御子柴弁護士シリーズ第5弾。「復讐の協奏曲」です。
中山七里先生のシリーズの中で、僕自身が一番好きなシリーズなんです。
協奏曲は「コンチェルト」と呼びます。
文庫本になるのを待ちに待って購入し、ようやく読むことができました。
どんなことにも動じない、恐ろしく冷静(冷徹?)な弁護士である御子柴礼司が大好きなので、ワクワクしながら一気読みです。今回は例のごとく御子柴がターゲットになるんですが、御子柴法律事務所の事務員である日下部洋子もターゲットになってしまいます。
あの平然と仕事をこなす日下部に、意外な過去が明らかになり、驚愕でした。
ネット上に<この国のジャスティス>なる人物が現れます。
一体この人物の正体は何者なのか。御子柴自身が鋭い視点で解き明かします。
まさに「復讐の協奏曲」です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 この国のジャスティス
3.2 御子柴は洋子を救えるか
3.3 御子柴の真の敵とは
4. この作品で学べたこと
● タイトルの「復讐の協奏曲」の意味を知りたい
● <この国のジャスティス>とは一体誰なのかを推理したい
● 御子柴は窮地をどうやって挽回するのかを知りたい
三十年前に少女を惨殺した過去を持つ弁護士・御子柴礼司。
事務所に〈この国のジャスティス〉と名乗る者の呼びかけに応じた八百人以上からの懲戒請求書が届く。
処理に忙殺されるなか事務員の洋子は、外資系コンサルタント・知原と夕食をともに。
翌朝、知原は遺体で見つかり、凶器に残った指紋から洋子が殺人容疑で逮捕された。
弁護人を引き受けた御子柴は、洋子が自身と同じ地域出身であることを知り…….。
-Booksデータベースより-
1⃣ この国のジャスティス
2⃣ 御子柴は洋子を救えるか
3⃣ 御子柴の真の敵とは
かつて、佐原みどりという少女をバラバラにし、世間を騒がせた園田信一郎。頭部を自宅のポストの上に置いたために、<死体配達人>と呼ばれた男。
その男は少年法に護られ、刑務所にいる間に司法試験へ向けて勉強し、現在は名前を改め、御子柴礼司弁護士として活躍しています。これまでのシリーズでも必ず描かれている御子柴の過去。
あの残虐な殺人を犯した人間が、世間からバッシングを受けつつも堂々と弁護士として生きることができるのだなといつも感心させられます。
人間は変われるということでしょうか。
しかし、御子柴が扱う案件は「無罪」を勝ち取る裁判のみ。情状酌量で減刑を狙うというものではないです。
だから依頼人は高額の依頼料を支払い、悪名高い弁護士と揶揄されるのでしょう。
ある日、東京弁護士会のドンである谷崎が御子柴を自分の事務所に呼び出します。
ネット上に彼の過去の事件が暴露され、一般市民から御子柴へ大量の懲戒請求書を送るように仕向ける人間がいるようです。
懲戒処分請求とは
弁護士・弁護士法人に、弁護士法や弁護士会・日本弁護士連合会の会則に違反するなど、弁護士の信用や品位を害する行為があったと考える際に、所属弁護士会に懲戒処分を求めること。弁護士でなくても請求できる。
その人物は<この国のジャスティス>と名乗っています。この書き込みにより、御子柴の事務所には大量の懲戒請求書が届きます。
これまで何度か懲戒請求はされたようですけど、一般市民を巻き込んだものは初めてです。
一体<この国のジャスティス>とは誰なのか、というのが大きなポイントとなります。御子柴の事務所の事務員である日下部洋子が大量の請求書を処理していました。
正体不明が中心となった請求に、御子柴は対抗します。
何と、請求書を送りつけた一般市民に対し、業務妨害と名誉毀損で損害賠償を請求するんです。一人当たり150万円程度。
実際にこのような判例が過去にあったようですね。金額も妥当だと。
正義をかざした知識のない一般市民は御子柴の逆襲に戸惑います。やはり一般市民では、御子柴に分がありすぎますよね。
