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【未来】湊かなえ|未来の自分からの手紙とは

未来

多くの人々は,自分の未来がどうなるかを想像したことがあると思います。

5年後,10年後,自分はどうなっているのか。

いや,果たしてそれまで生きることができているのか。

人生を変えるのは,今の自分の行動が元になるとは思いますが,過去の育った環境の中にも将来の自分に影響を与える何かがあるのかもしれません。

そしてそれが自分にとってプラスなのか,マイナスなのか。

この作品を読んでいるとそれを感じます。

今のところ,映像化はされていませんが,いつかされそうな予感はします。

湊かなえ先生の長編作品の中でも,最長作品らしいです。ざっと500ページ。湊かなえ本作品は「未来の自分」からの手紙を受け取った主人公の話です。

送り主は本当に「未来の自分」なのか

そんなことを考えながら読み続け,ラストは意外な展開に驚くことでしょう。

こんな方にオススメ

● 自分の未来について考えてみたい

● 不遇な環境で生きている登場人物の結末を知りたい

作品概要

「こんにちは、章子。私は20年後のあなた、30歳の章子です。あなたはきっと、これはだれかのイタズラではないかと思っているはず。だけど、これは本物の未来からの手紙なのです」ある日突然、少女に届いた一通の手紙──。家にも学校にも居場所のない、追い詰められた子どもたちに待つ未来とは!? デビュー作『告白』から10年、湊ワールドの集大成となる長編ミステリー、待望の文庫化!!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

佐伯章子・・・主人公。「未来の自分」から手紙が届く

須山亜里沙・・章子と仲のいいクラスメイト

後藤実里・・・章子をいじめるクラスメイト

佐伯文乃・・・章子の母親。少々病弱である

佐伯良太・・・章子の父親だが,すでに亡くなっている

林優斗・・・・章子と亜里沙の新しい担任

早坂誠司・・・文乃の働くホテルのシェフ

篠宮真唯子・・章子のかつての担任

本作品 3つのポイント

1⃣ 未来の自分からの手紙

2⃣ 不遇な環境で生活する人々

3⃣ 幸せな未来のために

未来の自分からの手紙

「ドリームランド」というテーマパークへ向かう佐伯章子と須山亜里沙。2人の仲の良い中学三年生です。

章子は一通の手紙を取り出して眺めています。手紙を読む章子それは「未来の章子」から,現在の章子へ向けて書かれた手紙でした。

一緒に同封されていたのが「ドリームマウンテン」の栞。

ドリームマウンテンは10周年のはずなのに,栞には「30周年」と書かれています。

さらに,本人でしか知りえない事実も書かれていることから,

「これは本当に未来の自分からの贈り物ではないか」しおりそう考え,これまで章子は「未来の章子」への手紙をしたためてきました。

ここで話は小学四年生の章子の話へと遡ります。

章子はこの時に先に書いた手紙を受け取り,定期的に日記のようなものを綴っていました。

章子の育った環境は,父親である良太の死を境に悪くなっていました。

母親の文乃はどうも病弱なのか暗い感じがします。躁鬱のような印象を持ちます。

そんな母親を支えていたのが章子でした。しかし,母親の人間関係はよくないようです。

章子は文乃からマドレーヌの作り方を教えてもらって,友人にふるまうこともありました。マドレーヌこのマドレーヌのことが結構登場するんですよね。後でわかるんですが,これが大きなポイントになります。

