「加賀恭一郎シリーズ第8弾」
本作品から日本橋が舞台となっています。次作の「麒麟の翼」などと共に,人形町や小伝馬町,水天宮などの地名が登場し,品格が漂う作品になっています。
話は,日本橋で一人の女性が何者かに殺害されているところから始まります。
本作品の面白いところは,第1章から第9章まで話が分かれています。
加賀が誰に聞き込みをし,何を怪しんでいるのかわかるのが面白く,最終的には犯人に行きつきます。
関係ないようで,実はあのシーンは意味があったんだなと余韻が後でやってくる作品でもあります。
裏表紙の概要の「事件で傷ついた人がいるなら,救い出すのも私の仕事です」というのはどういうことなのか。
かなり興味を持ちながら読んだ作品です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 各章の概要
3.2 各章の結末と真犯人
3.3 加賀恭一郎の捜査能力
4. この作品で学べたこと
● 日本橋を舞台にした事件を知りたい
● 日本橋署に異動した加賀恭一郎の活躍を見てみたい
● 九つの短編が,最終的には犯人に行きつく話を読んでみたい
刑事・加賀恭一郎、日本橋へ。
日本橋の片隅で一人の女性が絞殺された。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎の前に立ちはだかるのは、人情という名の謎。手掛かりをくれるのは江戸情緒残る街に暮らす普通の人びと。「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」。大切な人を守るために生まれた謎が、犯人へと繋がっていく。
-Booksデータベースより-
加賀恭一郎・・主人公。練馬署から日本橋署に異動
清瀬峯子・・・今回の事件の被害者。絞殺された
清瀬弘毅・・・劇団「あたけ」の団員。直弘の息子
青山亜美・・・人形町のタウン誌の編集記者。弘毅と同棲している
清瀬直弘・・・清掃会社の社長
1⃣ 各章の概要
2⃣ 各章の結末と真犯人
3⃣ 加賀恭一郎の捜査能力
第一章 煎餅屋の娘
始めて日本橋署で勤務することになった加賀恭一郎。小伝馬町で三井峯子という女性が殺害される事件が発生し,捜査に乗り出します。
峯子の家を訪ねていた人物がいました。田倉慎一です。彼は保険会社に勤務していました。
田倉は「あまから」という煎餅屋にも足を運んでいます。加賀も「あまから」に聞き込みを開始します。
怪しいこの田倉という男。一体,何の用で訪問したのでしょうか。
第二章 料亭の小僧
加賀は,被害者宅に残されていた「人形焼き」を買った人物を探していました。料亭「まつ矢」で働く修平の元へ,加賀は聞き込みにやってきます。修平は人形焼きを「まつ矢」の店主である泰治に頼まれて買っていました。事件と関係あるんでしょうか。
第三章 瀬戸物屋の嫁
瀬戸物屋の「柳沢商店」。柳沢鈴江という姑と嫁の麻紀は仲が悪いようでした。夫の尚哉は板挟みです。麻紀は加賀に「峯子が時々客としてやってきていた」ことを話します。
ところが,麻紀は峯子とメールでやりとりをする仲だということが判明します。何のやりとりをしていたのか。
第四章 時計屋の犬
時計屋の主人である寺田玄一は,公園で犬の散歩中に峯子と会っていました。峯子の打っていたメールにそのことが書かれていたみたいなんですが,公園にいた愛犬家たちは口をそろえて「峯子は見ていない」ことを証言します。
これには何か秘密がありそうです。
第五章 洋菓子屋の店員
清瀬弘毅は役者を目指していました。現在は劇団員の弘毅。
洋菓子店を継がなかった彼は父親の直弘とは絶縁状態になっていましたが,思わぬ事件が。母親の峯子が殺害されたというのです。ここで峯子の家族が登場しました。ただ,直弘とはすでに離婚していました。
徐々に真相に迫っている感じもしますが。。。この親子が事件に関係しているのでしょうか。
第六章 翻訳家の友
小伝馬町で峯子の遺体の第一発見者は,峯子の大学時代の友人で翻訳家でもある吉岡多美子という女性でした。事件当夜,多美子は7時に峯子と待ち合わせしていたんですが,訳があって8時に変更します。8時に峯子のマンションへ行った多美子が遺体を発見したということです。
