ある資産家の家に現れた楓という女性。「危険なビーナス」の意味を考えてしまいます。
獣医師である伯朗の元に,異父兄弟である明人の妻,楓が突然やってくるところからストーリーは始まります。どうやら明人は行方不明になっている様子。
明人はどこに行ってしまったのか。そのきっかけを探しに伯朗の元にやってきた楓。話は思わぬ方向へと動いていきます。
2016年に発刊された本作品。2020年にドラマ化されています。
手島伯郎が妻夫木聡さん,楓が吉高由里子さんなど,豪華キャストです。
おそらく最後はどんでん返しに驚くことでしょう。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 突如現れた一人の女性
3.2 伯朗のライバル現る
3.3 楓の正体と真実
4. この作品で学べたこと
● 伯朗の元に現れた一人の女性の正体を知りたい
● サヴァン症候群とは何かを知りたい
● 行方不明になった明人がどうなるのかを知りたい
惚れっぽい独身獣医・伯朗が、新たに好きになった相手は、失踪した弟の妻だった
恋も謎もスリリングな絶品ミステリー!
「最初にいったはずです。
彼女には気をつけたほうがいいですよ、と」
独身獣医の伯朗のもとに、かかってきた一本の電話--「初めまして、お義兄様っ」。弟の明人と、最近結婚したというその女性・楓は、明人が失踪したといい、伯朗に手助けを頼む。原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか。調査を手伝う伯朗は、次第に楓に惹かれていくが。
-Booksデータベースより-
1⃣ 突如現れた一人の女性
2⃣ 伯朗のライバル現る
3⃣ 楓の正体と真実
獣医師である手島伯朗。伯朗は少々恵まれない環境で育っていました。
父親の一清は画家でしたが,脳腫瘍になってなくなります。
そして母親の禎子は別の男性と結婚します。
そこで産まれたのが明人。つまり,伯朗とは9つも離れた異母兄弟ではなく,異父兄弟。
母親の禎子も風呂場で溺死で亡くなってしまいます。
残されたのはこの伯朗と明人の二人になってしまいました。
手島家の跡取りの伯朗は獣医師になり,動物病院に勤務することになります。それに対し,矢神家の跡取りである明人は英才教育を受けますが,それに反発し,自分の進みたい方向へ進むことになります。
ある日,伯朗の元に一本の電話がかかってきます。それは明人の妻と名乗る矢神楓からでした。
明人が家に帰ってこない。謎の失踪を遂げてしまった明人。
悩んだ楓は伯朗を頼りに電話をしてきたというわけです。
どうやら楓たちの父親である矢神康治の容態が急変し,明人と楓は二人でシアトルから帰国したというのです。ところがここで一緒に帰国したはずの明人が失踪してしまったのです。
楓は伯朗に頼み込み,一緒に康治のお見舞いに行ってもらえないかという依頼を受けます。
義理父だから別にお見舞いくらい行っても良さそうですが,明人は康治に結婚したことを伝えてなかったようです。
なるほど,そういうことだったんですね。
と言っても,伯朗自身も康治と会うのは約10年ぶり。康治は膵臓癌だったようです。康治は病床にいながらつぶやきます。「明人に背負わなくていい」と。
矢神家を背負わなくていいということなのでしょうか。
そして「遺産相続」の話に発展していくのです。何かイヤな予感がしますね。
康治は神経科の医師で「サヴァン症候群」について研究していました。
サヴァン症候群とは
精神障害や知能障害を持ちながら、ごく特定の分野に突出した能力を発揮する人や症状
-厚労省HPより-
ある日,康治はサヴァン症候群だった可能性のある人物が描いた絵を見つけます。
その画家は既に亡くなっていました。しかしその男性の妻と会うことになります。
どうやら康治が禎子と出会ったのはこのことがきっかけのようです。
それにしても,何か伯朗は下心ありそうなんですよね。遺産相続ではなく,楓に対して。
そしてある日,六人の親族が勢ぞろいします。遺産相続について話し合いが持たれることになります。よくある話ですよね。みんな「自分が自分が」の状態で主張するわけです。
誰かが誰かを蹴落とそうとする姿は,これまで多くの小説を読んできてもう慣れました。