ある日、洋子は共通の友人から紹介してもらった外資系コンサルタントである知原徹矢とレストランで食事をすることになりました。
ただ洋子はこの知原に対してあまり良い印象を持っていないようです。
一方的に好意を寄せられているような感じの洋子ですが、事件に巻き込まれてしまいます。
食事の後、その知原が殺害されてしまったのです。
そして事務所に桶屋という刑事がやってきます。
どうやら知原はナイフで刺され殺害されたようです。しかもそのナイフには洋子の指紋が付いていたのです。
そしてとうとう洋子は殺害容疑で逮捕されてしまいました。ん~、洋子が殺害したようには思えないけどな。。。
御子柴が事務所に戻ると、メモが残されていました。そこで洋子が警視庁にいることを知ることになるのです。
ここから御子柴は洋子を救うために動き出すのでした。
御子柴は警察へ行き、洋子と面会します。
凶器と思われるナイフに指紋が付いていたこと。動機は痴情のもつれだと告げられます。
御子柴は、知原との関係を探ります。洋子は南雲涼香という女性から知原を紹介してもらったようです。
しかし、南雲涼香という女性を探しますが、行方が全くわからないのです。ん~、これは怪しい。。。
御子柴は洋子の弁護を引き受けることになります。同じ事務所の事務員という親しい間柄でも弁護ってできるんでしょうか。
御子柴の事務所には先に書いた懲戒請求書が大量にあります。この中に<この国のジャスティス>のヒントがあるかもしれませんが、なんせ洋子は動けません。
そこで谷崎が御子柴事務所にある人物を送り込みます。それは過払請求が専門の弁護士である宝来でした。請求書の処理は宝来に任せ、御子柴は洋子の汚名を晴らすために動きます。
まず御子柴は、洋子が行ったレストランを訪ねます。そこでは意外な情報を入手します。
なんと知原は洋子だけでなく、週替わりで女性を連れてきていたらしいんですね。
その日に洋子たちのテーブルを担当したウェイトレスは森沢雛乃という女性でした。
この女性に状況を聞こうとしますが、店主が言うには「その日を最後に辞めた」と言われるのです。ん~、これも怪しい。。。。今度は御子柴は、知原の勤めていた「アルカディア・マネジメント」へ行きます。そこで知原の上司である野際貴子から話を聞きます。
知原の目的は、問題を抱えた企業に勤める女性でした。
顧客を得るための情報源として女性と交際していたことがわかります。そして目的を達成するとその女性とは縁を切る。ホント、ひどい男ですね。
だから当然女性とのトラブルも絶えなかったようで、中には被害に遭った女性がアルカディアに怒鳴り込んでくる者もいました。
とりあえず御子柴はその女性たちのリストを手に入れることに成功します。ところがここで御子柴は攻撃されます。駐車場で何者かにハンマーで殴られたのです。
両手が利かなくなった御子柴を助けたのは宝来でした。間一髪、御子柴は救われます。
しかし後でわかりますが、この時御子柴はある「臭い」を感じていました。「匂い」ではない,何かヘンな臭い。
救急車で運ばれながら、御子柴は思いを巡らせるのでした。
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御子柴は野際貴子から入手したリスト調査します。
すると彼女たちに知原を紹介したのはやはり南雲涼香でした。一体、何者なのか。。。
その中に自殺した女性がいました。日比野美鳥という女性です。
御子柴は美鳥の息子である優一を調査しますが、知原は殺してないと言います。
一方、御子柴は洋子に対して疑問を持ち始めました。
なぜ過去に凶悪犯罪を犯した御子柴の事務所に入ってきたのか。そして辞めないのか。御子柴は洋子の過去を調べ始めます。洋子が御子柴の事務所に来る前に勤めていた会社にも聞き込みをします。しかし素行には全く問題もなく、ただ突然辞めたようでした。
