2013年に「柴田錬三郎賞」を受賞した作品です。
「柴田錬三郎賞」は集英社が主催となっており,柴田先生の功績を称え1988年に創設された栄誉ある賞です。もちろん受賞者のほとんどは有名な作家先生ばかりです。
それが本作品を読もうというきっかけにもなりました。
タイトルの「夢幻花」って何だろう? タイトルにひかれて本屋で手に取ったのを覚えています。
1964年の東京オリンピックの頃からの話になっていて,時代が流れるとともにある「幻の花」に翻弄される人々が描かれています。
読み進めていきながら,バラバラだった線が最後にはその「幻の花」一点で交わる瞬間の感動というか,脱力感はとてもすごかったです。読み進める手が止まらず,数時間で一気に読了したことを思い出します。
「幻の花」は本当に存在するのか,人々にどんな影響を与えてきたのかが大きなポイントとなっている作品です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 幻の「黄色い花」
3.2 真相に迫る蒼太と梨乃
3.3 「夢幻花」と呼ばれる理由
4. この作品で学べたこと
● 「夢幻花」の意味を知りたい
● なぜ「黄色い花」を秘密にしようとする人間がいるのかを知りたい
● 多くの人が亡くなった事件の真相を知りたい
殺された一人の老人。手がかりは、今は存在しないはずの黄色いアサガオ。深まる謎、衝撃の結末、一気読み必至の柴田錬三郎賞受賞作。
-Booksデータベースより-
蒲生蒼太・・・大学院生。要介の腹違いの弟
秋山梨乃・・・東京の大学生。周治の孫
秋山周治・・・梨乃の祖父。幻の花を研究している。
蒲生要介・・・警視庁の役人。蒼太の腹違いの兄
鳥居尚人・・・梨乃の従兄。自殺で亡くなる
大杉雅哉・・・尚人と共にバンドを組むメンバー
早瀬亮介・・・刑事で,周治が殺害された事件を追う
伊庭孝美・・・蒼太が朝顔市で会った女性。恋仲になる
田原昌邦・・・歯科医師で,朝顔の生態に詳しい
工藤アキラ・・ミュージシャン。別荘を持っている
田中和道・・・工藤が所有する別荘の前の所有者
1⃣ 幻の「黄色い花」
2⃣ 真相に迫る蒼太と梨乃
3⃣ 「夢幻花」と呼ばれる理由
秋山周治という老人がある花の研究をしていました。その花は幻の花で,自宅でも多くの花を鉢に植え,育てていました。周治には梨乃という孫がいました。彼女は自殺してしまった従兄であった尚人の葬式に出席していたところ,周治と久しぶりに会います。
それがキッカケで,梨乃は周治の家に時々遊びに行くようになります。
花の研究に没頭する周治は,梨乃に「花の生育記録を写真集として出せないか」ということを相談します。
梨乃はそれをネット上の「ブログ」として公開してはどうかと提案するのです。これを機に頻繁に訪問するようになった梨乃。
ある日,周治の家で見たこともない「黄色い花」の写真を目にします。「これ,何の花?」と。
なぜか周治はこれに答えないんですね。これが「夢幻花」と関係あるのか。何か怪しいです。
このことは秘密にしようということになります。
しかしここで思わぬ事件が発生します。周治が殺害されてしまったのです。
早瀬亮介という刑事が動きます。なぜ周治は殺害されたのか。捜査を続けますが,これと言った証拠も乏しく,迷宮入りの予感が漂ってきます。
周治の庭にある鉢を眺めていた梨乃はあることに気づきます。
「黄色い花」の鉢だけが無くなっているいたのです。周治が殺害された事件と関係あるのか。ここで蒲生要介という人物が現れます。梨乃に「黄色い花」について聞きたいことがある様子。そして,そのブログを封鎖することにしました。
何かあるこの「黄色い花」。なぜみんな頑なに秘密にしようとするのか。本当に謎です。
実は要介は警視庁の人間でした。ん? 警察もこの花を追っている? いや誰かを追っているのか?
