中山祐次郎先生の「泣くな研修医シリーズ」第6弾。
これまでこのシリーズは全て読んできたんですけど,ブログに書いたのはシリーズ1作目のみでした。機会があれば書きたいと思うのですが。。。
今回書こうと思った動機は2つありました。一つは、これまでが東京の大学病院での外科医としての話だったのが,島へ移動になり,主人公がどのように成長していくのか知りたかったから。
もう一つは、島というと「Dr. コトー診療所」という2000年代に話題になったドラマを思い出すのですが,島での医療ってどんなものなのかを知りたいと思ったからです。
島には島なりの医療の問題があって,想像していたものより過酷なこともあるのだなということでした。とても考えさせられた作品です。
是非,読んでみてください!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 神仙島診療所へ行く雨野
3.2 雨野と瀬戸山の考えの相違
3.3 本作品の考察
4. この作品で学べたこと
● 離島での医療について,詳しく知りたい方
● 外科医専門の主人公が,離島でどのように成長していくかを見てみたい
● 「泣くな研修医シリーズ」を読んでみたい方
半年の任期で離島の診療所に派遣された、三一歳の外科医・雨野隆治。島ではあらゆる病気を診なければならず、自分の未熟さを思い知る。束の間の息抜きを楽しんだ夏祭りの夜に、駐在所の警官から電話が。それは竹藪で見つかった身元不明の死体を検死してほしいという依頼だった――。現役外科医が生と死の現場をリアルに描く、シリーズ第六弾。「自分が死んだら、すぐに遺体を解剖して欲しい――」そんな遺言を託して亡くなった父。その胃壁からは、謎の暗号が見つかった。医師である娘の千早は、父が28年前、連続殺人事件の犯人を追うために警察を辞めたことを知り、病理医の友人・紫織と暗号を読み解こうとする。そんな中、時を同じくして28年前の事件と似通った殺人事件が発生。絡み合う謎を2人の女性医師コンビが解き明かす、医療×警察ミステリの新地平!
-Booksデータベースより-
1⃣ 神仙島診療所へ行く雨野
2⃣ 雨野と瀬戸山の考えの相違
3⃣ 本作品の考察
東京の「牛ノ町病院」に外科医として勤務する,主人公の雨野隆治。そんな彼に,外科部長の岩井から呼び出されます。そして意外な言葉が飛び出します。
「お前,島へ行かないか?」と。つまり,神仙島(じんせんじま)という離島の病院へ転勤になるということです。半年間という条件付きで。
都会でずっと外科医の仕事をしていた雨野は,出身こそ離島の多い鹿児島出身であるとはいえ,さすがにこの転勤には驚きますよね。でも雨野は行くと即答します。どうやら今まで行ったことがない場所へ行くという不安よりも,どんなことが待ち構えているのかという期待の方が大きいようです。物事をポジティブに捉えることができる人は本当に羨ましい限りです。
東京からフェリーで三宅島経由で神仙島に着いた雨野を待っていたのは,半田志真という看護師でした。これから向かう神仙島診療所の看護師のようです。車で目的の診療所に着いた雨野は,ここの所長で医者でもある瀬戸山と対面します。この瀬戸山はすでに30年も診療所にいるようです。
雨野はこの診療所に着くや否や,いきなり診療を任せられます。外科医が専門の雨野は,まず喘息発作を起こした患者を診ます。そして適切な処置を施していくのです。同時に,補助をしてくれた看護師の志真に対しても好意を抱いているようでした。
島にはいろいろな症状の患者がやってきました。妊婦さんがやってきた時には雨野はどうしていいかわからない様子でした。志真のフォローもあって,所長の瀬戸山にお願いすることにしました。専門外の患者に対して何もできないことを改めて知ることになった雨野。
他にも「白血病」と診断された患者,ストレスを抱えている患者,目にケガをした患者などなど。さらには放射線技師が休みのため,自分でレントゲンを撮ることになったり。本来ならば内科や心療内科,眼科などで処置を行うべき患者がどんどん雨野の前に現れるのです。
外科医として,上司や他科の医師,看護師,放射線技師など,大勢のサポートがあるなかで,なおかつ腹部という限定された領域で仕事をしていたのがこれまでの雨野です。
雨野はこれまで経験したことのないことばかりが起こり,それに対応できないことに無力感を感じているようでした。
