最近,自分の最期ってどうなるんだろうって考えることが多くなりました。
年齢を重ねてきたということもありますが,ここ数冊,連続して人の「最期」を考えさせられる作品を読んだからかなと思います。
「ホスピス」という言葉。終末期医療でも使われる言葉。
「最期を迎える人が,苦痛を和らげるための治療やケアを行うこと,あるいは場所」
例えば「南杏子」先生の作品などは,先生ご自身が医師として終末期医療に携わり,多くの作品も同時に生み出しています。
自分の最期,親の最期をどう迎えるのか。かなり考えさせられます。
本作品を読めば,同じようなことを思う方も多いのではないでしょうか。
「ライオンのおやつ」とは何のことだろう。そう思いながら手に取った作品です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 ライオンの家の人々
3.2 いろいろな人の人生観
3.3 人生の最期をどう生きるか
4. この作品で学べたこと
● 「ライオンのおやつ」とは何なのかを知りたい
● ホスピスがどういうところなのかを知りたい
● 自分の残された人生について考えてみたい
人生の最後に食べたいおやつは何ですか――若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。――食べて、生きて、この世から旅立つ。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。2020年本屋大賞第2位。
-Booksデータベースより-
海野雫・・・余命宣告を受けた女性。ホスピス「ライオンの家」に入る
マドンナ・・「ライオンの家」の代表者
狩野シマ・・ライオンの家で主に食事を担当している
狩野舞・・・ライオンの家で主に「おやつ」を担当している
六花・・・・ライオンの家に住むペット(犬)
1⃣ ライオンの家の人々
2⃣ いろいろな人の人生観
3⃣ 人生の最期をどう生きるか
癌を宣告され,余命あとわずかの主人公,海野雫。彼女は,瀬戸内海の小さな島にある「ライオンの家」というホスピスで最期を迎えようとしていました。
雫には家族もいました。本当の両親は事故で亡くなっています。
本当の父親の叔父が雫の面倒をみていて,雫は叔父を「お父さん」と慕っていました。
しかし,父は新しい妻を迎え入れることになり,雫は一人暮らしを始めるのです。
どうやら雫にとって,父親は自分のことだけを考えてくれていると思っていたようで,実際には父親も一人の男だったんですね。
雫はある意味「嫉妬」したのか,一人で生活することにしたんです。
そして「ライオンの家」へやってきたわけです。父親には病気のことも,この家に移り住んでいることも話していないようでした。
ここには同じように残り少ない人生を過ごそうとしている入居者,つまりゲストが登場します。
コーヒーを淹れてくれるマスターと呼ばれる男性,雫自身があまり好きではない粟鳥洲という男性もこのホスピスで過ごしていました。ライオンの家を経営するのは「マドンナ」と呼ばれている女性です。
タイトルの「ライオンのおやつ」の意味。ライオンの家では,毎週日曜日のおやつの時間で,ゲストの希望する「おやつ」をマドンナが再現し,みんなに振る舞うのです。病院だと医者がいたり,看護師がいたり,自分がいつ亡くなってしまうのかということを常に考えながら過ごさないといけませんが,ライオンの家は違います。
みんな自由に振る舞っているし,体が痛いときには緩和ケアでサポートしてもらったり,もし僕自身が最期を迎えるならこんなところがいいな,って思わせられます。
この家で雫は大切な「友達」ができました。ライオンの家で飼っている「六花」という犬です。元々はかつてのゲストが連れてきたようなのですが,そのゲストは亡くなってました。
「クリスマスプレゼントに犬がほしい」と願っていた雫にとって,六花は大切なパートナーとなっていきます。
自分の命のことを考えながらも,毎日を幸せに過ごしていた雫に,好きな人ができました。
雫がライオンの家に来てからは,六花を連れて散歩に出るようになりました。
そこで会うようになった人物が「タヒチ」という青年でした。雫はタヒチといろいろなことを話していくうちに,次第にタヒチに惹かれていくようでした。
ある日,雫はタヒチとデートをすることになります。
