高嶋哲夫先生と言えば,一番印象にある作品は地震や原子力発電所を扱ったものなんですけど,本作品はまた異なる作品です。
表紙を見ると戦闘機が。ミッドナイトイーグルという,アメリカが開発した高性能のステルス戦闘機のことです。
本作品はなぜこの戦闘機が日本上空を飛び,そして墜落してしまったのかというのがひとつのポイントとなります。
映像化もされていて,何と日本とアメリカで同時上映された作品です。すごいですよね。
撮影には防衛省も協力したということですから,本作品を上映することが日本にとっていかに意味があるということでしょう。
キャストも大沢たかおさん,竹内結子さん,玉木宏さんなどなど,豪華です。
今の,そしてこれからの日本の在り方をも問う作品になっていると思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 アルプスに落ちたものとは
3.2 墜落した爆撃機の意味
3.3 西崎の運命は
4. この作品で学べたこと
● ミッドナイト・イーグルとは何かを知りたい
● 墜落した爆撃機に隠された秘密を知りたい
日本の山中で消息不明となった特殊爆弾搭載の米軍機をめぐり、国の存亡危機を救うべく立ち上がる男たちを壮大なスケールで描く。かつて世界中の戦場で生と死の現実を写真に収めてきたカメラマンの西崎。ステルス型戦略爆撃機、通称“ミッドナイトイーグル”に搭載されていた特殊爆弾を巡って、男たちが雪山で死闘を繰り広げる。
-Booksデータベースより-
1⃣ アルプスに落ちたものとは
2⃣ 墜落した爆撃機の秘密
3⃣ 西崎の運命は
カメラマンである西崎は,長野県のアルプスの尾根に現れた赤い光を発見します。本能的に、この光を撮影します。この光が何なのかを調査するため,アルプスに登ろうと決意する西崎。
実は西崎は、戦場カメラマンだったんですね。だから臆することなくこの「光」の正体を掴もうと行動したのです。
かつて西崎は,ある国の紛争を取材していいました。しかし,攻撃された西崎に食料を渡そうとしていた子供が目の前で亡くなるという悲しい出来事を経験していたのです。
その精神的なショックからか,西崎は日本に戻ってきてました。西崎が見た光は,どうやら見岳沢近辺に墜ちた様子。見岳沢という山はなく,おそらく「岳沢」がモデルになっているようです。
岳沢とは
上高地から穂高連峰へ登る途中、標高2,230mにあり「岳沢ヒュッテ」がある場所として登山家たちに知られています。
前穂高岳や奥穂高岳への上級者向けの登山基地ですが、上高地から日帰りで登って来れ、穂高連峰を間近に見られるスポットとしても人気があります。
-新松本物語サイトより-
西崎はその光に対してある種の違和感を感じているようで,後輩の新聞記者である落合信一郎に連絡を取ります。自衛隊の訓練機ではないかと言われますが,やはり腑に落ちない感じの西崎。そんな西崎にはかつて結婚していた女性がいました。松永慶子といいました。彼女は週刊誌の記者をしているようです。二人の間には息子である優が産まれますが,優は毎日のように西崎と慶子の夫婦喧嘩の中で育ちました。ある日,慶子の元に米国横田基地で自動小銃を持って侵入したという情報が飛び込んできました。何者かに軍の人間が殺害されてしまったのです。後でわかりますが,これがあの「光」と関係があったのです。
西崎が眠っている時,落合がやってきます。彼は西崎が見た光の正体を突き止めるため,山に登る装備で目の前に立っています。かつて天安門事件,ベルリンの壁崩壊,ソ連崩壊など,世界を揺るがす大事件には前兆がありました。
落合は西崎の言葉を信じ,光が見えた方向へ向かって山を登ることを決意したのです。このことに対し,慶子が勤務する新聞社でも何かしらの違和感を感じている様子でした。
「昨日の朝から首相官邸が騒がしい」米国大使館の様相を探ろうとする編集部。
しかも東京では渡良瀬総理のもとに自衛隊の幹部らが結集していました。やはり国家を揺るがす何かが起こっていて,そこにあの「光」が関係しているのか。一体,何が起こっているのか。
警察と自衛隊によって入山規制されている中をかいくぐり,西崎と落合は山に登り始めます。ところがしばらくして銃声が鳴り響きます。西崎たちを狙うのは何者なのか。彼らは身動きが出来なくなりました。
会話が聞こえます。どうやら日本語ではない。朝鮮語? 実は,北朝鮮の工作員が見岳沢に入り込んでいたのです。西崎同様,墜落したものが何かを探るために。
池袋では,慶子が編集部の青木とともにあるマンションに行きます。ある部屋に踏み込むと,そこには男性が倒れていて,それを匿うかのように女性がいます。女性の名は智恵(チヘ),男性の名は平田トシオと言いました。しかし日本人ではなさそう。
