Cafe de 小説
人間性を学ぶ

【木曜日にはココアを】青山美智子|12の短編の奇跡の繋がり

青山美智子先生の作品を初めて読んだのは「お探し物は図書館まで」でした。

街の小さな図書館の司書が主人公が,図書館を利用する人々へ本やアイテムを渡し,その人の人生を左右させるというもの。

今回の「木曜日にはココアを」は12の短編で構成されており,その短編がシンプルにまとめられていますし,それぞれの短編がしっかりと繋がっています。

読むにつれて「あぁ,この人はあの短編のあの人か」と,まるで長編を読んでいる感覚にもなりました。

12編もの作品の構成が非常によく練られていて,読了後はその面白さ,奥深さに圧倒されたのを覚えています。

とにかく面白い。必読の一書です。

目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
 3.1 12編の短編概要
 3.2 各短編の結末とは
 3.3 本作品の面白さ
4. この作品で学べたこと

こんな方にオススメ

● ほのぼのとする短編小説を読んでみたい

● 12の短編がどのように繋がるのかを知りたい

作品概要

わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている――。川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる……。わたしたちが起こしたなにげない出来事が繋がっていき、最後はひとりの命を救う。小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる12編の連作短編集
-Booksデータベースより-


主な登場人物

ワタル・・・「マーブル・カフェ」の店長

オーナー・・・ワタルに「マーブル・カフェ」をまかせる

ココアさん・・「マーブル・カフェ」の常連。ワタルが恋する

※他の登場人物は,各短編にて記述します

本作品 3つのポイント

1⃣ 12編の短編概要

2⃣ 各短編の結末とは

3⃣ 本作品の面白さとは

12編の短編概要

1 木曜日にはココアを

マーブル・カフェの店長であるワタルは,カフェの常連で,いつも「ココア」を注文する女性に恋をしていました。ワタルは個人的に「ココアさん」と呼んでいます。

そんなココアさんの様子を見るのがワタルの週一度の楽しみでした。

ある日,ココアさんが涙を流しているのを見かけ,気になるワタル。一体何があったのでしょう。

カフェ

2 きまじめな卵焼き

朝美という一児の母親が主人公。いつもは主夫の輝也がお弁当作って,拓海の幼稚園への送り迎えもやっていました。ところが絵描きで出展することになった輝也が留守になるのです。

マーブル・カフェにいた朝美は「明日,はじめて拓海のお弁当を作らないといけない」というプレッシャーを抱えていました。

お弁当

3 のびゆくわれら
主人公は,保育園のえな先生という女性。ある日,誤ってネイルを付けたまま出勤してしまいます。萌香ちゃんという子が「爪がキレイ」と親に話したことがきっかけで,保護者からクレーム,上司の泰子先生からも厳しく指摘されます。

