何不自由なく,幸せに生活していた家族に,突然謎の人物が入り込んできたら一体どんな対応をするのでしょうか。
興味ありませんか。この作品はそのドキドキ感を味わうことができる作品です。
「不審者」が一体何者なのかが明らかになるまで,最後の最後まで目が離せない作品でとても面白かったです。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 謎の人物
4.2 里佳子の不信感
4.3 不審者の正体とは
5. この作品で学べたこと
● 本作品の「不審者」の正体に興味がある
● 先入観にとらわれ過ぎて,真実を客観視できなくなってしまう作品を読みたい
● 視点を変えると違った姿が見えてくることを体験したい
家族4人で平穏に暮らす里佳子の前に突然現れた1人の客。夫の秀嗣が招いたその人物は、20年以上音信不通だった秀嗣の兄・優平だと名乗る。しかし姑は「息子はこんな顔じゃない」と主張。不信感を抱く里佳子だったが、優平は居候することに。その日から不可解な出来事が続き……。家庭を侵食する、この男は誰なのか。一つの悲劇をきっかけに、すべての景色が一転する。暴かれる家族の秘密と、衝撃の結末。『悪寒』『代償』の著者が放つ、驚愕のサスペンス&ミステリ。
-Booksデータベースより-
1960年生まれ 日本大学法学部卒業
2005年に横溝正史ミステリ大賞受賞を機に,作家デビュー
主な受賞歴
横溝正史ミステリ大賞(約束)・啓文堂書店文庫大賞(代償,悪寒)・徳間文庫大賞受賞(痣)
伊岡さんの作品はこれまで10作品ほど読みました。
どの作品も深みがあって面白くてオススメなんですけど,今回はこの「不審者」を選んでみました。
折尾里佳子・・今回の主人公。平凡な生活を送りたいと思っていたが。。。
折尾秀嗣・・・里佳子の夫。突然,自分の兄を連れてくる。
優平 ・・・秀嗣の兄,と名乗ってはいるが,里佳子は不信感いっぱい。
この作品は里佳子という女性で,彼女の視点で描かれています。
里佳子は夫と息子と普通に幸せに暮らしていました。そんな日々を送っていたある日,突然,夫の兄を名乗る人物が現れるところから話は始まります。
1⃣ 謎の人物
2⃣ 里佳子の不信感
3⃣ 不審者の正体とは
里佳子は,夫である秀嗣と息子の洸太と幸せに暮らしていたと書きましたが,実は暗い過去がありました。
母親と姉を亡くしていて,不遇な環境で育ったのです。
自分は幸せに暮らしたい。そう思って生きてきたのでしょう。
義理母とも暮らし,気を遣いながら過ごしていました。
そんな時に,夫の兄である「優平」が現れるのです。
秀嗣の父親は母親と離婚し,その父親と出て行ったのが優平でした。
この優平がどうも胡散臭いんです。認知症っぽくなっていた義理母も自分の息子ではないようなことを言っていたし,里佳子の息子の洸太もこの男性に何度か声をかけられています。
里佳子が優平を不審に思う気持ちがどんどん膨らんでいきました。
「本当に夫の兄なの?」と。
確かにこの優平は不審者のように映っていました。
「この男の正体は怪しい」というのは僕も読みながら思ってました。
ただ,あまりにも優平が「悪者」に描かれすぎているのです。
夫の秀嗣も兄と疑ってないし,息子の洸太も声をかけられたとはいえ,そこまで悪くも言っていない。
義理母は認知症っぽいから,思ったことを正直に言っているような気がする。
一番不信感を持っていたのは間違いなく里佳子です。
彼女は何をそこまで疑っているのか。
いや,むしろ怯えているようにも見えます。そのくらいの不信感です。
ん~,これは何か匂うぞ。。。この男,ひょっとして。。。
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「ひょっとして,これってミスリードか?」
そう思い始めたのは話の中盤辺りです。
あまりにも優平が怪しく描かれ過ぎなんですね。
それになにやら里佳子の主婦たちが噂話をしている。里佳子はそれをなぜか気にしている節がありました。
実は,これが伏線だったんですね。
里佳子の視点で描くことで,読者をうまくミスリードしていたんです。
これが読者を陥れた「先入観」です。何となく違和感はあったんですけど,
ということは,その視点を逆転させればつじつまが合うのです。
そして,決定的だったのは,里佳子が優平をバットで殴ろうとした場面です。
しかし,優平は夫である秀嗣に救われるのです。
里佳子がその犯行を起こした理由は,優平が偽物と気づいたのでしょう。
そして,里佳子は敏感に身の危険を感じたのだろうと思います。
だから優平を殺害しようとしたんですね。
優平は確かに偽物でした。偽物でしたが,実は刑事だったんです!
今回の話は完全に「囮(おとり)捜査」だったんですね。
里佳子は「私利私欲のため」に罪もない者を亡き者にし,自分だけは幸せな生活を送っている。
つまり,里佳子は自分の母,姉を殺害した犯人だったんですね。
秀嗣はそれに気づいていたということです。なぜ気づいてたか。
それは,洸太が秀嗣と里佳子の本当の子供ではないからです。
ん~,秀嗣にも問題あったわけなんですけど。。。
秀嗣が不審者を呼んだのか。それとも優平が秀嗣に声をかけたのか。
ひょっとすると,秀嗣の方から呼んだのかもしれませんね。
実は夫である秀嗣の方が里佳子に対してずっと不信感を持っていたのかもしれない。
とにかく,今回の話は「完全に騙された!」と思いました。
伊岡瞬さんの描き方,読者をミスリードさせる力に感服しました。
これが小説の面白さですね。
● 先入観に入り込んでしまうと,真実が見えにくくなる
● 見方を変えることで,真実が見えてくることがある
● 作者の描き方の上手さに「感服」しました
この作品のタイトルの「不審者」とは優平だったのでしょうか。
それとも,里佳子自身だったのでしょうか。