みなさんは「地面師」の存在をご存知でしょうか。
僕自身は名前は聞いたことあるけど,地面師とは何をする者なのかまでは知りませんでした。
本作品を読むと地面師がどういう手口で「詐欺」を行っているのかがよくわかります。
本書の巻末にも書いてありますが,2017年,「海喜館」という旅館が廃業し,その所有者になりすました地面師グループが,積水ハウスと取引をしました。
約70億円で積水ハウスはその時を購入し,約60億を支払ってしまい,所有権移転登記を行います。
ところがその真の所有者の実弟が所有権を相続します。積水ハウスの移転は無効とされるという事件があったそうです。
本作品はそれがモデルとも言える内容のストーリーになっていて,大手不動産業者でも騙されてしまう「地面師の恐ろしさ」を知ることになりました。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 地面師たちの手口
3.2 大手不動産企業への詐欺
3.3 辻本拓海の真の敵
4. この作品で学べたこと
● 地面師がどういう人々なのかを知りたい
● 地面師たちがどんな手口で詐欺を行うのかを読んでみたい
● どうすれば地面師たちに騙されないのかを考えてみたい
辻本拓海は大物地面師・ハリソン山中と出会い、彼のもとで不動産詐欺を行っていた。メンバーは元司法書士の後藤、土地の情報を集める図面師の竹下、土地所有者の「なりすまし役」を手配する麗子の五人。彼らはハリソンの提案で泉岳寺駅至近にある市場価格100億円という広大な土地に狙いをつける。一方、定年が迫った刑事の辰は、かつて逮捕したが不起訴に終わったハリソン山中を独自に追っていた――。次々と明らかになる地面師たちの素顔、未だかつてない綱渡りの取引、難航する辰の捜査。それぞれの思惑が交錯した末に待ちうけていた結末とは? 実在の事件をモチーフに描いた新時代のクライムノベル。
-Booksデータベースより-
辻本拓海・・主人公。ハリソン山中に認められ地面師になる
ハリソン山中・・・大物地面師。悪の根源
辰・・・地面師を追う刑事
後藤・・元司法書士。地面師グループ
竹下・・図面師。地面師グループ
麗子・・所有者のなりすまし役を手配する
1⃣地面師たちの手口
2⃣ 大手不動産企業への詐欺
3⃣ 辻本拓海の真の敵
地面師グループがどんな集団なのかは冒頭で書いたとおりです。
本作品の最初に登場するエピソードは,島崎健一の所有する都心の一等地にある物件を,地面師たちが売るというものです。
島崎自身は実はその物件に住んでおらず,老人ホームに入っていました。
その所有者が住んでいないというタイミングをみて,地面師グループは動くのです。
主人公である辻本拓海が売主の代理人役,売主はササキという男,今回の買主であるふっ同産業のマイクホーム側との仲介をするのが後藤と,地面師はチームを組んで交渉に当たるのです。
マイクホーム側にバレないように気を配りながら,そして島崎健一が偽物であると疑われないように細心の注意で交渉するのです。
所有者の本人確認情報,島崎家の邸宅図面,土地の権利証に代わる書類などなど,用意周到に交渉は行われていくのです。
詐欺集団,バレれば一発アウトという状況で,読んでる方もなぜかヒヤヒヤしてしまうのは,高額の取引をしているからなのか,交渉のリアルに再現している作者の力なのか。
そしてこの交渉は成立し,シマザキケンイチ名義の口座に,マイクホーム側から入金されれば交渉成立。ハリソン山中からの連絡を受けた辻本の仕事は終わりです。
買った土地にマンションを建て,多額の収入を手に入れようと目論む不動産業も,偽者・偽物だと気づいた時にはすでに地面師グループは消えているわけですから,マイクホーム側はどうしようもないんですね。こうやって辻本は「地面師」としての力をつけ,ハリソン山中から認められていくのです。
次に狙いを定めたのは資産価値「100億円」という物件です。
泉岳寺から近い場所にある駐車場付きで,かつて元更生保護施設だった場所です。
