医者を目指して努力する方々,本当に尊敬します。
多くの医者が「医者を目指そう」と思うきっかけは,親が医者でその背中を見て育ったという経験だったり,小さい頃に手術で命を助けてもらった経験があったり,ということなんでしょうか。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 外科医師は大変?
4.2 外科医師の苦悩
4.3 政治家の手術
5. この作品で学べたこと
● 将来,外科医を目指している方
● 人には多かれ少なかれ,どんな人にも苦悩があることを学びたい
● ロボット手術のメリット・デメリットを知りたい
剣崎啓介は腕利きとして知られる中堅外科医。そんな彼が頼りにするのが松島直武だ。生真面目な剣崎と陽気な関西人の松島。ふたりはオペで絶妙な呼吸をみせる。院長から国会議員の癌切除を依頼された剣崎は、松島を助手に得意なロボット手術を進める。だが、その行く手にはある危機が待ち受けていた──。現役外科医が総合病院で日夜起こるドラマをリアルに描く、医学エンターテインメント。
-Booksデータベースより-
いずれにしても,命を預かる大変な使命を伴うこの仕事を目指すということには,何度考えても僕にはできないですね。
この作品の作者は「中山祐次郎」さんです。
1980年生まれ,鹿児島大学医学部卒業
出身大学が同じなので,とても親近感を持ちながら読ませてもらってます。
現役の外科医で,仕事をしながら執筆活動もされてます。すごいですね。
代表作
泣くな研修医・逃げるな新人外科医・走れ外科医・やめるな外科医
先日,ツイッターでDMいただきました。中山さん,ありがとうございます!
これまでに描かれた作品は何といっても「泣くな研修医」シリーズですね。
中山さん自身が経験したことをベースに描かれている外科医の小説です。
剣崎啓介・・・数々の手術を経験した腕利きの外科医。しかし,時々迷う。
松島直武・・・腕の立つ外科医。剣崎が一目置いており,信頼できる医師。
荒井・・・不器用な新人医師。剣崎たちの手術の足を引っ張る。がんばれ。
剣崎,松島という二人の外科医師の話となっています。
医師の人間関係,苦悩,命を預かるプレッシャー,医師としてのメンタルの保ち方,いろいろなことが学べる作品となっています。
1⃣ 外科医師は大変?
2⃣ 外科医師の苦悩
3⃣ 政治家の手術
麻布中央病院に勤務する剣崎と松島は,これまで数々の手術をこなしてきました。
特にこの松島は冷静に執刀できる医師で,剣崎も一目置いている印象があります。
それにしても,外科医の仕事は大変だと思います。
それは「泣くな研修医」シリーズでも描かれていますが,まず手術というのは事前に検査はするものの,開腹してみないと何が起こるかわからない。
その時に冷静に対処できるかどうかというのが重要になってきます。
その点,松島は常に冷静で,剣崎が認めるのもわかるような気がします。
こういう人が近くいるとやはり安心できますよね。
だから剣崎は緊急時には松島を呼ぶのでしょう。
ただ,中には彼らよりも若く,いや若くなくても技術が劣る人間もいるわけです。
知ったかぶりでなかなか技術が身につかない者(荒井)
責任を取りたくなくて怯えている者(荒井)
そんな中で若手の指導をしながら手術を成功させなければならないのですから,本当大変です。
息抜きに居酒屋で愚痴を言い合うシーンなど,何か自分と似てるなって思ったりもしました。
医師にも不安やプレッシャーは常にあって,息抜きの時間も大事なんだなってと思いました。しかし,そんな時にも急患の連絡があって,病院へ戻って手術ということもある。
ホントに大変な仕事です。
とてもじゃないけど,僕には絶対できない仕事だなって思います。
外科医の大変なところは,やはり「命に直結している仕事である」ということなんじゃないかなと思いました。
手術中もバイタルサイン(脈拍,血圧など)の数値を確認しながら,迅速な決断力と行動力がないと患者の命に関わるわけですから。
