を皮切りに,義男は犯人と対決しようと覚悟を決めます。
この義男,ただの老人ではありませんでした。全ての行動が用意周到。とても頭がよいという印象。
しかし犯人も非常に頭のいい人間のようです。この義男も一歩も引けをとっていない。
犯人に振り回される部分もあるんだけど,犯人の心理を先読みし,電話を使って鋭く犯人を動かそうとします。それが犯人にとっては誤算だったのではないかと思う。電話口でうろたえる姿がよく伝わります。
何に一番うろたえたかというと,犯人は複数であることを指摘されたこと。
テレビ番組での公開放送が行われることになります。ここで犯人は電話をかけるんだけど,
CMでカットが入る前後の声が異なることを見破ります。そして,それは声紋鑑定にかければ証明できると。
なるほど,ボイスチェンジャーで声を変えても,声紋は変わらないんだな。
確かに犯人は,物的証拠になるようなものは一切残していない。
さらに警察がミスリードするようなものを残すような,用意周到で頭のいい連中の仕業ではありました。
しかし,どういうわけか最後は,犯人と思われる2人が乗った車が事故を起こし,死亡してしまいます。
その一人の名前が「栗橋浩美」という男でした。
2人の犯人のうち,一人の名前だけしか描かれていない辺りが,今後の重要なポイントになるような気がします。
第二巻は,第一巻であった事件の裏側を描いた作品であることがわかります。案の定「栗橋」という男が登場するんですね。
そしてもう一人の犯人は「ピース」と呼ばれている男。でも本名は明かされません。ひょっとして,こいつがボスキャラ?
さらに,カズと呼ばれ,かつては栗橋と仲が良かった高井和明という男も登場します。
ん? ひょっとして,第一巻で死亡した2人って,実は栗橋と和明なんじゃないの? って直感します。実際,どうなんだろう?ピースと気の合う栗橋は,実は多くの事件に関わっていました。
ゴミ捨て場に捨てられていた「腕」も,古川鞠子も,蓋を開けてみれば,全て彼らがやったことでした。
それ以外にも多くの人間を殺害しているようにも思えます。「サイコパス」なのか?
彼らの計画はある意味「劇場型犯罪」で,主人公は自分たち。
そして誘拐され,自分たちの計画に利用し,最後は平気で殺害される人間達はあくまでもその登場人物でしかないということです。
自分たちの勝手で,他人の人生を簡単に壊してしまう人間がいることは到底許されない。憤りを感じながら読み続けます。
ん~,第二巻では真相はわかりませんでした。次の三巻で少しずつ明かされていくのか。
第三巻では第二巻同様,事件の裏側がさらにわかる話となっています。
やはり最後に死んだのは一人は栗橋だったが,もう一人はピースではありませんでした。
やはりこのピースという男が全ての悪の根源であることを確信させられました。
ピースの顔色を伺いながら生きてきた栗橋は,最後の最後に,カズ(高山和明)の友情に気付きました。
カズが栗橋の言いなりで動き,妹からも「お人よし」と心配されていたカズは,実は栗橋の犯罪に気付いていた。
とぼれないキャラクタでありながら,実は実家の店を継ぎ,一人前の人間として成長していたのである。
カズが「お人よし」だったのは,栗橋に,元の栗橋に,以前の犯罪に手を染めていなかった栗橋に戻ってほしかったからだったのでした。しかし,栗橋はそれに気づくのが遅かった。結局この2人は,死ぬ直前になって初めて,昔みたいに心を通わせることができたのです。
死ぬ間際にそれがわかるなんて,とても残念。
それにしても,この展開をピースは予期していたのだろうか。
そして,いろいろなことを知り過ぎてしまった栗橋やカズがいなくなったことに満足しているのだろうか。
これからはピースがどういう行動を起こすかがポイントとなっていきます。
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死亡してしまった犯人2人が栗橋と高井(カズ)であることはわかりました。
読者にはこの時点で「ピース」が真犯人であることがわかっているわけです。
しかし,警察は栗橋・高井による犯行と断定して捜査を行っていました。警察だけでなく,ジャーナリストの前畑も,2人が真犯人ということを元にその考察を書いてしまってました。