彼女たちは北朝鮮の諜報員でした。一体,何のために日本へやってきたのか。
その翌朝、慶子の元に落合から郵送された写真が届きます。それはアメリカのステルス爆撃機B-5,通称ミッドナイト・イーグルでした。
西崎が撮影したあの「光」の正体はミッドナイトイーグル。アルプスの山岳地帯に燃えながら墜落していたのでした。
アメリカ大使館、そしてペンタゴンが慌てふためいていたのは、その積み荷が問題だったのだ、と宮田編集長は考えたのです。
西崎と落合は多くの敵に囲まれているようです。敵の襲撃に、西崎は落合と山を下りることを提案しますが,落合はそのつもりはないようです。
それは落合の過去に原因があったようです。落合は以前取材を続けていたネタを上から止められたことに激昂し,上司を殴ってしまったのです。彼の中ではそれが逃げだったと考えていたようですね。今度はジャーナリストとして絶対に逃げたくない。そして西崎も山に残ることにしたのです。
何度目かの銃撃を受けているさなかに、西崎はアマチュア無線に向かって叫びました。
「大勢の敵から銃撃を受けている!東京にいる有沢慶子に伝えてくれ!」その後東京で,慶子の元に一人の若い男性が現れます。朝倉と言いました。彼は家の前でうずくまっています。不審に思う慶子でしたが,朝倉が思いもよらないことを話し始めます。
「西崎勇次という人を知っていますか?」
西崎がアマチュア無線で交信したのは,実はこの朝倉だったようです。西崎は写真家,報道家として有名で,朝倉は尊敬していると言うのです。そしてその西崎が「北アルプス」にいることもわかります。
銃撃の音、必死で叫ぶ西崎の声,何者かわからない朝鮮語。。。
しかし、その電波は彼だけではなく、日本の政府も傍受していました。自衛隊もその情報を元に,西崎たちを追っていました。自衛隊が動くとは,やはり何か大事件の予感。。。西崎たち,北朝鮮の者と思われる工作員,そして自衛隊が交錯します。工作員たちの襲撃で,自衛隊の男が撃たれてしまいました。それを見ていた西崎は傷の手当てをします。
自衛隊員の名は伍島(ごしま)と言いました。西崎は今起こっているこの現実のことを聞きます。「一体,この山で何が起こっている?」伍島は,言う権利がないと完全に黙り込みます。
一方,慶子たちは平田とチヘをラブホテルの一室に匿っていました。ところが突然その部屋が襲撃されてしまいます。慶子らは救い出そうとしましたが,平田は目の前で撃たれてしまいます。自分の最期を悟ったのか,平田が静かに話し始めます。
俺たちはB-3Aに爆弾を仕掛けた。その爆撃機が祖国(北朝鮮)の上空を飛んでいる。その爆弾とは「核爆弾」だ。レーダーで追えない爆撃機が核爆弾を積んで祖国の上を旋回している。
アメリカと日本は平和を謳いながら,一方では北朝鮮を威嚇している。
平田は,B-3Aを爆破し,日本海へ落とすつもりだったようです。ところが日本海どころか,日本の領土,しかも南アルプスに落ちてしまった。
横田基地には脱出班がいて,平田は日本海から脱出する予定でした。しかし軍の人間を撃って逃走してしまったのです。それはなぜか。実は一緒にいたチヘは平田の子供を身ごもっていたからです。一人だけ逃げるわけにはいかないと考えた平田は,チヘの元へ戻ったのでした。
とにかく,核を積んだ爆撃機が日本国内で落ちてしまったわけです。非核三原則を謳っている日本は,アメリカの誘導で北朝鮮を狙い,まさか自国に墜落させられるとは。
平田は自分の持つデイパックの中に,秘密のデータが入っているフロッピーを持っていました。しかし,そのフロッピーはどこにあるのか。。。
その頃、西崎は伍島から「ミッドナイトイーグル」の秘密を聞かされていました。ステルス機に、なんと「核爆弾」が積まれていたことを。そしてその核爆弾を取り戻すために雪山に入ったことも。この山に入った全ての人間がB-3Aを探し,西崎たちは工作員たちが狙っていたのは、その核爆弾だったことを知り絶句します。
もしここで爆発してしまえば、百万単位の死者が出ることになってしまう。核爆弾の起爆装置は作動しており、爆発は二時間後。。。
そして、周囲には工作員がまだ残って彼らを狙っていたのです。
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慶子らの動向は政府の知るところとなり、慶子たちは指令室に招き入れられました。そこにいるのは外務大臣か誰かなのか。しかし,慶子たちの想像を上回る人物が現れたのです。そこにいたのは渡良瀬総理でした。ということは,総理はこの事態を全て知っていた?
