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【悪いものが,来ませんように】芦沢央|娘を想う母親の気持ち

芦沢央先生の作品を読むのはこれが3作目です。

許されようとは思いません」「火のないところに煙は」を読んで,やみつきになってしまっている自分がいるようです。

まずタイトルが独特ですよね。今回も「買って読みたい」と思わせられました。

主人公の奈津子,紗英,鞠絵という女性が登場します。この3人,仲がよさそうでいろいろと複雑そうにも思えます。

最後まで読めばわかりますが,本作品には実はいろいろな仕掛けが施されています。
特にラストは衝撃で言葉もありませんでした。

ストーリー自体は「イヤミス」な感じなんですけど,芦沢先生の仕掛けたトリックにすっかり騙されたとわかった時には,ある意味爽快感も味わってしまうという,何か不思議な作品でもあります。芦沢央先生最後にあっと驚きたい方には本当にオススメです。

こんな方にオススメ

● 登場する複数の女性の人間模様を知りたい

● 「イヤミス」が好きな方

● 最後の圧倒的な「どんでん返し」を味わってみたい方

作品概要

子供にめぐまれず悶々とした日々を送る紗英、子育て中の奈津子。誰よりも気の合う二人を襲った事件とは--。『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞、気鋭の第2作!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

柏木奈津子・・主人公。紗英のことを気にかけている

庵原紗英・・・浮気性の男性と結婚。妹の助産院に勤務

庵原大志・・・紗英の夫。浮気をしている

鞠絵・・・紗英の妹。助産院に勤務

梨里・・・奈津子がかわいがる幼い子供

本作品 3つのポイント

1⃣ 奈津子と紗英の関係

2⃣ 奈津子が起こした犯罪

3⃣ 娘を想う母親の気持ち

奈津子と紗英の関係

奈津子が自分の娘をあやしているシーンから始まります。奈津子はなかなか泣き止まない娘にイライラしているようでした。

奈津子は母親からも心配されているようで,「うつぶせに寝かせてない?」など,奈津子がおかしなことをしないか心配しているようでした。

この子のものに,幸せばかりがきますように。悪いものがきませんように奈津子これは奈津子の冒頭のセリフです。

ここで紗英という女性が登場します。彼女はすでに結婚していて,奈津子は紗英に早く子供ができないか,期待する半面,心配もしていました。

奈津子は紗英の夫の大志に不信感を持っているようです。どうやら大志はマイペースな人間で,紗英のことを愛していないと感じたのでしょうか。

さらに大志は浮気をしているようです。それを知った紗英は奈津子に相談するのです。

紗英の家庭はうまくいっていないようなんですね。そんな紗英を,奈津子は本当に心配しているようでした。

奈津子は,紗英から「なっちゃん」と呼ばれて信頼されていました。仲がいい姉妹なんだなという印象です。奈津子と紗英紗英は助産院に勤めていました。助産院には紗英の妹の鞠絵も勤務していました。鞠絵の方が先に働いていて,紗英はそこに紹介という形で入ったみたいです。

ということは三姉妹だったの? 結構複雑そうです。

奈津子と幼い子供の梨里,紗英,鞠絵と四人でレストランへ行った時も,奈津子は梨里に対して厳しく接している。

紗英と鞠絵は同じ仕事場ではあるものの,なにかギクシャクしている様子。奈津子・紗英・鞠絵・利里それに対し,奈津子は紗英のことをとてもかわいがっている印象です。

かつて紗英に彼氏が出来た時も別れるように仕向けたのは奈津子だったし,紗英を送り迎えしたりするのも奈津子は快くやっているんですね。

ん~,でも何か違和感を感じるんだよなぁ。なんだろう,このヘンな感じは。。。

奈津子には貴雄という夫もいました。奈津子は夫とも仲良くやっていない様子でした。

そんな時,紗英の自宅でどんでもない事件が発生してしまいます。

奈津子が起こした犯罪

奈津子が紗英の自宅にやってきました。しかし何やら様子がおかしいんですよね。

奈津子がこっそり紗英の自宅の様子を隠れて覗いているんです。なぜ奈津子はこそこそしないといけないのか。大志と会うのがイヤなんでしょうか。

紗英の家を覗く奈津子紗英と大志が行為に及んでいる時も隠れて覗いているんですね。何かストーカーみたいな奈津子。そこまで紗英のことを思っているのか。

本当にごめん。俺,浮気した。でも好きなのは紗英だから。信じてほしい

こんな爆弾発言を平気で言う大志。奈津子が不信感を持つのはわかるような気はします。

わたしのかわいい紗英。。。」ん~,こんな姉妹愛というのもあるのかと思ってしまいます。わたしのかわいい紗英しかし「あの男さえいなければ」とも考えている辺りは異常にも感じられます。