以前は抗がん剤で髪の毛が抜けていた雫は,その本当の姿を見てもらいたいとウィッグをつけずにタヒチと会うようにもなります。本当にタヒチのことが好きなんですね。
タヒチはブドウ畑でブドウを育てている青年です。そこで採れたブドウからワインを作っていました。
雫の体に痛みがあるときには,このワインにモルヒネを加えたものを飲めば,状態も落ち着くようになってきました。海岸でのデート中に,雫はタヒチにお願いします。
「もし自分が死んだら,その3日後にこの海岸に来て手を振ってほしい」と。
そして雫はタヒチとキスをするのでした。
ある日,雫はマドンナに人生について尋ねます。
「死んだ後,人はどうなっていくのか」
ちょうど同じようなホスピスの作品でも,死後に魂が誰かに乗り移って「転生輪廻」を起こすような話を読んでいたので興味あります。
マドンナは死んだことがないからと言いつつも自分の考えをつたえます。
「亡くなった人のエネルギーみたいなものは残っていて,形を変えながら未来永劫続いていくのではないか」やはりここでも「魂」は繰り返し転生していくと言っているのでしょうか。
信じられないという気持ちもありますが,あるような気がしますし,無いとも言い切れないですよね。
また,雫は本当の母親の夢を見ている中で,母親とやりとりをしています。
母親は「ごめんね,先に死んじゃって」と。「天国はすばらしいところだよ」と。
そして大切なことを伝えるのです。
「何が大事なのかというと,今生きていることが大事なの」
自分の身体で何かを感じる,五感を使っていろいろなものを感じるってことは身体がないとできないと言っているのです。
それを聞くと,今生きていることがいかにすばらしいことで幸せなことなのかを感じます。
そしてとうとう,雫にも最期の時が近づいてきていました。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
ライオンのおやつ。雫はあるおやつをリクエストしていました。
それは本当の父が亡くなって,代わりに育ててくれた叔父との思い出の「ミルクレープ」でした。雫が小学生の頃,父の誕生日に父のために作ったのがミルクレープだったのです。
そして驚いたのは,ライオンの家にその「父」がやってきたのです。しかし父には新しい妻との間にできた梢という娘がいました。
雫は梢のことをどう思うのかが心配でした。でもその心配は不要でした。
雫は自分に妹がいたことに感動したのです。
「人生のラストボーナスだ」と。
最期に思い出のおやつを食べ,妹がいることに喜びを感じ,そして大好きだったタヒチとも会って話した雫に,とうとう最期の時がやってきます。
「雫さん,本当にお疲れさまでした。ゆっくり休んでください」
雫が最後に聞いたのは,マドンナからの言葉でした。
雫は亡くなりました。ここで梢の母親が登場します。梢の母親と雫が会うことはありませんでした。
しかし,母親が庭に植えていたチューリップの中に,球根を植えていない場所からチューリップが咲いているのを見つけます。きっと,雫が咲かせたのかもしれませんね。
雫を看取ったマドンナは思います。
「人生とはロウソクの火に似ている。消える瞬間が一番美しい」と。
消えた瞬間に誰かの火が灯る。それが生きていることを表しているのでしょうか。
そしてタヒチは約束通り,雫の死後3日後に海岸にやってきました。タヒチと六花は空に向かって手を振るのでした。本作品を読んで,まず思うのはやはり自分が死ぬときに何を思うのか,どういう死に方をしたいのかということです。
自分がいつ病気になるかもわからない。それこそこの原稿を書いた日の朝,大雪が降って通勤途中に滑って背中から倒れました。
これでもし頭から落ちていたらどうなってただろうと思うのです。
明日自分の命があるかわからない。
この世の中にはあまりの苦しさに,命を絶ってしまう方もいます。
僕自身も苦しい思いをしてそんなことを考えたこともあります。
でもギリギリのところで踏ん張ることができたのは,いろいろな人の支えであり,残された人に苦しみを与えたくないという思いであり,それらを小説というもので伝えてくれた作家先生方のおかげです。残りの人生をどう送るのか,そしていつかホスピスのような場所に入ることになるのかはわかりませんが,今ある命を大切に生きたいと思います。
● 「ライオンの家」のようなホスピスで最期を迎えたい
● 人にはいろんな人生観があるということ
● 人生の最後まで精一杯生きたいと思わせられた