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【天使のナイフ】薬丸岳|少年犯罪を考える

天使のナイフ

薬丸岳先生のデビュー作にして「江戸川乱歩賞」受賞作品です。

しかも受賞した時は「満場一致」での選出だったようです。すごいですよね。

以前,薬丸先生の作品「Aではない君と」について書きましたけど,薬丸先生の作品は本当に面白いし,そして深い。

Wikiにも書いてありますが,薬丸先生が本作品を描こうと思ったきっかけは,高野和明先生の「13階段」だそうです。

やはりテーマは「少年犯罪」です。それで真っ先に思い出すのは「少年法」です。

少年法

これまで多くの議論がなされていて,小説でもこの「少年法」について扱われた作品はとても多いように思います。

「なぜ,少年は裁かれないのか」

世の中にこんな疑問を持つ方は多いと思います。

読んでいけばわかりますが,本当に深い。受賞した理由がわかるような気がします。

薬丸先生の名を広めた渾身の一作です。

こんな方にオススメ

● 少年法について考えてみたい方

● 薬丸先生のデビュー作にして受賞作品を読んでみたい

● 衝撃の真犯人を知りたい

作品概要

娘の目の前で、桧山貴志の妻は殺された。犯人が13歳の少年3人だったため、罪に問われることはなかった。4年後、犯人の1人が殺され、桧山が疑われる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」。法とは、正義とは。デビュー作にして、少年犯罪小説・唯一無二の金字塔。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

桧山貴志・・・主人公。カフェのオーナー。妻を殺害される

桧山愛実・・・貴志の娘で,保育園に通っている

桧山祥子・・・貴志の妻で,4年前に少年たちに殺害される

早坂みゆき・・祥子の友人で保育士をしている

沢村和也・・・貴志の妻を殺害した少年グループの一人。少年B

仁科歩美・・・貴志の店のアルバイト店長

本作品 3つのポイント

1⃣ 少年法に護られた少年たち

2⃣ 真実を知ろうとする主人公

3⃣ 衝撃の真犯人

少年法に護られた少年たち

カフェを経営し,一人娘の愛実を一人で育てながら生活しているシングルファーザーの桧山貴志。貴志貴志の妻である祥子は4年前,少年のグループに殺害されていました。

愛する娘が寝るベビーベッドに覆いかぶさるように殺害された祥子。当時生後5ヶ月だった娘も保育園に通い始めていました。

祥子には仲が良かった早坂みゆきという保育士の女性もいて,貴志はこのみゆきにも頼っている部分があったようです。

そんな時,埼玉県警の三枝が部下の長岡とともに貴志の前に現れます。刑事「その後,どうですか?」

おそらくかつての妻殺害の事件に気を遣っての言葉なのでしょうが,その刑事から意外なことを聞かれます。

「大宮公園にはよくいらっしゃいますか?」

何を聞かれているかわからない様子の貴志。どうやら大宮公園で殺人事件があったようなんですね。

その被害者は「沢村和也」という名前でした。貴志は理解できません。しかし「少年B」という言葉を聞いてピンとくるのです。少年ABCそう,かつて自分の妻を殺害した少年グループの一人です。

それを聞いた貴志は,祥子が亡くなった頃を思い出すのです。

祥子は高校時代からブロードカフェでアルバイトをして,その給料を貯金しており,それは500万円以上にもなっていました。

しかし,事件の一ヶ月前に約500万円が下ろされていたのです。一体,何のために。。。

どうやら犯人グループは3人いたようです。少年A・B・Cとして。

この三人は裁かれなかったんですね。「少年法」によって護られたわけです。

どうしても許せない。マスコミの前にも出てきた貴志は訴えるのです。

国家が罰しないのなら,自分のこの手で殺してやりたい!」と。貴志被害者遺族としては当然そう考えると思います。この憤りをどこに置けばよいのか。

しかし,この少年法を改正する動きも出てきていました。それは1993年に起きた「少年マット死事件」です。

少年マット死事件
1993年(平成5年)1月13日に、山形県新庄市の中学校1年生の男子生徒A(当時13歳)が、用具室に立てて置かれていたマットの中に逆さに突っ込まれ、窒息死しているのが発見された事件

家庭裁判所と上級審で異なる判決が出てしまったこの事件で,一人の裁判官で全てが決定づけられるという,少年裁判の難しさが露呈しました。

そして2001年,少年法が改正されます。未成年であっても,14歳以上であれば刑事罰を課すことが可能になりました。

4年前に13歳だった少年たち。現在は18歳くらいになっているはず。貴志は考えるのです。

「事件後,彼らは児童自立支援施設でどのような生活を送り,自分の犯した罪をどう考えているのか

自立支援施設果たして,少年たちは「更生」したのでしょうか。

真実を知ろうとする主人公

少年Aとは八木将彦,少年Bは先に書いたように沢村和也,少年Cは丸山純でした。

彼らは同じ施設にいたわけではなく,別々の施設にいたようです。

万引きや恫喝の常習犯でもあった八木は,強制的に行動が制限される国立の施設へ,沢村は埼玉県の施設,丸山は保護観察となっていたようです。

同じ罪を犯しても,余罪の有無や普段の行動・言動などでも処分が変わるみたいですね。

ここで貴志は,祥子の事件の時にやりとりのあった貫井というジャーナリストに偶然会います。

その貫井からある年賀状を受け取るのです。それはあの八木が友人に宛てたものでした。「元気にしてるか~。俺はようやくみそぎが済んで,別荘から帰ってきたぜ。。(以下省略)」

