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【検事の本懐】柚木裕子|検事佐方貞人の本懐とは

検事の本懐

佐方貞人シリーズを初めて読んだのが本作品です。シリーズ二作目となります。

知り合いにこの作品を薦められ,あまりの面白さにシリーズ全て読んだことが「柚木裕子」さんの作品との出会いでもありました。

元々,検事や弁護士などの法廷ミステリに興味があったせいか,これを機に多くの作家さんの法廷モノを読むようになりました。

シリーズ最初の作品である「最後の証人」は,佐方が検事から弁護士になった後の話ですが,本作品は弁護士に転身する前の「検事佐方貞人」を描いたものとなっています。

こんな方にオススメ

● 検事時代の佐方貞人の活躍を知りたい

● 佐方貞人の高い人間性を知りたい

● 同僚,容疑者までもが一目置く佐方のすごさを知りたい

作品概要

ガレージや車が燃やされるなど17件続いた放火事件。険悪ムードが漂う捜査本部は、16件目の現場から走り去った人物に似た男を強引に別件逮捕する。取調を担当することになった新人検事の佐方貞人は「まだ事件は解決していない」と唯一被害者が出た13件目の放火の手口に不審を抱く(「樹を見る」)。権力と策略が交錯する司法を舞台に、追い込まれた人間たちの本性を描いた慟哭のミステリー、全5話。第15回大藪春彦賞受賞作。
-Booksデータベースより-



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柚月裕子さんの経歴

1968年生まれ 高校卒業後,21歳で結婚。子育てが落ち着いた後,執筆活動を開始

横山秀夫さんを尊敬している デビュー作は「臨床真理」

主な受賞歴

「このミステリーがすごい!」大賞(臨床真理)・大藪春彦賞(検事の本懐)・日本推理作家協会賞(孤狼の血)

本作品3つのポイント

1⃣ 検事佐方貞人が担当した事件

2⃣ 徹底的に事実を追及する佐方

3⃣ 検事の本懐

検事佐方貞人が担当する事件

① 樹を見る
米原東署の署長である南場は,2年前から続いていた連続放火事件を担当しています。17件も連続するこの事件,なかなか真相に辿り着けない状態でした。

とうとう刑事部長の佐野からも目をつけられ,自分の身も危うくなっていました。

さらに18件目の事件が発生し,新井という男が浮上します。しかし,ここで南場は米崎地検に相談し,ここで検事・佐方貞人が登場します。

② 罪を押す
佐方が検事2年目の話です。3年前,窃盗罪で上司の筒井が起訴した小野という男がいました。

彼が出所した日に腕時計を盗んだ疑いで米崎地検に送検されてきます。小野は罪を認めていますが,佐方だけがどうも腑に落ちない様子でした。

佐方は何かに気づいたようです。それは何なのでしょうか?

③ 恩を返す
佐方には天根弥生という高校の同級生である女性がいました。彼女から連絡があります。

「自分は警察官から強請られている」と。弥生がかつて強姦された映像が警察に残っており,勝野という警察官が関係を迫ってきていたのです。

佐方は勝野と対峙します。果たして,佐方はどうするのか?

④ 拳を握る
ある与党議員と,中小企業経営者福祉事業団という組織の間に,贈収賄が疑われていました。担当していた東京地検から各地の地検に応援要請がきます。

その中に佐方もいました。しかし,贈収賄の証拠が見つからず,さらに重要参考人だった葛巻という男が逃げ出してしまいます。

佐方は山口地検の加東とともに事件を追うことになります。

⑤ 本懐を知る
ジャーナリストの兼先という男は,担当する週刊誌のネタに困っていました。

しかしある時,10年以上前に広島の弁護士が業務上横領により実刑判決を受けたことを思い出します。

その弁護士の名は「佐方陽世」,佐方の父親でした。

小田嶋建設の顧問弁護士をしていた陽世は,社長が亡くなった際,5000万円を横領したというのです。無罪を主張することなく,陽世は実刑判決を受けました。

本当に父親は罪を犯したのか?

徹底的に事実を追及する佐方

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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① 樹を見る
連続殺人事件の犯人は確かに新井という男でしたが,十三件目の殺人は新井には完全なるアリバイがありました。

火災発生時刻当時,新井はアイドルのサイトに書き込みをしてました。確かに日時までハッキリと残るサイトへの書き込みは大きなアリバイです。

では,一体誰が犯人だったのか。それは全く無関係の人物でした。倉谷という男性と不倫関係にあった安森という女性が,子供を身ごもりながらも堕胎しなければならなかったことを理由に復讐したのでした。

安森の気持ちに同情してしまいます。

② 罪を押す
時計を盗んだのは小野ではありませんでした。

ある少年が腕時計を盗んでいたのです。少年は友人から腕時計を奪われ,親に言えずに同じものを盗んだのです。

それを見ていた小野は注意しますが,少しのこじれがあって,逆に小野が捕まってしまったのです。防犯カメラを確認すればすぐにわかったのに,警察はそれを怠ったために「冤罪」が起きてしまったんですね。