これは完全にピースの思うがままではないか。ある意味,歯がゆさを感じるわけです。
本当に読者にとっては歯がゆいはずです。本作品を読まれた読者の方々も同じ気持ちではないでしょうか。
その辺りが宮部先生のうまさなんだと思います。読者にミスリードさせるのではなく,完全にピースの犯行なのですから。
ここで高井の妹である由美子が登場します。
彼女は「兄が絶対に犯人ではない,そんなことを兄がするはずがない」ということを訴えようとします。
そこにまたもや「ピース」が絡んできます。
そして第四巻で,ようやく彼の名前が「網川浩一」であることもわかるのです。
やっと真犯人の名前が出てきました。
彼は「もうひとつの殺人」というタイトルの本を出版します。
この本は,高井たちが真犯人ではなく,犯人は他にいるということを訴えていました。
ここで疑問が起こる。まず,なぜ高井は犯人ではないという本を出したのか。ピース,つまり網川にとっては高井が犯人であることが都合がよいはず。
そして,テレビという公の場に網川は登場してきたのか。それだと声紋鑑定されれば,犯人だと特定されてしまう。
また,網川は,由美子の代弁者であるかのように振舞うようになります。なぜわざわざ自分の姿を知らしめようとするのか。
隠れていた方が捕まりにくいはずですもんね。一体なぜ?
網川の真の意図がわからないです。しかし,それは最終巻で判明します。
なぜ彼が闇の世界から、表の世界に登場してきたのか。
網川浩一は、本を出版し、一躍有名人となってしまいました。
テレビという公の舞台にも登場し,自分が真犯人であることを知らしめるのです。真犯人である彼は、なぜ自分が犯人であることを悟らせる行動をとるのか。
それは、世間に「自分の犯した犯罪は、全て自分が考えたものである」ということを国民に知らしめたかったからなのです。
「劇場型殺人」という言葉はよく耳にします。
それは先にも書いたように,犯人の周囲の人間、被害者の親族、警察、ジャーナリスト、メディアなど、犯人以外の全ての人間は、自分の殺人の登場人物でしかない。
誰かに殺意があって殺害したものではなく、無差別に誰でもよかったのです。
「とにかく自分はすごいことをしたんだ」という「自己満足」で「自己中心的」で「承認欲求」的な殺人を実行したわけなんですね。
彼はやはりサイコパスだったのだろうか。
非常に知能が高く、相手の行動や感情などを事前に予測し、全ての人間より先回りして行動してきました。
しかし、最後はジャーナリストである前畑と、テレビで対決することになります。
前畑は準備していました。彼の殺人が、実は「模倣的殺人」だということを訴えるのです。「今回の時間は,かつてあった犯罪と酷似しており,犯人は単にこの事件を真似しただけのバカな犯行だ」と。
実は前畑の夫はピースに殺害されていました。その復讐のために彼女は網川について調べ尽くしていたのです。そして弱点も。
これは網川にとって予想外の流れでした。完全にプライドを傷つけられたピースこと網川。
網川は想定外の事態にうろたえます。想定外のことに対処するだけの考えというものが欠落していました。
そして網川は自爆していくのでした。
網川の欠点・弱点はなんだったのでしょうか。
自分が一番頭がいいと高を括り,他人を下に見ていたピース。完全にプライドを傷つけられたピース。
他人だけでなく,自分の仲間さえも操っていたつもりになっていたのでしょう。
しかしながら弱点を指摘されるとすぐに逆上していしまったのです。
人生というものをしっかり生きて、社会で多くの経験を積み、いろいろな人間と接することで,学ぶべきことを学んでいなかったことだと思います。
謙虚に、そして感謝の気持ちを持って生きていかなかければ得られないことというものあるのだと思います。
他人を上から見下していた彼にはそれがわからなかったのでしょう。
他人の痛みと同じ痛みを感じようとしたこともなかったのでしょう。
自分以外の人間は,自分という主人公のための「出演者」や「観客」ではない。
人間は、それぞれの人生を歩んでいるという物語の主人公なのであると思います。
● 「模倣犯」というタイトルの意味を知ることができた
● 世の中には,他人の痛みを考えない行動を起こす人間もいるのだろうか
● とにかく,宮部先生の超大作を読み尽くすことができた