怪しい第一発見者。事件の真相に近づけるのか。
第七章 清掃屋の社長
清瀬直弘は弘毅の父で,清掃会社の社長をしています。直弘には宮本祐理という秘書がいました。ただ彼女には別の顔がありました。クラブのホステスだったのです。峯子はとは離婚していますが,峯子自身はお金を必要としていました。加賀は祐理が原因での慰謝料ではないかと疑います。
しかし真相はもっと深いものでした。
第八章 民芸品屋の客
加賀は,民芸品屋の「ほおずき屋」を訪ねていました。そして店主に「最近,独楽(こま)を買った人はいないか」と聞くのです。
独楽? 一体何か問題なのか検討がつきません。ここで岸田という男が登場します。彼は息子夫婦の子供,翔太に独楽をプレゼントしています。この独楽にはどんな秘密があるのか。
第九章 日本橋の刑事
加賀は,上杉という刑事と組んで捜査していました。上杉は加賀のことを見くびっていたようですが,実際には捜査が順調に進んでいきました。加賀の捜査のおかげで,ある一人の人物が重要な容疑者として挙がってきました。
意外な人物でした。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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第一章 煎餅屋の娘
田倉が「あまから」に行くために会社を出た時間と,実際に証言した時刻に30分も差があります。何やら怪しい田倉。
「あまから」の店主である上川文孝に聞き込みをする加賀。どうやら田倉は保険給付の申請に必要な「診断書」を受け取るために「あまから」へ行っていたみたいです。
その診断書は文孝の母親である聡子のものでした。彼女は胆管癌だったのです。
聡子にわからないように,偽の診断書を作っていもらっていたのが文孝。癌ということを知られたくなかったのでしょうか。
それを承知で文孝から相談を受けていた田倉も知っていました。空白の30分は「本物の診断書を会社で処理し,偽の診断書を聡子から受け取った時間」ということになります。
聞き込みした加賀はすでにこのことを見抜いていたようです。
「日本橋署はとんでもない刑事を連れてきたな」
これが文孝の最後の言葉です。
第二章 料亭の小僧
修平が泰治の頼まれて買った人形焼き。その中には「ワサビ入り」の人形焼きが混ざっていました。これは誰が入れたのか。
実はこの前にもう一つ人形焼きを買っていた人物がいました。泰治の妻の頼子です。彼女は泰治にアサミという愛人がいることを知っていました。
「夫をこらしめてやろう」とワサビ入りの人形焼きを入れていたのです。
アサミは泰治から人形焼きをもらっていました。それを峯子に渡していたのです。
ワサビ入りなんて,何かの罰ゲームのようですね。それにしても,アサミは疑わなくていいの?
第三章 瀬戸物屋の嫁
麻紀は峯子に「料理に使うバサミを買ってきてほしい」ことを伝えてました。ところが峯子は「キッチンバサミ」を買ってました。麻紀が買ってほしかったのは「食用バサミ」でした。
食用バサミって,とても硬い食材などをカットするものらしいです。
ではなぜ自分で買わず,峯子に頼んだのか。それは,ハサミを近々旅行へ行く姑の鈴江にプレゼントしようと思っていて,自分で買うとバレてしまうからだったんですね。
旅行へ行く鈴江のバッグの中にはお土産用のパンフレットが。
実はこの姑嫁,徐々に仲良くしようとしていたんですね。いい話でした。
第四章 時計屋の犬
峯子のメールには「子犬の頭を撫でた」ということが書かれていました。どちらかが嘘を言っていることになります。
嘘を言っているのは玄一の方でした。彼には娘がいて,妊娠したことに彼女を勘当していました。娘は家を出て行ってしまってたんです。
玄一と峯子が会ったのは,実は「水天宮」でした。峯子は子宝犬の頭を撫でていたということだったのです。玄一も同じように妊娠していた娘のことを想っていたんですね。
「水天宮の子宝犬=安産」頑固な玄一もやはり一人の父親なんですよね。