真実を見極め,少年に罪を償わせる。小野は佐方に感謝しているようでした。

③ 恩を返す
勝野に脅されていた弥生は,その強請られている状況をボイスレコーダーに録音していました。

それを突き付けた佐方。勝野は佐方の胸にある「秋霜烈日バッジ」を見て驚愕します。そのくらい検事という存在が大きいものだというのを物語っているシーンでした。

勝野に「もう二度と弥生に近づかない」ことを念書にし,もう二度と弥生には近づくことはないでしょう。次に同じことをすれば検事の特権である「起訴」が待っているわけですから。

佐方はかつて弥生に救われていたのです。2人でいた頃に襲ってきた男たちの集団に立ち向かっていった弥生,そして高校を退学することになってしまった弥生への償いだったんですね。

④ 拳を握る
贈収賄の重要参考人と睨んでいた葛巻。どうやら地検としては彼が完全に「黒」であると確信しているようです。それを知りながら,佐方は葛巻を調べます。

葛巻は大金が詰まった菓子折りを届けていたように思われましたが,実際には大金は入ってませんでした。その事実を佐方は上層部に伝えるのです。

そしてなぜか捜査から外されてしまいます。佐方と組んでいた加東は戸惑いますが,結局別の検事と捜査をすることになります。

葛巻は事件には無関係,別の人物が贈収賄の取引を行っていたのでした。

真実に一番早く辿り着いていた佐方。その佐方が無念にも外され,拳を強く握り去っていく姿を思い出しながら,加東もまたジョッキを握った拳を握りしめるのです。

自分の無力感,やるせなさを思い出しながら。

⑤ 本懐を知る
小田嶋建設社長の隆一朗は,自分が仲人を務めた清水亮子と関係を持ってしまっていました。

猛省している隆一朗は亮子に尽くそうとします。それは彼女の人生を支えるために。

しかし,隆一朗が命あと幾ばくかの頃,小田嶋建設の顧問弁護士だった佐方陽世に自分の遺産を託します。亮子に渡すようにと。

そのことが他に知れ渡ることになり,佐方は逮捕されてしまいます。

正直に言えばよかったものの,佐方は敢えて罪をかぶります。無罪を主張すれば隆一朗と亮子のことが公になってしまう,それは死んでもできないと。

それを調査していたジャーナリストの兼先は「これが隆一朗と佐方の本懐である」と悟るのです。そしてその陽世の遺志を受け継いだ陽世の息子,佐方貞人もまた固く口を閉ざします。

兼先は「佐方貞人はいい検事になる」と考えるのでした。

前作の最後の証人は佐方は弁護士でした。今回の佐方は検察官として活躍しています。どちらの佐方も見ごたえがあって楽しめました。

検事,弁護士と職種は違っても,佐方の人間性というのは今も昔も変わらないのだなというのが前作から通じて感じることです。

弁護士であれば依頼者や証人と,検事であれば容疑者だけでなく同僚や上司と,佐方貞人という人間は人と真剣に向き合う。

そこが佐方貞人という人の大きな魅力なのだと思います。

検事の本懐

これまで読んだ検事関係の作品というと,事件を解決するために,検事としての矜持を持った人間が,警察を使い,上下関係の厳しい世界の中で,裁判で容疑者を必ず有罪にするというイメージが強かったです。

有罪率99.9%と言われるのは,確実に起訴に持ち込むために,数々の証拠を集め,自分たちが思い描いたストーリーを築き上げ,法という伝家の宝刀を切り札とする人々なのかなって思ってました。佐方検事本作品は,それを感じる部分もあるんですが,主人公である佐方という検事のすごさ,すばらしい人間性を兼ね備えた彼の姿が,短編という形でうまく表現されていました。

例えば「樹を見る」では,十三件目の事件の真実を追求・解決したその手柄を自分のものにすることなく,警察が解決したことにしてほしいと言っています。

白は白,黒は黒とハッキリ言い,恩を受けた人間に対しては,自分を犠牲にしてでも守ろうとするのです。

最後の「本懐を知る」では,罪をかぶってまで他人を守った父親を尊敬し,またそれを受け継いでいるからこそ,今の佐方が出来上がっているのだなと思います。

周囲の検事が一目置き,そして容疑者までもが心を動かされる存在である佐方検事。
分け隔てなく人と向かい合う人物で,とにかく本当に尊敬できる人物です。

人間性というのは,自分が育った環境で大きく左右され,そして多くのものを培われていくのだと改めて思います。

佐方は「父親の背中を見て育ち,彼の本懐を受け継いでいる」のだろうと思います。

秋霜烈日厳しい状況に置かれた時にこそ,その人間の真の姿が見えるのなのでしょうね。

この作品で考えさせられたこと

● 周りに流されず,徹底して事実を追及する佐方の力強さ

● 佐方の人間性の高さは,父親から受け継いだものだと思う

● 「秋霜烈日」のように厳しいながらも,時には優しさも見せる佐方

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