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【桜のような僕の恋人】宇山佳佑|不治の病を持つ恋人

桜のような僕の恋人

ブックオフにふら~っと入って目に付いた一冊の表紙。とても桜が綺麗な表紙で一瞬見入ってしまいました。「桜のような僕の恋人」という作品。

あまり恋愛小説を読むことがない僕自身は,ちょっと昔の若い頃の青春時代を思い出すのです。あの頃,好きな人がいても告白できなかったり,告白してもその後が続かなかったり,いろいろなことが甦ってくる作品でした。

「恋人」の,あと幾ばくしかない命。それを知らずに自分の仕事に集中する一人の青年。世の中には,生きたくても生きられない,思い通りに行かない人たちも数多くいるのだろうと思います。

本作品は2017年に発刊され,2022年には映画化されています。中島健人さん,松本穂香さん。これをどのように映画で表現したのかが気になります。

それにしても,読了後,大号泣してしまいました。

是非,読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 感動する恋愛小説を読んでみたい

● お互いを思いながらすれ違う二人の気持ちを考えてみたい

● もし不治の病に罹ってしまったら,何を思うのかを考えたい

作品概要

カメラマン見習いの晴人と、新米美容師の美咲。恋に落ちた二人だが、美咲は人の何十倍もの早さで年をとる難病を発症する。しかも、治療法はないと告げられ……。切なく哀しいラブストーリー。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

朝倉晴人・・・カメラマンを目指すが,途中で挫折した

有明美咲・・・美容師。はじめて担当したのが晴人

有明貴司・・・美咲の兄。晴人と美咲の交際に反対

本作品 3つのポイント

1⃣ 晴人と美咲の出会い

2⃣ 美咲を襲った病気

3⃣ 本作品の考察

晴人と美咲の出会い

髪が伸びていた朝倉晴人は,下北沢にある美容院に行きます。そこで晴人のカットを担当したのが美容師の有明美咲です。

実は以前,晴人はこの美容院に来ており,そこで美咲に一目惚れしてしまったんですね。彼には計画がありました。カットしてもらいながら,美咲をデートに誘おうと。こんな計画立てるなんて,よっぽど惚れてしまったんだなぁ。

今日こそは、美咲をお花見デートに誘おうと勢い込んで来たのですが、なかなか言い出せません。「サクッ」と切った音。髪かと思いきや,実は晴人の「耳たぶ」が切れてしまったのです。何とハサミに血が付いています。ピアスとか開けたことないからわかりませんが,切られても本当に気付かないものなんでしょうか。

ま,とにかく一大事です。切られたことに気づかない晴人と,必死に謝る美咲。晴人は救急車で,大学病院へ搬送され,入院します。お見舞いへ行く美咲。

「できることなら何でもします」と言う美咲に,晴人は勇気を振り絞って言うのです。「デートしてください」と。

美咲はその言葉に警戒しながらも,しぶしぶOKします。ただ晴人には気になっていることがありました。晴人は美咲に対して「自分はプロのカメラマンを目指している」と言っていたようです。本当の彼はカメラマンの仕事を辞め,現在はアルバイトをやっていました。

晴人は美咲に嘘をついていることに後ろめたさを感じており,デートが実現した際には正直に話すことを誓っていました。

美咲の自宅は「有明屋」という小さな居酒屋をやっていました。両親は早くに亡くなってしまっており,現在は美咲の兄である貴司がこの店を支えていました。美咲は「耳たぶ事件」の一連を打ち明けます。貴司は晴人に不信感も持っているようでした。

兄の影響なのか,居酒屋の客と会話することが多いからなのか,美咲って結構強い口調で話すんですよね。臆病そうな晴人とは大違いです。そして,春の桜の咲く季節に,お花見デートが実現するのです。しかし,あまりに多い花見客の数に圧倒されます。

しばらくして,晴人は「自分は本当はカメラマンではない」ということを告白するのです。あまりの衝撃に絶句する美咲。そして怒りが湧いてきたようです。

「どうして頑張らないのよ。本当のカメラマンになれたかもしれないのに!」

美容師として一生懸命仕事をする美咲は,中途半端な生活を送っている晴人に声を荒げて言うのでした。晴人は「あなたに嫌われたくなかったから」と嘘をついていたようです。しかし,今の晴人は以前の晴人ではありませんでした。勇気を持って言うのです。

「僕はあなたにふさわしい男になってみせます!」

こう宣言した晴人は,数週間,美咲に連絡してきませんでした。どうしたのか? 晴人は逃げてしまったのか?

