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【彼女が最後にみたものは】まさきとしか|命をかけて護りたかった人

彼女が最後に見たものは

「彼女が最後に見たものは」最後に見たものは何だったの? 気になりました。

「あの日,君は何をした」の続編の作品です。このシリーズ,どの作品もインパクトのあるタイトルなんですよね。

今回も刑事の三ツ矢と田所のコンビが登場します。前作ではあまり彼らの印象がそこまで前面に出て来なかった気がしました。三ツ矢と田所本作品では,特に三ツ矢がキレ者で,「まず自分の推論に従って筋道を立て,徹底的に調査する」という考え方の刑事で,とても好感が持てる人物です。

彼女は誰のことで,一体最後に何を見たのか。最後とは亡くなる直前のことなのか。
いろいろなことを想像しながら読みました。

本作品は,クリスマスイブの夜に,女性の遺体が発見されるところから始まります。

この事件の捜査を三ツ矢と田所という二人の刑事が真相に辿り着くことができるのかというのがポイントです。

こんな方にオススメ

● なぜホームレスの女性が殺害されなければなからなかったのかを知りたい

● 事件の真相と真犯人を知りたい

● 事件に至った複雑な人間模様の作品を読んでみたい

作品概要

クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルの一階で女性の遺体が発見された。五十代と思われる女性の着衣は乱れ、身元は不明。警視庁捜査一課の三ツ矢秀平と戸塚警察署の田所岳斗は再びコンビを組み、捜査に当たる。
そして、女性の指紋が、千葉県で男性が刺殺された未解決事件の現場で採取された指紋と一致。名前は松波郁子、ホームレスだったことが判明する。
予想外の接点で繋がる二つの不可解な事件の真相とは――!?
彼女はなぜ殺されなければならなかったのか。
彼女はなぜホームレスになったのか。
誰も知らない真実が明らかになる瞬間、世界が一転する。
理不尽な死と家族の崩壊を圧倒的な筆致で描く、
大ヒットミステリ『あの日、君は何をした』続編!!!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

三ツ矢秀平・・警視庁戸塚警察署の刑事

田所岳斗・・・戸塚警察署の刑事で,三ツ矢の部下

松波郁子・・・遺体で発見される。生活保護の申請をしていた

東山里沙・・・東山義春の妻

東山義春・・・里沙の夫

東山瑠美奈・・里沙の娘

本作品 3つのポイント

1⃣ ホームレスの女性の遺体

2⃣ 郁子と少女の出会い

3⃣ 郁子殺害の真実

ホームレスの女性の遺体

クリスマスイブの夜に,新宿の空きビルの一階で女性の遺体が発見されます。クリスマスイブその女性は松波郁子という女性で,ホームレスだというのです。

三ツ矢と田所という二人の刑事がこの事件の捜査を始めました。

前作の「あの日,君は何をした」の時は三ツ矢のことがそこまで引き立ってなかったように思うんですけど,今回はかなりの存在感です。

「わからないから,知りたい」「知りたいと思いませんか」

要は事件の真相を知りたいとは思わないですか田所君,みたいな感じです。疑問話は戻って。。。女性がホームレスというのもあまりイメージがないんですけど,彼女がなぜ殺害されなければならなかったのか。

ここで新しい事実が明かされます。

実は一年以上前,千葉で殺人事件が起きました。

殺害されたのは東山義春で,その時に彼のバッグに残されていた指紋の中に,郁子の指紋があったのです。バッグどうやら郁子はその事件に関係しているようです。

ここから三ツ矢の「知りたい」に火がつきます。

東山には妻の里沙と,娘の瑠美奈がいました。

特に里沙は異常なまでに「自分たちが幸せであること」をアピールするために,インスタにいろいろなものをあげていました。

特に里沙は,窓際に「フラワーアレンジメントのポインセチア」を置いている写真を載せたり,「今日の晩ごはんはデパ地下の惣菜とスパークリングワイン」みたいな投稿を載せたり,自己顕示欲の高い女性だったようです。インスタ画像幸せ感をアピールする里沙。ちょっと行き過ぎているような感じがします。

この幸せそうな里沙の気持ちは,後に理由があったことがわかります。

さて,東山と郁子にはやはり繋がりがあったことが捜査でわかりました。

東山は生活保護の担当をしていて,一年以上前に郁子と話をしているのです。生活保護郁子は更年期障害で苦しんでいました。だからなかなか仕事ができなかったんですね。

そこで彼女は最後の手段として生活保護を申請しようとしたのです。

しかし,申請が通らず,生活保護を受けられなかったんです。

生活も,そして精神面でも追い詰められた郁子。不遇というか,不運というか,同情してしまいます。郁子当初は,このことに怒りを覚えた郁子が東山を殺害したのか,という線で捜査がされました。

ところが,ここからさらに意外な事実が判明していくのです。

郁子と少女の出会い

郁子には松波博史という夫がいました。

しかし,トラックドライバーである井沢勇介の乗ったトラックと博史が乗った自転車が接触し,博史は亡くなってしまったのです。自動車事故井沢は郁美に対して申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

そして一緒に住んでいた妻の成美とも離婚します。

一方,捜査していくうちに,里沙には秘密があったことがわかります。

彼女は「良妻」どころか本間という男と不倫関係になっていたのです。

つまり,里沙は夫と別れたくて本間に殺害を依頼したということ? イマイチ動機がわかりません。里沙高橋という兄弟も登場します。彼らの素性はなかなか明かされませんが,何かしら関係がありそう。

