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【果つる底なき】池井戸潤|同僚が殺害された真相

果つる底なき

池井戸先生と言えば,やはり銀行や企業関連の小説。代表的な「半沢直樹」は別格としても,他にも多くの銀行が絡んだ小説を描かれています。

銀行という場所,そこに勤務する人々の仕事や苦労などが描かれていて,僕の乏しい金融の知識を補ってくれたと言っても過言ではないです。

実は本作品,池井戸先生のデビュー作でしかも「江戸川乱歩賞」受賞作なんです。

デビュー作とは思えないほどの完成度で,最後は僕自身も唸ってしまうほど,思い入れのある作品でもあります。

話は,主人公の伊木と,同期である坂本が外回り中にバッタリ出会うところから始まります。坂本は伊木になぜか「これは貸しだからな」というセリフを言って去っていきます。

この発言は一体何を意味するのかというのが本作品の大きなポイントでもあります。

こんな方にオススメ

● 冒頭の事件の真相を知りたい

● 銀行業務や企業買収について学びたい

● 「江戸川乱歩賞」受賞作を読んでみたい

作品概要

「これは貸しだからな。」謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった……。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ1人、銀行の暗闇に立ち向かう!第44回江戸川乱歩賞受賞作
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

伊木遥・・・主人公。二都銀行の融資課に勤務

坂本健司・・伊木の同期。融資課で回収担当

坂本曜子・・健司の妻。伊木とかつて付き合っていた

柳葉菜緒・・東京シリコンの社長令嬢

山崎耕太・・二都商事金属グループ課長

本作品 3つのポイント

1⃣ 坂本は何を知ってしまったのか

2⃣ 事件の真相を追及する伊木

3⃣ 真相と真犯人

坂本は何を知ってしまったのか

伊木はかつて二都銀行の本店での業務に携わっていました。しかし運悪く,支店の融資課に左遷されてしまうんです。

ある日,伊木は外回りをしていた際,同じ課で同期の坂本と出くわします。坂本は相当大きな案件を担当しているようでした。

伊木と,同期の坂本回収担当って「半沢直樹」にも出てきますけど,本当に大変そうですよね。銀行が貸したお金を回収しようとしても,企業の事情で回収できなかったり,さらには企業側とぶつかったりして。

そんな坂本は冒頭でも書いたように「これは貸しだからな」って伊木に言うんですね。

なぜ坂本はそんなことを言ったのか疑問に思っている様子の伊木。伊木の過去の仕事と直結するのでしょうか。

その翌日,思ってもない事件が起こってしまいます。坂本が遺体が車の中で発見されたのです。

死因は蜂に刺されたことによる「アナフィラキシーショック」が原因でした。

蜂によるアナフィラキシーショック「アレルギー体質の人が何かを機に,自分の生命の危機を与えられてしまう過敏反応」

アナフィラキシーショックって怖いですよね。僕自身も食物アレルギーを持っていて,いつそんなことになるかわかりませんから。

坂本のことを調べていくと,重大な事実が判明します。何と,3000万円を横領していたというのです。3000万円の横領「これは貸しだからな」「3000万円の横領」これらはつながるのでしょうか。

伊木は,坂本がやっていた業務を引き継ぐことになります。その中には「東京シリコン」という企業もありました。伊木が救えなかった企業です。

かつて,伊木が東京シリコンを担当していた時に親しくしていた社長の柳葉朔太郎。その娘である菜緒とも親しい関係にあったことがありました。

その後,信越マテリアルからの「和議申請」によって,東京シリコンは窮地になります。

「和議申請」とは,債務者,つまり信越マテリアルから「倒産を防止するための申請」のことです。これで東京シリコンは見捨てられたということなのです。

とうとう東京シリコンは倒産に追い込まれ,伊木は奈緒から恨まれる存在になっていきました。倒産和議の相談に山崎という人物が伊木を訪ねてきました。彼は二都商事の課長で,信越マテリアルの財務部長として二都銀行から出向していました。坂本とも関係があったようです。

坂本の事件後,とうとう刑事が伊木の元を訪れます。どうやら警察は伊木を疑っているようです。

この一連の流れと坂本の死には,何か関係があるのでしょうか。

事件の真相を追及する伊木

疑われている伊木は,坂本の身辺に何かヒントがないか調査を始めます。書類やパソコンなど,いろいろ調べていく中で「あること」に気づきます。「109」というメモが無くなっているのです。

