クイズがミステリーになるなんて、思ってもいませんでした。
『君のクイズ』は小川哲先生の「日本推理作家協会賞」受賞作です。恥ずかしながら本作品を読むまで、小川哲先生のことを知りませんでした。
経歴を見てびっくりしました。2023年には「直木賞」も受賞されていたんですね。「地図と拳」を読んでみたくなりました。
その他にも「山本周五郎賞」「山田風太郎賞」などなど、多くの受賞歴があります。
1986年生まれの若さでこの経歴。
何で今まで知らなかったんだろう。。。
東京大学大学院博士課程まで行かれたハイスペックの頭脳の持ち主と知って納得です。
とにかく、小川哲先生の作品の読書欲を一気にかきたててくれた作品です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 問題が読まれていないクイズ
3.2 真相を探る主人公
3.3 謎の真相とは
4. この作品で学べたこと
● クイズ番組が好きな方
● クイズにかける人々の考え方や戦略を知りたい方
● クイズの問題が読まれていないのに答えられた理由を知りたい
1⃣ 問題が読まれていないクイズ
2⃣ 真相を探る主人公
3⃣ 謎の真相とは
あなたは、問題が読まれてもいないのに、答えることができますか?
まず、問われているのはこの言葉です。作品のテーマが明確なんですよね。
クイズをベースにしていることはもちろんですが、この問いの答えをクイズの挑戦者が追求するという、かつてない作品なんです。
舞台は、日本最高峰のテレビクイズ番組「Q-1グランプリ」の決勝戦。決勝に進んだのは、クイズの常連で主人公の三島玲央と、本庄絆という恐ろしい知識量を持つ若者。場面は、三島が有利と思われた展開の中、本庄が数回間違えながらもついに追いつくというところです。
そして「問題・・・」と最終問題が読まれます。次の瞬間、すぐに「ピンポーン」と鳴り響きます。つまり、問題文が読まれていないのに何と本庄がボタンを押すのです。
さすがにそれはないだろうと三島は思います。
多くの人が「慌てておしてしまったかぁ」と本庄がミスをしたのだと思ったはず。それに三島も同情しているようでした。
しかし、本庄は答えます。『ママ、クリーニング小野寺よ』と。
へ? これが答え? 本庄が血迷ったか。そんな雰囲気の中「ピンポーン」と正解のチャイムが鳴ったのです。これにはさすがの三島も唖然です。なんせ、問題が読まれていないんですから。
この放送の後、SNSでは様々な意見が飛び交います。ある人は、ヤラセがあったのではないか、と書いています。
一方では、本庄を称賛するコメントもあります。
納得いかない三島。何かをこらえている様子。
番組に出演していた他の人々もこの展開に驚き、番組側に説明を求めます。そしてとうとう、番組のスタッフが、演出に不適切な部分があったことを認めました。
ということは、やっぱり「ヤラセ」だったのか?
視聴者や出演者に期待を裏切る形になったことを謝罪するのです。さらに、本庄は優勝を辞退し、優勝賞金とトロフィーを返上したことも伝えられます。
そうなると、三島は心の中で思うのです。あの優勝賞金は自分のものになるはずだと。
真実を解明するために自分で調査を始めます。
「なぜ本庄は、問題が読まれていないのに解答できたのか?」
本庄に直接説明を求めるメッセージを送ります。しかし、返事はこないんですね。本庄は自分の非を認めているからか、他の人とも連絡を断っているのです。
これでは三島も納得いかないわけです。ヤラセだったのか。それとも本庄は確信を持って答えたのか。
三島は別の視点で調査をします。
過去に本庄が出演していたクイズ番組の映像を集め、そこにヒントがないか探ろうとするのです。三島と本庄の「Q-1グランプリ」の決勝戦の映像を一問一問、繰り返し見直します。
三島は自分が答えた問題や、自分の過去の経験を思い出しました。クイズは単なる知識を問うだけでなく、過去の思い出や経験が一連のストーリーとなっていることに気づくのです。
読者はこの辺りから、今のクイズ番組がいかに深いものか理解するようになります。
例えば、問題文の一文字目が読まれた時に、早押しボタンを押す場面があります。敢えて早く押して、その後の出題者の次の言葉が流れてくるのを待っていることがあるのです。