何かこんなセリフを聞くと,全く反省してないんじゃないのかって思いますよね。

この年賀状を見た貴志は当然怒りが充満する思いにかられます。しかし同時に貴志は八木の住所を掴みました。

貴志はある日,沢村と付き合っていた友里という女性と出会います。

彼女は貴志が自分の彼氏を殺害したと思い込んでいたようで,攻撃しようとします。

貴志は自分が沢村には手を出していないことを伝え,友里も落ち着きました。

一体,沢村には何があったのでしょうか。

どうやら沢村は,八木を探していたようなんですね。ここで貴志の前に現れたのが弁護士の相沢です。「なぜ八木を探しているのか」と。

さらに相沢は「八木は更生中である」ということも伝えます。更生更生」って一体何なんでしょうか。心を入れ替え,勉学に励み,立派な社会人になることなのか。それとも二度と犯罪を犯さないようにすることなのか。

貴志は本当に八木が更生したのか,本人と話をしたいようでした。

そんな時,再び三枝刑事が現れます。

「池袋駅で高校生がホームから転落した時,あなたはどこにいましたか?」

何と,その転落した人物は丸山純でした。つまり少年C。命は取り留めたようです。

実はこの時,貴志は八木を追って池袋駅にいました。ひょっとして八木が絡んでいるのか。。。

衝撃の真犯人

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ある日,貴志の元に一本の電話がかかってきます。無言の電話。

貴志は「ハッ」とします。八木がかけてきたのではないのか。

案の定それは八木からでした。更生,贖罪という言葉を伝えようとする貴志ですが,八木からの反応は「なんじゃそりゃ」です。とても更生しているようには思えない。

逆に八木の方から「あんたに見せたいものがある」と言われます。

さいたまスーパーアリーナで待ち合わせをした二人。さいたまスーパーアリーナそんな時,娘の愛実の様子がおかしいと連絡が入ります。痙攣を起こし,顔面蒼白。
貴志は自分を責めます。愛実を見ていなかった自分への罰だと。

しかし,どうにか容体は落ち着きます。そんな時,また三枝刑事が現れます。

「八木将彦が殺されました」

えっ? という感じです。全てを握っていたのは八木だと思っていましたから。

いろいろ調査をしていくうちに,貴志は違和感を感じたことが出てきます。

かつて祥子が幼い頃に過ごした場所の話です。祥子の実の母親も何かしら知っているようですが,話そうとしません。

貴志は「昔,ここで祥子に何かあったのだ」と考えるようになります。

そして重大な事実を握るのです。祥子は実は中学三年生の時「女子少年院」で過ごしていたのです。少年院そうなると,みゆきが祥子と昔からの知り合いというのにも疑問が湧いてきます。

貴志はみゆきに「祥子に一体何があったんですか」と詰め寄ります。

祥子は少年たちに殺害されました。しかしそれは偶然ではなく「必然」だというのです。

そしてとうとうみゆきは語り始めます。「祥子はかつて人を殺した」と。

祥子は滝沢という教師を殺害していたのです。

そして驚愕の事実が明らかになります。

主犯は何と,貴志の店でアルバイトをしている歩美でした。歩美実は歩美はあの滝沢という教師の娘だったのです。そして丸山純ともつながりがありました。

丸山は八木と沢村を脅迫し,祥子を殺害させようとしました。その証拠ビデオを歩美が撮影していたのです。

歩美は,自分の父親が殺害され,その殺害した女性,つまり祥子の方は結婚して子供も生まれ,幸せに生きているということが許せなかったんですね。許せない貴志は自分の妻が過去に殺人を犯したことを知り,被害者だけでなく,加害者としても生きる道すじを訴えようとしたのでした。

少年法と更生と贖罪。その3つについて深く考えさせられる話でした。

「神戸児童連続殺傷事件」では,加害者が14歳だったこともあり,少年法は対象年齢を16歳から14歳に引き下げられるきっかけにもなりました。

それでも13歳以下の少年たちはこの法律によって護られている部分があります。

加害者が「更生する」というのは,何をもってそう判断できるのだろう。

少年院で生活し,更生したと判断して社会に戻し,二度と同じ過ちを犯さないようにすること。それで更生されたと判断できるのだろうか。

更生少年法というのは,加害者である少年たちの更生が目的が第一であり,被害者にはその後彼らがどうなったかは知らされないようです。

刑事罰を課せられない彼らは起訴されないので前科がつかない。

被害者や被害者遺族の気持ちがおざなりになっている印象があるのは僕自身だけだろうか。

少年だろうが成人だろうが,殺人という重い罪を犯した人間は一生かかっても被害者遺族に対し,贖罪を続けなければならないのではないか。これが遺族の気持ちだろうと思います。

それができる環境にないから,また同じ過ちを繰り返し,復讐がさらなる復讐を生んでしまうのではないか。

未熟な少年たちを守るのは,少年法ではなく,親や教育者や,大人である我々の使命であると思います。教育人生の早いうちに「なぜ命を奪うことがよくないのか」を徹底的に教育する必要があるとは思うけど,実はそれがとても難しい。

ただ道徳の授業を学ぶだけではなく,なぜ人を殺めてはいけないのか,それを加害者,被害者の両方の視点から伝えていかなければならないと思います。

本当に難しい課題だと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 少年法について深く考えさせられた

● 更生,そして贖罪とはどうあるべきなのか

● やはり復讐は更なる復讐を生んでしまうのか

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