章子の担任は林という男性でした。しかしこの林,どうやら文乃に気があるようなのです。

一緒に車に乗っているところを,事もあろうかクラスの中心人物である後藤実里に見られてしまうのです。

「教師と,教え子の母親が付き合っている」噂話心の病を抱えている文乃に付き添っていると訴える章子ですが,周囲は信じてくれません。

実際,担任の林は文乃に気があったようです。しかしそれを否定する文乃。

学校中から問い詰められた林はとうとう休職してしまいました。

そして章子もそれをネタに実里からいじめられるのです。いじめに遭う環境の悪さは文乃の義理母,つまり良太の母親で章子の祖母の存在もありました。

祖母は強烈に文乃のことを嫌っているようなんですね。息子である良太が亡くなってしまったのも文乃のせいにしている節があります。

章子は祖母から打ち明けられるのです。

「文乃は,文乃の父親と兄が寝ているところに放火した」と。祖母良太は駆け落ち同然で文乃と結婚したとも言うのです。

これ,本当なんだろうか。読みながら,文乃への不信感が出てきます。

章子はそれを信じたのかどうかはわかりませんが,あくまで母親の味方をします。

これが血のつながった親子の絆なのか。祖母とはもう会わないことにします。

このようなことを章子は全て日記として書いていたわけです。

読者としては「いつ未来の章子が登場するのか」と思いながら読むと思うんですけど,これがなかなか登場しないんですよね。

章子も「未来の章子」に対して不信感を持ち始めているようです。疑問を持つ章子不遇な環境で育った章子に,さらに悪いことが起きていくのです。

不遇な環境で生活する人々

文乃は働くことになりました。徐々に体調も回復してきているようです。

ここで早坂という男が登場します。彼は文乃が働くホテルで副料理長をしているシェフでした。シェフ章子は文乃とともにこの早坂と一緒に住むことになります。

そして早坂は独立し,フランス料理店をオープンさせました。

開店して順調に経営していたように思われたこの料理店,ある出来事が起こります。

章子の天敵である実里の家族が訪れたのでした。

実里の一家に失礼な態度をとってしまったのが早坂。それを機に,早坂と章子が一緒に住んでいることがバレてしまうのです。

実里はクラスメイトにバラし,章子に対してのさらなるいじめが始まってしまいます。

章子は周囲のクラスメイトから「臭い」と言われるんですね。執拗ないじめに耐えられなくなった章子は不登校になってしまいます。

いじめの原因って,好き嫌いだったり,嫉妬心だったり,たちが悪いですよね。

学校へも行けなくなった章子にさらなる苦悩が。。。

臭いと言われた章子はそれを信じ込み,必要以上に香水を付けてしまうのです。

早坂はレストランのお客への影響を考え,客の前で怒鳴ってしまいます。怒るシェフそれを見ていたのが,高級ホテル「いのや」社長でした。

「客の前で怒鳴り散らすとは何事だ!」

早坂の腕を評価していた社長は,ホテルのシェフとして引き抜こうとしていましたが,この一件で流れてしまったのです。

ショックを受けた早坂から,章子は虐待を受けるようになります。

「お前のせいだ」と言わんばかりに章子を責める早坂。

学校ではいじめられ,家では虐待され,絶望感いっぱいの章子。

いつまで耐えなければならないのか。自分で解決しなければならないのか。悩む章子ところが,虐待はある事件とともになくなります。早坂のレストランが火事になったのです。

事件を起こしたのはどうやらあの「林」だったようです。

これを機に早坂は,文乃や章子と離れることにします。

最悪の生活を送っていた章子でしたが,ある人物からの手紙を受け取った辺りから,状況が変わっていきます。

最初は「未来の章子」からの手紙かと思ってましたが,そうではありませんでした。

送り主は亜里沙だったのです。仲が悪いわけではなかった亜里沙は,どうやら章子のことを気にしていたようなんですね。亜里沙と章子これまで孤独だった章子でしたが,心強い味方が現れました。同じく不登校だった亜里沙は一緒に登校するようになります。ただし保健室登校。

しかし亜里沙はクラスメイト達を相手に章子をいじめたことを責めます。

勇気をもって行動しようとする亜里沙に導かれ,章子も少しずつ元の自分に戻ってきているようです。

と思っていたんですが,ここからまた不遇な出来事が彼女たちを襲います。

亜里沙の弟が自殺したのです。原因は何なのか。それは驚くべき事実でした。ショックの亜里沙弟は美少年でした。その美少年を好んでいたのが先に書いた,ホテル「いのや」社長の猪谷でした。

つまり売春です。そしてさらにショックな出来事が。。。

その仲介をしていたのが,亜里沙の父親だったのです。実はこの父親,かつて章子と住んでいた早坂ともつながっていました。売春斡旋ということは。。。そうなんです。章子の母文乃も売春斡旋されていたのでした。

この事実を知った亜里沙の憤りはすさまじかった。そして章子も。

彼女たちは誓うのです。亜里沙は父親を殺害すること。章子は早坂を殺害すること。

タバコのニコチンをコーヒーに混ぜ,家に火をつけるという計画を立てた二人。

放火殺人って,無期懲役くらいになりそうですけど,刑法第39条,つまり精神異常者による犯罪ということで無罪を狙っています。

いくら法律で護られるからといって,一歩間違えれば「天国か地獄か」の境地です。

そしてとうとう「未来の手紙の秘密」が明らかになるのです。

幸せな未来のために

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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実は亜里沙にも手紙が届いていました。「未来の亜里沙」からでした。

えっ? 未来からの手紙は章子だけじゃなかったの?

