Cafe de 小説
専門知識を学ぶ

【天空の蜂】東野圭吾|約30年前に原発を描いた小説

天空の蜂

この作品は1995年の作品で,原子力発電のことが描かれています。

ビッグBと呼ばれる巨大なヘリに爆薬が仕込まれ,「新陽」という原子力発電所の上空でホバリングし,日本国政府を脅迫するという話です。

現在稼働している原発を全て停止し,また建設中の原発も建設中止せよ!

20年の時を超え,2015年にようやく映像化された本作品についてです。

こんな方にオススメ

● 原発について考えてみたい

● 本作品の「天空の蜂」とは何かを知りたい

● 「天空の蜂」の映像化までに20年かかった理由を考えたい

作品概要

超大型ヘリ「BIG-B」が乗っ取られた。無人操縦で飛行するヘリに搭乗しているのは一人の少年。ホバリング位置は原子炉の真上。国内すべての原発を使用不可にしなければ、エンジンは停止し落下する――日本国民全員を人質にしたテロが始まった。怒濤のクライムサスペンス
-Booksデータベースより-




👉Audibleを体験してみよう!

主な登場人物

湯原一彰・・・主人公。巨大ヘリ「ビッグB」の開発者

三島幸一・・・湯原の同僚。原子力技術者

本作品 3つのポイント

1⃣ 原発の恐ろしい部分

2⃣ 日本政府への脅迫

3⃣ 「天空の蜂」の映像化

原発の恐ろしい部分

原子力発電についてはいろいろな作品で扱われています。

1963年に日本発の原子力発電所が建設されました。

それ以来,日本は全国に原子力発電所を建設し,徐々に原発に依存していくようになります。

(日本経済新聞より)

1973年のオイルショックもあって,石油資源に依存しないという考え方がそれを加速させたという経緯もあると思います。

原発は日本でも研究され,徐々に効率の良い発電方法へと発展してきました。

しかし,原子力発電の一番の恐ろしい部分というのは,「放射能」を放出するということではないでしょうか。

よく「臨界」という言葉を聞きますが,意図的に制御されている状態ならよいものの,人間がコントロールできていない臨界というのはまずいです。

過去にも1979年にアメリカの「スリーマイル島」での事故,1986年には旧ソ連での「チェルノブイリ」の事故というように,次々と事故が起こります。そして1999年には日本の「東海村」でも臨界事故が発生しました。

これらは人間の操作ミスによるものだということですが,放射能の恐ろしさを改めて考えさせられる出来事だったのではないかと思います。

実はこの作品が刊行された1995年というのは,重要な2つの出来事が起こっています
福井県にあった高速増殖炉「もんじゅ」の事故です。

「もんじゅ」は冷却材として液体金属ナトリウムという物質を使用していましたが,これが漏洩して火災が起きたということです。

冷却材といっても280度の原子炉を冷却するわけですから,火災につながる可能性も容易に想像できます。

冷却に失敗すれば,原子炉内のメルトダウン,そして爆発,放射能放出という恐ろしい事態にもなりかねません。

もう一つは「阪神淡路大震災」です。

時系列的には「もんじゅ」の方が後ですが,もしこの大震災が原発周辺で起こっていたらと思うと本当に恐ろしくなります。

今回の作品の「新陽」という原発はこの「もんじゅ」をイメージして作られたのではないかと思います。

日本政府への脅迫

作品内では,巨大ヘリを「天空の蜂」と表現し,日本への脅迫が行われます。

巨大ヘリである「ビッグB」の開発者の湯原は,暴走して上空にいるヘリを何とか制御しようとするが,なかなかコントロールができない状態でした。

そのヘリには,無断で侵入した子供が閉じ込められていました。

日本のすべての原発をストップさせろ!

テログループからは上記の犯行声明が出されました。さもなくばヘリを原発に落下させるということなのでしょう。

何とかヘリが落下するのを回避したい湯原。コントロール不能になったヘリを必死でコントロールしようと試みます。

ここで原発について。

日本の原発を止めるということが日本にとってどういうことかはいろいろな意見があると思います。

2011年の「東北大震災」が発生するまで,日本では54基の原発が稼働していました。

発電量も全体の30%前後を供給してきていたわけですから,それが「全停止」となると大変なことになるだろうという想像はつきます。

そして先に書いたとおり日本は原発を推進してきたという事実もあります。放射能の怖さもあります。

それだけに「東野先生はよく日本を脅迫するというストーリーを描いたな」と思うわけです。

作者はこの作品を描くために多くの本を参考にしていますし,原発の仕組みや怖さについてかなり調べ上げています。

1995年当時を思えば,この作品を出すことにはストップがかかりそうな気がします。

原発の恐ろしさを描くことはタブーだったのではないかと思うのです。

この作品の中の登場人物による脅迫というより,東野圭吾先生からの「警告」のような作品であると感じるのです。

「天空の蜂」の結末と映像化

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

👈クリックするとネタバレ表示

何とかヘリのコントロールに成功した湯原は,ヘリを近くの海に墜落させることに成功します。

高速増殖炉に落下していれば,放射能が漏れ,日本全体が大変な状態になっていたのをギリギリで防ぐことができたのでした。

テロリストのメンバーには湯原の同僚もいました。ショックを受ける湯原。

しかし,テロリストたちの目的はなんだったのか。

その原因は三島の仕事にありました。原発開発者として働く三島。彼の息子が周囲から虐められ,身を投げて亡くなっていたのです。

そして三島は自分の仕事に疑問を感じているようでした。そこで考えたのが,日本,そして日本国民への「問題提起」だったのです。

このまま稼働を続けていけば,日本は万が一の時に大変なことが起こってしまうと。

そこまで考え,東野先生は本作品を作り上げたのだなと思いました。

本作品の映像化は「ストップ」されていたのではないかと思うことがあります。

当時は作者も現在ほどのヒットメーカーではなかったでしょうが,それでもあの当時に映像化することは難しかったのではないでしょうか。

安全である原発の恐ろしい部分を誇張し,もしこの作品を出したらどうなるのか」と,作者も出版社などの関係者も考えたのではないかと思います。本当のところはわかりませんが。。。

作者がどれだけの思いでこの作品を作り上げたか。読めばそのすごさがわかります。

多くの人々は原発の恐ろしさを2011年より前に感じてたかというとほとんど感じていなかったように思います。

放射能は確かに怖い。かの原爆と同じ仕組みを利用しているわけですから,建設に反対する人も多かったでしょうし,そこには多くのカネが動いたのではないかとも思います。

でも,日本が安全というんだから大丈夫なんだろうと,僕自身は思ってました。

でもその考えは2011年の「東北大震災」により見事に崩れ去りました。

福島原発のあの生々しい事故映像を見せられ,原発の恐ろしさが身近にあるものだということを感じたように思います。

メルトダウンって何? 何で爆発が起きたの? 一体,何が一番の原因だったの?

津波により電源が供給できず,冷却水も流せず,とうとう原発は大惨事を迎えたわけです。

その怖さを作者は約30年前にすでに描いていたのです。

原発の構造や冷却の仕組みや,そこに異常が起きた時の怖さなど。まるで,この大震災を予言していたかのように。

誰も入り込めなかった「天空の蜂」の映像化が実現できたのは,あの震災があったからではないでしょうか。

30年という月日の理由はそこにあるのではないかとも思うのです。

この作品で考えさせられたこと

● 原子力発電には恐ろしい一面も存在する

● その恐ろしい一面を調べ上げ,約30年前に描き上げた作者のすごさ

● 2015年の映像化までには紆余曲折があったと想像できる

こちらの記事もおすすめ