本作品を書店で見た時「これは警察ものかな」と思ってましたが,全く違いました。フィンセント・ファン・ゴッホ。そう,かの有名な画家,ゴッホの話でした。なるほど,表紙には有名な「ひまわり」の絵が載っていると気づいたのは読んでいる時。
そしてもう一人の画家が登場します。ポール・ゴーギャン。僕自身は世界の絵画に精通していないので,ゴーギャンが画家だというのは知っていても,彼が描いた絵がどんなものがあるかなんて知りません。
しかし,本作品を読めば,ゴッホとゴーギャンの間には深いつながりがあったというのがわかるかと思います。
もちろんフィクションですが,かなり真実に近い形で描かれているのではないかと思います。これを描こうと思った原田マハ先生のすごさを感じました。
ゴッホとゴーギャンの謎を知りたい方は,是非読んでみてください。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 鑑定を依頼された物とは
3.2 リボルバーは本物なのか
3.3 ゴッホの死の真実とは
4. この作品で学べたこと
● ゴッホとゴーギャンのこと,関係性を知りたい
● タイトルの「リボルバー」とは何なのか
● 絵画に興味がある方
パリのオークション会社に勤務する高遠冴の元にある日、錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれた。それはフィンセント・ファン・ゴッホの自殺に使われたものだという。だが持ち主は得体の知れない女性。なぜ彼女の元に? リボルバーの真贋は? 調べを進めるうち、冴はゴッホとゴーギャンの知られざる真実に迫っていく。傑作アートミステリ。
-Booksデータベースより-
高遠冴・・・主人公。CDCというオークション会社に勤務
小坂莉子・・サザビーズという大手オークション会社勤務。冴の友人
サラ・・・・リボルバーを持ち込んだ女性
ギロー・・・CDCの社長
フィリップ・・冴の上司
1⃣ 鑑定を依頼された物とは
2⃣ リボルバーは本物なのか
3⃣ ゴッホの死の真実とは
高遠冴の部屋には幼い頃からかのゴッホの作品である『ひまわり』の複製画が飾られていました。もちろん本作品の表紙にもなっている絵ですね。そんな冴が中学時代に,飾っていたはずの『ひまわり』が他の絵と入れ替えられていました。その絵はゴーギャンが描いた『タヒチの女』です。入れ替えたのは母親で,冴はゴッホとゴーギャンの関係について話を聞かされるのです。
実はゴッホとゴーギャンの二人は,ある期間,同じ部屋で絵を描いていた時期があったようです。以下に,二人の簡単な紹介をします。
フィンセント・ファン・ゴッホ
ポスト印象派の画家。1853年オランダ南部のフロート・ズンデルトにて牧師の息子として生まれる。フェルナン・コルモンの画塾に通ったゴッホは、アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックやポール・ゴーギャンらと出会い絵を描く。
日本趣味にも関心を寄せ、浮世絵版画に興味を持つ。
1888年、静養のため日本の風景に似た南フランス・アルルへ移住し,かの『ひまわり』を描く。しかし,最期はピストルで自殺を図り、その2日後に自身の画業を支えてきた弟・テオに看取られて死去した。
-美術手帖サイトより-
ポール・ゴーギャン
1848年,パリに生まれました。ジャーナリストの父を持ち、母はペルー系の血を引いていました。1879年には株式仲買人として3万フランの年収を得るとともに家庭を持ち、5人の子供をもうけました。
1888年、ゴッホが南仏のアルルに持つ「黄色い家」でゴッホとゴーギャンの3ヶ月の共同生活が始まります。しかし、2人の芸術観はまったく噛み合わず、関係は間もなく悪化し,ゴーギャンは去ることとなりました。
ゴーギャンはポリネシアに存在するタヒチ島に旅行し,この時期にゴーギャンの傑作の多くが生み出されました。
-TRiCERA ARTサイトより-
母親の影響を受け,冴は美術関係の仕事に就きたいと思うようになり,CDCというフランスの美術作品を扱うオークション会社へ入社するのです。
冴には莉子という友人もいました。彼女はサザビーズという,さらに大きなオークション会社の社員で,冴にとってはライバルでもありました。
オークション会社は,まず持ち込まれた美術作品を鑑定し,買い取ります。そしてセールと呼ばれるオークションを行い,買い手を求めるわけです。
ただ,持ち込まれる絵が本物とは限りません。もちろん偽物,つまり贋作もあるわけです。