経験を積んでいる松島や剣崎でさえもうろたえることがあるのだなと。
また,自分より年上の医師との関係も気になりました。
何かわかりませんが,足元をすくおうとする人もいるのだと思います。
カンファレンス(手術内容に関するプレゼン,討議など)の時の久米という医師もそういう人なのかなと思いました。
プライドなのでしょうか,嫉妬心からなのでしょうか。
どこの組織でも同じような人がいるんですね。
ただ,ここではあまり描かれていませんでしたが,役に立たない年配の稲田という医師や,さきほどうろたえていた荒井という新人医師にも苦悩があるのだろうなと思います。
僕も仕事で,作業が遅いとか,責任感がない人を見ると,どうしても陰口を言いたくなってしまいます。
でも稲田や荒井も実は/
「松島や剣崎のようになりたい」
「どうやったらあんなふうに堂々と振舞えるのだろうか」
って悩んでいるのかもしれませんね。
どんな医師にも,いやどんな人にも苦悩があるだとのだな,と思います。
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ある日,剣崎は院長に呼ばれ,「国会議員の直腸癌手術を執刀するように」言われます。
剣崎が「久米医師には院長から言ってほしい」と返します。
仕事はできる人のところにやってくると言いますけど,そのことに「なぜ自分ではないのか」と考える人もいるわけです。
職場の人間関係って,難しいところがありますよね。
これまで外科医の小説は「白い巨塔」から何冊も読んできましたが,ロボットによる手術を描いているのは初めてだったかなと思います。
以前,「医療情報技師」という資格の勉強をしている時に,このロボットによる手術や,遠隔医療など,IT技術を利用した医療行為が出てきたことを思い出しました。
「HOKUSAI」と呼ばれるこのロボットは,手術をサポートするシステムで,術野をモニターで映し出したり,使用する道具を人間の声によって自動で交換することができます。
ITの進化は本当にすごいなって思います。
どんな業界でもそうですが,ITというのは世の中のことを便利にしてくれます。
手術に関しては,医者にとっても負担は減りますし,患者にとっても負担が減ります。
しかしこの後,思ってもないことが起こってしまいます。
医師の思う通りに動かない,つまり誤作動を起こしてしまったことです。
これにより切ってはならない部分を切ってしまい,出血多量,血圧低下が起こってしまいます。
システムのバグ(不具合)なのか,それとも人為的ミスなのか。
やはり完璧なものってないのかなと思います。
どんなにトラブルを想定してシステムを作っても,みずほ銀行システムトラブルだったり,原発の電源異常トラブルだったり。
設計・製造したのが人間であれば,やはりそこにはミスも出てくるだろうと思います。
システムのバグであればそれを修正し,人為的ミスであれば事前チェックを怠らないようにする。
さらには想定していないことが起こることもあるわけです。この「俺たちは神じゃない」という言葉は,医療業界だけでなく,どんな業界にでも言えることなのではないかと思いました。
仕事というのは「チーム」で仕事をします。
チームメイトが同じ方向に向かっていなければ,どんなこともうまくいかない。
それはスポーツでもそうですし,IT業界での「プロジェクト」もそうでした。
手術をする場合も,いろいろな役割の人がチームを組んで行うわけです。
そして,その一人一人の技術はできるだけ高い方がよいし,多くのことを経験していた方がよい。
時には失敗することもあると思いますが,それは必ずどこかで生かせるものだと思います。
● 目の前から逃げず,失敗を恐れずに前へ進もうとする強い意思
● 想定外のことが起こっても決して慌てず,冷静に対処する力が必要
● どんな人にも不安はあって,それをチーム全体で補い合うことが必要
この作品は,何かそんなことを伝えたいのではないかと思いました。
とても人間味のあるリアルな作品で,逆に僕自身も勇気をもらえたような気がします。