いろいろなことが重なり「もう幼稚園辞めてしまおうか」と考えてしまいます。

彼女はどのような選択をするのでしょうか。

保育園

4 聖者の直進

第3話の泰子が主人公。友人の理沙が不倫関係にある男性との悩み相談に付き合う。

泰子の一般的な意見に対し,理沙にしかわからない気持ちの間でギクシャクしてしまう。

ある日,理沙の不倫相手の離婚が決まり,理沙は正式にその男性との結婚に踏み切る。泰子は祝うことができるのか。

相談

5 めぐりあい

第4話の理沙が主人公。理沙と新しい夫のひろゆきはシドニーに来ていました。動物園に来ていた二人ですが,理沙はひろゆきとはぐれてしまいます。

そこで会ったのが老夫婦。彼らは自分の娘からシドニー旅行をプレゼントされたようです。そんな老夫婦と理沙夫妻の話です。

シドニー

6 半世紀のロマンス

第5話の老夫婦が主人公。理沙に「50年も一緒にいるなんて,赤い糸で結ばれているんですね」と言われたことを思い出していました。

新婚旅行も熱海に一泊。なかなか旅行にも行けない中,金婚式の時に娘からシドニー旅行をプレゼントされて感慨にふけっている様子。

ふと,昔のことを思い出すのでした。

老夫婦

7 カウントダウン

オーストラリアに「緑を描きに」きていた「優」という女性が主人公。

彼女は植物を描きにきたのではなく,単に「緑を描きに」きた。

彼女の言う緑とはどんなものなのか。

緑

8 ラルフさんの一番良き日

サンドウィッチ屋のラルフが主人公。彼は毎日オレンジ色のエプロンを付け,仕込みを行います。

そんな彼も40歳。でも奥さんはいないようです。

しかしそんな彼に奇跡が起こるのです。

ラルフ

9 帰ってきた魔女

第8話に登場するシンディが主人公。

彼女は「魔女になりたい」と思っていました。そのきっかけは,小学校の時に出会ったグレイス先生でした。

彼女が「ちちんぷいぷい」と言えば,泣いていた子が泣き止んだりしたのを見て「魔法だ」と思ったからです。

外人先生

10 あなたに出会わなければ

翻訳家のアツコが主人公。彼女は出版社に勤務し,西洋の絵本を翻訳する仕事をしていました。

国際交流である女性と手紙をやりとりしたのがきっかけでした。

その女性とは一体誰のことなんでしょう?

出版社

11 トリコロールの約束

マコと文通をしているメアリーが主人公。

マコはかつてシドニーにいた時期があり,メアリーはマコから日本の有名な花を知ります。

それは「サクラ」でした。オーストラリアにいるメアリーと日本にいるマコとの話です。

桜の花

12 恋文
第11話のマコが主人公。

「いつもの席で,今日はあなたに手紙を書いています」

マコがメアリーに手紙を書いているのかと思ってましたが,どうやら違うようです。

この章こそが本作品の醍醐味です。

手紙

各章の結末とは

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

👈クリックするとネタバレ表示

1 木曜日にはココアを

毎週カフェにやってくる「ココアさん」はエアメールを読んでいました。

しかしある日,彼女がいつも座っている席は空いていません。しょうがなく別の席に座った「ココアさん」が彼女が涙を流しているのを見てしまい,とても気になるワタル。

そんな時,ちょうどいつもの席が空き,ワタルは彼女に声を掛けます。

「空きました。いつもの場所です。好きなところにいるだけで,元気になることもあると思います」

ワタルが出したココアがこぼれてワタルが拭こうとしたとき,ココアさんが止めます。

「見て,ココアのハート!」

手紙の相手はメアリーという名前のようです。その名前を見て「男性への恋文ではない」と安心するワタルでした。

カフェ店員

2 きまじめな卵焼き

「マーブル・カフェ」で読んでいた「おいしそうに見せる基本の5色」という本を読んで,拓海のお弁当をどうするか研究する朝美。

赤・緑・茶・黒・黄。黄色は「卵焼き」しかない。作ったこともない卵焼きに奮闘します。しかし,何度やってもうまくいかない。これまで母親らしいことをしてこなかった後悔が出てきます。

電話口で夫の輝也がアドバイスします。「フライパンは何を使ってる?」

輝也が使っていたのは四角い形をしたフライパンでした。アドバイスどおりに作って,ようやく「卵焼き」完成した朝美に輝也は言います。

「がんばったね。素敵なお母さんじゃないか。ちっともダメじゃないよ。そういう真面目で純粋なところ好きだよ」

これから少しずつ家事をがんばる決意をする朝美でした。

料理作る人

3 のびゆくわれら

萌香ちゃんが親の転勤で幼稚園を去ることになりました。萌香ちゃんのお母さんが言います。

「えな先生の爪はきれいなピンクなんだよって嬉しそうに話してました。萌香もあんなきれいな爪になりたいって,爪を噛まなくなりました」

感謝されるえな先生。さらに泰子先生も「えな先生の爪はキレイだよね。たくさん笑って,何でも食べて,何でも楽しくがんばっていると,えな先生みたいなキレイな爪になるよ」とも言っていたようです。

今の仕事にやりがいを感じるようになったえな先生は,幼稚園を続けることを決意したようでした。

ネイル

4 聖者の直進

理沙の結婚が決まり,披露宴の招待状を受ける泰子。やはり複雑な気持ちは隠せない様子でした。

泰子がこれまで付き合ってきた男性は「お前の正論を押し付けられるのはイヤだ」と言われてきたが,そんな泰子に理沙だけはずっと一緒にいてくれた。

マーブル・カフェでお茶していた二人。理沙を祝ってあげたい泰子は急に言うのです。

「15分,いや10分でいいからここで待ってて」

何か青系のものを探しにいきます。そして購入したのが「ブルーのショーツ」でした。

「お母さんになりたい」と言う理沙へのささやかなプレゼントに感動する理沙でした。

プレゼント

5 めぐりあい

老夫婦といろいろな話をする理沙。仲のいい老夫婦を見ると,自分の夫がバツイチであることに負い目を感じているようでした。

老夫婦は,自分たちの娘のことを「ピー」と呼んでいて,日本でランジェリーショップを経営しているようです。ん? 第4話で登場した店?

