「犯人は平成にいる」
確かそんなサブタイトルで映画化された作品だったと思います。
当時は豪華キャストで話題になった作品です。
そして「原作はどんなふうに描かれているのだろう」と興味を持ったのがこの作品を読んだきっかけでした。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 本作品 3つのポイント
3.1 警察と記者クラブの確執
3.2 警察の隠蔽工作
3.3 被害者遺族の執念と復讐
4. この作品で学べたこと
● 「64 ログヨン」とは何なのかを知りたい
● 警察と記者クラブとの関係性を知りたい
● 本作品の遺族の執念と復讐について知りたい
二〇一二年のミステリー二冠! 究極の警察小説登場! 昭和64年に起きたD県警史上最悪の事件を巡り警務部と刑事部が全面戦争に突入。その狭間に落ちた広報官・三上は己の真を問われる。
-Booksデータベースより-
この作品は,平成64年,天皇陛下が崩御した期間に発生した,少女誘拐事件がテーマとなっています。通称「ロクヨン」それがこの事件の別称です。
1957年生まれ 東京国際大学商学部卒業
新聞社に入社し,12年間勤務
1991年に「ルパンの消息」で受賞し,フリーライターとして活躍
主な受賞歴
松本清張賞(陰の季節)・日本推理作家大賞(動機)
雨宮芳男の娘が誘拐され,身代金2000万円の受け渡しと同時に逮捕する計画だったはずが,真犯人を取り逃がしてしまいます。
この事件を担当していた刑事が主人公の三上です。
しかし,事件は未解決のまま時が過ぎていきました。
2002年,ある少女の誘拐事件が発生します。目崎正人の娘が誘拐され,身代金2000万円が犯人から要求されます。
この事件がかつての「ロクヨン」と酷似していることから三上たちは動き出します。
ロクヨンから14年経過し,時効成立まであと一年を切っている状況の中,警察は真犯人逮捕へ向け,再び動き出すという,ドキドキする展開から始まります。
1⃣ 警察と記者クラブの確執
2⃣ 警察の隠蔽工作
3⃣ 被害者遺族の執念と復讐
警察内の事件に報道には,警察署内に常駐している「記者クラブ」が担当している。
警察署員とこの記者クラブはとても重要な関係にあり,我々が新聞やテレビで見る事件などのニュースはここから発生していると言ってもいいと思います。
しかし,その報道にも規制がかかることがあります。
今回のロクヨンの際にも「報道規制」がかかりました。
つまり,報道してしまえば多くの人々がその事件を知ることになり,また犯人を刺激しかねない。
そうなれば人質の命が危なくなってしまうというのがその大きな理由です。
ある日,妊婦による老人のひき逃げ事件が発生するのですが,その妊婦を実名で公表するしないで警察と記者クラブが真っ向対立します。
警察トップから匿名にするという指示を受けた広報部の三上が記者クラブに伝えるのですが,それに対して記者クラブが猛反発します。
誘拐事件の時には報道規制をするだけでなく,都合が悪いことにも蓋をするのでは,記者クラブも納得しないでしょう。
時効をもう少しで迎えるロクヨンの遺族である雨宮家へ警察庁長官の訪問を予定していましたが,その取材を記者クラブはボイコットすると伝えます。
広報官の三上は事前に雨宮に会いに行き,長官訪問を依頼しますが断られます。
警察のトップと記者クラブとの間,そしてロクヨンの遺族である雨宮との間で広報官の三上の苦しむ姿が描かれています。
三上は「幸田メモ」というものの存在に気づきます。
幸田とは,ロクヨンで雨宮家にて脅迫電話を録音する班にいた幸田一樹のことで,彼はすでに警察を退職していました。
「幸田メモ」に書かれていたこと。それは,ロクヨンにて,真犯人から三度目の電話がかかってきたときに録音に失敗していたことでした。
これを警察は隠ぺいしていたのです。
その光景を,電話を受けていた雨宮は間近で見ていたわけです。