二千六百平米という一等地にあるこの物件,大きな国道に面し,近くを通る山手線の新駅ができる予定の場所とあれば,とても魅力的な物件なのでしょう。
それに目をつけたのがハリソン山中です。何としてでもこの物件を手に入れ,100億という大金を詐取しようと企むわけです。所有者は川井という女性でした。
川井の行動パターンに探りを入れ,用意周到に準備を進める地面師たち。
そもそもここは宗教団体であり,彼女は尼僧なので,かつらをかぶっているものの実はスキンヘッド。
偽の所有者も同じスキンヘッドになれる女性を選ばないといけません。まるでオーディションをやっているようです。
川井が海外へ行くことになり,そのタイミングを利用して山中たちは行動にでます。
買い手は「石洋ハウス」,大手不動産会社です。石洋ハウスの責任者で常務の青柳は自分の出世のためにこの物件を何とか手に入れたいと考えていました。
さて,青柳は地面師の仕組んだ罠にハマっていまうのでしょうか。
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地面師軍団と石洋ハウスの交渉が始まります。
ハリソン山中や拓海たちの思惑はこうです。所有者の川井は今の土地を売って,新しい場所に「劇場を作りたい」と考えているという設定です。
そのために地面師たちは手分けしていろいろなものを揃えます。新しい劇場の「完成イメージのラフスケッチ」,地上6階地下2階で,席数は1000席,ラウンジやレストランを兼ね備えた近代的な劇場という設定。それが川井の本心だということ。
もちろん全て嘘です。こんな劇場もできないし,川井も偽物だし,本物なのは石洋ハウスの面々だけです。
一瞬,疑いを持つようなそぶりを見せた石洋ハウスですが,結局は交渉成立してしまうのです。つまり100億円が地面師へ渡ったのです。
後にこの所有者が偽物だったとわかるのも時間はかかりませんでした。
石洋ハウスの責任者青柳は当然自分の会社の上層部から責められます。
青柳は出世という欲望のために,本来であれば偽物ものと見抜けたものも見抜けなかったように思います。
実は辻本はこの交渉の前に父親の墓参りをしている際,一人の刑事と会っていました。辰という刑事で,定年を迎えました。かつてある大物地面師を追い詰めた老刑事から,真実を聞きます。
「辻本の父親が刑務所に入っているのは,大物地面師に騙されたからだと」
それが真実なのかどうなのか苦悩する辻本でしたが,最後にその大物と対峙するのです。
大物地面師が誰なのかは言うまでもないですね。真実を知らずに,悪に手を染めてしまった辻本の無念さに,最後は切なくなりました。
これまで「地面師たち」の仕事・役割について書いてきました。
世の中にはいろんな役割を個人が担い,あたかも本物であるかのように振舞う,劇団のような犯罪集団が存在しますが,この地面師もその一つなんだなと思います。
その詐欺行為もおそらくは高度化し,買う側は用心深くなりながらも,結局は不動産を購入してしまい詐欺に遭ってしまうということなのかもしれません。
本作品の中にも「宅地建物取引業法」「不動産登記法」「借地借家法」「都市計画法」といった聞いたこともない法律が出てくるだけでなく,その自治体の条例や刑法など,とにかく
多くの法律に精通した人間が地面師のてっぺんにいるということです。
ただの詐欺師ではない,地面師とはとても能力の高い人間であって,普通の人には見えない世界が見えているのではないかと思いました。
もし自分に,「地面師」が接してきたら,果たしてそれを「偽」と見破ることはできるのでしょうか。
あの大手不動産企業でさえも見抜けなかったわけですから,とても難しいことなのかもしれません。
まずは「これはあなたにも旨味があるから買ってほしい」という甘い言葉に惑わされないように気を付けないといけないかなと思います。
● 地面師という詐欺集団の恐ろしさ
● 大手の不動産業でも騙されてしまう地面師たちの手口
● 土地や建物を売る必要がある場所に必ず顔を出してくる地面師の調査力