これまで約1000冊の本を買って読みました。
比較的新しい本を買おうと思えば普通の書店で買うこともあるし,古い本を読もうと思えばブックオフで買うこともあります。
そういえば「本屋大賞ってあるよな」って,ふと考えたりしました。
この賞は「書店で働く方々の投票により決まる」らしいです。
いろんな賞が世の中にあるのは知ってますけど,この賞ほど読者目線に限りなく近い賞はないのかもしれないですね。
かつて百田尚樹さんの「海賊とよばれた男」が本屋大賞に選ばれた時,百田先生自身が「これほど嬉しい賞はない」っておっしゃってたのも何となくわかるような気がします。
本作品を読むと,書店で働く人たちがどんなことを考えながら仕事をしているのかを知ることができます。
書店で働く人々だけでなく,タイトルにもある店長,書店の社長,作家などのいろんな「バカすぎて」が楽しめる面白い作品になっています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 武蔵野書店で働く人々
3.2 書店員と作家の関係
3.3 谷原京子と売れっ子作家
4. この作品で学べたこと
● 店長のどういうところが「バカ」なのかを知りたい
● 本に関わる人々のいろんな「バカすぎて」を知りたい
● 書店で働く人々の苦労,やりがいを知りたい
谷原京子、二十八歳。吉祥寺の書店の契約社員。超多忙なのに薄給。お客様からのクレームは日常茶飯事。店長は山本猛という名前ばかり勇ましい「非」敏腕。人を苛立たせる天才だ。ああ、店長がバカすぎる! 毎日「マジで辞めてやる!」と思いながら、しかし仕事を、本を、小説を愛する京子は──。全国の読者、書店員から、感動、共感、応援を沢山いただいた、二〇二〇年本屋大賞ノミネート作にして大ヒット作。
-Booksデータベースより-
谷原京子・・・主人公。武蔵野書店で働く契約社員
山本猛・・・・書店の店長。どの部分が「バカすぎて」なのか
小柳真理・・・書店に勤務。京子が憧れていた人
富田暁・・・・作家。「空前のエデン」以降はパッとしない
大西賢也・・・売れっ子作家。ただし素性不明確な覆面作家
1⃣ 武蔵野書店で働く人々
2⃣ 書店員と作家の関係
3⃣ 谷原京子と売れっ子作家
書店で働く方々って,やはり本に詳しいのでしょうか。
本が好きだから書店で働いているのか。それとも働いていたら本が好きになったのか。
書店へ行っても,そこまで店員さんのことをマジマジと見ることないのでわかりませんが,本をこよなく愛する人たちなのかなって思います。
主人公は谷原京子という女性で,書店の契約社員です。
正社員を夢見て一生懸命働いていて,本に対しても人一倍こだわりがありそうです。
そしてこの書店にはタイトルにもあるように「店長」が登場します。
名前は山本猛という勇ましい感じですが,何かパッとしない,空気が読めない人なんです。
自己啓発本で書かれていたことを実践しようと訓示を垂れる店長で,京子がウザいって思っている節があります。でもこの店長,何か憎めない店長なんですよね。確かにこんな人が自分の職場にいたら「イライラ」してしまう時があるかもしれないですけど,何というかこれが素なのか,それとも演じているのかよくわからない性格の店長です。
京子の「バカすぎて。。。」って声が聞こえてきそうです。
同じ書店に小柳真理という店員がいました。どうやら京子は真理に憧れて書店で働くようになったみたいです。
その小柳が書店を辞めると聞いた京子はショックを受けるんですね。やっぱり慕っていた人がやめてしまうのって残念ですよね。
京子が「働く意味がなくなった」って言いたくなる気持ち,わからなくはないです。
でも磯田という店員は「逆に谷原さんに憧れて入った人もいるかもしれないじゃないですか」って言うんですけど,彼女も実は谷原に憧れて書店員になったみたいです。
「憧れられるって嬉しいだろうな」って思います。
書店でもいろんな人間模様があって,どこの組織も同じでそれは書店も例外ではないのかなって改めて思いました。
僕が本作品を読んで興味深かったものの一つに,武蔵野書店が「作家を書店に読んでサイン会を開催する」というイベントを企画しているところでした。僕自身はこれまでたくさんの小説を買ってきましたが,未だにサイン会なるものに出会ったことがありません。
ただ以前,書店の入り口に某作家さんの本が山積みになっているのを見て「これ誰だろう?」って興味津々に眺めていたことがありました。