三上は幸田からその真実を聞き出しました。
娘の父親である雨宮の気持ちはどうだったでしょう。
もし目の前の電話で録音に成功し,逆探知にも成功していれば犯人は捕まったかも知れない。
自分の娘が戻ってきたかもしれない。
隠ぺいしていた警察の対応にも絶望というか,怒りを感じました。
それでも雨宮は最後には長官の訪問依頼を受諾しました。
そして三上は交通事故事件の匿名を独断で実名を記者クラブに伝え,ボイコットを撤回することに成功します。
しかし,今度は刑事部がボイコットを望むのです。
匿名になっていた妊婦は公安委員の人間だったため,匿名のまま進んでほしいというのが本音でした。
都合の悪い真実を隠ぺいしようとするのは警察という組織の体質なのでしょうか。
警察は,事件の真犯人を逮捕し,真実を追求すること
報道は,事実を正確に伝えること
この二つはうまく機能しなければならないはずなのですが,いろいろな人々の思惑があり,正直,残念な思いをしながら読んでいた覚えがあります。
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ロクヨンの真犯人の話をする前に,2002年の誘拐事件から説明します。この事件は目崎という男性の娘が誘拐されたものでしたが,彼は犯人の言う通りに行動します。
まるでロクヨンの事件の時の雨宮と同じように。
目崎は次の命令を知っているかのように車で移動し,彼を警察も追います。
そして一斗缶の目の前に辿り着き,そこにメモが入っていることに気づきます。
映画では,
「犯人へ すべて14年前のままだ。娘は小さな棺に入っている」
と書かれていました。
原作でははっきりとは描かれていませんが,そのメモを見た目崎は一部を破り取り,何と飲み込んでしまいました。
この2002年の誘拐事件はフェイクだったのです。
幸田と雨宮は実はロクヨン後からつながっており,彼らが仕組んだものでした。
そして,彼らの罠に目崎はまんまとかかってしまったのです。
なぜ目崎に目をつけたのか。
警察ですら捕まえることができなかったロクヨンの真犯人を雨宮は探し出したのでした。
どうやって探したか?
彼は電話帳のすべてのページに載っている人間全てに片っ端から電話をかけていったのです。
あの14年前の「あの声」と同じ声を持つ人間を総当たりで長い年月をかけて,とうとうたどり着いたのでした。
まさに「執念」です。
警察の失態に対する,復讐心と執念は恐ろしくもあります。
雨宮は14年間,どういう思いを抱いて過ごしてきたのだろうか。
身も心もボロボロになりながら,毎日,娘が帰ってくるのではないかと思いながら公衆電話を行き来したことでしょう。
生きていれば成人を迎えていた自分の娘が,自分の人生を生きることができなかったことに対して自分自身を責めつづけました。
そして雨宮自身が人生を楽しむことはできないと,その償いのために自分の人生を復讐に費やしたのです。
その遺族の気持ちは何分の一もわからないだろうし,自分がその立場になった時のことを想像すらもできないでいます。
誘拐事件を扱った作品は数多くあります。
大金を手に入れるために,また自分の欲望を満たすために,幼い少女を誘拐する人間。
子供がいる人ならきっと雨宮の気持ちを理解できるのではないでしょうか。
警察の隠蔽はとても残念でしたが,報道官と記者クラブとの関係や報道規制など,一つの大きな事件の裏ではこのように多くの人々が関わっているということに驚きました。
● 自分の子供が誘拐されないために,対策を考える必要がある
● 警察と記者クラブとの間には,事件を報道する上で確執ができることがある
● 警察が隠蔽に走ってしまうと,マスコミだけでなく,遺族にも大きな代償が伴う
このような事件が起こらないようにするためにはどうするべきなのか。
警察や報道だけでなく,私たち自身もよく考えていかなければならない,永遠の課題なのかなと思います。