綾辻行人さんの作品は「十角館の殺人」の衝撃が忘れられず,あれから「館シリーズ」を何作か読んでいます。
「時計館の殺人」そして今回は「人形館の殺人」と,ミステリーなんですけど,何となくホラーな要素もあります。
読んでいる際中に,幾度となく寒気を感じることもあることもありました。
本作品は,人形館というアパートのような場所が舞台で,ここには複数の人々が住んでいます。 主人公の飛龍惣一を狙っている者がいるようです。
その正体は誰なのか? 最後は意外な展開で一気読みできると思います。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 想一を狙う人物の存在
3.2 想一の過去の犯罪
3.3 人形館殺人の真犯人
4. この作品で感じたこと
● 本格ミステリー・ホラー要素の強い作品を読んでみたい
● 本作者の「館シリーズ」の一作を読んでみたい
● 意外な真犯人を知りたい
父が飛龍想一に遺した京都の屋敷――顔のないマネキン人形が邸内各所に佇(たたず)む「人形館」。街では残忍な通り魔殺人が続発し、想一自身にも姿なき脅迫者の影が迫る。彼は旧友・島田潔に助けを求めるが、破局への秒読み(カウントダウン)はすでに始まっていた!? シリーズ中、ひときわ異彩を放つ第4の「館」、新装改訂版でここに。
-Booksデータベースより-
主な登場人物
飛龍想一・・・主人公で画家である
池尾沙和子・・惣一の育ての親。実の親は亡くなっている
辻井雪人・・・小説家。想一の又従弟である
倉谷誠・・・・大学院生
架場久茂・・・想一の幼馴染。大学の助手
島田潔・・・想一の友人
1⃣ 想一を狙う人物の存在
2⃣ 想一の過去の犯罪
3⃣ 人形館殺人の真犯人
想一を狙う人物の存在
飛龍想一は,自分の父親が自殺したため,父親が使用していた人形館を相続することになりました。
想一は母親の沙和子とともに人形館に移り住むことにします。ちなみに沙和子は想一の本当の母親ではないです。本当の母親は亡くなっているようでした。
島本という人物の手紙に導かれるように,この人形館に来ることになった想一。
その人形館はアパートのようにいろんな人々が住んでいて,また父が作ったと思われる顔が「のっぺらぼう」のマネキン人形がたくさん置いてあります。何か不気味なところです。
おそらく想一の父親が作ったものでしょうが,何か薄気味悪さを感じました。のっぺらぼうのマネキンには一体どんな意味があるのか。
想一が人形館に着いた直後から,何やら不穏な空気が漂い始めます。。。
どうやら想一の命を狙っているものがいるようです。
人形館には多くの人が住んでいました。管理人である水尻夫妻,想一の遠い親戚で小説家を目指している辻井雪人,大学院に通っている倉谷,盲目のマッサージ師である木津川など。
ある人物の視点で下記のようなセリフが登場します。
「時はきた。飛龍想一の居場所はとうにわかっていたのだ。そしてあの男はこちらの意志には気づいていない」
これが一体誰なのかというのが本作品のポイントです。想一を何者かが狙っているようです。
ここから次々と想一の周りで不審なことが起き始めます。
マネキンに赤い絵の具がぶちまけられていたり,猫の死骸が置かれていたり,ポストの中にガラスの破片が入れられていたり。さらには,子供たちが首を絞められ殺害されるという事件も発生します。想一の周りで次々と不吉な出来事が起こりだします。
想一はかなり怯えているようです。
そして時々過去を思い出すような,記憶が飛びそうな瞬間があります。
・・・赤い彼岸花・・・二本の線・・・真っ黒な影が・・・まるで蛇のような・・・
こんな感じの変な声が時々想一には聞こえるようになるのです。ただ,僕自身はこの部分を読みながら「真犯人の正体」の仮説を立てていました。ひょっとしたら。。。。
一体誰が想一を狙っているのでしょうか? とうとう大事件が起きてしまいます。
想一の過去の犯罪
想一には幼馴染がいました。架場という男で,近くのカフェで偶然出会います。
架場は某大学の助手として働いていて,想一の良き相談相手になりました。
さらに架場の友人で道沢希早子という女性とも仲がよくなります。
想一は希早子に徐々に惹かれているようでした。
ところが想一に思ってもない出来事が起こります。
想一の育ての親である沙和子が火事で亡くなってしまったのです。
実の母親を亡くしていた想一。それからも想一を自分の本当の息子のように女手一つで育ててくれた沙和子の死に,想一は動揺します。
この事件も「お前のせいだ」という手紙が届き,やはり何者かが想一を徐々に追い詰めようとしているような感じがします。