要介には蒼太という弟がいて,梨乃と会います。そこで「黄色い花」の写真を見せられた蒼太。かつて毎年行われる「朝顔市」で見たことがあったことを思い出します。一体この「黄色い花」はその「朝顔」なのか。なぜ警察が追っているのか。
亡くなった梨乃の従兄の尚人ですが,彼は元々バンドを組んでました。尚人はいませんが,バンドのライブに梨乃は蒼太を誘って行くことにします。そのメンバーの中に蒼太は見覚えのある女性を見つけます。伊庭孝美です。蒼太は朝顔市で彼女と偶然会い,恋仲になったことがありました。
しかし,親に反対されてしまいます。孝美からも会わない方がいいと言われ,蒼太はショックを受けたということがあったんですね。何かこれも怪しいですよね。
いろいろと調査をする梨乃と蒼太。田原という男性が朝顔の研究をしていることを突き止めます。そして「黄色い朝顔」のことを聞くのです。
黄色い朝顔の存在は認めていて,彼は「夢幻花」と呼んでました。やはり夢幻花=黄色い朝顔だったわけですね。
田原から,梨乃と蒼太は黄色い朝顔を育てる難しさを聞きます。そして田原が持っていた社員の中にあの「孝美」が写っていたのです。
やはり孝美も黄色い朝顔とつながりがあるようですね。そして孝美は大学の薬学部を卒業しているようです。薬学部か。。。ん~,何か関係あるんだろうか。。。
孝美はどこにいるのか。聞き込みをすると,どうやら工藤アキラというミュージシャンの別荘にいることがわかります。実は亡くなった尚人,どうやら黄色い朝顔のことを知っていたようなんですね。それで孝美が近づいてきた。尚人は何を知っていたのか。。。
もう怪しいことだらけです。とにかく,梨乃と蒼太は別荘に向かうことになるのです。
ここから黄色い朝顔の真相へ一気に迫っていくことになります。
大きなポイントになるこの別荘。一体何があるのか。
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工藤の別荘は,ある人物から買い取ったものでした。その人物を田中和道と言います。
田中はマリリン・モンローの大ファンで,1962年にモンローが亡くなったことを機に自暴自棄になり,8人を殺傷して自分自身も自殺するという「MM事件」が起こっていました。
そして驚くべきことに,その8人の中には蒼太の実の母親である志摩子も関係していたのです。
「何かを隠している」蒼太は,要介をはじめ家族全員が何かを秘密にしていることを悟ります。
一方,刑事の早瀬は周治の家から消えた「黄色い花」を盗んだ犯人を掴んでいました。
早瀬の持っている封筒の中には「黄色い花の写真」「福万軒という洋食店の食事券3枚」です。
これで要介は確信するのです。事件の真相を。そして「大杉雅哉」という尚人の親友だった男を連行していくのでした。ここで真実が明かされます。とうとう梨乃と蒼太は真相に辿り着くのです。
音楽に没頭していた尚人と雅哉。バンドを組んだものの,彼らは壁にぶつかっていました。
その時彼らが相談していたのが工藤アキラです。彼はなぜか黒い植物の種を渡していました。
実はこの種こそが「黄色い朝顔の種」だったんですね。この種にどんな意味があるのか。
それはこの種を体内に入れるとトリップ状態というのでしょうか,麻薬と同じ効果が得られるらしいのです。
そのおかげで,数々の音楽を作ることができ,成果を出すのでした。しかし,徐々に彼らは麻薬中毒に侵されるのです。
無限にあるわけではないこの種。これを尚人は周治に渡すのです。育てて増やしてもらうために。
しかし,中毒になっていた尚人は自殺してしまいます。恐ろしい「種」です。
周治が鉢で育てていた黄色い花,それを雅哉が盗んだということなのです。
周治を殺害したのは雅哉だったんですね。これでようやく真相に辿り着いた気がします。
黄色い朝顔,まさに「夢幻花」という名前がの意味。実は「種」に問題があったということなんですね。
では,要介は一体何を捜査していたのでしょうか。真相に辿り着いた蒼太に真実を話始めます。
江戸時代からこの「種」の影響は知られていたようです。そして食されていたんです。
幻覚作用という影響がどんどん出始め,幕府は使用を止めます。
麻酔薬として利用するようになるのです。今の麻薬と同じですね。
やがて時代は明治に入り,内務省はこれを「自白剤」として利用するようになります。
その研究を依頼されたのが伊庭家。そう,孝美の家です。
そうか,だから蒼太と孝美は会えなくなったんですね。しかもその孝美を使って調査させていたのが要介。
かつての内務省にいたのが要介の曾祖父だったんです。
親子三代に渡って守ってきた秘密の種。しかしこの種が外部に流出。とうとう事態は一般市民へと影響するようになってしまいます。
それを裏ルートで管理していたのが別荘の持ち主の田中,そして別荘を受け継いだ工藤アキラだったんです。
これで全てが「黄色い朝顔」いや「夢幻花」一点で交わりました。
タイトル通り「夢幻花」を中心に全ては動いていました。というより動かされていたというべきでしょうか。
半世紀,いや江戸時代からこの花の存在によって周囲の人間達が翻弄されてきたわけです。
多くの人々が「負の遺産」を抱えていたんですね。
話の始めからモヤモヤしていた部分も,ラストの結末を読んでスッキリしました。
世の中には、何かしら「負の遺産」を背負って生きている人もいるのだなと思います。
それを自分の欲のために利用しようとする者,そして防ごうとする者。
いずれにしても,過去は変えられないわけです。
その血を受け継いでいることを自覚し,負の遺産というものも受け止めている蒼太や梨乃や孝美たち。
未来を変えるために目の前のことに向き合おうとする彼らの姿に感動しました。
スケールの大きい,とても良い作品だったと思います。
● 「黄色い朝顔」の意味に本当に驚いた
● 世の中には「負の遺産」を背負っていきている人間もいる
● 半世紀前,いや江戸時代からの出来事のスケールの大きさに圧倒された