伯朗は禎子の遺品を整理している時,かつて父親である一清が描いた絵の写真が入ったアルバムを見つけました。
ところが,最後のページを見ると,一枚だけ?がされた写真があるようです。一清には,最期に描いていた絵がありました。伯朗は,未完成だったその絵の写真に違いないということに気づきます。
絵のタイトルは『寛恕(かんじょ)の綱』です。一体,誰が写真を持ち出していったか。
矢神家の人間には疑問がありました。「本当に楓は明人の妻なのか?」
確かに,何かこの楓は胡散臭い気もする。ホンモノなのか,それとも全く違う誰かなのか。
康治は動物実験をやっていたようでした。それは猫の頭蓋骨に穴をあけ,脳内に電流を流すという実験です。何でこんな恐ろしい実験をやっていたのでしょうか。伯朗が獣医師だというのも気になるなぁ。
どうやら伯朗のトラウマになっている様子。ん~,なんだろ。。。
楓のことを気に入った親族が現れました。矢神勇磨という人物で,矢神康之介と佐代夫妻の養子として迎えられた人物でした。
伯朗といい,この勇磨といい,楓はそんなに魅力的な女性なんでしょうか。
楓はというと,明人の情報が手に入るなら,来るものもあまり拒まないという様子でした。
ここで伯朗 vs 勇磨の構図となります。
伯朗はさらにアルバムを見つけました。そこには学生時代の禎子が写っている写真がありました。
そしてよく見ると佐代も写っていることに気づきます。
伯朗は佐代から事情を聞こうと佐代の勤務するクラブへ行きます。実は佐代はかつてあった同窓会で禎子再会したようです。
そこで禎子から,夫の一清が脳腫瘍になっていて,錯乱状態であったことを教えてもらいました。
佐代はそれを夫の康之介に話します。康之介は康治に話し,あの「脳に電流を流す」という研究につながっていくのです。
康治は脳に電流を流すと精神的な疾患を抑える研究を行っていたようです。
禎子は喜びます。そして一清も。そして治療が始まったのです。
当初はうまくいってました。一清の症状が良くなったのです。しかし,それは一時的なものでした。
治療に失敗したのか,脳腫瘍が急に肥大してしまったのです。そして数年後,一清は亡くなってしまいました。
だから康治は禎子と「償い」の意味もあって,結婚したのではないか。佐代はそれを伯朗に打ち明けたわけです。さらに「禎子は康治から『貴重過ぎて手に余るもの』を貰っている」と話していたようです。
一体これは何なのか。気になりますよね。
一方,楓はネット上のブログで、サヴァン症候群と思われる人物が描いた絵を見つけ出しました。
ブログ書いた人によると,この人物がある日突然、絵に目覚めたというのです。
伯朗はブログを運営する女性に連絡をとり、楓と二人で会いに行きます。
実はこのブログの主は女性で,その父親が事故で脳に重度の損傷を受けてしまったようです。
その影響で描いたのがブログに載せた絵でした。
「この絵はフラクタル図形ではないか」と思われました。脳に異常があると疑い,父親は病院に通い始めます。
フラクタル図形
「自己相似性」という特殊な性質を有する幾何学的構造のことをいい、より具体的には「図形の全体をいくつかの部分に分解していった時に全体と同じ形が再現されていく構造」のことをいう。
フランス人の数学者ブノワ・マンデルブロ(Benoît B. Mandelbrot)が考案した概念である。
-ニッセイ基礎研究所サイトより-
康治はこの話を噂で聞き,このフラクタル図形を描いた男性を探します。
康治は『後天性サヴァン症候群』という,非常に稀な症状の研究を行っていたのです。
猫の実験は,これだったんでしょうか。その状況にマッチする患者が見つかったということです。
つまり,康治は,以前治療していた禎子の夫一清への治療が「後天性サヴァン症候群」という天才を生み出すということに成功していたのです。
いや,成功しているというのは語弊があるでしょうか。一清はこの治療が原因で亡くなった可能性があるわけですから。
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勇磨が言うには,明人はすでに帰国しているようです。じゃどこにいるんだろ?
