伊岡瞬さんの作品は,どの作品もタイトルがシンプルだなと思います。
「代償」「悪寒」「赤い砂」「不審者」「痣」そして今回の「本性」など。
短いながらもそのストーリーは,重厚なイメージとして強烈に入ってきます。
今回は,ある人物の「本性」が描かれているんですけど,読了後の印象は何とも言えない気持ちが残ります。
そのくらい,熱を帯びた作品を描かれている証なのかなとも思っています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 サトウミサキという女性
3.2 ターゲットを追い込むミサキ
3.3 ミサキの真の目的
4. この作品で学べたこと
● 本作品の主人公の「本性」を知りたい
● 刑事の捜査にかかりそうでかからない理由を知りたい
● ミサキの真意は何なのかを知りたい
他人の家庭に入り込んでは攪乱し、強請った挙句に消える正体不明の女〈サトウミサキ〉。別の焼死事件を追っていた刑事の元に15年前の名刺が届き、刑事たちは過去を探り始め、ミサキに迫ってゆくが…。
-Booksデータベースより-
主な登場人物
サトウミサキ・・主人公 今回の謎の中心人物
安井隆三・・・サトウミサキの事件を追う刑事
宮下真人・・・安井とともに犯人を追う警察官
梅田尚之・・・お見合いパーティーでミサキと知り合う
小田切琢磨・・ファミレスで働いている
青木繁子・・・孫の元嫁と住んでいる老婆?
小谷沙帆里・・小田切の同級生
本作品は,第1章から第9章まで分かれていて,前半部分はサトウミサキを中心とした話,後半はサトウミサキを追う刑事の視点で描かれています。
1⃣ サトウミサキという女性
2⃣ ターゲットを追い込むミサキ
3⃣ ミサキの真の目的
サトウミサキという女性
梅田という私立中学の教師がお見合いパーティーでサトウミサキと出会うところから話が始まります。
彼は40歳くらいで,お見合いパーティーで相性のいい人間を見つけたと喜びます。それがサトウミサキでした。この時まではミサキの印象もかなり良かったんですけど,徐々にその「本性」を現します。
どうやら梅田の家に入り込んで,土地とか財産を奪おうとしているような感じなんです。
「早く騙されていることに気づいてくれ」と言いたくなります。
ミサキは他にも小田切という男性ともつながりがありました。どうやら彼も操られている様子。
梅田が嫉妬したのも小田切とミサキが一緒にいるところを目撃したからだとわかります。
そしてとうとう彼の前に安井と宮下という二人の刑事がやってきます。「サトウミサキを知らないか」と。やはりこの女性,只者ではなさそうです。
刑事の追及にタジタジになった小田切からは何も出てきませんでした。
ところがここ思わぬことが起きます。梅田が彼の家にやってきて,小田切をナイフで一突き。
この辺りから,多くの人間がサトウミサキに完全に操られていると思うようになります。
そしてミサキは着々と「ある目的に向かって行動」していくのです。
ターゲットを追い込むミサキ
次に青木繁子という女性が登場します。彼女は自分の息子と孫を事故で亡くしていました。
そのショックのせいかちょっと認知症っぽくなっています。ここまで聞くと繁子はかわいそうな境遇にいるのかなって思ってしまいます。
そんな時にあのサトウミサキがやってくるのです。
彼女はどうやらまたカネ目当てでやってきたようなのです。
ところがこの繁子,ちょっと認知症なのかなって思っていたんですけど,どうやら違うみたいです。
実は彼女は,繁子の息子の敦だというのです。つまり事故は自分の妻と息子を亡くしたということになります。完全に「繁子」になりきっていたわけです。
次は小谷という女性が登場します。彼女は中学時代の同窓会があり,いろいろな旧友と会います。
ここでもサトウミサキが登場します。今度は保険調査員という名目で近づきます。
そしてミサキはさらに脅しをかけます。「REAL」と書かれたコンテナの写真を見せられるのです。
沙帆里は「まさか,あの時のあの場所の写真」と絶句します。
思えばこれが重要なシーンだったのだと気づくのは最後の最後でした。安井と宮下の二人の刑事もそれぞれ事件を追っていました。
でもなかなかミサキに辿り着きそうな感じがしないんですよね。
なんだろう,この違和感は。。。
気になったのは,どの章でも「女性の遺体がコンテナから発見された」というニュース報道があることです。
遺体の女性は一体誰なのか。ミサキがやったのか? いやミサキが殺害された?