それは「泣くな研修医」シリーズを描いている「中山祐次郎」さんの作品でした。
僕自身は中山先生にゆかりのある土地に住んでいるので,この作品との出会いはかなり衝撃だったんです。
その作家さんを,書店の方々はどんな思いで見ているのか。
これまではこんなこと考えたことなかったですけど,やはり中山先生に来店していただけるように交渉したり,いろいろと苦労もあるのだろうか,と想像したりしました。
こういうイベントって,作家さんにも重要だと思いますが,書店やそこで働く人々にとっても重要で,思い入れのあるイベントなんだろうなって思います。
本作品では,富田という作家が登場し,彼を武蔵野書店に招待するという企画を立てていました。
その富田がどうやら事前に密かに来店してたみたいなんですね。富田という作家は,自分の作品に自信がないように映りました。
新作について,店員に感想を聞くシーンがあるんですけど,作家本人の前では感想を言いにくいようなんです。
ということは,あまりいい感想ではないということですよね。
でも店員は正直にかつての富田のヒット作である「空前のエデン」の方が良かったって言うんです。難しいですよね,僕もこんな時は半分は濁して言うかもしれません。
でも,それを聞いた富田がうろたえてしまうところなどは,この作家もまだまだなのかなって思ってしまいました。
その作品の評価って,人によって異なると思うんですよね。
小説自体は,読み手がどの視点で読むかも異なるし,持っている価値観が違うから,共感することもあれば,逆に「それはちょっと違うんじゃないか」って思ったりすることもあるわけで。
書店と作家のつながりってあまり考えたことがなかったから,本作品でそれを考えさせられるきっかけを知れたかなって思います。
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谷原はいろんな「バカすぎて」な人々に翻弄されながらも,何とか辞めずに働いてました。
そんな時,往来館という出版社の二人が武蔵野書店を訪ねてきます。
「大西賢也の新作のゲラを持ってきた」と。
最初この部分読んだとき違和感があったんですよね。
「そもそも,なぜ一介の書店員に出版前のゲラ,しかも売れっ子作家のものを見せることがあるのだろうか?」
谷原も確実に不信感を持っている様子でした。しかし,ここで意外な展開が待っていました。
実はこのゲラ,主人公が「谷口香子」という名前なんです。そう,主人公のモデルは,本作品の主人公だったわけです。しかもタイトルは「店長がバカすぎて」!『いつも通りの長い長い店長の話に,いつもよりはるかに苛立っているのに気が付いて,私は生理が近いことを思い出した』という書き出し。
まさにこれは谷原京子の物語だったのです。なるほど,そういう展開か。。。。
こんな嬉しいことはないだろうなって思います。自分がモデルになった小説が存在するわけですから。
『毎日理不尽に耐えられるのは,当たり前だけど幸せになりたいからだ。好きな本たちに囲まれ,好きな物語を好きな作家から受け取って,愛すべきお客様のもとへ大切に,大切にお届けする』(本作品より引用)
本作品を読んだことで,書店員の方々の苦労だけでなく,やりがいまで知ることができてとても新鮮な気持ちになりました。
僕自身にも大好きな作家さんはたくさんいます。その作家さんと話したりできたら何と幸せなことだろうと想像できます。小説好きには夢のようですよね。
かつて東野圭吾さんへ「ある作品を読んだことで自分が救われた」ということを手紙に書いて出版社へ送ったことがありました。
まさに「売れっ子作家」の代表格の方なので,その手紙がご本人に渡るとも思ってないですし,返信なども当然期待するわけはなかったのですが,一ヶ月経ったくらいでしょうか,一枚のハガキが届いたんです。
その裏には東野圭吾さんのサインが書いてあったのです!
あの時の感動は今でも忘れません。ちゃんと見てくださったのだな,出版社の方もちゃんと渡してくださったのだなと。
大好きな小説が,さらに好きになって,もっともっと読みたいと思うようになったのはこれがきっかけです。
それを考えただけでも,書店で働く方々の思いというのは,普段から本と接している分,僕以上にすごいものなのだろうなと思います。
● 書店に関わるいろんな人の「バカすぎて」が面白かった
● 書店で働く人々の苦労・やりがいを知ることができた
● 本作品を最後まで読んで,ようやく作者の意図が理解できた