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【下町ロケット ヤタガラス】池井戸潤|企業の存在意義とは

下町ロケット4

下町ロケットシリーズの第4弾です。

ヤタガラス」というのは,かつて天照大神が後の神武天皇を助けようと送り出した,三本足の神聖なるカラスのことです。

三本の足にはそれぞれ「」「」「」という意味がこめられていて,現在ではサッカー日本代表のエンブレムにもなっているのはご覧になったこともあるかもしれないですね。

ヤタガラス帝国重工が製造した大型ロケットで宇宙に送り出した「準天頂衛星」の名をヤタガラスと名付けました。

準天頂衛星」によるGPSとは,簡単に言えば多くの衛星を使うことで,正確な位置情報を得るためのものです。

これによって誤差の大きかったGPSの性能が飛躍的に高まり,数ミリ単位の精度にまで性能を上げることができるようになりました。

このGPSの機能を利用し,農業を支援する無人トラクターの製造に佃製作所が関わるというのが今回の話です。

こんな方にオススメ

● 本作品の「ヤタガラス」とは何かを知りたい

● 本作品で佃製作所が果たすべき役割を知りたい

● 企業のあるべき姿,自分の役割について学びたい

作品概要

宇宙(そら)から大地へ――。
大型ロケット打ち上げの現場を離れた帝国重工の財前道生は、準天頂衛星「ヤタガラス」を利用した壮大な事業計画を立案。折しも新技術を獲得した佃製作所とタッグを組むが、思いがけないライバルが現れる。帝国重工社内での熾烈な権力争い、かつて袂を分かったエンジニアたちの相剋。二転三転するプロジェクトに翻弄されながらも、技術力を信じ、仲間を信じて闘う佃航平と社員たち。信じる者の裏切り、一方で手を差し伸べてくれる者の温かさに胸打たれる開発のストーリーは怒濤のクライマックスへ。大人気シリーズ第4弾! この技術が日本の農業を変える――。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

佃航平・・・主人公。佃製作所社長

島津裕・・・ギアゴーストのエンジニア。帝国重工の元社員

伊丹大・・・ギアゴースト社長。帝国重工の元社員

神谷修一・・佃製作所の顧問弁護士

財前道生・・帝国重工宇宙航空部 開発担当部長

本作品 3つのポイント

1⃣ 農業へのIT導入

2⃣ ライセンス取得がカギ

3⃣ 企業の存在意義

農業へのIT導入

現在,第一次産業である農業は,その人口が徐々に減っていて,農業自体の生産性も落ちてきています。

脱サラで農家に転身する人もいますが,人口減少のスピードには追い付いていないのですね。

現在の農業人口は,2015年には200万人いた農業従事者も,2020年には150万人にまで落ち込んでいるといいます

そこで現在発展しようとしているのが「スマート農業」です。つまり農業のIT化です。スマート農業ITの力を利用して,農業でも以下のようなことがすでに行われています。

● AI機能を備えたドローンで畑に種を均等に蒔く,または農薬を均等に散布する

● 水田の水位をITで監視・制御する

● GPSを使って,無人のトラクターで畑を耕す,または収穫する

IT企業での農業用ロボットによるIT化だけでなく,農業系の専門学校や高校でもITを取り入れた授業が行われているところもあり,どの分野でもそうですが,ITの力を利用するという時代がすでに行われているのです。

今回の話は,帝国重工という大企業が,主人公である佃恭平率いる佃製作所とタッグを組んで,「無人トラクター」でライバル企業と対決をするというものです。

そのライバル企業は,同時期に発刊された「下町ロケット ゴースト」とリンクする話になっているところが面白いところでしょう。

帝国重工をまとめていた財前は,取締役の的場から立場を奪われてしましました。

そんな中,帝国重工は「アルファ1」という無人トラクターを開発してました。

それに対してライバルである「ギアゴースト」という企業の社長である伊丹は,「ダイタロス」という企業の重田とタッグを組んで「ダーウィン」というトラクターで勝負します。

