本作品,今村昌弘先生のデビュー作です。
「鮎川哲也賞」「このミステリーがすごい」「週刊ミステリーベスト10」「本格ミステリーベスト10」と,何と四冠を達成した作品です。
まさに本格ミステリーという類の作品で,登場人物の設定が「十角館の殺人」を思い出しました。
大学生やミステリー愛好会,合宿で完全に隔離された状況,つまり「クローズド・サークル」での連続事件は「十角館」を思い出した方も多いのではないでしょうか。
2019年に映画化されています。主演は,葉村を神木隆之介さん,明智を中村倫也さん,探偵役の剣崎を浜辺美波さんと,かなりの豪華キャストですよね。
読んでいくと普通のミステリーとはまた違った趣向も味わえます。ゾンビが出てくるし。。。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 本格ミステリーとゾンビ
3.2 犯人はゾンビか人間か
3.3 事件の真相と動機
4. この作品で学べたこと
● 普通の本格ミステリーとは趣きの異なる作品を読んでみたい
● とても複雑・緻密に構成された作品を読んでみたい
神紅大学ミステリ愛好会会長であり『名探偵』の明智恭介とその助手、葉村譲は、同じ大学に通うもう一人の名探偵、剣崎比留子と共に曰くつきの映研の夏合宿に参加するため、ペンション紫湛荘を訪れる。初日の夜、彼らは想像だになかった事態に見舞われ荘内に籠城を余儀なくされるが、それは連続殺人の幕開けに過ぎなかった。たった一時間半で世界は一変した。数々のミステリランキングで1位に輝いた第27回鮎川哲也賞受賞作!
-Booksデータベースより-
葉村譲・・・・主人公。ミステリ愛好会に所属
明智恭介・・・ミステリ愛好会での中心人物
剣崎比留子・・葉村と明智とともに,合宿に参加。探偵少女
進藤歩・・・・映画研究部部長
星川麗花・・・進藤の恋人
静原美冬・・・映画研究部の部員
七宮金光・・・映画研究部のOB。昨年の合宿にも参加
立浪波流也・・映画研究部のOB。昨年の合宿にも参加
出目飛雄・・・映画研究部のOB。葉村の腕時計を盗む
1⃣ 本格ミステリーとゾンビ
2⃣ 犯人はゾンビか人間か
3⃣ 事件の真相と動機
神紅大学に葉村という大学生がいました。彼は同大学のミステリ愛好会の明智に勧誘されます。明智の弟子というか,ホームズとワトソンのような関係。
葉村自身は認めてないようですけど。。。
夏休みのある日,二人は映画研究会が主催する「紫湛荘」(しじんそう)というペンションでの合宿に参加しようとします。
ところが「コンパ」色の強いこの合宿,映研から断られてしまいます。
そこに現れたのが剣崎比留子という女性。彼女はどこかのお嬢様でキレイなんですが,頭脳の優れた女性です。その女性がいるのならと合宿への参加を許可されます。
ところがその映研には脅迫状が届いていました。
「今年の生贄は誰だ」どうやら去年の合宿時に,メンバーの誰かが自殺してしまったようです。
それでも,合宿には多くの学生が集まります。
葉村,明智,剣崎以外にも映像研究会のメンバー,そしてOBも含めて総勢14人。
普通だったら不気味で行くのをためらいそうです。脅迫状も不気味ですし。
その辺りはミステリーをこよなく愛する者の考え方はまた違うのかもしれないですね。
合宿が行われるの紫湛荘の近くでは「サベアロックフェス」というライブが行われる予定でした。
しかしどうもこのライブで大変なことが起きそうです。いや,そもそもこのライブは実在するものなのか。
車中にいる何者かが注射針を使用して,何人かの人間に「何か」を注射するシーンが。
「スライドドアを開け,保菌者となった男が踏み出した」一体,この保菌者とは何者なのか。
ところで,合宿所である「紫湛荘」についた参加者の面々は早速行動を開始します。
