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【十角館の殺人】綾辻行人|誰もが騙される圧巻のトリック

綾辻行人さんの作品を初めて読みました。

読んでみた感想は「これが本当にデビュー作?」と思うくらい,読了後は圧倒されました!

こんな方にオススメ

● プロローグの「筋書きではなく,枠組み」という言葉の意味を知りたい

● 孤島でどんどん殺人が実行されていく,本格ミステリーを堪能したい

● 先入観でストーリーに入り込んでしまっていたことに気づきたい

作品概要

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける! 1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。
-Booksデータベースより-



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綾辻さんの作品は,これまでの本格ミステリーにはない視点というか,綾辻さんにしか考えられない構成ではないかと思わせられました。

綾辻行人さんの経歴

1961年生まれ 京都大学大学院教育学研究科 卒業

在学中から執筆活動を始める

1987年「十角館の殺人」を在学中に描き,江戸川乱歩賞に応募 デビュー作でもある

主な受賞歴

日本推理作家協会賞(時計館の殺人)・日本ミステリー文学大賞

結構,昔から活動されているのに,どうして綾辻さんの作品を一度も読んだことがなかったのだろうかと,自分でもちょっと不思議でした。

主な登場人物

ポウ・・・・推理小説研究会メンバー 医学部学生 薬に詳しい

カー・・・・推理小説研究会メンバー 法学部学生 最初に犯人と疑われる

エラリイ・・推理小説研究会メンバー 法学部学生 マジックが得意

ヴァン・・・推理小説研究会メンバー 理学部学生 伯父が角島を購入した

アガサ・・・推理小説研究会メンバー 薬学部学生 気の強い女性

オルツィ・・推理小説研究会メンバー 文学部学生 アガサと仲がいい

ルルウ・・・推理小説研究会メンバー 文学部学生

登場人物は全員日本人で,上記のような「ペンネーム」で呼び合ってるんですね。

だから最初は慣れなくて苦労しました。徐々に慣れましたが。

話は,K大の推理小説研究会の7人に手紙が届くところから始まります。

十角館のある角島という孤島に渡ったメンバーが次々と殺害されていくという作品になっています。

本作品 3つのポイント

1⃣ 殺害された娘の復讐?

2⃣ 誰が真犯人か?

3⃣ 驚愕のトリックとは

殺害された娘の復讐?

プロローグでは,真犯人が自分がこれから犯す殺人計画の書かれた紙を薄緑色の瓶に詰め,それを海に投げ込みます。

これがどこに行きつくのか,犯人にはそれを何かに委ね,ある意味では覚悟も感じられます。薄緑色の瓶に殺人シナリオを入れる一角島の渡った7人のメンバーだけでなく,本土にも研究会のメンバーはいます。

江南(コナン)や守須もメンバーでしたけど,彼らは参加しませんでした。

一体,7名がなぜ選ばれたのか。それは過去の事件まで遡ります。

かつて,メンバーだった中村千織が,同じ十角館の合宿でアルコールを飲まされすぎ,亡くなってしまったという事件がありました。

おそらくこの事件の復讐だろうという推理を多くのメンバーが考えるわけです。

そして,半年前に角島の家屋に火を放ち,妻だけでなく使用人まで殺害したとされる

中村青司が実は生きていて,彼が復讐しているのではないかと。

果たしてこれは真実なのか,それとも他に真犯人がいるのか。

ここが大きなポイントとなります。

角島そして角島から一週間は出られない研究会のメンバーが次々と殺害されていくのです。

メンバーはお互いが疑心暗鬼になって「お前が犯人だろう」と言い合うシーンも出てきます。

首を絞められ,カップに毒を盛られ,後頭部を殴られ,メンバーの心理状態はピークに達している状況をうまく描いている印象がありました。

ただ,僕自身が読んでる時に思ったことがあって「あれ? この人物,なぜこんなことを言うんだろう」という箇所があったんですね。

そこからはその人物の言動に注意して読みました。

結構口数は少なかったです。ひょっとして,当たり?

真犯人は誰か?