さらに調べると,資料の中に「109」という記述を発見します。それを辿ると驚くことに気づきます。

東京シリコンへの融資,経営状況などを調べ,そこには「粉飾」があったのです。粉飾決済「これは貸しだからな」あのセリフはこのことだったようです。

信越マテリアルと東京シリコン。この関係が事件に結びついているのでしょうか。

伊木は徐々に事件に真相に近づきつつあるようです。ところがそれを察知した人間がいるのか,伊木の家のポストには「蜂の死骸」が入れられていたのです。

「次はお前だ」と言わんばかりに。。。

これを機に,坂本のパソコンの資料が改ざんされたり,伊木のデスクにあった資料が紛失したり,これはもう銀行内に犯人がいると考えていいのでは,という状況になります。パソコン改ざん,資料紛失銀行内の古河からも伊木はアドバイスを受けます。

北川副支店長から目を付けられるから,あんまり派手なことをするな」と。

それでも伊木は動くのです。しかしここで事件が起こってしまいます。

スナックに伊木と一緒にいた古河。伊木が何者かに襲われ際に古河は伊木をかばい,逆に刺されてしまうのです。

古河は一命を取り留めますが,かなりの殺意を感じます。よほど知られたらまずいことなのでしょう。黒幕は誰かそんな伊木は,坂本の家を訪れます。そこである資料を見つけます。東京シリコンは「仁科佐和子」という人物に多額の振り込みを行っていました。

家に帰った伊木。ある男が伊木を襲ってきました。北川副支店長でした。人事権をちらつかせながら,伊木を脅します。北川副支店長そもそも出世に興味のない伊木は嘲笑います。激情した北川は襲ってきますが,逆に返り討ちにしました。犯人は北川?

追い返した伊木は次の日,驚く事件を目の当たりにすることになります。

真相と真犯人

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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伊木を襲った北川が殺害されてしまいました。ということは犯人は別にいるのか?

信越マテリアルの和議の申請も通ってしまいました。

東京シリコンの菜緒は伊木を頼りにします。東京シリコンを再建したいことを伝えるのです。

そのために信越マテリアルの情報を得ようとする二人。この辺りに何か秘密がありそうです。

そんな中,亡くなった北川の情報を入手します。坂本のパソコンの文書を改ざんしたのは北川でした。

坂本のアレルギー体質のことも北川は知っていたようで,彼が犯人の一人であることは明白です。共犯者,いや黒幕がいるはず。一体誰なんでしょうか。

二都商事は「信越マテリアル」を買収しようとしていました。信越マテリアルの技術を欲しがっている人間がいたのです。二都商事,信越マテリアルを買収それが「仁科佐和子」です。彼女は「テンナイン」という企業の社長で,信越マテリアルの技術者を引き抜いていました。

元々信越マテリアルという企業の成長には,この仁科も絡んでいたようです。東京シリコンからの金も「テンナイン」の設立に使われていました。

徐々に真相に近づいている感があります。「じゃこの仁科が犯人か?」と思っていましたが,ある時,突然伊木に一人の男が襲い掛かりました。

あの和議の相談のために伊木のところにきていた山崎でした。信越マテリアルへ出向中の。山崎だったのか。。。黒幕は山崎二都商事にいた山崎は,信越マテリアルの技術力に惚れこみ,買収を画策しました。

しかし信越マテリアル自体は経営が傾き,なかなか進まない買収策のため,二都商事は10億もの損失を積み上げてしまいました。

このままではやばい,と思った山崎は信越マテリアルの損失を隠し,自らが出向を志願しました。東京シリコンから出資させ,そして仁科に近づき,テンナインを設立させました。

ところがこの策略に気づいた人間がいました。坂本です。坂本は知ってしまったがために殺害されてしまったのでした。真相を知ってしまった坂本自分の失敗をもみ消すため,周囲の人間を取り込み,さらに部下を亡き者にした山崎のやったことは許されるものではないでしょう。

これが真相でした。

アレルギーを持つことを知っていた人物は誰なのか,坂本はなぜ殺害されてしまったのか。想像しながら読みました。

坂本はある不正に気付き,それを揉み消そうとした人物に殺害されてしまったわけです。

口座への振り込み,請求書,坂本が調査していた人物,そして不正。伊木は坂本の足跡を辿るように調査していきました。そして最終的にはある人物にいきついたわけです。

そこに辿りつくまでの過程がかなりスリリングで面白かったですし,銀行業務や企業買収のことなど,学ぶこともたくさんありました。銀行業務や企業買収銀行というところは、昇進,左遷といった人事が普通に行われているのだろうか,と改めて思いました。

伊木がそれまでに殺害された数々の人間の仇を,黒幕に全てぶつけるような形で終わったので,正直スッキリです。

銀行,企業買収の話でありながら,ミステリー要素が強い本作品が江戸川乱歩賞を取ったのはわかるような気がします。

この作品で考えさせられたこと

● 銀行・企業買収・粉飾決済などについて学ぶことができた

● 坂本の仇を取る伊木の勇気に感服した

● 銀行というところは出世や左遷など,人間関係のしがらみが多いのだろうか

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