まずはバーベキューを始めます。そして合宿の夜の恒例の「肝試し」も行われます。
いや~,本当に嫌な予感しかしない。そして事件が起こります。肝試し中に人影が現れます。
どうも普通の人間ではない。何か「ゾンビ」らしきものが現れ,次々とメンバーを襲うのです。ゾンビ? ミステリーにゾンビっていうのも違和感ありましたけど,どうやら本物のゾンビのようなんです。
なるほど,さっきの「保菌者」がこのゾンビというわけですね。
ゾンビなんて久しぶりに聞いたな。かつてそんな映画があったな,って思い出しました。
慌てて逃げ惑う合宿に参加している面々。「紫湛荘」に逃げ込みます。
攻撃しても次々襲いかかり,噛まれた者すらもゾンビにしてしまう。
正義感の強い明智もメンバーを守ろうと必死になるんですけど,ここでいきなり思わぬ事態が。。。
何と,あの明智もゾンビに攻撃されてしまうのです。いきなり主役だと思っていた人物がゾンビと化すのです。
人間とゾンビとの戦いか? でもタイトルには「殺人」とある。
この状況下で次々と殺人事件が起きてしまいます。
ゾンビたちはとうとう紫湛荘のバリケードを突き破り,一階からゾンビが侵入してきました。そしてとうとう一階を占拠されてしまいました。合宿メンバーたちは慌てて二階へ。ゾンビたちが上がってこれないようにバリケードを作ります。
観たことはないけど,バイオハザードみたいな感じでしょうか。
ただでさえミステリーの恐ろしさがあるのに,また違った怖さも加わります。
電話がつながらない,助けを呼ぶこともできなくなってしまいました。
逃げられない空間で,精神的人もまさに極限状態になってしまいます。まさに「クローズド・サークル」
この状況を利用して,殺人事件も起きてしまいます。ここが本作品のポイントです。
人間 vs ゾンビの話だけではないんですね。
第一の事件の被害者は映研部長の進藤でした。
自分の部屋の中で殺害されていましたが,紫湛荘の個室はオートロックがかかるので「密室殺人」です。
進藤の死体はゾンビに噛みちぎられたようでしたが,明らかに他殺だという証拠がありました。
それは,進藤の部屋の中からも外からも「いただきます」「ごちそうさま」という謎の紙が差し込まれていたからです。確かにゾンビにも攻撃されていると思いますけど,このメッセージだけはゾンビの仕業ではない。
つまり進藤を殺害した人間が確実にいたということになります。
そして第二の殺人が起きてしまいます。OBとして参加していた立浪という人物です。
立浪はエレベーターに乗せられ,ゾンビに噛まれてしまいました。
ただ,頭を何かで殴られた形跡もあります。
いやこれもゾンビの仕業だけではない。何者かが絡んでいるはず。
さらに第三の被害者が。。。最後の被害者はまたもOBの七宮でした。
七宮は自分の部屋にこもっていたのはずなんですけど,なぜか死んでいました。
今度はゾンビによる攻撃の形跡はない。つまり七宮はやはり合宿に参加したメンバーの何者かに殺害されたということになります。
しかも何かしらの毒物が使われた可能性が高いようです。
それにしても,二人続けてOBなんて,これって過去に何かあったんじゃないのって思ってしまいます。脅迫状もあるし。
犯行のためにゾンビを利用したかもしれない。
しかし,3人を殺害したのは確実に「人間」が関わっているようです。一体誰の犯行なのか。密室トリックを破れないということは,共犯者がいるのか。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
今回の事件を推理するのは「探偵役」の剣崎比留子です。
彼女のすごいところは,合宿のメンバーの発言,行動などを集約し,真犯人をつきとめたところでした。