他にも、出題者の次に出てくる言葉を、口の動き、あるいは開き具合などを一瞬で判断し、自分が解釈した問題文を完成させる。
この作品ではそれを「確定ポイント」と呼んでいます。
口の動きや問題の内容、これまでのクイズの経験、自分の知識から先を読めることに気づくのです。
三島は、本庄の弟にも話を聞くことになりました。弟が言うには、兄の本庄絆は子供の頃、山形県に住んでいて、中学時代にいじめに遭っていたというのです。彼はそれを避けるため、自分の部屋に閉じこもって、図書館の本や図鑑を読み続けていたそうなんですね。
そして、ここでようやくあのフレーズが登場します。
実は「ママ、クリーニング小野寺よ」という答えは、山形県で流れていたCMのフレーズだったんです。
三島はここで解決のヒントを得ます。
クイズの問題は、その出演者の過去や経験に基づいて作られている可能性を考えたのです。そして再度、本庄にメッセージを送りました。
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ようやく三島は、本庄と会うことができました。
三島は本庄に自分の考えを話します。あの問題の答えを導いた三島の推理は正しいのか。本庄は三島の推理をほぼ肯定しました。ただ一点を除いては。
本庄は、対戦中にクイズの仕組みについて気づいたのではなく、放送前から予測していたようです。実は本庄は、かつて別のクイズ番組で「ママ、クリーニング小野寺よ」という問題に正解した経験がありました。自分が山形に住んでいなかったら答えられない問題でした。
かつてイジメに遭い、自分を救ってくれたのがクイズだったのだと語ったのです。
なるほど、これが過去の経験に裏付けられる問題と解答だったんですね。
と、ここまでは美談だったんですが、これは建前でした。本庄には本音がありました。本庄はYouTubeチャンネルでビジネスを行うつもりだったんです。
確かに、東大卒や京大卒のインテリと呼ばれる人が、自分のチャンネルを作っているのは見たことあります。
つまり、チャンネルの視聴者へのインパクトを残すことが目的だったんですね。
要は、最終問題が正解でも間違ってもよかったんです。視聴者へのアピールが重要だったのです。クイズの結果は二の次というわけです。
三島はこの話に辟易していまいました。クイズに真剣にチャレンジしてきた三島にとって、それをビジネスにしようとする本庄のことを軽蔑しているようでした。
三島にとってはクイズとは人生そのものになっていくのです。
私は幼い頃からクイズ番組が好きでした。
クイズ・タイムショックに始まり、アップダウンクイズ、クイズダービー、アタック25,クイズ・ミリオネア、これまで多くのクイズ番組を見てきました。
クイズのレベルが高いなと思ったのは、ウルトラ・クイズ、高校生クイズでしょうか。特に高校生クイズは三人一組で、日本の進学校が決勝に残って戦うというシーンを何度も観ました。私の地元の中高一貫校も一度優勝しています。よくあんな出題の途中で答えられるな、と感心しながら見ていたのを思い出します。
そして、最近のクイズはさらにハイレベルになりました。東大出身、京大出身などの青年たちが、問題が読まれたか読まれていないかくらいの「フライング的」なタイミングで正解を出すのです。
この「フライング的」なコンマ何秒の世界には奥深いものがあって、それこそが先に書いた「確定ポイント」なんですね。本当にすごい世界だと思いました。
そして、最近ではYouTubeでもそのシーンが見られたり、クイズで有名になった人がチャンネルを立ち上げたり、本当にこの作品で描かれていることにもなってきました。
どんなものでもそうだと思いますが、人には価値観というものがあります。
ある者は真剣に真正面から向き合い、ある者はそれがビジネス目的である。何を目的にそれをやるのかというのは人によって異なるのだなと。それは責めることはできない。
ビジネスもクイズの世界も、共通する部分があるのだなと思いました。
● 早押しの奥深さを知ることができた
● クイズに人生をかけている人もいれば、ビジネスにしている人もいるということ
● クイズのレベルも時代とともに変化しているということ
