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【下町ロケット】池井戸潤|技術開発と特許闘争を知る

下町ロケット

池井戸潤さんの「下町ロケットシリーズ」の最初の作品です。

半沢シリーズ同様,ピンチ,ピンチの連続の後の大逆が何ともいえない,私たちに感動を与えてくれる大好きなシリーズの一つです。

こんな方にオススメ

● 佃航平がなぜ家業の町工場を継いだかを知りたい

● 町工場の技術や特許取得について知りたい

● 佃製作所にどんなピンチが起こり,どうやって乗り越えるのかを知りたい

作品概要

研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。
-Booksデータベースより-



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「下町ロケット」は2009年に直木賞を受賞した作者渾身の一作です。

池井戸潤さんの紹介

1963年生まれ 慶応大学文学部・法学部卒業

三菱銀行に入行 退職後コンサルタント業,ビジネス書の執筆を経験

1998年「果つる底なき}で作家デビュー

主な受賞歴

江戸川乱歩賞(果つる底なき)・吉川英治文学新人賞(鉄の骨)・直木三十五賞(下町ロケット)

ロケット事業と言えば,最近では堀江貴文さんが2005年からロケット事業に携わり,2019年にとうとう初の「民間ロケット打ち上げ成功」しましたね。

これまで,大企業が手掛ける宇宙事業に,実業者が関わる時代がくるなんて思ってもいませんでした。すごい時代です。

民間ロケット

主な登場人物

佃航平・・・・今回の主人公。佃製作所社長。宇宙科学開発機構の元研究員

殿村直弘・・・佃製作所の経理部長

神谷修一・・・佃製作所の顧問弁護士となる

財前道生・・・帝国重工の宇宙航空部開発部長

主人公の佃航平は、種子島から打ち上げるロケットの技術者でした。

しかしある時、そのロケットの打ち上げが失敗してしまうところから話は始まります。

それは佃の担当した技術が原因で、佃は責任をとってプロジェクトから離脱し、自分の父親が築いた佃製作所を受け継ぎ、町工場の経営者になります

そんな傷心の佃航平がどういう思いで家業を引き継ぎ,経営し,そしてプロジェクトを成功させていくのかがとても面白い作品になっています。

本作品 3つのポイント

1⃣ 新米経営者・佃航平のピンチ

2⃣ 特許技術の売却?

3⃣ 佃航平の大きな夢

新米経営者・佃航平のピンチ

家業を継いだ佃は,宇宙開発事業の経験を生かし,町工場の経営は順調にいっていました。

町工場京浜マシナリーという企業から,ロケットの部品製造を受注し,経営も軌道に乗ると思われましたが,ここでピンチが訪れます。

京浜マシナリーから,部品製造を発注しないと一方的に通告されるのです。

経営が傾けば,今度は銀行側も融資を渋るようになるわけです。

いわゆる「貸し渋り」ですね。

小さな町工場にとって,部品の受注と資金の融資はとても大事な資金です。

そしてさらに追い打ちをかけるかのように,別の企業から特許侵害」で佃製作所は訴えられることになるのです。特許訴訟技術開発の業界というのは「特許」で揉めているようです。

ネットで調べてみると,最近でも知的財産権に関する訴訟はあるようです。

2018年に「螺旋状コイルインサートの製造方法」についての訴訟というのが見つかりました。

さすがに内容はよくわかりませんが,要はネジなどを効率よく挿入できる方法らしいです。

佃製作所も同様に大ピンチを迎えます。

佃の苦悩しかし,顧問弁護士を変え,佃はこの難局を乗り切ろうとするのです。

その弁護士が後のシリーズでも活躍する神谷弁護士です。

彼のおかげで,ベンチャーキャピタルから資金を提供してもらい,さらに佃製作所は逆訴訟を起こして勝訴するのです。

企業経営には,資金繰りもそうですが,この独自の技術というのも生命線なんですね。

特許技術の売却?

ここで,帝国重工という企業が出てきます。

実は佃がかつて研究員として関わったあの大企業です。

帝国重工の財前を中心としたメンバーが目指していた「スターダスト計画」という,ロケット開発計画で必要な技術特許を取得しようとします。

水素エンジンのためのバルブシステム」の特許なんですけど,実はこの特許,すでに佃製作所が持っていたんです。

バルブシステムというのは「燃料を供給する弁」のようなものです。

この作品以降の下町ロケットシリーズでも重要なバルブの技です。

ロケットバルブ帝国重工はこの特許を多額の資金で買おうとします。なんと20億円です。

佃製作所をこの要求を受け入れるのかどうかが重要なポイントとなります。

佃航平の大きな夢

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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佃製作所側は特許売却を認めませんでした。多額の資金でも技術は売れない,と。

技術者にしかわからない,技術というのはそれだけ大切な「武器なのでしょう。

逆に佃製作所はこの技術を使って,帝国重工側にバルブを製造し,直接供給しようとします。

帝国重工は条件として佃製作所を「テスト」します。つまり,製造するバルブ自体のテストです。

組織内でもプライドを持っている者が,下に見ている者を貶めようとすることがありますけど,そんな匂いがプンプンしますね。

ロケットのエンジン燃焼実験」が実施されますが,そこで不具合が発生するのです。

ロケット実験

「ロケットのエンジン燃焼実験」の失敗は佃製作所の問題なのか,それとも帝国重工側の問題なのかが大きなポイントとなります。結局,問題があったのは帝国重工側でした。

しかしこの問題を,バルブを製造した佃製作所に責任を押し付けようとするのです。

バルブを再度チェックした佃は,バルブに不良はないことを証明し,逆に帝国重工側の部品に不具合が見つかり,帝国重工は万事休す。

帝国重工の社長である藤間からも,「バルブは佃製作所のものを採用する」というお墨付きをもらい,とうとうロケットには佃たちの製造したバルブシステムが搭載されることになるわけです。ロケット部品契約佃航平の夢が叶った瞬間でした。

この瞬間までにはいろいろなピンチがありました。

特許侵害で訴えられ,銀行からの融資も凍結,自社独自の特許の取引,ロケット燃焼実験の罠,などなど。

でも,佃は多くの人間からのサポートを受けました。

最後のロケット発射成功の時には号泣していまいました。

佃製作所の社員だけでなく,神谷弁護士,ベンチャーキャピタル,帝国重工の財前など,佃の人間性に魅かれた人たちの支えがあって佃は自分の夢を成し遂げたのだと思います。

多くの人の支え自分の町工場で働く社員の生活を大切にし,失敗をバネに新しいバルブを作り上げた佃航平の優しさ,強い意思,覚悟

そして,ブランドの確立と技術者としてのプライド。

佃航平が夢を叶えた瞬間は,読んでいて本当に羨ましいと思いました。

自分の好きなことに一生懸命取り組めること,そしてその努力を継続すること。

本当に大切なことを学ばせられた気がします。

この作品で考えさせられたこと

● 町工場にとって重要なものの中には,独自の技術と特許取得がある

● 目標を達成するためには,多くの企業や人とのつながりとチームワークだけでなく,最後まで諦めない強い気持ちが必要

● 佃航平のように正直で社員とその家族の生活を大切にするからこそ,彼についていく社員がいる

高い人間性,人間力を身につけた人に人はついていくのだ,と思わせられる作品でした。

次作は「下町ロケット ガウディ計画」です!

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