「分身」と聞いて,何を思い浮かべるでしょうか。
辞書で引けば「1つのものから分かれ出たもの」と書かれています。
つまり,自分と全く同じ姿・形をしたものが複数現れることをイメージするのではないでしょうか。アニメとかでも分身するシーンって確かにありました。「彼女は私と見た目がそっくりで,まるで分身のようだ」というような使い方をすることはあるかもしれませんが,これは本当の分身ではないですよね。
本作品の「分身」では,自分の出生に疑問を持つ女性が,「自分と全く同じ容姿をした,別の女性の存在を知る」というところがポイントになります。
彼女たちの出生の秘密とは一体何なのかに迫る,本当に深い作品です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 鞠子の思い
3.2 双葉の思い
3.3 鞠子と双葉の「真実」
4. この作品で学べたこと
● 鞠子と双葉という女性のことを知りたい
● 鞠子と双葉が瓜二つである理由を知りたい
● 本作品の「分身」の秘密を知りたい
私にそっくりな、もう一人の私がいる!?自分にそっくりな東京の女子大生・双葉をテレビで見て驚く札幌の女子大生・鞠子。2人を結ぶ宿命の絆とは何か?迫真のサスペンス長編。
-Booksデータベースより-
氏家鞠子・・札幌に住んでいる女子大生
小林双葉・・東京に住んでいる女子大生
氏家清・・・・鞠子の父親。鞠子の出生の鍵を握る
氏家静恵・・・鞠子の母親
小林志保・・・双葉の母親で看護師
脇坂講介・・・雑誌の記者。双葉をサポートする
下条・・・・・帝都大学医学部学生。鞠子をサポート
1⃣ 鞠子の思い
2⃣ 双葉の思い
3⃣ 鞠子と双葉の「真実」
主人公の氏家鞠子は札幌の大学に通っている女性です。
彼女には氏家清という大学の教授をしている父親がいます。母親は5年前,火事で亡くなっています。
鞠子は小さい頃から疑問に思っていることがありました。それは「自分が母親に似ていないこと,そして母親から愛されていないこと」です。
母親だけではなく,父親にも似ていません。子供であれば親と何かしら似ている部分を感じると思いますが,鞠子はそれを感じなかったんですね。
5年前の火事にも疑問を持ってました。火を点けたのは実は母親で,一家で無理心中を図ったのではないかというのです。そして鞠子と父親の清だけが助かったのです。
出生の秘密を知りたいと考える鞠子。そこに触れると父親は「すべて忘れろ」と言い放ちます。間違いなく何か隠しています。
それに,鞠子は本当は東京の大学に進学したかったようなんですが,これも父親が断固拒否しています。しかし海外留学は勧めるんです。ん~,何か怪しい。。。
ここまでくると鞠子は「東京に何か秘密があるのではないか」って思いますよね。
鞠子はさらに重大な秘密を掴みます。叔父の家に行った際,父親がサークル時代の写真の中に一人の女性だけがマジックで塗りつぶされているのです。
そしてとうとう鞠子は決断します。父親の母校である帝都大学医学部へ行くことにするのです。
もう一人の女性のことが描かれます。小林双葉です。彼女は東京の大学に通っていました。双葉には志保という母親がいて看護師をしていました。しかし父親は双葉が幼い頃に亡くなったと聞かされていたようです。
双葉には才能がありました。生まれながらにして美声を持ち,大学でもロックバンドのボーカルを担当していました。
そのバンドがテレビのオーディションで勝ち上がるんです。「テレビ出演ができるかもしれない」
夢が膨らみますが,ここでなぜか母親が出演を認めないのです。
ん~,これも完全に怪しいです。ここが「分身」の大きなポイントなのではないかと想像するわけです。
双葉は母から出演を止められてましたが,何とここで強行出演するのです。そしてしばらくすると,一人の男性が母親に会いにきました。何やら重要な話をしているようです。
彼はかつて大学で助手をやっていたときの同僚だと説明されます。一体,何を話に来たのか。
疑問を持つ双葉の思いも束の間,翌日,大事件が発生します。
母親の志保が轢き逃げ事故に遭ってしまい,亡くなってしまうのです。
そんな頃,鞠子は帝都大学にやってきました。もちろん父親の秘密を知るためです。
さらにテレビで自分とそっくりな「小林双葉」と間違われるようになってました。鞠子はここで思うのです。
「自分は,このバンドのボーカルの女性と双子なのではないか」と。
逆に,双葉にも動きがあります。先に書いた母が大学助手時代の同僚と言っていた藤村という男性から連絡があるのです。