でも,なぜ峯子は水天宮にいたのでしょうか。
第五章 洋菓子屋の店員
峯子は以前は蒲田に住んでいたようです。しかし最近になって小伝馬町へ引っ越してきました。なぜ引っ越してきたのか。
峯子は日本橋にいた弘毅と,彼女の亜美の2人が一緒にいるところを目撃します。そして近くに引っ越してきていたのでした。
第四章で,なぜ峯子が水天宮にいたのか,という謎も判明します。
峯子には藤原真智子という大学時代からの友人がいました。真智子から弘毅の話を聞いていたんですね。喫茶店でバイトをしていると。
しかしここで峯子は勘違いしてました。弘毅の本当の彼女である亜美は別の喫茶店でバイトしてました。
峯子が見ていたのは美雪という女性。彼女が妊娠していたのでした。
第六章 翻訳家の友
多美子が待ち合わせ時間を変更した後,峯子の元には公衆電話からの電話がきていました。これは怪しいと睨んだ加賀恭一郎。電話をかけた人物を捜査します。
加賀は,多美子を「柳沢商店」へ連れていきます。実は峯子は多美子が結婚すると知っていて,二組の箸を購入していました。
どうやら峯子は多美子と喧嘩をしていたらしく,仲直りの印としてこの箸を買っていたのでした。時間を遅らせてしまったことを後悔する多美子。
多美子は犯人ではなさそうです。やはり公衆電話をかけた人間か。。。
第七章 清掃屋の社長
清瀬弘毅も父親の直弘のことを疑っています。秘書の祐理は一体何者なのか。
しかし意外な事実が判明します。父親の直弘にはかつて恋人がいました。それは祐理の戸紀子でした。直弘がプレゼントした指輪を祐理がはめていたのです。
実は,祐理は直弘の実の娘だったようです。
その事実を峯子に話,離婚が成立したのです。ということは。。。そうなんです。祐理は弘毅の姉ということになり,弘毅も驚くのでした。
第八章 民芸品屋の客
なぜ加賀は「独楽」にこだわったのか。それは,峯子の殺害に使用されたのが独楽にも使われる「紐」だったのです。加賀は紐を探していたんですね。
そして岸田が購入した独楽を怪しんだわけです。ところがこの紐は種類が違うことがわかります。
殺害に使用されたのは「組み紐」と呼ばれるもので,岸田が購入したのは「撚り紐」だったのです。
しかしここで加賀は重要な事実を掴んでいました。ある玩具店で独楽が万引きされていたのでした。
第九章 日本橋の刑事
加賀が挙げた重要人物は第八章に登場した岸田でした。岸田は直弘の会社の金に手をつけてしまっていたようです。
岸田はそのことが峯子にバレそうになっていました。ここで岸田は峯子を殺害するために,独楽の「紐」を手に入れます。独楽を万引きし,紐で絞殺しました。
その後,岸田が息子夫婦の家を訪ねた際,「独楽」を翔太に見つけられます。困った岸田は,別の店で買った独楽を買って与えるのでした。
岸田は自分の息子が会社の金を使い込んでしまったことを知ってしまいました。
それを補填するために岸田自身も会社の金に手を出してしまったというのが真相でした。
各章で登場する人物は全て怪しそうでした。全ての章には意味があったように思います。
捜査をする過程で,加賀自身が重要証言を得たり,逆に全く関係がなかったり,実際の捜査ってこんな感じなのではないかと思わせられました。
最終的に犯人に行きつく過程が面白いです。
加賀の洞察力に,相棒の上杉も舌を巻いているようでした。
加賀の地道な捜査が実を結んだのを目の当たりにしながら,これまでの「加賀恭一郎シリーズ」の作品を思い出しました。
やはり加賀は昔も今も変わらず,すごい捜査能力を持った刑事なんだと改めて感じました。
最後に上杉が「お前,一体何者だ?」と問いかけるのに対し,
「ただの新参者です」と返す加賀はとてもかっこよかったです。
本作品では,いろいろな登場人物が出てきました。日本橋を舞台に登場する人物は何かこう人情があるというか,やさしく人をもてなす姿に品を感じました。
事件で傷ついた人がいて,それを救ったのは加賀自身だったんですね。
● 異動しても変わらない加賀恭一郎の捜査能力
● 日本橋を舞台としたとても人情あふれる話だった
● 各章から真相に辿り着くまでの東野先生の構成力に感服した