「なんでも鑑定団」って番組を良く観ますけど,鑑定家はよく本物か偽物かを見極められるなと感心します。冴の仕事はそのくらい会社の利益・不利益に直結するような場所なのです。すごい作品になると何億ドルという値打ちのものも取り引きされることもあるようですから。
大きな仕事をして,CDCを大きくし,さらには莉子を見返してやりたいという密やかな願望もあるように思いました。
ある日,CDCに一人の女性が現れます。サラという女性でした。「ちょっと見てほしいものがあります。。。」
そして,トートバッグの中から茶色の紙袋を取り出します。袋の中には驚くべきものが入っていました。それがタイトルにもある「リボルバー」だったのです。なぜサラはこの錆び付いた拳銃を持ち込んだのか。
美術品だけでなく,このような骨董品のようなものも扱うのがオークション会社。もちろんそれを鑑定する人間がいることが必要なのです。
CDCの社長のギローや冴の上司であるフィリップは偽物であると疑います。古いリボルバーの写真を持ってきて,そんなに値打ちがあるものではないことを説明します。ただ錆びているリボルバーに過ぎないと。
しかし,冴はその意見に同意しません。もしそうであれば,最初からこんなリボルバーを持ち込むことはないと。そしてサラが思ってもないことを言います。
「このリボルバーは,あのフィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたものです」
この言葉に周囲は唖然とします。確かに先にゴッホの説明文に書いたように,彼は銃で自殺を図っています。この時に使われた銃であると言うのでしょうか。もしそうだとしたら,これはかなり値打ちがあるものになるのでは。。。
しかし、あまりに突然の話に、このリボルバーが本当にゴッホを撃ち抜いたなどとは誰も信じません。冴を含むCDCの面々は,一旦リボルバーを預かることにします。そしてサラの言っていることが本当か,リボルバーが本物かどうかを見極めようとします。
冴たちは真実を探すために,ある小さな村を訪ねます。それはゴッホが最期を迎えたと言われる場所でした。その場所にはゴッホが最期に絵を描いた場所でもあり,下宿兼食堂である「ラヴァー亭」という店がありました。そこにはかつて,壁に「リボルバー」が飾ってあったようなんですね。そのリボルバーは近くの畑の中から見つかったものでした。
ラヴァー亭は現在,インスティテュートという企業の代表であるペータースという男性がオーナーとなっていました。アルルという町でゴッホとゴーギャンは約二ヶ月ほど,一緒に絵を描いていた時期があったようです。
性格的にはゴッホは何をするか,急に何を言い出すかわからないような不安定な人物だったようです。これにゴーギャンも困っており,それを支えていたのがゴッホの弟であるテオです。
話を聞くと,以前ゴッホはラヴァー亭の店主からリボルバーを借りたのですが,自殺に使われてからは帰ってこなかったという話を聞きます。
それが時を経て,畑の中から見つかったらしいんですね。ゴッホとゴーギャンの間に何かあったのは確実のような感じがします。
ただ,その話だけではリボルバーが本物なのか,偽物なのかはわからないですよね。冴も困っているようでした。
実は,ペータースはサラとも面識がありました。そしてサラは意味深なことをペータースに告げていたのです。サラはこのインスティテュートを助けたいと思っているようでした。そのためにあのリボルバーを最高落札価格で取引したいと。
サラは幼い頃,母親のエレナから絵について教わっていました。エレナが開いていた「子供のための絵画教室」にも通っていました。エレナからはゴッホとゴーギャンについても教えてもらいます。サラはどちらかというとゴッホが大好きだったようです。ある日,サラは絵画教室に一枚の絵が飾ってあるのを見つけます。これはある女性の肖像がだったのですが,サラには既視感がありました。その絵はゴーギャンの絵で,描かれた女性が母親のエレナに似ていたのです。どうやらこの女性,タヒチの女性で,エレナの祖母だったようです。だから似ていたんですね。
ところが15年後,事件が起きます。飾ってあった肖像画が何者かに盗まれてしまったのです。当然,警察に盗難届を出します。
しかし絵は戻ってきませんでした。そして長い年月が経っても,その絵は戻ってきませんでした。サラは26歳の頃から58歳になるまで,いろいろな美術館でゴッホの作品を「巡礼」することになります。
その中でも大好きだったのが,あの『ひまわり』の絵でした。15本の異なるひまわりを描いた絵にサラは惹かれるのです。
