「御子柴礼司シリーズ」の第四弾です。
今回の話には,とうとう御子柴の家族が登場します。
御子柴礼司,本名園部信一郎の実の母親が,再婚した夫の殺害容疑者となってしまい,その弁護を御子柴が引き受けるというものです。
思えば,御子柴の家族のことは同シリーズの作品にはほとんど登場しなかったと思います。
御子柴がどんな家庭に育ってきたのか,御子柴の両親,そして妹,一体どんな人物なのかがわかる作品になっています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 妹からの弁護依頼
3.2 検察側の追及
3.3 御子柴の証明
4. この作品で学べたこと
● 自分の実の母親を弁護する御子柴を見たい
● 御子柴が法廷で大逆転する証人・証拠を知りたい
● 御子柴の「贖罪」とは何なのかを知りたい
報酬のためには手段を選ばない悪徳弁護士・御子柴礼司の前に、妹・梓が三十年ぶりに現れる。梓の依頼は、旦那殺しの容疑で逮捕されたという母・郁美の弁護だ。悪名高き〈死体配達人〉が実母を担当すると聞き動揺する検察側。母子二代に渡る殺人の系譜は存在するのか? 「御子柴弁護士」シリーズの最高傑作。
-Booksデータベースより-
御子柴礼司・・絶対負けない弁護士。本名園部信一郎
郁美・・・・御子柴の実の母
成沢琢馬・・郁美の再婚相手。首吊り自殺は偽装?
園部謙造・・郁美の元夫。御子柴の事件を苦に自殺
梓・・・・・郁美の娘。つまり御子柴の実の妹。依頼人
槙野・・・・検察官。今回,御子柴と法廷で争う
1⃣ 妹からの弁護依頼
2⃣ 検察側の追及
3⃣ 御子柴の証明
「ごめんなさいね。あなたさえ死んでくれたら」
こんな一行で始まります。これは御子柴の実の母親である郁美のセリフ。このセリフは何を意味するのか。
何か不穏な始まりでした。一体,誰を殺害したのか。これは後になってわかります。ある日,事件が発生します。それは郁美の再婚相手である成沢琢馬という男性が首吊りで亡くなってしまうというものでした。
その事件が「偽装工作」だというのです。つまり郁美が殺害したと。
ここで御子柴の実の妹である梓が御子柴に依頼しに来るのです。
御子柴にとっては,郁美や梓はすでに家族と思ってませんでした。
少年院にいた頃,会いに来たのは一度だけ。御子柴も見捨てられたと思ってたわけです。
逆に御子柴の家族も大変な思いをして生活していました。
当時14歳だった御子柴が起こした殺人事件によって,それを苦に父親の謙造が自殺。
生活場所を転々とするも,やはり周囲に御子柴の事件の噂が立って苦しい生活が待っていました。結婚話が持ち上がっていた梓も,結局は破談になったり,苦しい環境での生活を強いられていたようです。
その後郁美は再婚します。それが先に書いた資産家の成沢です。
当初は自殺と思われた夫でしたが,実は郁美が殺害したのではないかと疑われるわけです。
梓も御子柴にはある意味恨みを持っていましたが,状況証拠,物的証拠が揃っている中,最後の頼みである御子柴に依頼をするわけです。
そもそも身内を弁護することはできないと思ってましたが,法律的には可能なようです。
御子柴は態度を保留して,刑務所にいる稲見という恩師に会いにいきます。稲見は前作「恩讐の鎮魂曲」で登場し,御子柴の弁護も空しく懲役6年の実刑で刑務所にいました。
唯一信頼できる稲見に,弁護を受けるか受けないかの相談をしに行くのです。
御子柴は,母親の弁護を引き受けるのでしょうか。
御子柴にしてみれば,身内の弁護とはいえ,ある意味絶縁した人間を相手にするわけで,そこには普通の親子とは異なる先入観や雑念が生じてしまうのではないかと思いました。
複雑な状況の中,まともな弁護が御子柴にできるのでしょうか。
