1991年に発刊された時は「回廊亭の殺人」というタイトルだったようです。しかし1994年に文庫化され,そのタイミングで「回廊亭殺人事件」となったんですね。
本作品はすでにドラマ化されています。2011年に「東野圭吾3週連続スペシャル」で映像化されたものの一作です。
他には,以前ブログにも書いた「ブルータスの心臓」,そして「11文字の殺人」です。ブルータスは見たんですけど,残り二作は観ていません。
観てないということで,友人にダビングしてもらったんですけど,何となくしてしまいました(苦笑)
キャストは常盤貴子さん,田中圭さん,内藤剛志さんなど,豪華なメンバーで構成されています。
老婆に変装したある女性が,過去の事件の真犯人を探すという,面白い趣向の作品です。少し古めかしさはあるものの,30年前の作品とは思えないほどの完成された作品だと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 変装して復讐を企む女性
3.2 真犯人を探す主人公
3.3 意外な真犯人の正体
4. この作品で学べたこと
● 本格ミステリーを読んでみたい方
● 変装した女性の復讐劇を見たい方
● かつてドラマ化で話題になった作品を読んでみたい方
巨万の富を築いた実業家・一ケ原高顕が死んだ。彼の死から一か月後、高顕の遺言書公開を見届けるために一ケ原一族が回廊亭に集まる。「恋人がこの旅館に集まる誰かに殺された」と確信する高顕の秘書・桐生枝梨子は姿を老婆に変え、回廊亭に乗り込む。枝梨子の最初で最後の青春を奪った犯人への、執念の復讐が始まる。
-Booksデータベースより-
桐生枝梨子・・主人公。半年前の回廊亭事件の真相を探る
一ヶ原高顕・・実業家だったが亡くなる。莫大な遺産を遺す
一ヶ原蒼介・・高顕の弟で大学教授
一ヶ原直之・・高顕の異母兄弟
一ヶ原紀代美・・高顕の義理の妹
一ヶ原由香・・・紀代美の娘
矢崎警部・・・回廊亭殺人を捜査する
小林真穂・・・回廊亭の女将
1⃣ 変装して復讐を企む女性
2⃣ 真犯人を探す主人公
3⃣ 意外な真犯人の正体
ある女性が一人で一原亭,通称「回廊亭」という屋敷にやってきます。彼女の名は本間菊代。70歳になる老婆です。ただ何やらこの老婆,只者ではなさそうです。回廊亭に着くと,彼女はカツラを外します。そう,実は彼女は老婆に変装した女性だったのです。
「ジロー,私のジロー」
どうやら彼女には思い出したくない思い出があるようです。彼女は「地獄の日」と表現した日。ジローとは里中二郎という名前のようです。
ぼんやりとした闇の中に,赤い点が浮かびあがる。
やがてそれは大きくなり,燃えさかる炎に変わった。
ジロー,私は叫び,彼を抱きかかえていた。
彼女が気づいたのは病院のベッドの上。この女性も無傷ではなさそうです。火事で顔と背中に酷い火傷を負っていたのです。
病院には矢崎という警部も来ていました。里中二郎との関係,火事が発生したこと,そして里中二郎が自殺したと思われることを話します。
二郎は,青酸カリを服毒していたようです。しかし,彼女は確信しているようでした。二郎が自殺ではなく,殺害されたということを。彼女の名は「桐生枝梨子」で,彼の復讐にこの回廊亭へ変装をしてやってきたのでした。そして彼女がやってきた目的は,桐生が秘書をしていた一ヶ原高顕の遺言書の公開が行われるからでした。
その公開を前に,多くの面々が集まってきています。高顕の弟の蒼介,高顕の異母兄弟の直之、妹の曜子、義妹の紀代美、紀代美の子どもである健彦、加奈江、由香。そして本間菊代です。必ずこの一ヶ原家の関係者に犯人がいると考え,わざわざ変装までして真実を探ろうとしているわけです。
しかも,桐生自身も絶望して手紙を遺して自殺したことにしているのです。その手紙には意外なことが書いてありました。
〇 この手紙が届くころには桐生は自殺していること
〇 本間菊代に真実を書いた文章の入った封筒を渡していること
〇 高顕の遺言書の公開に先立って,手紙を公開してほしいこと
これが集まった面々に伝えられます。「真実を書いた文章」おそらくこれを阻止しようと誰かが動くと予想しているのが桐生です。確実に「自分が犯人である」という証言がみんなの前で宣言されれば,相続どころの騒ぎではないですから。案の定,早速その夜,桐生いや本間の枕元に手紙を置いているところを,手紙を盗みに忍び込む一人の人物がいました。
本間はビデオカメラを設置して眠ったふりをしていました。そしてビデオを再生してみると意外な人物が映っていました。一ヶ原由香でした。桐生は何か腑に落ちない様子でした。しかし彼女が何か握っていると感じながら由香の部屋に入ります。
しかし驚愕の光景を目にします。何と,由香が殺害されていたのです。そして由香が盗んだはずの手紙を探しますが,見つかりません。