読み手とすれば,この辺りからこの手紙自体に違和感を感じるようになりました。

ドリームマウンテン30周年の栞付きの手紙。亜里沙は弟の健斗を励まそうとドリームマンテンへ連れていくつもりでした。

しかし健斗の思ってもない自殺。。。手紙には20年後も亜里沙と健斗は仲良くしていると書かれていましたから,ここで「偽物」であることが強くなります。

篠宮真唯子という,かつての章子や亜里沙の担任だった女性が登場します。担任彼女は章子と亜里沙の将来のことを心配していました。

小学校の教員をしたことがないからわかりませんが,おそらく各家庭の事情というのもある程度は把握していたのでしょう。

ところが篠宮には意外な過去がありました。実は彼女,AVに出演していたことがあったのです。

もちろん教師になる前のことですし,そもそも犯罪を犯しているわけでもない。

ここで登場するのはまたしてもあの実里です。というかその母親ですが。

どうやって見つけたのか,実里の母親は「教師としてどうなのか」と責め立てるのです。言い合い「犯罪ではない」と真っ向から対立する篠宮ですが,教え子がそれを知ったら,と考えれば篠宮にとっては分が悪いわけですね。

篠宮は原田という男性と付き合ってました。それまでも関係がギクシャクしていましたし,

さらにAV出演のことを黙っていたため原田は問い詰めます。

原田はかなり誠実な男性で,心の底から篠宮のことを想っているようです。

教師として,気になっていたのが章子と亜里沙でした。不遇な環境で育っている彼女たちのために何かをしてやれないのか。

ある日,篠宮は病床にあった章子の父良太の元を訪ねます。そこで提案されるのです。章子の父章子のために,未来からの手紙を書いてほしい」と。

良太は愛する娘には,幸せな未来が待っているということを伝える手紙を元担任の篠宮に託したのでした。

なるほど,これがあの未来からの手紙であり,やはり書いていたのは「未来の章子」ではなかったんですね。

篠宮と親しい原田は,ドリームワールドに就職していました。

ここでドリームランドの30周年記念の栞を作るつもりが,「ドリームマウンテン30周年記念の栞を作ってしまったのです。

篠宮はこれを利用しようと考えます。「未来の章子」の信憑性を持たせるために。

章子は父親の遺品を整理している際に,一枚の「フロッピーディスク」を見つけます。フロッピーディスクそこに書かれていたことは衝撃的な事実でした。

ここで良太の話へ移ります。良太の高校時代の話です。

良太のことを敵視してくるクラスメイトがいました。それが森本誠一郎です。

明らかに仲が悪いのですが,良太は森本に授業のノートを見せたり,勉強を教えたりします。行動を共にするようになるのです。

そこで出会ったのが森本の妹である真珠です。良太は真珠に勉強を教えたり,マドレーヌの作り方を教えてあげたりします。

しかし良太は衝撃の事実を知ってしまうのです。真珠は森本の父親に犯されていたのです。
誠一郎もそれには気づいていたようです。父に虐待されるそんな誠一郎はある提案をします。父親を殺害すると。手伝ってほしいと頼まれる良太。
真珠のことも考え,良太は苦渋の決断をします。

誠一郎は父親を毒殺し,その後,誠一郎と真珠がドリームランドへ行っている間,良太が父親のいる家に火を放つというシナリオです。

計画どおりに進み,とうとう良太は放火します。

ところがそこに真珠が現れます。ドリームランドへ行っているはずの真珠が。

良太が放火したのを見ていた真珠。良太を非難し,良太を逃がします。

翌日詳細が明らかになりました。実は放火された家にいたのは父親だけでなく,誠一郎もいたのです。火事誠一郎の計画はフェイクでした。彼は毒殺せず,自分の手で父親を殺害したのです。

「真珠に性的虐待をしていた父親と兄の家に火を放った一人の少女」

報道は一斉に「真珠が犯罪者である」と報じます。

その事実に衝撃を受けた良太。良太は気づくのです。

「自分を助けるために,真珠はひどい言葉を浴びせた」と。

そして5年後。出所した真珠は名前を変え,良太と結ばれることになるのです。良太と文乃なるほど,この真珠が文乃というわけなんですね。

これで冒頭の章子の祖母の話とつながるのです。

幸せな未来を望んでいたのは良太と文乃も同じだったんですね。

世の中には本当に不遇な環境で育った人々がたくさんいるのではないかと思います。
今の自分は何不自由なく生きています。

もちろん仕事や人間関係など,確かに大変なことはたくさんあります。

でも,命ある限り,誰かにすがってでも生きるべきなのではないだろうか。

死ぬほど苦しい時って「楽になりたい」って思うことがあると思います。実際僕自身も苦しい時,そう考えたことがあります。訴えるでも声を上げて,助けを求めてもいいのではないでしょうか。

湊かなえ先生もあとがきで書かれています。

知るという行為が救済や抑止力につながることがある

不遇な環境で育っている人々がいるということ。声を上げたくても上げれない人もたくさんいる。

そのことを知ってほしい。そうすれば誰かを救えるかもしれない。

そして誰かに気づいてもらえるように,声を大にして叫んでほしい。

そうすれば「違った未来」が待っているかもしれない。仲良くそんな思いが伝わる作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● 世の中には不遇な環境で生きている人々がたくさんいること

● 幸せな未来を誰もが望んでいること

● 時には誰かのために,自分を犠牲にする人がいるということ

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