2023年に入って,本作品を店頭で見た時,すぐに「あっ,買おう」って思いました。
ご覧になってわかるように,表紙のデザインが本当に鮮やか。実際に作品を読んでもその良さがさらにわかると思います。
知念実希人先生の作品は本当に面白いし,いつも勉強になります。さすが小説家兼現役医師。
本作品でもいろんな医療系の用語が登場しましたけど,僕自身も他のサイトを検索しながら文中に説明文を載せてます。
参考にさせていただいたサイトを作成された方々に感謝します。
「ムゲンのi」とは何を意味するのか。
話は,二十三年前,識名愛衣の母が目の前で殺害された「通り魔事件」の部分から始まります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 愛衣の特殊能力
3.2 患者を救う愛衣
3.3 ムゲンのiとは
4. この作品で学べたこと
● 主人公である愛衣の役割を知りたい
●「ムゲンのi」の真の意味を知りたい
● 医療業界に興味がある方
若き女医・識名愛衣は不思議な出会いに導かれ、人智を超える事件と難病に挑む。眠りから覚めない四人の患者、猟奇的連続殺人、魂の救済〈マグイグミ〉――すべては繫がり、世界は一変する。予測不可能な超大作ミステリー、2020年の本屋大賞ノミネート作が待望の文庫化!-Booksデータベースより-
識名愛衣・・主人公。医師で,イレス患者の主治医である
杉野華・・・愛衣の先輩医師
袴田聡史・・・愛衣が務める病院の院長
片桐飛鳥・・・イレス患者の一人。主治医は愛衣
佃三郎・・・・イレス患者の一人。久米の弁護士
加納環・・・・久米という男性と親しい
1⃣ 愛衣の特殊能力
2⃣ 患者を救う愛衣
3⃣ ムゲンのiとは
識名愛衣は医師としてある患者の主治医となっていました。患者の名は片桐飛鳥。実は彼女,イレスという病に侵され,ずっと眠り続けているようです。
イレスとは
特発性過眠症候群のこと。通称イレス。
持続性あるいは反復性の日中の過度の眠気の発作を主症状とする睡眠障害の一種。
この病気,世界でも400くらいしか発症例のない,本当に稀な病気らしいです。 実は彼女だけではなく,佃三郎,加納環,そしてもう一人(誰かはわかっていない)の患者も眠り続けているのです。
ただこの4人,ほぼ同時期に昏睡状態になり,この病院へ運ばれてきたのです。何か理由がありそうですね。
世間では,久米という男が佐竹優香という女性を殺害したという事件が起こってました。
その久米の弁護をしていたのが佃三郎,久米と親しかった女性が加納環です。
ん~,あと一人は一体誰なんだろう。実はこの最後の一人が重要人物なんですけど,最後の最後まで明かされないんですよね。
愛衣はある日,祖母から沖縄などに伝わる「ユタ」というものについて教わります
ユタとは
沖縄県と鹿児島県奄美群島の民間霊媒師(シャーマン)であり、霊的問題や生活の中の問題点のアドバイス、解決を生業とする
-Wikiより-
何か占い師みたいな人々のことを言うのでしょうか。読んでいくとどうも違うようです。
祖母は特殊能力を持っていました。それは愛衣にも受け継がれているようです。つまり,特定の呪文を唱えることで、昏睡状態の人の夢に入り込んで、そのマブイに寄り添い解放するというのです。
入り込んだ世界が「夢幻」で,マブイとは「魂」のこと。
そして,その迷っている魂を解放してあげることが「マブイグミ」と呼ばれるもののようです。夢の中での「お祓い」みたいなものでしょうか。
本作品のポイントは,愛衣が患者の夢にもぐりこみ,この「マブイグミ」をするというのが一つのポイントとなります。なるほど「夢幻の愛衣」というのがタイトルに込められた言葉なのでしょうか。
そしてまず愛衣は自分が看ている片桐飛鳥の中に入っていくのです。
そこで愛衣にとって心強い味方が登場します。「ククル」です。