ただ,そこにはダイイングメッセージのようなものを見つけました。アルファベットの「N」の逆の文字がそこには書かれています。桐生はそれを目に焼き付け,メッセージを消してしまいます。そして,靴下を履いたまま池を飛び越え,部屋に逃げ帰ります。
次の日,とうとう矢崎警部も動き出しました。矢崎という刑事がやってきます。由香を殺害したのは誰なのか。
しかも、ナイフで刺された後,首を絞められていたようです。なぜそこまでする必要があったのか。
自分の娘を殺害された紀代美は,曜子に向かって飛び掛かります。「由香を返して!」直之が曜子の前に立ちはだかって止めます。そこには蒼介や加奈江などもいました。
そんな中,桐生は「N」の逆文字について考えていました。ひょとして「Z」なのではないか。いや「S」なのか,それともアラビア文字なのか。
いずれにしてもこのメッセージが大きなポイントになりそうです。
菊代に扮した桐生は事情聴取を受け,手紙が無くなっていることを伝えます。そしてこの日は高顕の遺言書が公開される日です。そのために弁護士の古木と,その助手である鯵沢もやってきました。もちろん桐生は誰が盗んだのか知ってますが,知らないフリをして矢崎警部に答えます。他の人物たちも「どこへ行ったんだ?」というような感じ。
でも、少なくとも一人はいるはずなんですよね,手紙の行方を知っている人物が。一体、誰なんでしょうか。ここで曜子が自分の考えをいいます。
あの里中という男はかなりの美男子。それに対して桐生さんには失礼だけど,女性の魅力は乏しい人だった。あの二人が恋人同士だったなんて,ちょっとありえないように思う
高顕の秘書であった桐生が彼と結婚してしまえば,財産は桐生へ行ってしまう。それを防ごうと,里中と桐生を心中と見せかけて殺そうとした人物がいると推理したのです。この言葉に桐生は実は納得していました。ただ,桐生はもう一つ,里中が狙われる理由を知っていました。
実は里中二郎は,高顕の本当の子供だったのです。だから財産分与に里中が邪魔だった。
高顕は遺言書をつくるにあたり「息子を探してほしい」と桐生に頼んでいたのです。そして孤児院を調べていくうちに里中二郎の存在を知るのです。
里中は最初は高顕に会うことを拒んでいました。一方,桐生は何度か里中と会うたびに恋人同士の関係にまで発展していったのです。もちろん,桐生は里中に父親があの一ヶ原高顕であることも伝えていました。恋人をつくったこともなかった桐生にとっては夢のような時間だったわけです。彼のためなら死んでもいいと思うくらい好きだったようです。
そんな時,矢崎警部は池の近くを捜索していました。すると、池の近くに足跡があるのを発見し、しかもそれが靴を履いていないものであることがわかったのです。
あれ,これって,桐生が逃げた時についたものじゃ。。。靴を履いていないことから,矢崎警部は内部犯を疑っているようです。
さらに,由香の部屋に髪の毛が落ちていたことがわかります。白髪のかつらを被っている枝梨子はヒヤリとします。これはまずいぞ。。。矢崎警部の前で,菊代になりすましているのも限界があるように感じられます。
矢崎警部は全員を集めます。回廊亭のマスターキーには由香の指紋がついていたことが判明します。
そして矢崎警部は,本間菊代に対して,由香が自分の部屋に入ってこなかったかを問い詰めます。菊代の部屋にあった手紙は由香が盗んだと矢崎警部は推理しているようです。そしてその手紙を由香以外の誰かが持ち去ったことも。
菊代は紀代美と話をします。その時,由香のアクセサリーに目が行きます。それは真珠の指輪でした。紀代美は由香に「イヤリングにすれば?」とすすめます。
しかし,由香は指輪にしたいと言ったようです。では残り一つの真珠は。。。ここで桐生は既視感におそわれます。確か,直之のタイピンに真珠がついていたと。つまり,由香は直之と付き合っていたのではないか。試しに,菊代は直之に尋ねます。
「由香さんが愛していた男性というのが一体誰なのか,ご存知じゃありませんか?」
直之は否定します。しかし,菊代,いや桐生は一連のことを整理して,直之が犯人なのではないかと考えます。
「直之が犯人と考えると,全て辻褄があう」桐生はすでに確信しているようでした。自分の復讐の相手は直之であると。
そして,桐生の行動は「復讐」へと移っていくのです。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
桐生は直之を殺す機会を伺っています。ところがここで矢崎警部の動きが慌ただしくなります。由香の部屋のガラスの外側から、健彦の指紋が見つかったのです。健彦は「由香の部屋から物音が聞こえたのから様子を見に行った」と言います。健彦は由香のことが好きだったようですね。だから気になって様子を見に行ったのでしょうか。由香のことが気になった彼は、由香と直之に何かあったのではと疑ったようです。
