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【代償】伊岡瞬|他人を貶めようとする悪の元凶

代償

伊岡瞬先生の作品の中でも,特に「悪」を感じる作品でした。

とにかく「悪」の描写がすごい。それは貴志祐介先生の「悪の教典」のような,「悪」を成敗できそうでなかなかできないもどかしさを感じます。

第一章,第二章と分かれていて,圭輔という主人公の少年時代の話なのが第一章,その圭輔が大きくなり弁護士になっているというのが第二章となっています。

特にこの第一章は,子供の頃からこんな根っからの「悪」が世の中にいるのだろうかと思ってしまいます。悪のモンスター圭輔の友人?の達也がかなりの「悪党」なのです。「モンスター」と言ってもいいくらい。

冒頭から徐々に悪の世界に引き込まれていく感覚は,本作品を読んだ方ならわかるでしょう。

何か体が悪に吸い込まれつつも,同時に拒絶反応しているのではないかと。

伊岡先生の中でも「最凶」だし,「誰か達也を早く成敗してくれ」と思うような作品です。

こんな方にオススメ

● 本作品の「モンスター」の存在を知りたい

● 悪の根源である達也に立ち向かう圭輔の姿を見てみたい

● 「代償」とは一体誰のことを言っているのかを知りたい

作品概要

平凡な家庭で育った小学生の圭輔は、ある不幸な事故をきっかけに、遠縁で同学年の達也と暮らすことに。運命は一転、過酷な思春期を送った圭輔は、長じて弁護士となるが、逮捕された達也から依頼が舞い込む。「私は無実の罪で逮捕されました。どうか、お願いです。私の弁護をしていただけないでしょうか」。裁判を弄ぶ達也、巧妙に仕組まれた罠。追いつめられた圭輔は、この悪に対峙できるのか? 衝撃と断罪のサスペンスミステリ。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

奥山圭輔・・・主人公。家が火事になり達也と生活する

安藤達也・・・圭輔の遠い親戚。実は恐ろしい人間

安藤道子・・・達也の母親。

白石真琴・・・白石法律事務所の圭輔の同僚

諸田寿人・・・圭輔の同級生で,ジャーナリスト

本作品 3つのポイント

1⃣ 少年時代の圭輔と達也

2⃣ 弁護士になった圭輔

3⃣ 弁護士 vs モンスターの結末

少年時代の圭輔

奥山圭輔は平凡な家庭で暮らす小学生です。圭輔には遠縁の親戚である安藤達也という同級生がいました。圭輔と達也達也は圭輔の家に遊びにくるんですね。一見仲良さそうな二人ですが,読んでしばらくすると徐々に違和感が。。。

達也が何かを企んでいる描写があるんですよね。圭輔の家のこと,家族のことをさりげなく聞き出す達也。何を考えているのかわからない。

徐々に奥山家に入り込んでくる達也に対する違和感の中,圭輔にとって信じられないような事件(事故?)が起こります。

圭輔宅が火事になってしまうのです。そして圭輔の両親も亡くなってしまうのです。圭輔の自宅が火事になる茫然とする圭輔。慰める達也。圭輔は住む場所を失くしてしまいます。

でもやっぱり違和感があるんですよね。この火事を仕組んだのは達也なのではないか。そんな疑問が圭輔の中を占有します。

そして圭輔は達也の家で過ごすことになるのです。

達也には道子という母親がいました。圭輔を快く受け入れる道子。と思っていたんですけど,どうもこの道子も怪しいのです。

火事になってしまった圭輔の家。もちろん家は住めませんが,土地はあります。そこに目をつけている感じがする道子の行動。達也の母,道子道子は圭輔の後見人になります。そして圭輔はその土地を道子に譲渡するという同意書を書かされるのです。

「ひょっとして,最初からこれが目的だったのでは?」

そんなことを思わせられました。次第に圭輔に対しても厳しく当たるようになる道子や達也。もうお前には用はないんだよ,と言わんばかりの仕打ちです。

不慮の事故と思わせながら,圭輔宅の火事は達也が仕組んだものであり,それに気づかず,お人よしな圭輔は達也とその母親のいいなりになってしまったのです。

圭輔は相当辛かったと思います。

我慢の限界だった圭輔は,とうとう安藤家を出ていく決断をするのです。

弁護士になった圭輔

圭輔は成人になっていました。圭輔は必死で勉強して司法試験に合格し,弁護士になりました。ようやく圭輔にも幸せが訪れるのかという期待がありました。弁護士になった圭輔白石法律事務所に在籍している圭輔には,白石真琴という同僚もいます。

ある日,圭輔は事件の依頼を受けます。その依頼人があの達也だったのです。

強盗殺人の弁護を引き受けてほしい

自分は身に覚えのない容疑で裁判にかけられると言うのです。

佃美果という女性が殺害された事件です。

いや,まだ達也は圭輔に付きまとうのか。そんなことを思いながら読み続けました。

圭輔も五感が反応しただろうと思います。間違いなく過去のトラウマが甦ったことでしょう。弁護の依頼を受け,困る圭輔一瞬,達也は心を入れ替えたのではないか,そんなことを思いました。