帝国重工の的場への復讐心に燃えるこの伊丹と重田の二人は,性能のよいトランスミッションの中核をなすバルブを武器に攻勢をかけてきます。

この2つが,ある展示会でテスト走行することになりました。

ダーウィンがそこそこの走行を行ったのに対し,アルファ1は畑に転落してしまうという大失態を演じてしまいます。

帝国重工と佃製作所はうまくかみ合っていないようです。

多くの農家に徐々に導入されるようになったダーウィンと比較して,かなり遅れをとることになってしまい,大ピンチに陥ります。

ライセンス取得がカギ

実はこの性能のよいバルブを設計したのは島津という女性でした。

かつては伊丹とともに仕事をしましたが,前作の「ゴースト」で考え方の違いから島津は伊丹の会社から去ってしまいます。

その島津が転身したのが佃製作所です。

性能のよいバルブを開発しようとしていた彼らにとっては心強い味方だったことでしょう。

その島津はダーウィンの走行を見ていて,何かピンときたらしいです。

それは自分が開発したバルブの致命的な欠陥です。

先に書いたように,島津自身は元々は伊丹の下で働いてました。

その技術は「ギアゴースト」のものということになるんですね。

設計をやり直した島津は欠陥を修正し,それをライセンス登録します。

技術ライセンス登録その頃,ダーウィンは多くの農家に使用されていました。

しかし,いくつかのクレームが上がっていました。それはプログラムの問題であったというのがひとつの問題だったが,実は問題はたくさんあったのです。

修正したという満足感からか,それ以上の修正をしなかったんですね。

クレームが完全になくなっていないにも関わらずです。

その先入観から抜け出すことができなかったわけですね。

問題は実はたくさんあるのに,一つが整理されるとそれで満足してしまう。

これは自分にもよくあることで,それを指摘されているようで本当に反省します。

結局,ゴースト側は小さなトラブル対処をおろそかにしていたため,「リコール問題」にまで発展してしまうのです。

これが大逆転へとつながっていくのです!

企業の存在意義

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佃製作所は島津の機転のおかげで,性能のよいトラクターを開発することに成功しました。

いつもの大逆転です! しかもその技術はライセンス登録されています。

たとえギアゴーストがそれを使用するにもライセンス料がかかってしまう。

ここで勝負ありでした!

と思っていたのですが,ここからが意外な展開でした。

佃製作所や帝国重工に敵対心を抱き攻撃してきた伊丹が,佃に特許申請した技術をライセンスを支払って使用させてほしいと言ってくるんですね。

ギアゴーストや佃製作所にひどい仕打ちをしていたので,この展開は調子がいいと誰もが思うでしょう。

それは佃自身も同様に考えていたようです。

佃航平という人間はとても思いやりのある人物で尊敬できるんですけど,半沢直樹のように「やられたらやり返す」という部分も持ち合わせているような気がします。

当初,佃はこれまで受けてきた仕打ちに対して,手のひらを返すように接してきた伊丹を許しませんでした。

ところが,伊丹は何度も何度も頭を下げてきました。伊丹も追い詰められていたんですね。

驚いたのは佃と島津が伊丹を許したことです。なんという人格者。。。

許すということ人間って,過去に受けた仕打ちを根に持って復讐しようとすることの方が多いと思います。

正直自分もそうかもしれません。過去に「あんなひどいことをされた」とか「あんなひどいことを言われた」など,被害を受けた人間というのはいつまでも忘れないものだと思います。

しかし「日本の農業を支える」という大事な目的がある,その一点で佃は許したのです。

そもそもこのプロジェクトが走り出したのは,

日本の農業を再生するためにITを駆使する

ということだったはずなのです。

すべては大変な思いをしながら,気候などの運にも左右されながらも,我々の食料を生産してくれる農業を支援するためである。

農業を支援するライバル同士が切磋琢磨しあって技術を向上させ,農家の方々に働きやすい環境を提供する感謝の気持ちがあればこそ,農業がさらに発展していくのだと思います。

決していがみ合ってはいけない。

「初心に帰る」というのは,自分たちのやっている仕事の意味,そして企業の存在意義をもう一度考えるということなのだと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 農業にもITの技術が導入され,農業の効率化,農業人口対策を担っている

● 企業にとって,コアな技術を発展させること,その技術の特許を取得すること重要性

● 企業の存在意義,自分の仕事の本来の目的へもう一度立ち返ること

多くのものに感謝をし,何が大切なのかを考えて行動すべきであるということを痛感させられた作品でした。

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