夜空を見上げ、ふと月の姿に心を奪われたことはありませんか?
満月の日もあれば、細い三日月、そして見えない新月の夜もありますよね。形を変えながらも、常にそこに存在する月は、まるで私たちの人生のようだと感じることがあります。
もっと言えば、その人生を人は繰り返しているのかもしれません。喜びや輝きに満ちた満月のような時期もあれば、悩みや停滞を感じる新月のような時期も訪れるものです。
「月の満ち欠け」が持つ深い意味と、それが私たちの心や日々にどう影響するのかを考えていければと思っています。
本作品は2017年の、佐藤正午先生の「直木賞受賞作」です。後に映画化され、大泉洋さん、柴咲コウさん、目黒蓮さん、有村架純さんなどの豪華キャストです。
自分の人生、そして前世はあるのかについて深く考えさせられる作品です。
是非、読んでみてください!!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 妻と娘に関わる男性の出現
3.2 生まれ変わりが紡ぐ新たな愛
3.3 亡くなった者の「想い」
4. この作品で学べたこと
● 自分に前世があるのかを考えてみたい
● 前世の秘密を知ることは幸せなのか、そうでないのかを考えてみたい
●「月の満ち欠け」の意味を知りたい
第157回直木賞受賞、佐藤正午が20年ぶりに書き下ろした新たな代表作。あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか?三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ!さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。
Booksデータベースより-
小山内堅・・・主人公。妻と娘を交通事故で亡くしてしまう
小山内梢・・・小山内の妻。事故でなくなるが、生前に秘密がある
小山内瑠璃・・小山内の娘。本作品のポイントとなる女性
正木竜之介・・過去に、瑠璃とつながりがあった男性
緑坂ゆい・・・正木の妻
1⃣ 妻と娘に関わる男性の出現
2⃣ 生まれ変わりが紡ぐ新たな愛
3⃣ 亡くなった者の「想い」
冒頭で、主人公である小山内堅が、愛する妻の梢と大切な娘の瑠璃を不慮の事故で同時に失うという、計り知れない悲劇に直面します。
この喪失こそが、堅のその後の人生、そして物語全体の重要な出発点となります。
小山内が一人で静かに過ごしているある日、彼の元に見知らぬ男から電話がかかってきます。それが正木竜之介でした。正木は、小山内の亡くなった娘である瑠璃が遺した「ある品物について話がある」と告げるのです。
瑠璃がなぜその品物を正木に託していたのか、あるいは正木がなぜ今になって小山内に連絡をしてきたのか、その理由は当初、小山内には全く理解できませんでした。
この最初の電話での会話は、小山内にとって困惑と同時に、亡き娘の生前の様子、そして彼女が関わっていたであろう新たな人間関係の存在を知らせるきっかけとなります。複雑な思いにふける小山内。
娘の死後、悲しみの中で全てが止まってしまったかのように感じていた小山内に、正木からの連絡は、まるで娘が生きた証の「断片」を差し出されたような感覚を与えたはずです。
そして、電話でのやり取りを経て、二人は実際に会うことになります。彼らが初めて顔を合わせる場所や状況は、物語において具体的な描写がなされますが、その出会いは決して和やかなものではありません。
小山内は娘の死の真相を知りたいという切実な思いがあります。しかし、見知らぬ男が娘の私物に触れていることへの複雑な感情を抱えています。
一方の正木も、過去の出来事や瑠璃との関係について、どこか秘密めいた雰囲気を持っており、言葉を選びながら話を進めるのです。
小山内瑠璃は、学生時代に正木竜之介と出会い、彼に強く惹かれます。
瑠璃にとって正木は、初めて深く心を奪われた相手であり、純粋で一途な恋心を抱いていました。彼女は、正木の個性的な魅力や、どこか影のある雰囲気に惹かれていたようなんですね。
瑠璃は正木に積極的に関わろうとし、彼のために何かをしたいという強い思いを抱いているようでもありました。
ところが、この恋は実を結ばないのです。正木は瑠璃の気持ちに気づきつつも、瑠璃に対して応えることはありませんでした。
それが何なのかは本作品を読むとぼかして表現されていますが、確実に言えるのは、瑠璃の想いは正木に届いているのだけど、理想的な形にはならなかったということです。
瑠璃は、正木に宛てた手紙を残したり、彼への想いを秘めたまま、彼の幸せを願うかのように彼の人生から距離を置いていきます。彼女のこの行動は、単なる諦めではなく、正木に対する深い理解と愛情の表れとして描かれているようでした。