実際,御子柴は動揺しているようでした。体調も優れなく,本来の御子柴らしくないんですね。御子柴が自分の親の弁護をするということは,世間は「やはり殺人犯の親か」「蛙の子は蛙」と先入観で見てしまうのではないかと思うのです。
きっと,検察側もその心証を裁判官に植え付けるのではないか。
しかし,親子関係は隠されました。もちろん弁護側は不利になるからです。
検察側もそうです。今回の検察は額田検事の優秀な部下である槙野です。
額田検事といえば第一作目の「贖罪の奏鳴曲」で御子柴に完敗した検察官です。
二人は相談し,親子であることがわかれば,逆に「冤罪」をひっくり返そうとしているのではないかと世間が見る場合があると思ったようです。
今回の裁判は比較的「フェア」な状況で行われることになるんですね。そして舞台は法廷へ。ただ御子柴たちにとって不利になる要素がありました。
それは,郁美の最初の夫が自殺した時と,今回の再婚相手の事件時の状況がほとんど同じだったということです。
鴨居に吊り金車をひっかけ,自殺するという手法。検察側はそこを突いてきました。同じ手口で殺害したのだろうと。この殺害方法の一致は偶然なのでしょうか。
これに御子柴は動揺します。同じ手口だったということよりも,郁美が29年前に本当に自殺工作をしたのではないかと。
ただこの事件は時効が成立しているわけですから,郁美を追い詰めるものにはならない。
でも,法廷内の雰囲気は良くない方向へ向かっているようでした。
御子柴は大ピンチ迎えます。
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御子柴は法廷で二人の証人を呼びます。
まずは,ヒノキの耐荷重度の実験を依頼した氏家という男性です。
彼は現在「鑑定センター」の所長であり,以前は警視庁の科捜研にいたのです。法廷に首つりの仕掛けを作り,ヒノキの鴨居に吊り金車をつけ,成沢と同じくらいの体重のものを吊り下げる。すると,落下しました。
つまり,偽装工作だったことを証明したわけです。
実は成沢の妻は,かつて通り魔事件で亡くなった一人だったのです。
彼はもう一人の証人である曾根崎という男に告げていたのです。
「どうせ一円も取れないのなら,裁判などせずに憎しみを込めた方がいい」と。
成沢はインターネットで調べていたようです。
かつて自殺した郁美の元夫の事件の証拠,御子柴礼司の母親であること。
そして,郁美を罠にはめ「冤罪」にしようと手の込んだ状況証拠を作り出しました。
成沢は自分で「自殺の偽装工作」をしたのです。だから29年前の事件と同じ状況を作り出していたんですね
そうなると,冒頭の郁美のセリフは何だったのかということ。
実は,29年前の事件のセリフだったのです。そうだったのか。。。愕然としました。
つまり,29年前の事件は本当に郁美が関わっていたということです。
今回の成沢の事件,弁護士が御子柴でなければ,裁判官に対する心証も最悪で,きっと郁美は有罪になっていたのではないでしょうか。
多くの人々に聞き込みを行い,時には殺害を証明するための実験まで行い,依頼人を無罪にするために必要なことは全て実行する。御子柴のその執念が「絶対負けない弁護士」にさせる一番の原因ではないでしょうか。
しかし,これまでのどの作品でもそうなんですが,その事件の背景には御子柴自身が関わっています。
「一生,誰かを救うために生きる」という言葉が随所にみられます。
作者も,犯罪を犯せばそれを一生かけて償っていかなければならないのだ,と言っているように感じます。
● 御子柴の過去の事件が,これだけ多くの人々を巻き込んでしまっているということ
● 弁護士の,依頼人の無実を証明するという執念
● 御子柴は,過去の罪を償うために,誰かを救うために生きているということ
これでシリーズも終わりなのだろうか,と思ってましたが,続編が出たようです。
「復讐の協奏曲」早く読んでみたいです!