2006年に「日本推理作家大賞」を受賞した恩田陸先生の作品です。
恩田陸先生の作品はこれまで数多く読んできましたが,その中でも特に印象の強い作品です。
読んだときに「とにかく,面白かった!」と思ったのを覚えています。
以前,本ブログでも直木賞作である「蜜蜂と遠雷」について書きましたけど,あの作品もよかったですが,それと違ってミステリー要素の強い本作品はとにかく惹きつけられます。
ある日、多くの人間が集う場で、17人が毒殺されるという事件が起こります。
その事件の犯人と動機に迫るストーリーです。
「ユージニア」とは一体何を意味するのか。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 青澤家の事件
3.2 緋紗子を疑う満喜子
3.3 真犯人は一体誰だったのか
4. この作品で学べたこと
● 「ユージニア」という言葉の意味を知りたい
● 毒物殺人事件の真犯人を知りたい
● 事件の真犯人を想像してみたい
あの夏、白い百日紅の記憶。死の使いは、静かに街を滅ぼした。旧家で起きた、大量毒殺事件。未解決となったあの事件、真相はいったいどこにあったのだろうか。数々の証言で浮かび上がる、犯人の像は――。
-Booksデータベースより-
1⃣ 青澤家の事件
2⃣ 真犯人を疑う満喜子
3⃣ 真犯人は一体誰だったのか
まずは北陸地方の「K市」が舞台です。
このK市に「青澤家」が住んでいました。この家系は,かつて戦前にコレラが蔓延した時,
青澤家は不眠不休で治療に携わったという過去がありました。そのため,青澤家は良い意味で一目置かれる家系でした。
それから時代は経ち,ある事件がこの青澤家を襲います。
ある夏の日,当主の還暦を祝うために多くの地元の人々が青澤家を訪れました。
そこではいろいろなものが振舞われます。
ところが,お酒やジュースなどの飲み物に毒が仕込まれたようです。
その毒は青酸系化合物がで,青澤家に集まった17人が命を落としてしまったのです。
現場には「ユージニア」という意味不明の言葉が描かれた手紙が残されていました。
実は,ただひとりだけ助かった少女がいました。
青澤家の長女で,当時中学一年生だった青澤緋紗子です。
実は緋紗子は幼い時にブランコから落下してしまい,その時のショックで目が見えなくなっていました。地元の英雄てきな存在である青澤医院は医療事故を起こしたこともありません。
親族との間に金銭などのトラブルがある訳でもありません。
本当に恨みを買うような部分が見当たらない青澤家。
警察の捜査も行われますが,決定的な証拠も見つからず,捜査は滞ってしまいました。
10月の終わり頃に事件が発生します。
国立大学の化学系の学科を卒業し,農薬を造る工場に勤めていたある青年が首をつって自殺してしまいます。
彼はたばこ屋の裏のアパートに住んでいて,引きこもりのような感じです。捜査したところ,男は「お告げ」を受けたために青澤一家を殺害したというような遺書を残していました。
男が住んでいたアパートから,青澤家の事件現場で使用された青酸化化合物と同一のものが発見されてしまいます。
そして男は容疑者として挙がりますが,亡くなってしまったため,死亡のまま書類送検されます。
被疑者死亡のまま,事件は終結してしまいます。
ある日,100人以上もの人々が集まって「合同慰霊祭」が行われました。ここで登場するのが主人公の雑賀満喜子です。
彼女は慰霊祭の当日、ブランコをこいでいる緋紗子の姿を目撃していました。
実は満喜子は緋紗子と交流がありました。将棋やチェスを一緒にやったり,青澤家とも交流があったようです。青澤家の事件当日には,満喜子は2人の兄,誠一と順二と共に,お祝いのお菓子をもらいに行っていました。
しかし異変に気付いた誠一は二人の弟,妹を待たせ,交番へ伝えに行きます。
事情を知っているのではないかと疑われた誠一たちは事情聴取を受けますが,もちろん無実です。
この後,満喜子たち雑賀家は長野県へ引っ越し,事件とは離れることになります。
ところが満喜子はK市に戻ってきます。大学の卒業論文のテーマを「あの青澤家の事件」の真相を書こうと,10年ぶりに訪れるのでした。
満喜子はあの「10年前の事件」について取材していました。
満喜子は論文を完成させ,その原稿は教授から出版社に渡り「忘れられた祝祭」という一冊の本になりました。何とこの本があっという間にベストセラーとなるのです。かなりの額の印税が入ってきたようです。
満喜子は取材に協力してくれた人々に謝礼として渡したり,自分を育ててくれた母親の口座にそのお金を振り込むのでした。
大学卒業後,満喜子が選んだ就職先は製薬会社でした。何で作家活動をしなかったのだろう。
だから新作を発表することはありませんでした。何かもったいない気がしますね。
満喜子はその後結婚し,吉永満喜子として東京都の日野市に移り住みます。
そして専業主婦として夫と娘と静かに平凡な生活を送っていました。一方,緋紗子は,通っていた大学院で知り合ったドイツ人であるシュミットという男性と結婚して、シュミット緋紗子となっていました。
目が見えない彼女はその後,アメリカに渡り,病院で目の治療を受けていたようです。満喜子には気になっていたことがありました。あの青澤家の事件発生する数時間前に緋紗子が言っていた言葉。
「今日はうちに来ないほうがいいよ」
あれはどういう意味だったのだろうと,時は過ぎても忘れることはできませんでした。
先に書いた亡くなった被疑者の青年は,裏のアパートでひっそりと暮らしていました。
