伊坂幸太郎さんの「グラスホッパーシリーズ」第1弾です。
第二弾が「マリアビートル」,第三弾が「AX」というふうに現在のところ三作品が出版されています。
この作品の特徴的なのは,それぞれの登場人物,ほぼ殺し屋の視点で描かれているんですけど,「鈴木」「蝉」「鯨」「槿」というふうに,オリジナルのマークでわかりやすくなっているところです。全員,殺し屋です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 殺し屋参上!
3.2 鈴木,絶対絶命!
3.3 殺し屋たちの闘い
4. この作品で学べたこと
● 「鈴木」「蝉」「鯨」などの殺し屋それぞれの視点で描かれる作品を読んでみたい
● 最後の最後に一体誰が生き残るのかを知りたい
● 鈴木の復讐は達成されたのかを知りたい
「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋「鯨」、ナイフ使いの天才「蝉」も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに──。「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!
-Booksデータベースより-
鈴木・・・主人公。殺害された妻の復讐を誓う
比与子・・フロイラインの社員
寺原・・・フロイラインの社長。悪の根源
梶・・・・政治家。秘書の殺人を依頼する
鯨・・・・ターゲットを自殺へ追い込む殺し屋
蝉・・・・ナイフを使う殺し屋
槿・・・・殺し屋。ターゲットを突き落とす「押し屋」
1⃣ 殺し屋参上!
2⃣ 鈴木,絶対絶命!
3⃣ 殺し屋たちの闘い
主人公である元教師の鈴木は、自分の妻を轢き殺した寺原に復讐する為,寺原の父親が経営するフロイラインという会社に入るところから始まります。
フロイラインに入社した鈴木は,いきなり「仕事」をするように言われます。
比与子という社員が鈴木に,睡眠薬で男女を眠らせ男女を殺せと指示するのです。
殺害請負業者といったところでしょうか。鈴木は社員だから上司の言うことに従うしかないわけですね。
鈴木が本当に殺せるか確認しようと寺原長男がやってきます。
しかし,何者かに背中を押されて車道に飛び出してしまい,車に轢かれてしまいます。それを見ていたのが「鯨」でした。
「鯨」はターゲットを心理的に追い詰め,自殺させるスペシャリストなんですけど,偶然「押し屋」の行為をみてしまうのですね。
鯨もこの時,仕事をしてました。梶という政治家からの依頼で秘書を自殺に追い込んだのです。
そして次に「蝉」が登場します。彼は殺害した報酬を得て生活してました。
「蝉」は岩西という男からの依頼を受けて仕事をしているんですけど,その依頼が実は梶からのものでした。
「鯨」を殺害してくれ,というものです。
いやいや,人を殺害する仕事ばかりだし,殺し屋ばかりだし,とんでもない世界だなぁって思いながら読んでました。
あまりの複雑さに少々混乱しましたけど。
ここからまた大きな事件に発展していくのです。
「鯨」は梶から別の秘書を殺害するように依頼されます。
ところが「鯨」は怪しんでいるようでした。「この依頼は怪しい」と思うのです。
そこで鯨は梶に詰め寄ります。「俺を殺させようとしているだろう」予感は当たりました。
怒った「鯨」はとうとう梶を自殺に追いやります。恐ろしい男「鯨」,相手を心理的に追い詰めて殺害するわけですから,証拠もない。
逆に「蝉」は自分の仕事を失ってしまったわけなので焦ります。
次はどういうわけか寺原の長男の仇を打とうと考えるのです。
その頃,鈴木は「押し屋」を尾行し,住んでいる場所を突き止めます。
押し屋は「槿(あさがお)」といいました。
「槿」には家族がいて,子供もいました。そこで鈴木は家庭教師として「槿」の家に入り込むのです。意外と勇気のある男です。
子供とサッカーをしたり,奥さんの作ったものを食べたりしながら,徐々に家族と打ち解けていく鈴木。自分の妻のことやいろいろな思い出にふけっている鈴木に連絡が入ります。
殺し屋たちに徐々に追い詰められていく,フロイラインと寺原。
寺原は怒り心頭で,鈴木のことを怪しんでいる比与子は,鈴木をおびき寄せ,拉致します。
鈴木,絶対絶命! ここからがクライマックスです!
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「蝉」「鯨」「槿」そして「鈴木」
一体どんな結末が待っているのだろうか,ハラハラしながら読みました。
「蝉」の目的を知った「鯨」は,鈴木が拉致されている現場へ向かいます。
ちなみに鈴木は男女二人組と拉致されるんですけど,この二人組は「スズメバチ」という殺し屋でした。ホントに殺し屋ばっかりで混乱しますよね。
「蝉」は鈴木が縛られているのを発見,そして比与子と対決。比与子は逃走します。
その「蝉」が鈴木を連れて車で「槿」の家に向かおうとした瞬間,今度は「鯨」が襲ってきました。
まさに「殺し屋たちの闘い」です。最後は「蝉」が「鯨」から銃で撃たれてしまい,亡くなってしまいました。
そして寺原も「スズメバチ」という二人組に殺害されてました。
「鯨」はとうとう鈴木と出会うことになります。
鈴木は妻の形見である「指輪」を探しにきていたんですね。
それを聞いた鯨も同じ場所にやってきたというわけです。
鯨の攻めに鈴木は自殺しそうになります。
しかし,鈴木は妻のことを思い出して勇気がわいたのか,逆に鯨を追い詰め,鯨は車に轢かれてしまいました。
これが最後の抗争でした。
読んで思ったのは,結末があまりにもあっさりしていることです。
「鯨」や「蝉」が何を目的に動いていたのか。「槿」一家は,実は殺し屋劇団みたいな集まりだったし。
この後のことは読者の想像にお任せします,ということでしょうか。
ただ,鈴木が時々「幻覚」を見ている様子があるのが気になりました。
ひょっとすると鈴木はずっと幻覚の中にいて,鯨や蝉や槿なども幻の世界の人物だったとも取れます。
確かによく読めばそういう伏線的なことはいくつか散らばっていたなと思います。
こればかりは作者がどう描こうとしていたのかがわからないので,未だに「謎」ですね。
これが伊坂幸太郎ワールドなのでしょう。
含みを持たせながら終わる。こういう話も面白いかもしれませんね。
それにしても,今回の話は殺し屋がたくさん出てくるという,これまで読んだことがないような作品でした。
めまぐるしく展開していくストーリーだったので,どんどん読み進めました。
私たちの周りでも,密かにこんなことが行われているのでしょうか。
自分たち地位や縄張りなどを侵そうとする人間同士,時には誰かからの依頼を実行し,その報酬をもらうという世界が本当にあるのだろうかと考えさせられます。
しか少しの勘違いや,少しの先入観でお互いが抗争していまうというのは,さらなる復讐を生んでしまったり,罪のないものが巻き沿いになってしまったりで,僕にとっては理解が難しい世界でもありましたね。
きっとそれぞれの登場人物にも事情があって,今のこの仕事をしているのだろうなと自分を納得させました。
ただ,作品としてはスピード感があって,一気読みできます!
● 殺し屋のそれそれの特技があって,誰が生き残るのかハラハラしながら読めた
● 殺し屋同士の抗争というのは現実にもあるのだろうか。きっとそれぞれ事情があってのことでしょう
● 本作品は鈴木の幻覚だったのか
次作は「マリアビートル」,僕が伊坂先生の作品の中で一番好きな作品です。
今回出てきた人物も登場するので,是非ご一読を!!