そして彼の証言によって,直之は事件の夜部屋から出ていなかったということになります。桐生は混乱します。さらに事態は悪い方向へ向かいます。
矢崎警部が由香の部屋から採取した髪は4種類ありました。すべて黒い髪。しかしその中には身元不明のものがあったようです。これは間違いなく桐生のものでしょう。矢崎警部に正体を暴かれるのも時間の問題です。部屋に戻り横になります。そして左手で文字を書いていた時でした。
「実は,由香のダイイングメッセージは,何かの文字の書きかけなのではないか」
そして次の瞬間,ひらめくのです。それは「N」でも「S」でも「W」でもない。桐生は真犯人を確信したようです。夜中にその人物を呼び出します。そして隙を見せた瞬間,アイスピックで後ろから刺します。
相手は何と回廊亭女将の「小林真穂」でした。文字は「M」の文字。この文字を持つ者は一人しかいない。真穂の「M」だったのです。意識が薄れていく真穂に,菊代に成り代わった桐生は正体をバラします。もちろん驚く真穂。由香が菊代の部屋に入って手紙を盗んだことを,真穂は目撃していました。
そして真穂が由香を殺害。完全に真穂は手紙を狙っていたわけなんですね。真穂が死ぬ直前,桐生は聞くのです。
「あ。。。たし。。。だけ。。。じゃない。。。」と。
えっ? 犯人って他にもいるの? そう,桐生の復讐はまだ終わっていませんでした。
復讐すべき人物はもう一人いたのです。その相手を翌日殺す決心を固めます。
どうやら桐生にはそのもう一人が誰なのか,わかっているようです。
翌朝、矢崎警部は内部犯と断定し捜査を進めます。とうとう本間菊代が偽物であることはバレてしまいました。それはやはり,髪の毛の論理でした。菊代の髪の毛だけが見つからない。
バレる前に桐生はガス爆発の仕掛けを準備していました。そして実際に時限的に爆発を起こします。燃える回廊亭。炎はどんどん広がっていきます。
そんな中,ある部屋で桐生は意外な人物と対峙します。
何と! それはあの「ジロー」でした。しかしそのジローも変装していたのです。その正体は,途中からやってきた鰺沢弘美だったのです。
会いたかったわ,ジロー。いいえ,ジローじゃない。
あなたの本当の名前は鯵沢弘美。それがあなたの本名だったのね
「そして君の本性は桐生枝梨子というわけか」と言う鯵沢。鯵沢は里中二郎のふりをして桐生に近づき、小林真穂と共謀して桐生と里中を殺害。遺産を奪おうとしていたのでした。
確かに,男性の中にも「ヒロミ」という名前の人はたくさんいますもんね。完全に東野先生の描き方に騙されました。
殺害した理由は,鯵沢の祖父が里中の運転するバイクに轢かれたことでした。そして鯵沢は復讐することにしたのです。
桐生は最初から騙されていたんですね。ジローになりすました鯵沢は,里中二郎として桐生と会っていました。その二郎を桐生は愛していたのです。
その裏で,鯵沢は「本物の里中二郎」を殺害します。もちろん祖父の復讐です。そして,回廊亭にやってきていた桐生と一緒に,殺害した里中を連れてきて,火事を起こし「心中」したと見せかけ殺害しようとしたのです。
その時,鯵沢の正体を知っていたのが女将の小林真穂でした。真穂も鯵沢を利用して遺産に手をかけようとしていたわけです。
グルになった鯵沢と真穂が,本物の里中二郎と桐生枝梨子を殺害しようとしたのが前回の回廊亭の火事だったんですね。
何とも複雑な人間関係。遺産のためにここまでの手を思いつくものなのでしょうか。全ての真相を聞き出した桐生は,何とも言えない気持ちになります。
しかし,鯵沢を道連れにするために,隠し持っていたガソリンを自分たちにふりかけます。鯵沢は死にたくないので,絶叫します。しかし時すでに遅し。 次の瞬間,桐生と鯵沢の二人の視界は白い闇に変わるのでした。まさに「心中」でした。
最後の一気の解決シーンには,頭が混乱しました。大・大どんでん返しです。
今回は多くの人物が登場しました。そして莫大な遺産を目当てにして多くの人が容疑者候補になります。
かつて,本格ミステリーと言えば,刑事を含め,容疑者候補が一ヶ所に集まって互いを牽制し合うシーンが思い浮かびます。
本作品もそれに近いし,当時本格ミステリーを描いていた東野先生らしい作品だと思いました。「東野圭吾3週連続スペシャル」の一作に選ばれたのもわかるような気がします。
でも最近では,トリック,アリバイ,遺産目当ての犯行といった,古き良き作品って減ってきたような気がします。
そういう作品を読んでみたいという方にはオススメの作品かなと思います。
● 古き良き時代の本格ミステリーを堪能できた
● 変装して忍び込んだ主人公の大胆な行動と,復讐を遂げようとする執念