寺の境内の隣にある幼稚園で園児の面倒を看たり、小学生たちに理科や算数の宿題を教えてあげたりしている優しい青年のようでした。その青年を紹介したのが実は緋紗子だったようです。
紹介された青年は地元の子どもたちから「ユウジン」と呼ばれていました。
ユウジン? 友人? ひょっとして。。。
その中の一人の子供が,青年が「山形県」というメモを持っていたことを証言していました。実は山形県には,青澤家とつながりのある医院があったようです。
事件当日にお祝い用の飲み物を送ってきたのも,当主の医学部時代の友人だったようです。
山形県だけはわかりましたが,肝心の住所がわかりません。ここに何かあるのでしょうか。
青年は心療内科に通っていて,誰からからの暗示を受けやすく,思い込みの激しい性格だったようです。
どうやら青年は,その真犯人のメモ通りに動いていたようです。一体,この真犯人とは誰なんでしょうか。
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満喜子は初めて緋紗子と会った時,彼女が真犯人だと確信していました。
しかし,決定的な証拠が見つかりません。本当に犯人は緋紗子なのだろうか。重要な被疑者である青年はすでに亡くなっています。
青年は自殺をする前に身辺整理をしていたようなんです。
持っていた本は買い取りに出したためにメモはその1冊のどれかに挟んでいたのではないか。
K市には大学が多く学問にも精通しているので古書店が多いので、ありえますね。
そしてとうとう青年が本を売ったお店を突き止めます。ところが不運がありました。
この古書店が火事で全焼してしまっていたのです。
肝心のメモも見つからない。期待していた頼みの綱は経たれてしまいました。緋紗子は海外にいるので,時効が進みません。逮捕する時間は十分にありそうです。
あとはあの事件のあった青澤家にしかヒントはないのでしょうか。
もうすでに捜査も打ち切られているため,捜査が進展するかもわかりません。
皮肉にも,青澤家はすでに老朽化していました。
そこで建築財産として保護するよう,市民グループが署名運動を起こします。これが残ればまだ望みがあるかもしれない。
しかし青澤家の唯一の生き残りである緋紗子は
「あの事件を思い出したくない」
という理由で取り壊しが決定してしまいます。
そして,アメリカで臨床実験に参加した緋紗子。
奇跡的に視力を取り戻し,ユウジンとふたりだけの国・「ユージニア」を探しに行くのです。
そして気になったのは。緋紗子を懺悔させていた女性の存在でした。
「誰かと青い部屋にいる。白い百日紅が怖い」百日紅とは「さるすべり」と読みます。赤い花もあるようですが,白い花もあるそう。
青色のガラスに刻まれた花の紋様。緋紗子はこれを「さるすべり」だと思っていたようです。
そこである女性が緋紗子を懺悔させていたのです。何のために。。。
緋紗子はこの部屋の「さるすべり」を思い出すのが怖かった。
その女性とは,おそらく「奥様」という表現から,緋紗子の母親だったのではないか。
一体,彼女は何を懺悔させていたのでしょうか。
決定的な証拠,真犯人もわからず,話は終わりを迎えてしまいました。
ネットを見てもいろんな意見が出ていたし、そのくらい今回の話は面白かったと思います。真犯人が誰かとも書いてありませんでした。
よって,僕自身の考察を述べようと思います。当然正しいかどうかはわかりませんが。。。
犯人(計画犯)はやはり緋紗子ではないでしょうか。実行犯が「ユウジン」という青年。
しかし、すぐにそれに気づいた人間がいました。彼女の母親だったのではないか。
緋紗子を懺悔させていたことからも読み取れそうです。
母親であるから、自分の子供のやったことをすぐに察知しましたが、後になって毒物の後遺症で亡くなっています。
自分の娘が実行した罪。それを知っていながら墓場まで持って行ってしまった。これで真実は闇の中です。
本作品では「忘れられた祝祭」という本を書いた女性のことが最初に出てきました。
この事件の真実が書かれたであろう話。
それだけでなく、いろんな登場人物からの視点で、この事件について語られます。
どの話を読んでみても、犯人は当時まだ中学生だったひとりの少女を暗示しているようでした。
しかし,真実は違ったのではないか。
盲目の人間の気持ちを理解するのは難しいが、耳から聞こえてくる様々な喧騒を何度も何度も浴びれば、それをシャットアウトしたいという気持ちも出てくるのかも知れない。
動機は十分にありそうです。
でも最後の章の表現、かなりの余白を残したまま終わってしまいます。
これは読む人によって、犯人像も違うだろうし、その人が本当に犯人だとしたら、動機も変わってくるだろうと思います。目が見える、音が聞こえる、美味しいものが食べられる。
普段生活しているとその幸せに気づかないが、そのいずれか1つでも欠けてしまえば「なぜ自分だけ」という気持ちになってしまうのかも知れません。
それが積もり積もればいろいろなことを考えてしまい、またその親も自分自身を責めてしまうのではないか。
一人の少女を取り巻く人々の苦悩を感じます。
「日本推理作家協会賞」を受賞した作品で、本当にどんどん引き込まれる作品でした。
恩田陸先生のミステリアスな作品をもっと読んでみたいですね。
● 「ユージニア」の意味を知ることができた
● 真犯人を想像する面白さを感じました。
● 人にはそれぞれコンプレックスがあり,それが思ってもない方向へ動くこともあるのではないか