とうとう圭輔は達也の弁護を引き受けることになるのです。大丈夫なんでしょうか。

達也は以前とは違う善人になっているのではないか。そんな期待も持ちました。でも違いました。達也は変わっていませんでした。

圭輔も成長したのかもしれませんが,達也も「悪い意味で」成長していたのです。

基本,人間というのは劇的には変わらないですよね。圭輔はやはり優しい青年になってたし,達也はさらに「悪」をパワーアップさせていました。悪がパワーアップした達也自分の欲のためなら平気で人を殺す。というか,人を殺害するのもためらわない。まさにサイコパスです。

達也に対抗できるくらいの強さを圭輔は身につけているのか。

美果の妹である佃紗弓と会った圭輔は,弁護側の証人になってほしいという依頼をします。

そしてさらに圭輔は「事件当夜,達也と一緒にいたと証言してほしい」と言うのです。

裁判が近づいてきたある日,達也の母親であるあの「道子」から圭輔に連絡が入ります。道

子のスナックで会うことになった圭輔。

その名も「スナック たっちゃん」名前からして,嫌な予感しかしません。

ここで圭輔はピンときます。達也,道子,そして紗弓はつながっているのではないか。

さらに紗弓が達也と密会していたのは嘘ではないのか。誘導する達也裁判が始まります。そして予定通り紗弓が証言台に立ちます。

紗弓は証言台で「事件当夜,達也と一緒にいたと嘘の証言をしてほしいと言われた」と言ってしまうのです。

窮地に追い込まれる圭輔。自分のためなら何でもする達也。

達也は,紗弓をうまく誘導していました。

法廷はざわめきます。彼は「人の心を操る天才」のようです。達也の裁判達也を追い込もうとしますが,逆に追い込まれる圭輔。

「早く誰か達也を成敗してくれ」

そう思いながら読むんですけど,圭輔のさらに上をいく達也の強さに何もできない様子です。

圭輔はこの状況を打開できるのでしょうか。

弁護士 vs モンスターの結末

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裁判で紗弓は「達也といたことにしてくれ」という証言を話しました。完全に不利になった圭輔。彼はとうとう検事と裁判官に「過去の出来事」を語りだすのです。

それは,小学生の頃,自宅が火事になり達也の家で育ったこと。達也は,弱いものに取り込み,誘導してしまう人間だということ。

安藤達也という男は,他人を貶めてそれを喜ぶ性向がある

理解し難い様子の裁判官や検事。

紗弓が達也といたという嘘。そうなると達也のアリバイがなくなります。そして達也は言うのです。

「自分は母親といた」と。そして「母親とやっていた」と。

アリバイがあるということで,安藤達也の事件は無罪に傾きます。万事休すか,圭輔。

何か余罪がないのか。別の容疑で安藤達也を追い詰められないのか。

圭輔,白石真琴,そして圭輔の同級生だったジャーナリストの諸田寿人の三人は食事をしながら考えます。

圭輔はある女性からUSBメモリーを手に入れます。そこに写真が30枚ほどあります。USBメモリー何かヒントはないか,藁をもすがる圭輔にある写真が目に入ります。

丸岡運輸という運送会社,総務課の安井という男性でした。実は安藤達也はこの丸岡運輸で働いていたんですけど,あまり評判がよくなかったらしいのです。

圭輔は何かを掴もうと,安井と会うことにします。

すると,思ってもないことが出てきました。一枚の写真に映っている人物。

カドタという男です。本名門田芳男は,丸岡運輸から仕事を回してもらっていました。カドタという男しかも門田はかつての安藤道子の愛人でもありました。さらに丸岡運輸では強盗事件も起こっていました。彼らはここにも関わっているのか。

つながりがないように見えて,実はつながっていたのではないか。圭輔たちは調査を続けます。そして門田の元妻の家にいきます。そこで意外なことを元妻から聞き出します。

絵のことは話してもいいが,骨壺のことは言うな

門田はそう言ったらしいのです。これはどういう意味なのか。

二週間前に実は道子がこの家にやってきて,絵の裏にある封書を持って帰ったようです。
そして骨壺は圭輔が受け取ります。ここが運命の分かれ道でした。

骨壺の中には奥の方に「マイクロカセット」が9個入っていました。骨壺の中の証拠それを再生する圭輔。そこには,安藤秀秋,つまり道子の夫の殺害時の音声でした。

しかし最後までの逃げようとする達也。最後は道子との言い合いに。モンスター達也 vs モンスター道子。

これが安藤家の最後。そして達也はようやく逮捕されたのでした。

代償」というのは何なのかというのを考えながら読みました。

優しい青年のまま育ってしまった圭輔に対する「代償」なのか。それとも,悪事を繰り返し続け生きてきた達也に対しての「代償」なのか。

結局,悪は裁かれるということ。これで達也がそのまま生きていけるのであれば「これはまずいぞ」と思いながら読んでいました。

最後は圭輔を中心に,多くの人間がこの悪党親子を退治することに成功しました。

多くの人々が束になってようやく追い詰めた達也という恐ろしい人間,いや「モンスター」でした。

家庭環境,親の性格,自分の性格,いろいろなものが絡んで人格を形成するのでしょうか。

法の網をかいくぐって,結局最後まで生き残る人間もいるのだと思うと,本当に恐ろしくなりました。

きっと圭輔はこれを乗り越えたことで,立派な弁護士になっていくのかなと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 世の中には矯正できないほどの人間もいるということ

● 圭輔の達也を追い詰めようとする執念

● 弱かった圭輔が,事件を乗り越え強くなっていく姿

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