楓は明人の行方がわからないことを勇磨に話し,協力を求めるのです。
伯朗,楓,勇磨の三人は過去に何があったのかをさらに調査します。
康之助には他にも息子がいました。矢神牧雄という人物です。
どうやらこの牧雄が康治の研究について詳しいようなんですね。
康治は人間に対しての研究にはリスクがあると判断し,動物で実験を行っていました。なるほど,かつて伯朗が目撃したのは、この実験だったんですね。
しかし,康治は研究の成果が出ていたものの,発表までには至っていません。
一体なぜなのか。
康治が研究した成果は現在も残されていることがわかります。
勇磨は考えます。実は明人は禎子からこの研究データを受け取っていたのではないか。
ある日,伯朗は楓の住む明人のマンションに向かいます。すでに勇磨がいました。
伯朗は楓のことを気に入ってますから,当然いい気はしません。伯朗 vs 勇磨は続いています。調査しているうちに,とうとう研究結果レポートが見つかります。
それはまさしっく「後天性サヴァン症候群に関するレポート」でした。
その家には伯朗の伯父である兼岩憲三がいました。
実は,この重要なレポートを持っていたのは憲三だったのです。
憲三はある絵を探していました。それこそがあの『寛恕の綱』という一清が描いた絵です
憲三は元々数学者で,かつて一清に「頭の中に奇妙な図形が浮かぶ」と言われたことがありました。
一清は『ウラムの螺旋』という図形を見て神の啓示を受け、『寛恕の綱』の制作に取り組んだのだといいます。
ウラムの螺旋とは
ウラムの螺旋もしくは素数螺旋とは、素数の分布をある簡単なルールに従って2次元平面に並べ、可視化したものである。
これにより、いくつかの二次多項式が非常に多くの素数を生成する傾向にあることが容易に示される。
これは1963年、数学者のスタニスワフ・ウラムによって発見された。
-Wikiより-
フラクタル図形は何となく知ってましたが,ウラムの螺旋というのは初めて聞きました。
本当にいろんなことをよく知っているな。。。東野先生。。。
「寛恕の綱」の完成が大変な宝になると確信していました。ところが「寛恕の綱」は行方不明になってしまったのです。
そして十数年後、憲三はとうとう明人から「寛恕の綱の写真」を見せられるのです。これに憲三は驚きます。
だからアルバムから写真が一枚なくなっていたんですね。この絵を,禎子が持っているのではないかと推測した憲三は,一清の家に忍び込みます。
ところがその時,禎子に見つかってしまったのです。
冷静さを失った憲三は、禎子を襲い,溺死と見せかけるような偽装工作をしたのでした。
つまり禎子の死は事故ではなく,他殺だったんですね。
そして憲三は重要なレポートを見つけ出すのです。これで,憲三の私利私欲による真実が明らかになりました。
憲三はやけになったのか,家に火をつけ自殺を図ります。
現場にいた楓は何と憲三を背負い、伯朗と一緒に外に飛び出します。
ところが,伯朗は「寛恕の綱がどこかにあるはず」と家の中に戻りますが,ある人物に止められます。
何と止めたのはあの明人でした。一体,どういうこと?明人がこれまでの経緯を話し出します。
明人は帰国すると警察に声を掛けられたようです。憲三という人物が明人を拉致しようとしていると。
警察は憲三を捕まえるために、明人が拉致されたよう偽装工作したいと依頼されたのです。
だから明人が行方不明になっていたのか。
明人は警察からの条件を受け入れます。その交換条件として,禎子の死について再度捜査して欲しいと警察に依頼したのです。
そして衝撃の真実が。。。
この捜査で矢神家に送り込まれた女性こそ,あの「楓」だったのです。彼女は女性捜査官だったんですね。
勇磨はそのことを知っていました。そして明人と楓に協力していたのです。
知らなかった伯朗は何とも可哀そう。。。
遺産相続問題と言いながら,密かに「寛恕の綱」という絵を狙っていた人物を捕まえるための工作だったんですね。
後天性サヴァン症候群のレポートにも「踏み込んではいけない倫理的な部分がある」ということで発表は見送られます。
「寛恕の綱」には人を魅了するものがあった。
だから冒頭で康治は明人に対して「この絵のことを背負わなくていい」と伝えたかったんですね。矢神家は明人と勇磨の二人で立て直すことになりました。
楓は,一目ぼれした「ミニブタ」を連れて,伯朗の動物病院へ連れていくのでした。
伯朗,複雑。。。。
資産家というのは,どうもこう遺産問題だったり,女性関係などで複雑になるものなのでしょうか。
やはり資産があるということで,それを手に入れるためにそこに寄ってくる人間も多いのでしょうか。世の中やはり「カネ」なんですかね。
確かに矢神家にやってきた楓は「危険なビーナス」というタイトルからしてもとても怪しかった。明人が突然失踪した理由はこの楓が原因なのでは。。。と思いながら読みました。
「サヴァン症候群」や「フラクタル図形」「ウラム螺旋」と,東野圭吾先生の知識の高さも感じることができた作品でもありました。
それにしても,最後の最後のどんでん返しにはまいりました。
● 「危険なビーナス」の正体に驚きました
● 遺産相続など,カネに目のくらむ人たちはやはり今も昔も変わらなくいるのだなと。。。