ゴッホとゴーギャンのことを思いながらの人生を送るサラに,辛い出来事がやってきます。サラの母親エレナが亡くなる時でした。エレナはここでサラに衝撃的な事実を打ち明けるのです。それは一体何だったのか。。。
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サラはエレナから聞かされます。まるで遺言を伝えるかのように。
「サラ。私のおばあちゃんは。。。あなたのひいおばあちゃんは。。。ゴーギャンの愛人だったの」
サラはエレナから,エレナがかつて自分の母親から聞かされた話を伝えます。つまり,サラはゴーギャンの血をひく者だったのです。あの肖像画の女性,サラの曾祖母の名はヴァエホ。ちょうどゴーギャンがタヒチに旅をし,そこで多くの女性の絵を描いていた時の一枚があの肖像画だったのです。
そしてゴーギャンがどういう人生を送ってきたかが判明します。ゴッホとゴーギャンが約二ヶ月間の共同生活を送ったのは先にも書きましたが,それを望んだのはゴッホだったようです。
ただ,弟のテオには心配がありました。やはりゴッホは何を言い出すか,何をし出すかわからない恐ろしさがあることです。そこでテオはゴーギャンに護身用として「リボルバー」を渡します。ただし,弾は装填されていないとのこと。
つまり,何かあった時に「脅し」としてリボルバーをゴッホへ向けるように伝えます。そして始まった共同生活。イーゼルを2つ並べ,お互い刺激を与えあい,高みを目指して絵を描き続けます。
しかし,ゴッホは思ってもないことをゴーギャンに言うという日々が続き,ゴーギャンもストレスが溜まっているようでした。そんな生活が始まってから二ヶ月後。ゴッホとゴーギャンの間には大きな実力の差が見え始めてきました。
ついにゴーギャンは我慢の限界に達します。そしてあのリボルバーをゴッホに向けるのです。もちろん弾は入っていないので,向けただけで終わりました。
共同生活が終わり,ゴッホは出て行きました。ある日,ゴーギャンはテオの元を訪ねることにしました。そこにはゴッホの絵があり,ゴーギャンは衝撃を受けます。瑠璃紺の静寂が支配する画面,月と星が煌々と輝く夜半の風景画を目の当たりにします。
『ひまわり』の絵を見た時の衝撃と同じ感覚がゴーギャンを襲います。ついにゴッホが未踏の領域へ足を踏み入れたことを悟ったのです。
そして一年後,ゴッホからゴーギャンへ手紙が届きます。
親愛なる我が師,あなたを知り,あなたに迷惑をかけてからというもの,悪い状態でなく良い精神状態の時に死にたいと思うようになりました
-本文より-
ゴーギャンを超える実力を持ちながら,我が師という言い方を自分にしてくるゴッホを赦せなくなるゴーギャン。ゴーギャンはゴッホに会いに行きます。久しぶりにあったゴッホへ向かってゴーギャンは言い放ちます。
「私は君の前から消えてなくなる。君は最後まで最高の画家だ」
そしてゴーギャンは,持っていたリボルバーを自分に向けます。どうやらゴーギャンは自殺をしようとしている様子。そこにゴッホは飛びつきます。
「やめろ。そのリボルバーには弾が入っているんだ」揉み合いになるゴッホとゴーギャン。そして銃声がとどろきます。何と弾はゴッホの腹を貫いていました。実はリボルバーを送ったのは確かにテオでしたが,その前にゴッホがテオに渡していたのです。弾が一発入った状態で。
ゴッホは覚悟していたようです。「これでいいんだ。。。」そして,ある場所にこのリボルバーが埋められるのでした。
長年の時を経て,あのリボルバーの鑑定が行われました。リボルバーには付着物がありました。それは絵の具と,何かの種のかけらでした。そう,それは『ひまわり』だったのです。
そしてそれは今でも畑の中に埋められているのでした。
ゴッホとゴーギャンの間に何があったのか。それは二人にしかわからないことだとは思います。しかし,30冊もの参考文献を見る限り,原田マハ先生がゴッホとゴーギャンについて,途方もない時間をかけて探求したのだろうと想像します。
その姿はまるでゴッホとゴーギャンの論文を書いていた,作中にも登場する高遠冴とだぶらせられます。僕自身もゴッホとゴーギャンについては全くの無知でしたが,いろいろなことを学ばせられました。
独自の視点でこのミステリーを描くこと。きっとその内容には賛否両論はあると思います。フィクションではありますが,本作品を描こうという勇気と覚悟を感じさせられました。
最初は恐ろしい話なのでは,と思って読み始めましたが,とても感動する話で,読んでよかったと思える作品でした。
● ゴッホとゴーギャンの存在を知ることができた
● 本作品を世に出す作者の勇気と覚悟を感じました