しばらくして晴人から美咲に連絡がきます。実はあれからすぐに晴人はプロカメラマンのアシスタントとして働き始めていたのです。どうやら晴人の覚悟は本物だったようです。本当に美咲のことが好きなんだな。。。

美咲としては,最初は晴人に対して不信感だらけでしたが,晴人の素直さというか,実直さに魅かれていったようです。そして晴人にたいして「どうして、私なんですか?」と聞きます。「あなたがいいんです」この真っすぐさが晴人のいいところなんですよね。

次の日,美咲は熱を出してしまいました。それからなかなか連絡ができない状態。しかし,熱が下がったある日,美咲は晴人を食事に誘います。ん? 何かいいたいことがあるのか?
晴人の仕事帰りに会うことになった二人。そこで美咲は晴人の強い気持ちに動かされたのか,告白に対する返事をするのです。

「わたしも、あなたのこと好きになりたいです!」

晴人はあまりの嬉しさに有頂天になった様子。そして彼らは本当に付き合うようになったのでした。

美咲を襲った病気

美咲は夏ごろになると,時々体調が悪くなってしまうようでした。そう言えば,晴人が告白した時期もそうでした。ある日,晴人は美咲の家に行くことにします。そしてある意味「親代わり」である貴司と話すのです。

貴司は晴人と美咲の交際に反対でした。やはり「カメラマンは嘘事件」が気になっている様子。「帰れ,この変態カメラマン」と言われています。ただ何となくこの晴人に対する貴司の物言いが不思議と心地よく感じるんですよね。

美咲は時々熱を出して寝込んだりする日が続いていました。そして大学病院で検査をすることになります。おそらく夏風邪だろうと思っていましたが,ん~,何かイヤな予感がします。

この状況に兄の貴司は美咲のことが心配になります。ある意味,美咲の親代わりである貴司に,慶明大学病院の神谷という医師から気になる連絡があります。神谷という医師が「遺伝疾患」を担当していることから,貴司も何か違和感を感じている様子。

神谷からは「検査結果」を聞きに来るように言われました。ただ貴司は病院から連絡があったことは美咲に内緒にします。実は貴司は一緒に住んでいる綾乃という女性と結婚する予定でした。しかし貴司は「結婚式を延期したい」と言い出します。

綾乃は貴司の心の内を敏感に察知します。何か隠していると。それでも言わない貴司。やはり美咲の病状のことなのか。これには美咲も不信感を持ちます。そんな時に大学病院の神谷医師から連絡が来るのです。そして検査結果を聞きに病院へ行くことにします。

そして美咲は想像もつかなかった病気を耳にするのです。それは「ファーストフォワード症候群」でした。

ファーストフォワード症候群とは

ウェルナー症候群」のこと。この病気は、思春期を過ぎる頃より急速に老化が進んでいくようにみえることから「早く老いる」病気,つまり「早老症」のひとつといわれています。

20歳代から白髪、脱毛、両目の白内障がおき、手足の筋肉や皮膚もやせて固くなり、実年齢より「老けて見える」ことが多くなります。

-千葉大学大学院医学研究院サイトより-

ファーストフォワードとは「早送り」のことで,つまり,人よりも何十倍ものスピードで老化していくという恐ろしい病気。こんな病気があるんだ。。。

神谷医師の余命宣告とも言えるような「早老症」のことで,美咲は当然衝撃を受けます。
その衝撃は想像の域を超えています。もしこんなことを医者から言われたら,何を思うのか。

そんな気持ちと裏腹に,美咲は暗い気持ちを引きずったまま晴人とデートします。そしてとうとう晴人からプロポーズされるのです。ちょっと早くない?

「付き合って3ヵ月しか経ってなくても、君より素敵な人がどれだけいても、美咲は僕の最後の恋人だって、勝手にそう思ってるから」

好きな人から言われれば普通だったら嬉しいものなのでしょう。しかし,美咲は晴人に言いたくない病気の現実がよぎります。美咲は「しばらく考えさせて……」と返事するのが精一杯でした。

晴人を失いたくない,晴人に醜い姿を見せたくない,そんな気持ちがプロポーズに対してどうしても前向きになれない。本当によくわかる,美咲の気持ち。美咲は寝ている晴人の顔を見つめながら「時々でいいから、わたしのこと思い出してね」とつぶやくのでした。そして、美咲は黙って部屋を出て行くのでした。

その日から,美咲は晴人を避けるようになります。そして彼女は嘘をつきます。自分には好きな人ができたと。今はその人と一緒にいると。これに晴人は衝撃を受けます。なぜなのか。晴人は当然のように美咲を責め立てます。忘れられるはずないですよね。急に「好きな人がいる」なんて言われても信じれるはずがない。

そして晴人は「最低だな。。。」とつぶやきます。「私のことは忘れて。。。」と言う美咲。完全に二人は別れてしまうのでした。

本作品の考察

晴人にはわからないまま容赦なく進行してしまう美咲の老化。この後,どうなっていくのかは是非本作品を読んでほしいと思います。

それにしても,最後の展開は意外でした。晴人と美咲という二人の主人公の交錯する重い。もし自分の恋人,あるいは大切にしている人の命が短いと知ってしまったらどう考えるのだろうか。

いや,もし自分が不治の病に侵されていると知ってしまった時の衝撃はどのようなものなのか。晴人と美咲の二人の視点に立って,本作品を読みました。

余命幾ばくかという状況で,人は何を思うのか。落ち込んで,ふさぎ込んでしまうのか。それとも,残された人生をどう生きるかを考え,後悔しない人生を送りたくないと思うのだろうか。そして,先行く人へ向け,自分は何をしてあげられるのだろうか。

こればかりはその状況にならないとわからないのかなと思います。健康体で,自分のやりたいことをやろうと思えばできる環境にいる自分自身は,まだマシな部類なのかなと思いました。

命の尊さについて本当に考えさせられる作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● 大切な人の余命が少ないと知らされた時に,人は何を思うか

● 自分の命があとわずかと知った時,どんな行動を起こすのか。

● 命の尊さについて考えさせられる作品でした

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