そして彼らの周りにはIT社長である父親と井沢。その元妻の木村成美などなど。

登場人物がたくさん出てきて,ちょっと混乱しそうになりました。

実は高橋兄弟は郁子に住む場所を紹介していたんです。最初はちょっとワルな感じでしたけど,いいやつだったようです。

もちろん郁子には生活する資金はないわけですから,高橋兄弟が探してきたのは「無人」で使用されていない住居に住んでいたのです。アパートホームレスだった郁子にとっては,とてもありがたかったことでしょう。

そして,そこに一人の少女が登場します。この少女は,誰にも頼ることができない郁子が唯一接していた少女です。

実はこの少女の存在がキーポイントになります。

郁子は住居の二階を自由に使っていいと少女にも伝え,少女は時々出入りするようになります。

少女はなかなか郁子に心を開いてくれない様子でしたが,徐々に話すようになりました。

この少女,ひょっとして。。。って思いました。少女ただ,郁子自身は少女といる時が幸せであるように思えました。

そしてこの後,郁子にとって嬉しいこと,そして悲しいことが同時に起きてしまうのでした。

郁子殺害の真実

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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幸せに見えた東山家というのは,実は複雑な家庭でした。

里沙が不倫していた本間という男。実は本間には里沙とは別に結婚が決まっていた女性がいて,里沙が邪魔だったのです。

そうとも知らずに付き合っていた里沙。完全に騙されていたんですね。騙されるそしてさらに衝撃の事実が。。。

瑠美奈の本当の父親は里沙の夫ではなかったのです。

それを東山は知り,あろうことか自分の娘である瑠美奈に近づき,肉体関係を持っていたのです。

血が繋がっていない娘に性的虐待をする父親がいるというのは小説でもよく登場しますが,今回も同様だったようです。

この関係に我慢できなくなった瑠美奈。とうとう父親をナイフで殺害してしまったのです。

その事実を郁子は知ります。そして郁子は思ってもない行動に出ます。

郁子は,瑠美奈が殺害に使ったナイフを隠し持つことにしたのです。彼女はすべての罪を被ろうとしていたんですね。ナイフ自分の夫を事故で亡くした郁子。家も失くし,金も少なくなり,また更年期障害という辛い状況の中,何をやってもうまくいかない。

生活保護の申請をしても通らない。絶望の境地にいた時に出会った一人の少女。

郁子にとって,最後の希望が瑠美奈だったというわけです。

記憶喪失まで偽って演じ,一人の少女を守ろうとしたんですね。

ところがここで思ってもない出来事が起こります。

瑠美奈たちはある建物の屋上に郁子を呼び出します。クリスマスのプレゼントをあげようとしていたのです。

屋上そこには井沢勇介もいました。彼も郁子に対して贖罪の気持ちでいっぱいだったことでしょう。

なんかイヤな予感が。。。

ところがその井沢をつけてきた人物がいました。井沢の元妻である木村成美です。

幸せになりたくてもなれない成美は自暴自棄になっているようでもありました。

そして建物の屋上に上るのです。そこに郁子がいました。

まさか,これが冒頭の事件につながるのでは。。。

成美は一瞬で気づきます。彼女は「ホームレス」であると。

「ホームレスなのに,ホームレスのくせに!」怒る女性そんな考えが成美の頭をグルグル回っていました。そしてとうとう成美は郁子を突き落としてしまうのです。

少しのこじれが生んだ出来事。不運というか,何というか。。。

そして最後に見たもの。それは郁子が大切にしていた一人の少女だったのです。

郁子が親しくしていた少女が違和感を感じ,最後の最後に現場にやってきたのでした。

最後に彼女がみたもの」は,郁子にとって護るべき大切な人物だったんですね。少女この作品のテーマは「居場所」だったのだと思います。

世の中の人々は自分の居場所を求めている。それは仕事でもそうだし,家庭でもそうだろうし,友人関係でもそうでしょう。

それぞれの場所で居心地の良い場所というもので生きたいものです。

でも「孤独」だったらどうでしょう。孤独とか,さらには「孤立」とか。

何か想像しただけでも耐えられない気がします。

仕事や友人関係で孤独であれば会社や学校へ行きたくないという気持ちが湧くと思います。

家庭であれば一人家に閉じこもってしまっているかもしれない。自分の言いたいことも言えない,他からの攻撃にじっと堪えているかもしれない。

だから,まだ社会の中の一員として働いているということはとても幸せなことなのではないか。

郁子はとても孤独だったのだろうと思います。だから一人の少女を近くにおいてあげたかった。

しかし,まさかその少女が里沙の娘だとは思わなかった。それを知った瞬間にかなり驚きました。。

この作品の中で「果たして郁子は不遇な人間だったのか」というような件(くだり)があります。

読めばだいたいの人はそう思うでしょう。実際自分も最初は郁子は不幸だったのかなって思いました。

でも幸せだったかそうでなかったかはその人次第なのだと思います。当然本人にしかわからないわけで。。。幸せな女性郁子は護るべき人間をまもれればよかったのです。自分のことはどうでもよかった。

実は郁子の最期は実は幸せだったのかもしれないな,って思いました。

この作品で考えさせられたこと

● 一つの事件というのは,複数の複雑な人間関係で起こることがある

● 意外な真犯人・真相に驚きました

● 郁子の最期は本当に幸せだったのではないか

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