御子柴のことも話していたようなんです。そしてこのタイミングで御子柴の事務所に入社したのです。一体、何かあって仕事を変えたのか。それとも。。。
御子柴はさらに洋子の過去がわかっていきます。
洋子は父親からのDVに悩み、母子家庭で育ちます。しかし母親は亡くなっていて、さらに
「洋子には戸籍がない」ということが判明するのです。
そして驚愕の事実が明らかになります。洋子の住民票を手に入れた御子柴は驚きます。
何と福岡県南区大橋にある町に住んでいたことがわかります。しかもそこはあの「佐原みどり」が住んでいた町だったのです。もちろん御子柴も。福岡で聞き込みをしたところ、みどりには、洋子のほかに「たかちゃん」という友人がいたこともわかります。
そしてとうとう洋子の裁判が始まります。
検察官である古瀬は当然殺人容疑、洋子そして御子柴は「無罪」を主張します。
凶器となったナイフは柄の部分が加工されていたようです。しかし御子柴はそこを突きます。加工されたのであれば警察が捜査するはずがしていない。
そして洋子の家宅捜索でも、事務所の中でも、加工をした痕跡はなかったことを訴えるのです。
さらに知原を刺したのであれば相当の返り血を浴びているはずが、それもない。その服も見つからないし、別の服を購入した記録もない。
完全に御子柴に有利な展開になります。トドメは第二回の公判です。御子柴は、事前に傍聴席の整理券を刑事・室田に、公判のことを知って出てくるであろう女性を見つけて、さりげなく渡すように仕組んでいます。
ナイフに残った指紋がステーキナイフを扱う時に付く位置についており、このナイフは「レストラン」で使用されたものであると訴えます。
なるほど、ナイフは別の人間が取っていったわけですね。ということはレストランを辞めたあの女性か。
そして次の瞬間、御子柴は傍聴席にいた女性を指さします。森沢雛乃、つまりレストランを辞めた女性が傍聴していたのです。実は彼女は自殺した日比野美鳥の妹でもありました。知原に嫉妬した彼女は、偶然レストランに来た洋子に罪をかぶせてやろうとしたんですね。
そして御子柴は犯人が誰かを確信します。室田と一緒に野際貴子を訪ねます。
貴子、そうあの「たかちゃん」だったのです。彼女が<この国のジャスティス>でした。
御子柴を殴った襲撃犯ででした。そして仲介人・南雲の正体でもありました。
なぜわかったか。それは御子柴が感じたあの「匂い」でした。
貴子は腋臭(ワキガ)をきつい香水で隠そうとしていました。御子柴はその「匂い」という証拠が決定的でした。さらに続きがあります。貴子はホテルにいるある女性から依頼されて犯行を行っていました。
それが佐原みどりの母・成美だったのです。ここでも出てきたのか。恐ろしい復讐心です。
やはり、自分の娘を虐殺された復讐心は全く消えていなかったんですね。
<この国のジャスティス>の存在には驚きましたが,それ以上に驚いたのは御子柴の最後の最後の敵でした。陰で操っていたんですね。まさに「復讐」でした。御子柴は案外その人物を予想していたのかなって思います。
復讐は復讐を呼び,そして成し遂げられなかった復讐は達成されるまで続く。
御子柴の敵は本当に多く,今回は御子柴の身近な人間にも疑問を持ってしまいました。
それでも御子柴は他の弁護士や人間とは違う。一度は一人の少女を殺害したことがある御子柴にしかわからないもの。
ある意味究極の経験や思考を繰り返した御子柴だからこそ,理解できることもあるのかなって思います。
僕自身は御子柴という人物像は好きですが,きっと世の中には御子柴の考えや行動を理解できない人もいるのだろうと思います。
それでも御子柴を応援してしまうのは,自分の身が削られようとも覚悟を持って生きているからだと思います。
それにしても,このシリーズ,これで終わりじゃないだろうな。
もしこれが完結だったら,かなりショックです。中山先生には是非続編を描いてほしいですね。
● 御子柴の事務員の洋子の過去に驚いた
● 御子柴を恨む人々の,まさに「復讐の協奏曲」でした