私どもは判断を誤った。やってはならないミスを犯した。
私はこの事態を収拾させ,責任を取るつもりです。
何と。。。この計画のために,どれだけ多くの人間を犠牲にしたのか。責任を取る云々の話ではないですよね。完全に総理失格です。
慶子はこのことを「国民に報道する義務がある」というジャーナリストとしての矜持を押し出します。責任を取ると言う総理から,意外な言葉が出てきます。
日本国内からだけではなく,世界からアメリカと日本は非難され,孤立は免れない。あなたたちには真実を忘れてもらいたい。日本のために,世界のために。
は~,結局,責任を取ると言いながらも保身を考えている。政治家あるあるです。個人の命などどうでもよいって言っているようなものです。残念ですよね。
事態は南アルプスの爆撃機。実は核爆弾には起爆装置がついています。伍島が言うのは,墜落後,この起爆装置がどういう状態になっているかわからない。つまり,すぐに爆発するかもしれないということです。
そして西崎,落合,伍島の三人は歩き始めます。すると遠くにある物体が見えます。B-3A爆撃機,まさに「ミッドナイトイーグル」でした。全長二十三メートル,翼幅五十メートルのエイのような機体の半分が雪に埋まっています。まさに本作品の表紙の写真そのものです。そして西崎はコックピットに入ります。どうやら,この奥に爆弾庫があるようです。
ところが爆弾庫の中には「核爆弾」は入っていませんでした。北朝鮮の工作員がいち早く取り出してしまっていたのです。ここで伍島が意外なことを口にします。実は核爆弾は二基あって,墜落などの衝撃で起爆装置が作動することを。
北朝鮮の工作員の使命は「核爆弾を取り出し,爆発させること」だったのです。その爆発には「パル・コード」というパスワードみたいなものが必要なようです。起爆装置のパネルには5/35/12,つまり爆発まで「5時間35分12秒」ということです。西崎は無線で連絡を取ろうとします。それを受信したのが朝倉。そしてとうとう西崎は慶子と直接話すことができるようになります。そして慶子たちは「起爆装置が作動し,それを止めるにはパスワードが必要である」ということを知るのです。
慶子は即時に動きます。チヘに聞くのです。平田が何か伝えてなかったか。そう言えば,平田が「フロッピー」のことを話していたことを思い出します。慶子は床の畳の下に「フロッピー」を見つけます。しかし,その時でした。
どうやらこのフロッピーには,爆弾を誘発するコードだけでなく,起爆装置がを解除するコードも入っているようです。そしてパスワードが判明します。「1942216」金正日の誕生日でした。起爆装置の停止が成功しました。
ところがミッドナイトイーグルは大勢の兵士たちに占領されていました。再び作動させられてしまう可能性がある状況の中,伍島は覚悟を決めます。
「ミサイルを飛ばせ。我々がもちこたえられるのはせいぜいあと三十分だ」
とうとうあの「トマホーク」を南アルプスに打つように進言するのです。そんなことをすれば,ミッドナイトイーグルだけでなく,当然西崎たちもろとも吹き飛んでしまいます。
それが,日本を守る最良の方法だというのか。。。
西崎と慶子が話をします。西崎は言います「俺は悪い夫だった」
それに対し,慶子は返します。
そうよ悪い夫。でも世界中に自慢するわ。私も優もあなたのことを誇りに思う。
日本を救った人なんだって。日本ばかりじゃないわ。世界を救ったのよ。
そして,トマホークは正確に,南アルプスの一点を撃ち抜くのでした。この結末に唖然としてしまい,しばらく呆然としてしまいました。
「核は持たない」と宣言している日本。もちろん核を持つことはできない。
実際には日本も隠密に核を持とうとしていたりするのではないだろうかと思ってしまうことがあります。日本には原発があり,その使用済核燃料であるプルトニウムを精製してます。その気になれば日本も保有する技術は持っているのだろうとは思います。
では核を持たないのはなぜか。
もちろん,核兵器不拡散条約(NPT)というものがあり,米国,ロシア,イギリス,フランス,中国以外は核を持ってはいけない。
と言いながらも実際に隠密に所持している国はあるのかもしれません。今後,日本だってどうなるかわからない。広島や長崎の原爆投下でどれだけの被害が起こったかを考えれば当然なんだけど,核爆発の恐怖は放射能だけではないのです。
爆発部分は数百万度にも達し,周囲は一瞬にして灰になる。数百万度というのは太陽のコロナの温度と同じくらいの温度となる。
そう考えると核を持ち,それがもし日本で爆発したことを考えたら恐ろしいですよね。
仮に日本が本当にアメリカの言いなりになっているとしたら,かなり残念です。
かつてGHQに支配され,憲法もGHQが草案を出し,いくら憲法が「非核三原則」を謳っていいます。しかし,アメリカに「隠密にやれ」と言われれば日本は従うしかないのか。
現在の,そしてこれからの日本の在り方を考えさせられる作品でした。
● ミッドナイト・イーグルに搭載されていたものに驚いた
● 日本という国の現在の立ち位置,これからのあるべき姿
● 最後の展開はとても意外で驚いた