この作品,結構ミスリードを誘うような場面がたくさんありました。

一番は「中村青司」が実は生きていてその復讐をしていること。

近くに猫島という小さな島があって,そこに隠れているのか?

これに関してはないかなと思いました。

仮にもしそうだとしたら,この話自体がとてもチープなものになりそうだったから。

青司には子供が他にもいて,というのなら納得はいくかもしれない。

そして,青司にはそこまで仲がよくなかった紅次郎という弟もいる。

いや,千織は紅次郎の本当の娘だったのかもしれない。もう大混乱です。

動機はやはり復讐か? ん~,思いつかない。

でもやはり,あの7人の中に犯人がいるはず,とは思いました。

真犯人ただ,ひとつわからなかったのが,本土側で調査をしていた江南や守須といったメンバーたちの存在と行動。

事件だけ描くのであれば,十角館に注目するだけでいいはずなのに,なぜ本土にいる人間の行動まで描く必要があるのだろう。

何か事件に関わっているようにはとても思えない。

ん~,この「違和感」はなんだろう。そんなことを考えながら読みました。

そうこうしているうちに,また一人,また一人とメンバーが亡くなっていくんです。

モーターボートで本土と角島を行き来することはできそうだけど,そんな気配はなさそうだし。

物理的に考えても本土の人間に犯人はいなさそう。

やはり,あの7人の中にいるのだと確信しました。

驚愕のトリック

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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殺害された順番でいくと,

オルツィカールルウアガサポウ

最後はエラリイとヴァンが残ったのです。僕が疑っていた人物も入っています。

そして十角館は燃え上がるのです。

これで真犯人の計画は達成されたわけです。

ん? 全員亡くなった? いや,最後はどちらかが生き残っているはず。

でも一体どこにいるのだろう。本土から警察きたら,どこかに隠れる?

一角館に警察がやってきました。

警察が捜査した結果,十角館の焼け跡から見つかったのはエラリイだけでした。

やっぱり犯人は「彼」だったか。でも今どこにいるのか?

動機はやはり復讐でした。中村千織とヴァンこと守須は恋人同士だったんですね。

僕がヴァンを最初に疑ったのは,誰かが「全員の部屋を調べよう」と言い出した時です。

真っ先にヴァンは否定しました。「やめといた方がいい」と。

内心焦ってたんだじゃないでしょうか。調べられたら証拠が出てくるでしょうから。

でも他のメンバーもそれに同意したんですね。彼はホッとしたんじゃないかな。

刑事の島田や守須たちは本土に戻ってきました。

島田が質問するのです。江南と守須にニックネームは何かと。

江南はもちろん「コナン」です。

そして守須は「ヴァン」と名乗りました。

えっ? どういうこと? 複数犯なの?違いました。真犯人はヴァンであり,守須だったのです。

は~,そういうことだったんだ。。。

これまでヴァンがどういう行動をしていたかはその後に分かります。

彼は事前にモーターボートを使用して,事前に周到な準備をしてました。

それはプロローグにあった計画なんですけど,読者に対して先入観を持たせます。

ヴァンは十角館にいて犯罪を着実に実行しつつ,本土をモータボートを使って最後は守須として行動していたのです。

これって,犯罪トリックというか「描き方によるトリック」だと思います。

まさかこの二人が同一人物だなんて思いませんから。

エピローグを読み終わった後,僕はもう一度「プロローグ」を読みました。

そこにはちゃんと書いてありました。

この犯罪は,筋書きではなく枠組みである」と。これ,気づいてた方がいたら教えてほしいです。

犯人は当たってました。でもそれすらも作者の思い通りだったんですね。

完全に騙されました。しばらく唖然としてしまいました。

これまで「どうやって殺害したか」というトリックは多くの作品で読んできました。

ミスリードを誘う作品もたくさん読みました。でもこの作品は超越してます。

この作品で考えさせられたこと

● 筋書きと枠組みのスケールの違いを見せつけられた

● 先入観に入り込んでしまうと,真実が見えにくくなる

● 作者の描き方の上手さに「驚愕」しました。本当にすごい!

すごい作品に出会ってしまいました。

これを機に再び綾辻さんの本格ミステリーを読んでみたいと思いました。

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