ある日,想一は「島田潔」からの手紙を見つけます。島田は大学時代に隣に住んでいた男です。
かつて島田は「十角館」の建設にも関係していた中村青司が作った建物にも関係していたということを思い出し,島田に連絡を取ろうとします。しかし,なかなか連絡が付きません。
想一には思い出せそうで思い出せないことがありました。
自分の実の母親がなぜ亡くなってしまったのかということです。懸命に思い出そうとして,ようやく思い出すことができました。
ヒントになったのは,人形館のすべてのマネキンが,庭のある一画を指していたのです。
そこを掘ると,新しいマネキンが出てきました。このマネキンは想一の本当の母親を模したものでした。おそらく想一の父親が作ったものでしょう。
これを見て想一はようやく思い出します。それは自分自身の罪でした。
実は想一はかつて母親を殺害していたのです。いや,正確には,母親が乗っていた列車の前の線路に石を置いて,列車を脱線させてしまったのでした。
これが二本の線と黒い影の正体です。
一方,そのことを「思い出せ,思い出せ」と言っていたのが犯人らしき人物です。
この二人にはどういうつながりがあるのでしょうか。
そんな中,想一は幼馴染の架場に相談します。周りで起こっている不穏なことや,自分が犯した過去の過ちを。
そして,子供殺しの犯人が判明します。それは人形館の住人の辻井でした。
辻井の部屋には遺書が残されていました。
彼は小説家を目指しており,子供の声がうるさくてなかなか集中できないことにイライラしていたんですね。それで子供を手にかけたと。
警察はこの事件を自殺で処理しようとします。
しかし,想一の元にはまだ手紙が届きます。
「もう一人のお前は殺した。思い出したか?」果たして,想一を狙っていた犯人はこの辻井だったのでしょうか。
想一に犯罪の手が伸びずに,その周囲の人間が亡くなっていく。ここが大きな違和感でした。
そしてとうとう事件の真相にたどり着くことになります。
人形館殺人の真犯人
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辻井は子供を殺害してはいましたが,想一に殺意を抱いている人間ではありませんでした。
そしてさらに事件が。架場の友人である希早子が何者かに襲われるのです。助けたのは,以前から想一が相談していた島田でした。
そして島田は人形館へ着くと,自分は想一に呼ばれてやってきたと言うのです。
この時の周囲の人々の表情。「お前は何を言っているんだ」という表情をしています。
これで確信しました。僕の予想は当たったかもと思った瞬間でした。
架場は島田に向かって言うのです。「飛龍君」と。
結構最初の段階でおそらく飛龍は「精神分裂症」,今でいうところの「二重人格者」ではないかと思っていました。
つまり,飛龍は,飛龍自身を殺害しようとしていたのです。
多重人格者というのは,過去のショックにより精神が分裂したようになり,複数の人格を持ったような行動をするようになると,他の小説でも読んだことがありました。
例えば東野圭吾さんの「プラチナデータ」,貴志祐介さんの「十三番目の人格 ISOLA」などです。
これらの作品を知らなかったら,二重人格者という予想はできなかったと思います。
驚いたのは島田も飛龍の人格の一つだったということです。想一は三重人格者だったんですね。 想一自身は,本当は生きているのが辛い状況。それに追い打ちをかけていたのが二番目の人格です。そしてそれを救おうとしていたのが島田という人格だったのです。
亡くなった沙和子は想一を本当に大事にしていました。しかし二番目の人格がそれを鬱陶しく感じ,殺害に至ったのでしょう。
辻井を殺害したのも想一自身。つまり全ては彼が自分の中で作り上げた世界で,自分自身が犯罪を犯していたということになります。
なんとも悲しい結末。想一はひょっとしたら裁かれないのではないかとも思いました。
刑法39条「精神に疾患がある人間は責任能力がないものとみなし,罰しない」
いろんな小説で登場する刑法39条です。
確かに犯人には同情すべき点は存在します。しかし。。。ん~,難しい問題です。
人形館殺人は「館シリーズ」の第四作目で,第一作から飛ばして読んでしまったみたいです。
第二作目の「水車館の殺人」,第三作目の「迷路館の殺人」も今後読んでみたいと思います。
● とにかく真犯人に驚いた(予想はしていたが。。。)
● 他の「館シリーズ」も読んでみたくなるはず
● 真犯人のその後の人生を知りたくなった