彼女の正木への想いは、何か特別な想い、引力のようなものだったように思います。
そして、交通事故で瑠璃が亡くなった後も、彼女が正木に残した「何か」が、小山内堅が正木と接触するきっかけとなり、物語の重要な伏線となっていくのです。この瑠璃の「初恋」が、後の魂の繋がりへと発展していきます。
結局、正木竜之介は、その後、緑坂ゆいという女性と出会い、結婚するのです。
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正木と緑川ゆいとの出会い。この出会いには、物語最大の秘密が隠されていました。実は、緑坂ゆいは、正木と出会う前の人生において、小山内瑠璃と何か関係があるのではないかと匂わしているのです。
それは、ゆいが、瑠璃の生まれ変わりではないかということです。
瑠璃が生前正木に抱いていた、純粋で一途な恋心や感情を、意識することなく引き継いでいました。だからこそ、彼女は正木に初めて会った時から強く惹かれ、彼に惹かれることに何の躊躇もなかったのではないかと思うのです。
ゆいが正木に抱く愛情は、まさに瑠璃がかつて彼に抱いた想いの残像であり、魂の記憶が形を変えて現れたもののように思います。
そして二人の結婚は、正木にとっては新たな出会いでありながら、実は瑠璃の魂にとっては「叶わなかった恋の成就」だったのではないかと思わせられるのです。
しかし、この幸せも長くは続きませんでした。緑坂ゆいもまた、若くして命を落とします。彼女の死は、正木にとって二度目の深い喪失であり、彼の人生に大きな影を落とします。
しかし、彼女の死こそが、魂の輪廻が途切れていないことを示唆する、次の段階への布石となっていくのでした。それが瑠璃が正木に遺したものの存在です。
それは「カセットテープ」です。
このカセットテープは、単なる録音物ではなく、瑠璃が正木に対して抱いていた深い感情や、彼女の生きた証、そして未来へのメッセージが込められた、彼女の「魂の分身」とも言えるものなのです。
カセットテープの中には、瑠璃が録音したと思われる歌声や、彼女のモノローグが収められていました。これは、瑠璃が正木に直接伝えられなかった想いや、彼への特別な感情を、形に残そうとした試みでした。
彼女にとって正木は、その存在自体が特別な意味を持つ人であり、言葉で表現しきれない愛情や、もしかしたら「来世」のような遠い未来への願いを託したのかもしれません。
このカセットテープの存在が、娘の死後、悲しみの中で途方に暮れていた小山内堅が、冒頭で正木竜之介と接触する決定的なきっかけとなりました。
正木がこのテープを所有していたことから、小山内は娘の生前の、自分の知らない側面や、彼女が正木とどのような関係にあったのかを知ろうとします。
カセットテープは、時を超えて故人の想いを伝える媒体として機能し、物語における「魂の繋がり」や「生まれ変わり」のテーマを象徴する、非常に象徴的なアイテムです。
それは、瑠璃がこの世に残した、正木への、そしてある意味では小山内への、最後の贈り物だったのではないでしょうか。
小説「月の満ち欠け」全体を通して一貫して描かれるのは、愛する者を失った深い悲しみと、それでもその魂との再会を強く願い続ける人々の切ないまでの想いです。そしてそれは長い年月をかけ、繰り返しながら受け継がれているのではないか。
月は、新月にはじまり、三日月、満月というサイクルを繰り返します。その受け継がれていくサイクルを「月の満ち欠け」と表現していたのではないか。
物語は、単なるファンタジーとして生まれ変わりを描くのではなく、複数の登場人物の証言、偶然とは言い切れない出来事、そして何よりも愛する者への深い想いを通して、魂が輪廻転生を繰り返しているという考え方を、物語の根幹として肯定的に描いています。
この小説は、死によって愛する人との関係が完全に途絶えるわけではないという、ある種の希望的なメッセージが込められているような気がします。魂は形を変えますが、時代を超えて巡り続けることで、愛する者との「再会」が、直接的な形ではなくとも、新たな形で実現する可能性があることを描いています。
これは、残された者が抱く深い悲しみや喪失感に対し、一筋の光と慰めを与えるものであり、読後に静かな感動と温かい余韻を残しているように思いました。
単なるSFやファンタジーの枠を超え、人間の深い愛情と、生と死、そして魂の永遠性について深く考えさせるものでした。
● 人の魂は、誰かに永遠と受け継がれているのではないか
● もし自分に前世があるのなら、それを知りたいと思いました
● 「月の満ち欠け」の意味を知ることができた