半年間,雨野は耐えることができるのでしょうか。
雨野は不安を抱えていました。専門が外科医ということではあるが,この診療所でもし手術をすることになったら,それなりの設備や道具が揃っているのか。そんな不安をよそに急患が入ります。ショベルカーとぶつかるという事故を起こした患者が救急車で運ばれてきました。患者が着ていた作業着を切り,体の状態を確認します。どうやら「骨盤骨折」しているようでした。
骨盤骨折とは
骨盤全体に及ぶ重度の骨折は、速い走行速度での自動車事故やバイク事故、車と歩行者の衝突事故、高所からの転落などが原因で発生します。これらの骨折により、皮膚に傷があるかどうかにかかわらず、生命を脅かす出血が生じることがあります。 危険なレベルの低血圧(ショック)が起こることもあります。さらに周辺の神経や、膀胱、生殖器、腸などの臓器が損傷している場合もあります。多くの場合、重度の骨折は不安定です。
-MSDマニュアルサイトより-
雨野は,骨盤の周りには人差し指ほどの太さを持つ動脈や静脈が走っていることが,そこに損傷があれば大出血に繋がることを不安視していました。実際どこかで出血を起こし,血圧も下がっています。
その状況の中,瀬戸山医師がやってきました。瀬戸山はヘリを手配していました。要はここでは回復が難しいということで,ヘリで都内の病院へ送るというのです。しかし雨野は疑問に思います。ヘリで送るのでは間に合わない。早く回復して手術をした方がよいと。
二人の意見が合わない状況で,心肺停止となってしまいます。懸命に心臓マッサージをする雨野。しかしその行為も虚しく,患者は亡くなってしまうのでした。原因は腹腔内出血による出血性ショック。
雨野は葛藤します。例え開腹して手術したとしても同じ結果だったのか。雨野の心の中では,実は見殺しにしてしまったのではないかという思いがあり,瀬戸山に対して少し不信感を持っている様子です。これまで30年間もこの診療所で多くの患者を看取ってきた瀬戸山にしかわからないことがあるのか。
都会の設備の整った環境ではないこの離島では,本来であれば助かる患者も助けられないという瀬戸山の考えに半分理解を示しながらも,ただ何もせずに亡くなってしまうのはどうなのかという考えに挟まれ,雨野は苦悩していました。
郷に入れば郷に従えといいますが,離島には離島の環境,考え方が存在してそれを受け入れなければならないのはわかります。でも医者の本来の目的は,例え助からないとわかっていても,わずかに望みを信じて目の前の人命を救うことなのではないのか。
本作品のポイントは,この雨野がこのまま離島の環境を受け入れるのか,それとも雨野なりの挑戦が始まるのか,というところにあると思います。
雨野は半年という短い期間の間に,何を見出すことができるのか。
孤島での医療って,島民の人口も少ないし,都会と比較してそこまで難しいものではないのかなって思ってましたが,それは全く違いました。診療所にはもちろんドクターはいますが,周りにサポートしてくれる医者や看護師はいたとしてもその人数は限られている。
都会ほど設備が整っているわけでもないし,島自体での大きな事故は起こるし,高齢化という問題もある。つまり死と向き合う確率はとても高いのかなと思いました。
「オールラウンダー」という言葉が出てきます。島民の病状もさまざまで,いろんな患者を相手にしなければならないという過酷さがある。それが自分の専門外のことでも身につけなければならないこともある。
かつて,SEとして仕事をしていた時のことを思い出しました。大きなプロジェクトと小さなプロジェクトがあって,小さなプロジェクトの方が比較的楽かというとそうではない。設計からテストまで,幅広い知識が求められるわけです。
大きなプロジェクトであれば周囲のフォローも手厚いし,どの業界でもこれは同じなのではないかと思いました。ただ思うのは,プロジェクトの大小に関わらず,顧客の仕事を少しでも効率するという目的は変わらないのです。
外科医として派遣された主人公が,自分がかつて経験したことのない分野の知識や技術を身につけ,そして葛藤しながらも大きく成長した作品だったのではないでしょうか。
● 離島の医療とは,都会での医療とは全く異なるものであるということ
● 物事の本来の目的を見失ってはいけないということ