そして「話をしたいことがあるから北海道へ来てほしい」ことを言われるのです。
鞠子は東京へ,そして双葉は北海道へ。
東京で二人は出会うのではないかと思ってましたが,全く逆方向へ移動してしまいました。
さて,二人が似ている理由は一体何なのか。そして彼女たちは出会うことができるのか。
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鞠子とともに出生の秘密を探ろうと,帝都大学医学部の学生である下条という女性が鞠子をサポートしてくれます。
そして双葉には,彼女の行動に疑問を持った脇坂という記者が共に行動することになります。
それぞれ心強い味方がついた彼女たちですが,ここからが思ってもない状況に追い込まれていきます。
まず,鞠子が調べていた写真の黒く塗られた女性は「高城晶子」という名前でした。
高城には夫がいましたが,ある病気に罹っていました。それが「ハンチントン舞踏病」というものです。ん? 聞いたこともない名前の病気。。。
調べると「体が自分の意図していないのに勝手に動いてしまう疾患」とあり,難病にも指定されているようです。しかもこれが子供に遺伝する可能性がかなり高いというわけです。
そこで夫以外の精子による受精をしようと,サークルの仲間に相談したのです。
その仲間というのが鞠子の父親である氏家清だったんですね。徐々に真相に迫りつつあります。
ということは,受精したが双子ができたということなのか,と思いましたが,実際は違いました。ここで衝撃の事実が明らかになります。
それは「クローン技術」です。もちろん聞いたことはありますよね。
1996年にはクローン技術を利用した「牛」での実験に成功していますし,確実に研究はされ続けているようですし,2007年に誕生したクローン「羊」は今も生きているそうです。でも一体なぜ似た女性が二人いるのかというのが問題になってきます。
実は「クローンの受精卵が複数あった」のです。
一つは小林志保,つまり双葉の母親がその実験台になると志願しています。あくまで実験です。
ところが自分の体から産まれてきたという「母性本能」が出たのでしょう。志保は自分の子供として育てたいと,研究施設を飛び出し,東京へ住むわけです。
では,鞠子はどうなのか?
それは氏家清が苦労して作り出したクローンを世に放ちたいという欲が出たのでしょうか。もう一つのクローンを育てるわけです。
しかし,卵子を提供した高城晶子にはその事実は伝えられませんでした。彼女は失意のまま養子をとることになるのです。その養子こそが脇坂なのです。
双葉は真実を知り「実の母親」である晶子に会おうとしますが,完全に拒絶されます。
ん~,これは卵子を提供した親の気持ちになってみないとわからない。
確かに晶子の気持ちになってみると,自分の提供した卵子で知らぬ間に育てられた本当の娘,自分が育てていない娘に会うのは辛いというか,裏切られたという怒りの気持ちもあったのではないかと想像してしまいます。
双葉は仕方なく諦めます。そして,瓜二つである鞠子を探しに行くのです。
鞠子は何者かに施設に拉致されていました。同じくクローン技術に目が眩んだグループが,クローンの成功率を高めようと鞠子の卵子を狙っていたのです。
鞠子はかろうじて施設を飛び出します。そこには富良野のラベンダー畑がありました。そして双葉も。
ようやく「2人」は出会うことができたのです。最後の最後に2人が初対面を果たした時は本当に感動しました。
本作品の結末を読んで真っ先に思い出したのが「ルパン三世」の「ある作品」でした。それが1978年の作品だと考えると、かなり昔からこの研究はされてきていたんだろうなと思います。
この作品も読みながら「双子ではないのではないか」と思わせる表現がいくつか出ていました。でも鞠子は18歳,双葉は20歳なんですよね。
終盤になって衝撃の真実が明かされましたが,これは踏み込んではいけない領域なのかなとも感じました。
人間に応用したとしても問題があるようです。確かに子供ができない人々にとってはメリットがありますが,それはこの技術が成功した場合に限ってです。
失敗した場合には一体誰が責任を取るのか。誰が育てるのか。普通に成長していく保証があるのか。
安全面・倫理面でもやはり問題があるようですね。難しいですが。。。
鞠子と双葉の2人の運命はどうなるんだろうと続きが知りたくなるような作品でした。
● 鞠子と双葉の出生の秘密は意外なものだった
● 今回の作品を描こうとした東野先生の探求心に感服しました
● 出会った二人が今後どんな人生を送るのかが知りたくなりました