老夫婦は結婚50周年。羨ましく思う理沙でしたが,二人の意外な言葉を聞きます。

「50年ずっと仲良くいたわけじゃないのよ。いろいろあって,いつの間にか50年経ったという感じ」

どうだろうと二人はだんだん似てくる,と。「赤い糸」というのは,ただの一本の運命の糸のことではなく,長い時間をかけてお互いの体の中をかけめぐる,本当の「血」なのではないかと。

理沙はそんなことを思いながら,ひろゆきとずっと一緒にいたいと思うのでした。

赤い糸

6 半世紀のロマンス

老夫婦は進一郎と美佐子という名前です。美佐子にはかつて陽介という好きな男性がいました。しかし美佐子の勤務していた会社の社長が陽介を気に入り,自分の娘と結婚させてしまったのです。

そんな時に美佐子の前に現れた進一郎。「結婚してください」と言われるも美佐子は断ります。

「僕は恰好よくなります。ロマンスグレーの似合う男になりますから」

必死で美佐子にアピールする進一郎。ようやく美佐子と結婚することになります。

社長が亡くなった跡を継がせられたのは陽介ではなく進一郎でした。妻と別れ,博打に走り,荒れた陽介を助けたのは進一郎でした。美佐子は思うのです。

「進一郎さん,あなた嘘つかなかったわね」

ロマンスグレーが本当に似合うと思うのでした。

ロマンスグレー

7 カウントダウン

「緑を描きに」きた優は,シドニーで出会った老夫婦からも「植物を描きにきたの?」と問われますが,断固として「緑を」と強調します。緑の絵具を使わず,青と黄色を混ぜ合わせ,いろいろな緑を表現します。

きっかけはかつてあるギャラリーに入った時のことでした。多くの植物がいろいろな緑で表現されているのを見て衝撃を受けます。

「それね,シドニーにある植物園だよ」とギャラリーのオーナーに言われます。

その時,名刺を渡されます。そこには「MASTER」と書かれていました。

ひょっとして,カフェのあの「マスター」?

幼い頃から緑に執着し,変わった子だと母親からも突き放され,精神鑑定を受けなさいとまで言われた優。

「君の緑に救われる人がいるよ。だから書き続けて」名刺の男性は優の額にキスをするのでした。

生まれて初めて自分を認めてもらい,愛されるという気持ちを感じた優。

新しい年を祝う「カウントダウン」の前のひと時でした。

緑の絵

8 ラルフさんの一番良き日

オレンジ色はラルフさんやサンドウィッチ屋の「トレードカラー」でした。

ラルフさんにはかつて好きだった人がいました。シンディと言いました。彼女が「好きな色は何?」と聞いてきた時,ラルフは何となく「オレンジ色」と答えていました。

「楽しい色だから。赤ほど主張もしないし,黄色ほど奇抜じゃないから」というのが理由でした。

しかし,シンディは引っ越すためにバスに乗って行ってしまったのです。

ただシンディのお陰でサンドウィッチ屋は繁盛している様子。そんな時,ひとりの女性がやってきたのです。「見つけたわ」

シンディが突然現れ,ラルフは驚きます。そんなラルフはシンディに好きな色を聞きます。

彼女は「ターコイズブルー」が好きだと言います。

そんな二人を夕陽が祝福しているようでした。

ラルフ

9 帰ってきた魔女

シンディはグレイス先生に聞きます。「先生は魔女なんですか?」するとグレイス先生は「シーッ,内緒よ」と言うのです。すっかり魔女だと信じ切ってしまったようです。

グレイス先生の影響でシンディは植物に夢中になります。止血をしたりする葉っぱなど「植物図鑑」をむさぼるように読み,植物園にも行くようになりました。

グレイス先生の耳には「ターコイズ」のピアスが付いていました。シンディがターコイズブルーが好きになったのもこれが理由です。

シンディは交換留学生できた日本人である「マコ」と仲良くなります。そして「ちちんぷいぷい」は日本人なら誰でも知っていることを知るのです。日本人はみんな魔法使いだと。