ミサキは一見,いろいろな人間を脅して,その人間を追い詰めることを生きがいにしている女性のように見えました。
最後は復讐されるのかなと思ってました。でも違ったんです。
実は彼女には「真の目的」があったのです!
ミサキの真の目的
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一体,この作品はどこへ向かっていくのだろうか。
刑事である安井と宮下は,どうやってサトウミサキを追い込んでいくのだろうか。
そんなことを思ってたのに,なかなか辿り着く感じがしないんですよね。
安井はとても優秀な刑事ですが,どこか体が悪そうでした。
相棒の宮下は独自に捜査していて,安井とは違う方向から事件の真相に迫っているような感じがあります。ミサキの本当の目的。それは「復讐」でした。
彼女には弟がいたようです。名前を佐藤浩紀といいます。浩紀は中学時代にイジメられていたのです。
裸にされ,テーブルの上で大の字に縛り付けられて,その近くには「REAL」と書かれたコンテナもありました。なるほど,これが先に書いた話とリンクするんですね。完全に先入観に入り込んでいました。
全く関係ない人物を嵌めようとしていたのだと思ってましたが,実は全員共通点があったのです。
そう,浩紀をいじめた同級生だったのです。
小田切も,おかしくなった青木敦も,そして小谷沙帆里も。
では,梅田は? 彼はその時の担任だったんです。
浩紀が重傷を負ったのに,梅田はクラスメイトをかばったのです。イジメを見て見ぬふりする教師だったようです。
つまり生徒に嫌われたくないという弱い人間だったんですね。
そしてコンテナの事件の遺体。ミサキではありませんでした。実は沙帆里でした。
自分の弟と同じ姿にして殺害したのです。
一瞬,ミサキに同情しました。その描き方が絶妙でした。
そして最終的にミサキの矛先は刑事の安井に向くのです。
安井にも復讐しようと思っているのでしょうか。
実は安井は浩紀の事件の時,ミサキの母親である晴恵の相談に乗っていました。
しかし,イジメごときでと真剣に取り合わず,あろうことか晴恵と関係を持ってしまったのです。安井はミサキを追い詰めようとしたのではなかったのです。
彼は償おうとしていたのです。そしてミサキに引き寄せられていたんですね。
ミサキは,自分の弟を重症を負わせた人間,それに関わった人間,自分を不遇の環境にした人間,全てに対して復讐しようと生きてきたのです。
これが「サトウミサキの本性」です。
その本心を知っていたかどうかわかりませんが,安井は死ぬ覚悟だったようです。
「若い刑事がいつかお前を追い詰める」と。それが安井の最後の言葉でした。安井は宮下に一目置いていたんですね。
最後に真犯人が生き延びていくというストーリー。東野圭吾さんの「白夜行」を思い出しました。
全ての章の伏線を,最後の最後に一気に結んでしまう描き方。
そして読者は先入観に落とし込んでしまう描き方。
「不審者」などもそうですが,伊岡先生の作品は先入観に入り込ませるのが実にうまいと思います。
作者のすごさを改めて感じることができる小説でした。
● 人を見る角度を変えると,全く異なる人間に映ってしまうことがある
● 人間の本性というのは,他人からは想像できないものである
● 特に本作品の「サトウミサキ」の真の目的の恐ろしさ