第1の殺人は,真犯人の犯行ではありませんでした。進藤の彼女である星川がゾンビに噛まれてしまい,自分の部屋に匿っていた時の事件でした。
比較的軽傷だった星川をベッドに横たえていましたが,徐々にゾンビ化していきました。
そしてとうとう星川は近くにいた進藤をかみ殺してしまったのです。
それに一早く気づいた人物が今回の真犯人です。
これを目撃したのが静原です。「いただきます」「ごちそうさま」と書かれた紙を使って密室殺人に仕立てていた。
二枚もの紙を残したのは,進藤が生きているうちに星川を殺害したと思わせたいため。
そして第2の殺人について。
殺害された立浪は,まず真犯人に睡眠薬によって眠らされた状態でエレベーターで1階下ろされます。
そこでゾンビに攻撃を受け,彼はゾンビになりました。
問題はなぜそこから二階に戻しているのか。そして真犯人はそこでも頭を破壊し殺害しています。
なに「二度」も殺害されなければならなかったのか。
最後の第3の殺人について。
七宮はゾンビにされられました。その方法が「目薬」です。
七宮が使用していた目薬の容器中に「ゾンビの血」を混入させたのです。
真犯人はそこ場に葉村とともに現れ,襲われた葉村を守る形で頭を突き刺し殺害したのです。
この七宮もある意味「二度」殺害されていることになります。
そしてとうとう剣崎の推理により真犯人が判明します。真犯人は静原美冬でした。
彼女の殺害動機は一体なんだったのでしょうか?
それは昨年合宿に参加した遠藤沙知という女性のための復讐でした。
沙知は静原のことを妹のように慕っていました。
ところが昨年のロックフェス研究会の合宿で七宮と立浪に弄ばれ妊娠してしまったのです。
このことを苦に,沙知は自殺してしまいます。
今回の静原には共犯と呼べる人物がいました。葉村です。実際には葉村は殺害に関わっていませんが,ある意味「殺人ほう助」とでも言うべきか。
ゾンビが合宿所にやってきたのは静原にとっては想定外だったようです。
しかし、七宮と立浪をゾンビにしてから,自らの手で殺害する。
つまり「二度殺す」ことで、沙知と妊娠していた子の二人分の復讐をしようと思いついたのでした。
本作品の途中に下記のような記述がありました。
世の中にはどうしようもないクズがいる。
奴もその一人。あの憎き男どもの同類だ。
何とか目的は達した。
ただ,彼女には申し訳ないと思う。
彼女が事件解決に奔走していると知りながら,俺は嘘をつこうとしている
これ,真犯人の言葉だと思ってました。しかも男性。
実はあの葉村の言葉だったのです。完全にミスリードでした。
彼は出目というメンバーから腕時計を盗まれていました。
かつて震災で被災した葉村にとって,大切な腕時計が盗まれることは,被災時に自分の家屋の中から金品類を盗んでいった人間だちと同類だと。
葉村は盗られた腕時計を取り戻す瞬間を静原に目撃されていたんです。
だから静原の復讐を見て見ぬふりをしたのです。つまり,先に書いたのは「葉村の思い」でした。
剣崎には申し訳ないと思いながらやった行動も,剣崎には全てお見通しだったのです。
葉村は償いのため,これからは剣崎のパートナーとして尽くすことを誓ったのでした。
屍人,つまりゾンビが登場する本作品。まさかそういうシチュエーションの作品だとは思ってませんでした。
普通のいわゆる「本格ミステリー」に,バイオハザードのような怖さを併せたような作品で,読みながら混乱した部分はありました。
まさか探偵であろう「明智」という名前の人物がすぐにゾンビになるとは思わなかったし,女性が探偵役というのも以外でした。
この剣崎が続編である「魔眼の匣(はこ)の殺人」の探偵役となります。
次はこの続編を読んでみようかな。
● 本格ミステリーに新しい試みを入れたような作品だった
● 続編を読んでみたい
● 映像化された映画にも興味が出てきた。まだ観てません。