僕が柚月裕子さんを知ったキッカケは「検事の本懐」を知人から譲ってもらって読んだことでした。
裁判所が舞台の作品は最後の最後にどんでん返しが来ることが多いので,個人的には好きです。
同じ法廷ミステリーでは,中山七里さんの「御子柴礼司シリーズ」も好きですね。
「最後の証人」を描いた後「検事の本懐」を描いているので,時系列的には弁護士から検事に遡っているということです。
本作品の結末の「最後の証人」に誰が登場してくるのかがとても楽しみな作品です。
きっと唸ってしまうこと間違いなしです。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 警察の隠蔽?
3.2 復讐リハーサル
3.3 最後の証人とは誰なのか
4. この作品で学べたこと
● 法廷ミステリーを読んでみたい
● 主人公である佐方という弁護士のことを知りたい
● 本作品の「最後の証人」とは誰なのかを知りたい
検事を辞して弁護士に転身した佐方貞人のもとに殺人事件の弁護依頼が舞い込む。ホテルの密室で男女の痴情のもつれが引き起こした刺殺事件。現場の状況証拠などから被告人は有罪が濃厚とされていた。それにもかかわらず、佐方は弁護を引き受けた。「面白くなりそう」だから。佐方は法廷で若手敏腕検事・真生と対峙しながら事件の裏に隠された真相を手繰り寄せていく。やがて7年前に起きたある交通事故との関連が明らかになり……。
-Booksデータベースより-
佐方貞人・・・正義感の塊のような弁護士。かつては検事だった
庄司真生・・・米崎地方検察庁公判検事。佐方と法廷で対決
高瀬光治・・・診療所の内科医。今回の被害者
浜田美津子・・光治の元妻。今回の被害者
島津邦明・・・島津ホールディングス社長。今回の被疑者
話は,高瀬光治と美津子の息子である卓が,交通事故に遭い,その葬儀が行われるところから始まります。
当時卓と一緒にいた直樹という少年は,「車が赤信号なのに,横断歩道に突っ込んできた」と話しており,その真相を高瀬夫妻は明らかにしたいと考えていました。
1⃣ 警察の隠蔽?
2⃣ 復讐リハーサル
3⃣ 最後の証人とは誰なのか
卓の友達である直樹は「運転手は飲酒運転をしていて,信号無視した」と訴えます。
車から降りてきた運転手は酒臭かったのです。
しかし,この運転手は島津という公安委員長でした。
直樹の証言に信ぴょう性がないということで,あっという間に訴えは退けられます。
ん~,いわゆる政治的な力が働いての警察の隠蔽といったところでしょうか。息子を亡くした高瀬夫妻も息子のために動き回りますが,結局訴えは通じません。
弁護士を探したり,ビラを配ったり,できることはなんでもしようとしますが,誰も相手にしてくれません。
まるで,相手が悪かったと言わんばかりです。こういうこと,現実にありそうですよね。
高瀬夫妻は絶望感でいっぱいだったでしょう。
それから七年の時を経て,高瀬夫妻は再び島津と接することになるのです。
卓が亡くなってから七年後,美津子は癌に侵されます。
死を覚悟した美津子はこのままでは死ねないと,自分の息子を轢いた島津を調査します。
島津が陶芸教室を開いていることを聞きつけ,美津子は入会して島津に近づくんですね。
彼らはここで復讐を計画します。ナイフで島津を刺すという計画。
光治は医者ですから,ナイフで体のどの部分を刺せば一発で殺害できるかを知っていました。
何度も殺害の練習をするんです。まるで「復讐のリハーサル」です。
そして美津子は島津とホテルで食事することになるのです。
部屋に戻った美津子は食事の時のテーブルのナイフを持っていて,島津を殺害しようとします。しかし,もみ合った挙句彼女は自らを刺してしまい,亡くなってしまうのです。
タクシーで逃げた島津は殺人の容疑で逮捕されるのです。
これが彼女たちの復讐でした。
窮地に追い込まれた島津は,ここで佐方に弁護を依頼することになるのです。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
佐方は島津の弁護を引き受けました。でも状況としては圧倒的に島津の方が不利ですよね。
ホテルに男女がいるということで,おそらく痴情のもつれの末の犯行ということになるわけですから。
それでも,島津は身の潔白を訴えます。佐方はその島津の訴え方で「本当に殺害してないのでは?」と考えるのです。
情状酌量ではなく,完全に無罪を主張しにいくということを考えます。
裁判での相手は,佐方が検事時代の上司だった筒井の部下である庄司という女性検事です。
つまり,庄司の部下,元同僚同士の対決です。ここが本当に面白いところです。
圧倒的に不利な展開に「これは佐方が負けるのでは?」という流れになります。
しかしタイトルは「最後の証人」ですから,何かあるはず!
そして証人が登場します。一体誰なのか?
その人物は,公安委員長の事故の隠蔽に関わった人物でした。
この証人が裁判で証言してくれるために,佐方は何度も何度も頭を下げたのです。
それは,丸山という警察官だっただからです。
自分が真実を話すことで警察の信用が失墜してしまうわけですから。
でも丸山? ここまで一回も出てきてないぞ? 実は佐方は裏で動いてたんですね。
では,なぜ今になって丸山は証人になる決断をしたのか。
「あなたは七年前の事故でも過ちを犯し,さらに証言台にも立たずに逃げるのですか?」
佐方は丸山にそんなことを言っているように思いました。
丸山はずっと苦しんでいたようでした。
過去の事故を捻じ曲げ,それが結局復讐事件を生んでしまったことに。
大事なことは真実を明らかにすることであって,裁判に勝つか負けるかということは二の次であるという佐方の信念と執念が通じたのだろうと思いました。
この「最後の証人」が七年前に真実を話していれば今回の復讐は起こらなかったわけです。
そもそも当時の公安委員長だった島津が正直に罪を認めればよかったのです。
それをしなかったために,死ななくてもよかった人間が亡くなってしまったのです。
きっとこの後,七年前の事故の再審が行われたのだとも思います。
佐方は島津を弁護しつつも,島津のしたことに対して厳しく指導している。
この佐方の正義感,真実を見極める力はすごいと思ったし,本当に尊敬できる人物の一人です。
● 真実を話していれば,復讐事件は起こらなかった
● 隠蔽に関わった人間は,結局は罪の意識を抱えたまま生きてしまう
● 佐方弁護士の一番すごいところは,必ず真実を明らかにするという信念と執念
次は「検事の本懐」について書かないといけないなと,このブログを書いて思いました。
検事時代の佐方にもう一度会ってみたくなるような作品です。
是非,ご一読を!!