ククルとはおそらく,入り込んだ夢の中で自分の魂を写したような生き物のような感じでしょうか。
最初は夢の中でどうしていいかわからず戸惑う愛衣でしたが,ククルの導きによって,徐々に要領を得るようになります。
夢の中の世界。まずは飛鳥という少女が森の中に入り,迷子になってしまいました。
どっちへ向かえばよいのかわからず泣き出してしまう飛鳥。そこに父親がやってきます。羽田将司でした。
苗字が違うのは,羽田はかつてはパイロットでしたが,なぜかアルコール依存症になってしまい,操縦できなくなっていたのです。
ホッとした飛鳥は,将司と一緒に森を出ます。そこには飛行場がありました。
「いつか飛鳥を飛行機に乗せたい」
そしてある日,将司は飛鳥を誘って飛行機に乗せ,飛び立つのです。
ところが将司は「俺は空に行くんだ。邪魔するな」と言って,操縦を誤ってしまいます。
向かう先は地面に近い林の中。とうとう飛行機は墜落してしまうのでした。
ここで飛鳥は昏睡状態から目を覚ますことになります。いわゆる,これがマブイグミなのでしょう。
こうやって愛衣は一人ひとり患者の心に入り込み,患者を救っていくんですね。
愛衣は一人の患者を救いました。それに嫉妬しているような感じの先輩医師である杉野華。
彼女たちが言い合いをしている時に袴田という院長が車いすに乗って入ってきます。
袴田は愛衣の力を評価しているようです。
次は佃三郎です。世間を騒がせている久米という容疑者の弁護をしていた男性です。
一体,彼の夢の中では何が出てくるのでしょうか。
今度はたくさんの敵が代わる代わる出てきます。それをやっつける愛衣とククル。
湧いてくるように次から次に出てくる「のっぺらぼう」のような敵は何を意味するのでしょうか。敵を倒しながら前に進んでいく二人。そこには佃だけでなく,佃が弁護をしている久米も登場します。
当初久米は容疑を否認していましたが,なぜか容疑を認める発言を始めます。
一体どっちが本当なのか。
見えてきたのは「バスルーム」です。どうやらこのバスルームが殺害現場のようです。
赤黒い液体で満たされたバスルームにあったのは頭蓋骨。おそらく佐竹優香のものでしょ。
確かに久米は優香と交際していました。しかし優香が「別れたのにストーカー行為をしてくる」と警察に訴えたようなんですね。
何となく久米は無罪のような気がします。それを佃も感じたのでしょう。弁護を引き受けたのはそれだと思います。
よくよく調査すると,別れを切り出したのは久米の方かららしいのです。
そしてストーカーについても,久米ではなく,優香の方だったというのが判明するのです。
控訴審が始まります。佃は証人喚問で呼ばれた警察官を追及します。
実はこの警察官,久米への取り調べの時に,かなりのパワハラ的な圧力をかけていたようなんですね。
つまり脅されて久米は偽りの証言をしてしまったと。
その結果,佃の弁護の成果が実ります。「被告人は無罪!」
そして真実が明らかになります。何と佐竹優香は「自殺」だったのです。
原因は「醜形恐怖症」だったのです。
醜形恐怖症とは
醜形恐怖症とは、実際には存在しない外見上の欠点やささいな外見上の欠点にとらわれる病気。
多大な苦痛が生じたり、日常生活に支障をきたしたりします。
-SDマニュアル家庭版サイトより-
だから優香は強酸性の液体(硫酸とか?)でバスタブを満たし,自分の顔を溶かしたかったのですね。
「のっぺらぼう」の件もここでつながるわけです。
こうやって愛衣は二人目の患者である佃三郎も昏睡状態から救ったのです。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
どうやら,4人の昏睡状態の人間は,一人が他の三人のマブイを吸い取ったようです。
マブイを吸い取られた人物も昏睡状態,吸い取った人物も昏睡状態になってしまっている。
とりあえず愛衣は三人目の患者である加納環のマブイグミを行うことにします。
