「加賀恭一郎シリーズ」は前作の「祈りの幕が下りる時」で完結って聞いてたので,この作品が出版された時は本当に嬉しかったです。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 突然の事故
4.2 松宮への遺言状
4.3 子供に対する考え方
5. この作品で学べたこと
● 復活した「加賀恭一郎シリーズ」の最新作を読んでみたい
● 不妊治療のメリットとデメリットについて学びたい
● 子供という存在について学びたい
小さな喫茶店を営む女性が殺された。加賀と松宮が捜査しても被害者に関する手がかりは善人というだけ。彼女の不可解な行動を調べると、ある少女の存在が浮上する。一方、金沢で一人の男性が息を引き取ろうとしていた。彼の遺言書には意外な人物の名前があった。彼女や彼が追い求めた希望とは何だったのか。
-Booksデータベースより-
1958年生まれ 大阪府立大学工学部卒業
電気メーカーへ就職後,執筆活動を行う。
これまで出版された作品は100作品ほどあります。
主な受賞歴
江戸川乱歩賞(放課後)・日本推理作家協会賞(秘密,天使の耳)・吉川英治文学賞(祈りの幕が下りる時)・直木三十五賞(容疑者Xの献身)・柴田錬三郎賞(夢幻花)など
ただ,今回の加賀恭一郎はポイントになるところでしか登場しません。
前作まで加賀の後輩であり従弟でもあった松宮が捜査の中心となります。
松宮脩平・・・加賀の従弟。今回の中心人物
加賀恭一郎・・今回の主人公,ではない気が。。。でも存在感あり
汐見行伸・・・二人の子供を中越震災で亡くしてしまう。
汐見怜子・・・行伸の妻。二人の子供を亡くしたことを機に,夫婦仲が悪くなる
汐見萌奈・・・亡くなった二人の子供の妹にあたる。汐見との関係が良くない
芳原亜矢子・・あることを理由に,松宮と連絡を取るようになる
花塚弥生・・・今回の被害者。自由が丘のカフェオーナー
綿貫 ・・・弥生の元夫。何やら怪しい動きをする。。。
1⃣ 突然の事故
2⃣ 松宮への遺言状
3⃣ 子供に対する考え方
新潟に住む妻の実家へ,汐見の二人の子供が行くことになるというところから話は始まります。
何やら嫌な予感がしながら読み始めました。
新潟に住む妻の実家へ,汐見の二人の子供が行くことに汐見は反対でした。
妻の怜子が楽観的なのに対し,汐見は慎重派です。
そして嫌な予感が的中するのです。
ちょうど新潟到着後,中越地震が起こってしまいました。
子供たちは事故によって亡くなってしまうのです。
二人の子供を一度に失うわけですから,その気持ちはちょっと想像つかないです。
「心の整理がつかない」という言葉をよく聞きますが,何となくわかるような気がします。
もし自分の子供たちが同じ目に遭ってしまったらと考えてしまうと。。。
汐見夫妻は崩壊寸前だったんですが,新しい子供を作ろうという話になります。
ただ,高齢にさしかかっていたため,不妊治療を受けることになるのです。
不妊治療には「タイミング法」「人工受精」「体外受精」などといった方法があります。
僕の子供も「体外受精」で生まれましたから,よく知っています。
そしてようやく,一人の子供を身ごもることになるのです。
中越地震から十六年後の話になります。松宮へ一本の電話が入りました。
芳原亜矢子という女性が,末期がんの父である真次の遺言の中に「松宮脩平」の名前が書いてあったことを伝えます。
ん? どういうこと? 松宮って,父親がいなかったんじゃ。。。
松宮自身も当然とても困惑してました。松宮自身も母親を問い詰めても「あんた聞かない方がいいよ」みたいな感じで真実を話してくれないんですね。
ん~,間違いなく松宮の母親とこの真次の間には何かあるんですね。
同時に松宮はある殺人事件を捜査していました。
自由が丘にある「弥生茶屋」というカフェのオーナである花塚弥生が殺害されるんです。
一体,誰とつながりがあるんだろう,って思いながら読んでたら,どうやら汐見と関係があったらしいんですね。
そして,弥生の元夫である綿貫という男も怪しい動きをしている。
とても大事なポイントのような気がするんだけど,何かはわからない。
この入り組んだ人間模様を推理するのが結構難しかったですね。
この時,怜子との間にできた新しい娘の萌奈も十四歳になっていたんですけど,どうも汐見とウマが合わないみたいです。
反抗期ではなさそうなんですよね。これは何か裏がありそう。。。
松宮はその捜査に全力で立ち向かいます。加賀のアドバイスを得ながら。
汐見が弥生茶屋に行ったのは本当に偶然なのか,それとも意図があるのか。
綿貫も弥生の生前整理をしようとしている。どういうことだ?
実はここが大きなポイントとなります!
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生前,弥生は萌奈にこっそり会いにきていました。萌奈は知りません。
綿貫も弥生の幼い頃の写真を何枚か実家から持ち出している。
その弥生の幼い頃と萌奈がそっくりだというのです。
あ~,なるほど。そういうことか。
読みながら,これは「体外受精」に何か秘密があるな,と考えるようになりました。
よく「取り違え」というのを聞きますが,何を取り違えたのか。
精子? 卵子? 違いました。「受精卵」でした。
つまり「医療ミス」だったんです。
つまり,萌奈は汐見の生物学的な子供ではないのです。血がつながってない。
ということは,綿貫と弥生の子供ということになるわけです。
弥生は喜びます。自分たちには実は子供がいたと。自分の体から産まれてなくても,女性の気持ちはそういうものなのでしょうか。
しかし,綿貫には内縁の妻である多由子がいました。
その真実を弥生に知らされた多由子は逆上して,弥生を殺害してしまったのです。
犯人は汐見でも綿貫でもなかったんですね。
この部分を読んだとき「そして父になる」という作品を思い出しました。
あの話は受精卵取り違えではなく,乳児取り違えでしたけど。
血がつながっていない子供を,二つの家族がそれぞれ育てていたという話でしたが,何か今回の話に通じるものがあるなと思いました。
汐見は萌奈にその真実を正直に伝えました。
それを境に汐見と萌奈との関係が改善していったんですね。
萌奈はずっと不信感を抱いていたのでしょう。自分が本当の子供かどうか,と。
そして,松宮はやはり真次の本当の子供でした。
松宮の母親もずっと黙ってたわけだったんですね。
いろいろな親子の姿があるのだなって思います。
先ほど書いたように,僕の子供も「体外受精」で生まれました。
でも,本当に自分の子供かどうかなんて疑ったことはないです。
血がつながっていようがいまいが,自分にとってはかけがえのない息子の一人なんです。
その考え方や価値観に関しては人それぞれだと思います。
血がつながってないと絶対嫌な人だっているとは思います。
先ほどの「そして父になる」ではないですが,血縁の親なのか,育ての親なのか。
これまで生きて,ずっと同じ屋根の下で暮らしてきたわけですから,正直そんなのは関係ないです。
子供は親を選べないし,与えられた環境で生きるしかないわけですから。
汐見と萌奈のスッキリした姿,松宮と母親の晴れ晴れとした姿目に浮かびました。
映像化されたら早く観てみたいですね。
● 不妊治療にも現実的に事故が起こりうること
● いくら過去の事情があろうとも,真実を伝えてほしいと子供は願っている
● 子供は自分の親や,育つ環境を選ぶことはできない
この作品を読めば,子供がいる方はこれまで以上に子供への考え方が変わると思います。
是非,ご一読を!!