彼女はイギリスに渡り,グレイス先生の元で指導を仰ぎます。そして戻ってきてラルフさんと幸せに暮らすのでした。

植物園

10 あなたに出会わなければ

アツコが手紙をやりとりしていたのは第9話に登場するグレイスでした。

「私はお花と話せます」というグレイス。グレイスは植物が大好きなようです。後に彼女はアロマセラピーを学ぶためにイギリスへ渡ります。

一方,アツコはグレイスの影響で翻訳家になりたいと思っていて,大学卒業後,小さな翻訳会社で勤務します。

グレイスは「あなたなら立派な翻訳家になれるよ」と励ましてくれますが,アツコには現実感がありません。適当なこと言って。

「あなたに出会わなければ。。。」

そんな彼女はマークという男性と結婚することになります。式に出席したのはアツコの両親,グレイス,そして幼馴染のピーちゃん。

えっ? ピーちゃんって,あの「老夫婦」の娘の? 彼女はランジェリーショップを経営している女性。

マークには友人がいました。彼は日本ではマスターって呼ばれています。マスターに出版社を紹介され,何とアツコの翻訳した作品が出版されるのです。

不遇の時代を抜けた瞬間でした。

翻訳家

11 トリコロールの約束

マコは10年前に交換留学生としてメアリーのいるシドニーに滞在したことがありました。メアリーは元々身体が弱かったが,マコに連れ出されていろいろなところに連れ出してくれました。

たった一年でしたが,メアリーにとってマコはなくてはならない存在となっていました。メアリーは,マコが帰ってからもずっと文通を続けていたのです。

ところがメアリーに異変が起こります。持病の心臓疾患が悪化してきたのです。

もうここで亡くなってもいいと思っているメアリーに,マコが言います。

「あなた,私との約束忘れてしまったの?」と。そして

「好きな場所にいるだけで元気になることがある。ある人がそう教えてくれました」

ん? これって,ひょっとして。。。

メアリーは約束を思い出します。それはマコと一緒に「日本でサクラを見ること」でした。

メアリーの手術は成功します。そして今度はシドニーで会う約束をするのでした。

桜の花

12 恋文

「あなたがさっき運んでくれたココアを飲みながら,想いを伝えようと思います」

えっ? まさか,まさか。。。

カフェの店員がある男の子に「ココア」を持ってきました。「ホットココアでございます。お熱いのでお気をつけください」

子供に対しても謙虚に接する姿にマコは感心します。彼女はその店員のことを「ココアさん」と呼んでいました。文通相手の友人のことで悲しんでいた時にも

「好きな場所にいるだけで元気になることがあります」

と言って席を案内してくれたのも「ココアさん」でした。そう,彼女はワタルのことが好きになっていたのです。

ワタルもマコを「ココアさん」と呼んでいたし,逆にマコもワタルのことを「ココアさん」って呼んでいたなんて。

「だからエプロンを外して私と会ってくれませんか」そんな手紙を書いていたのです。そして,

「お熱いので,お気をつけください」と締めくくるのでした。

カフェ店員と客

各章の考察と作者の構成力

最初,本作品を手に取った時,「12個も短編があるのかぁ」って読むのを躊躇った時もあったんです。でも読み始めたらあれよあれよと一気読みでした。

マーブル・カフェの新米店長のワタルが,一人の客に恋心を寄せるところから始まり,そこから各短編がどんどん繋がっていきます。

その繋がりを辿る面白さはかつて味わったことのないものでした。

本作品なら,本を読むのが苦手な方,長編を読むのが苦手な方にはとても読みやすいのではないかと思います。

それにしても,最初にこの作品を描こうと思った青山先生の構成力には脱帽です。

友人であったり,会社の同僚だったり,海外の知り合いだったり。

おそらく最初はこれらの登場人物の全体像を考え,そして各短編の主人公を誰にするか,他の短編とどのように繋がりを持たせるか,その作業だけでもかなりの時間を要したのではないかと思いました。

短い短編の中につながりを持たせ,シンプルでありながら深みのある,そしてダイナミックな青山先生の構成力に圧倒されました。

冒頭でも書きましたが,まずはとにかく一読してほしいです。

読めば,感動すること間違いありません。

この作品で考えさせられたこと

● 短いページ数に凝縮された作家の構成力のすごさ

● 各短編がつながりを持ち,そして最後には感動しました

こちらの記事もおすすめ