紗英は麦茶を作り,冷蔵庫へ保管します。それすらも覗いていた奈津子。

紗英は着替え,玄関から外出していきました。その後,奈津子は紗英のいない,大志だけがいる家のチャイムを鳴らします。出てきた大志は不審に思います。

「なんだ,買いすぎたから一緒にごはんにしようと思ったのに」

台所奈津子はそういいながら,紗英のいない,大志だけがいる家に入っていきます。

そしてとうとう大事件が発生してしまいます。

奈津子が出した飲み物の入ったコップを手にした瞬間,大志は口元から液体を吹き出し,そのまま倒れこんでしまったのです。

大志が亡くなった瞬間でした。同時に奈津子は遺体の隠ぺいを考えます。

一人では遺体を運ぶことができない。そう思った奈津子は「マイらいふ」という介護施設の車があることを思いつきます。車いすの患者を自動的に載せる機能がある車です。

介護用車で死体隠蔽工作夫が自分の家の車の鍵を間違えて持って行ってしまったという嘘を話し,奈津子は大志の遺体を山に運ぶことに成功します。

犯罪を犯してしまった奈津子。紗英だけには悟られないようにしないといけないと感じていました。

懸命に隠蔽工作をした奈津子に,次第に警察の捜査の手が及ぶことになるのです。

娘を想う母親の気持ち

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紗英が自宅に戻ると大志はいません。もちろん奈津子が遺体の隠ぺい工作をしたからなんですが,それを知らない紗英は心配します。浮気の彼女の家なのだろうかと。

帰ってこなかった夫。紗英は次の日の朝,大志からメールが来ました。

おはよう。お疲れ様。また連絡する。行ってきます大志からの怪しいメールいつもと違う文面に紗英は疑問を持ちますが,大志の勤務している銀行へ行くことにします。わたしの顔を見て,夫はどんな顔をするだろうか。

ところが大志は会社に来ていないというのです。やはり浮気の女性の家か。。。
紗英は大志に連絡をしますが,大志は電話に出ません。

徐々に不安になってくる紗英は,大志の実家にも電話します。

法事があって家に帰ったのかと思っていましたが,やはり大志はいないようです。義理母も不審に思ったようです。

奈津子に相談する紗英。紗英にとってはやはり奈津子を信頼しているみたいなんですね。

奈津子は普段通りに接します。恐るべし奈津子。そんな時,もう一通メールが。

「しばらく時間をおきたい」

紗英に送られたメールは2通とも奈津子が大志の携帯から送ったものでした。

何が何だかわからない紗英の元に,とうとう警察が現れます。山に埋めた大志の遺体をジョギングしていた青年が見つけたようです。遺体発見大志の葬儀も行われます。それでも美津子は冷静です。

司法解剖の結果が出ました。どうやら大志がなくなった原因は「アナフィラキシーショック」でした。大志は麦アレルギーを持っていたようです。

ここで紗英は「あの麦茶が原因」と我にかえります。そして奈津子と紗英は真剣に向き合います。紗英は家を覗かれていたことにやっと気づきます。麦茶によるアナフィラキシーショック「大志さんに死んでほしかったんでしょう」という奈津子に対し,「違う」という紗英。

奈津子は何か思い込みが激しい感じを受けました。

全ては自分が紗英のためにやってあげたことであることを奈津子は伝えるのです。

なぜここまで奈津子は紗英のことに執着するのか。

衝撃的だったのは,奈津子の家族構成です。これが芦沢先生の仕掛けたトリック。

姉妹だと思い込んでいた奈津子と紗英は,実は親子でした。えっ? って感じです。奈津子と紗英は実は親子実は奈津子には二人子供がいて,それが紗英と鞠絵,そして鞠絵の子供が梨里だったのです。

ということは,奈津子が厳しく接していた梨里は「孫」だったということになります。

この仕掛けにはかなり衝撃を受けました。完全に騙された感,脳内に充満です。

でもやっと納得しました。奈津子が紗英に執着していたことも,紗英に子供ができてほしかったことも。鞠絵には子供がいるから紗英にもという気持ちがあったんですね。

奈津子は,自分の娘のために死体遺棄を工作したのです。

そしてもう一つ,犯罪を犯したのが「奈津子」であることを強調するため,紗英自身が奈津子に対して嫌悪感を抱くことを計算して。

読者も騙されましたが,登場人物もみな騙されていたということです。

悪いものが来ませんように悪いものがきませんようにこれは奈津子が紗英に対して言っていた言葉だったんですね。

達成感いっぱいの奈津子の姿が印象的でした。

本作品では,奈津子や紗英の視点で話が進むんですけど,ところどころ,事件のインタビュー形式でも描かれています。

奈津子や紗英の周囲の人間は事件に対して何を思っているのか。奈津子,紗英のことを親の視点,姉妹の視点,そして奈津子の母親である柏木和子の視点などなど。

奈津子は昔から紗英に対する独占欲が強く,最後にも描かれていますが「一卵性親子」という聞きなれない言葉も出てきました。

母親と娘の共依存」というものがこの世に存在するのだということを知りました。

それは遺伝ということではない。育った環境や人間関係,いろいろなものが複雑に絡み合い,作り出してしまったもののように映ります。

この作品で考えさせられたこと

● 登場人物の親子関係に騙された!

● 娘を想う母親の気持ちのすごさと覚悟

● 「悪いものがきませんように」の意味が理解できた

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