加納環の周りにはたくさんの蟲(むし)が飛んでいます。この蟲たちは何者なのか。
環の母親はピアノを強要していました。まるでスパルタ教育を受けている感じの環。
レッスンの成果もあり,環はコンクールに出場することになりました。
しかしここ異変が起こります。観客の存在,声が,無数の蟲のように感じ,取り乱します。
「いやーーーーぁ!」
耳硬化症とは
耳小骨の中で一番奥にあるアブミ骨が徐々に動きにくくなることで,進行性の難聴を引き起こす原因不明の病気
-兵庫医科大学病院サイトより-
さらに,音大へ入学しなければならないという強いプレッシャーにより「PTSD」をも患っていました。PTSDは「心的外傷後ストレス障害」のことですね。
実は環には幼い頃に同級生がいました。あの「久米」という男性です。ここでも繋がりがあったようなんですね。久しぶりに再会した2人は意気投合しました。
刑事の園崎はこの久米が,あの二十三年前に通り魔事件を起こした犯人である「少年X」と睨んでいるような節もあります。
愛衣は必死で否定します。久米は佃の力によって「無罪」になったわけで,そんなことをするはずがないと。
気になるのは,園崎が愛衣の先輩である華に向かって行った言葉。
「少年Xの名前を,本名で読んでみてくださいよ」ここで園崎は華には少年Xの名前を明かします。そして驚く華。
一体,誰なのか。これまで登場している人物なのか。
愛衣は最後に「特別病室」にいるはずの最後の患者の元へ行きます。
これまで明かされなかったこの患者の正体。それは。。。
「特別病室に入院していた患者。それは私自身だった」
えっ? どういうことなの? 犯人は愛衣?
そんなわけないよな。犯人は少年のはずだから。
では一体この病室に愛衣がいるのか。それは,他の三人の「マブイ」を吸い込んでしまったから。
そこに主治医の華が現れます。つまり華は愛衣の主治医だったんですね。
そしてとうとう核心的なことを言います。
ねえ,昨日園崎っていう刑事が言ってたんだけど,あの人が連続殺人の犯人なのは間違いないらしいんだ。
しかもさ,どうやら本当にあの人が少年Xだったみたい。そう,あんたが子供の時に襲われた少年Xだよ
実はこれがあの院長と思い込んでいた袴田だったのです。本名「クサナギレント」。彼は名前を変えて生きてきたんです。
袴田は自殺しようとして事故を起こし,この病院に入院していたんです。
ここで愛衣のククルが現れます。あれ? ククルは夢の中じゃないと現れないのでは。。。
ククルは言います。この世界すらも愛衣の夢の中だったと。
う~ん,どこまでが真実でどこまでが夢なのかがわからなくなってきました。
袴田が院長だったのも,愛衣の幻想の中だったんですね。
そしてとうとう最終決戦。愛衣は袴田のククルと闘います。いろいろな人物が愛衣をサポートします。愛衣のククルだけではない,愛衣の父親,そしてかつて少年Xに殺害された愛の母親まで登場するのです。
愛衣の母親は言います。「これが無限の愛だよ」
そして巨大な袴田のククルを倒すことに成功するのです。
愛衣は元の世界に戻ってきました。そこには横たわる袴田の姿が。
最後に愛衣は袴田に言うのです。
「先生のことを赦します。全部赦します。だから,安らかに眠ってください」
この言葉を言った瞬間,袴田の容体は急変。心停止します。これも夢幻の中だったのでしょうか。
自分の親しい人間を殺めた人間を赦したくはないですよね。
驚いたのは,愛衣が最後に少年Xに対して「赦す」という言葉をかけたことです。
すごい人物だと思いました。
確かにこの言葉を発するのは苦しかったと思います。
しかし,過去をしっかりと受け止め,愛ある思い出を抱えながら前に進もうとする主人公愛衣を尊敬します。
これが本当の「強さ」というものなんじゃないかなって思いました。
● 人を「赦す」ということ
● ムゲンのiの意味
● 長い間夢の中にいた感覚になりました