マスカレードシリーズ第4弾。ようやく文庫本が発刊されたので、即購入しました。
マスカレードシリーズと言えば、やはり舞台はホテルコルテシア東京で、そのフロントの山岸尚美と、事件解決のためにホテルマンとして潜入する警視庁捜査一課の新田浩介のコンビですよね。
でもよく考えると、尚美は前作「マスカレード・ナイト」の終わりでアメリカに行ったんじゃなかったっけ?
そうなると今回は別の女性が登場するのか、それとも尚美が復活するのか。そんなことを考えながら楽しく読ませてもらいました。
毎回思うんですけど、東野圭吾先生は完全にホテル業務を知り尽くしているような気がします。さすがだなと思いました。
今回はどんな事件がホテル内で計画されているのでしょうか。
最後はとても感動する場面もあるので、是非読んでみてください!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 ローテーション殺人とは
3.2 不可解な天秤とは
3.3 本作品の考察
4. この作品で学べたこと
● マスカレードシリーズが大好きな方
● 新田刑事と山岸とのコンビが復活するのか知りたい方
● 今回の複雑な犯罪計画が何かを知りたい方
解決の糸口すらつかめない3つの殺人事件。
共通点はその殺害方法と、被害者はみな過去に人を死なせた者であることだった。捜査を進めると、その被害者たちを憎む過去の事件における遺族らが、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。警部となった新田浩介は、複雑な思いを抱えながら再び潜入捜査を開始する――。
Booksデータベースより-
新田浩介・・主人公。警視庁捜査一課の刑事。今回もホテルに潜入
梓真尋・・・警視庁捜査一課の女性警部。新田と時々対立する
神谷良美・・過去の事件に被害者の母親。ホテルに宿泊する
前島隆明・・過去の事故に被害者の父親。ホテルに宿泊する
小林三郎・・過去の事件に被害者の父親。ホテルに宿泊する
森元雅司・・被害者の父親。「不可解な天秤」というブログを運営
沢崎弓江・・ホテルにカップルで宿泊する若い女性
三輪葉月・・元検察官の女性。新田の同級生。
1⃣ ローテーション殺人とは
2⃣ 不可解な天秤とは
3⃣ 本作品の考察
東京で殺人事件が起こるところから話は始まります。
この事件の被害者は入江悠斗といいました。彼はかつて、中学時代に通り魔事件を起こしていました。「誰でもよかった」という明らかな無差別殺人でありながら、少年院に送られただけでした。
そんな彼を待っていたのは殺人事件。これは明らかに復讐ではないのか。あまりにもタイミングが良すぎます。
そして二人目の被害者が出ます。名前は高坂義弘、二十年前に強盗殺人を犯し、懲役十八年の実刑判決を受けていました。しかし昨年に千葉刑務所から出てきたようで、一年後に殺害されたのです。
さらに事件は続きます。被害者は村山伸司。彼は十七歳の時に、少年を相手を殴る蹴るの暴行を行い、その少年は植物状態になっていました。しかし村山は少年院に一年いただけで出所しました。さらに彼は出所後、中学生の少女をリベンジポルノで自殺にまで追い込んでいたのです。
そしてその村山も殺害されたのです。
これは連続殺人事件ではないかということになります。それは同じ時期に起こっていること、そして殺害に使用されのがナイフだったからです。
いや、それ以上の共通点は先に書いたように全員が「誰かを死なせた、あるいは亡くなった」というところです。
この部分を読んだだけでもこれは明らかに復讐のような気がしますよね。
警察はこれらが復讐ではないかということで、被害者遺族に尾行をつけます。被害者遺族の三名をマークしていた面々は、意外な共通点があることに気づきます。なんとこの三人、全員が「ホテルコルテシア東京」に宿泊するというのです。
これらの事件の共通点が判明し、責任者の新田たちは動き出します。そして今回はその中に梓という女性警部が捜査に参加します。
この梓がとても優秀で、捜査の主導権を握ろうとしているようでした。新田はこの梓にあまりいい印象を持っていない様子。
ホテルマンに扮した新田はホテル業務をよく知っていますが、梓は単独で自分の判断で行動しようとするのです。ホテルマンに警察がなりすましていることが客にバレれば、それはとても大変なことになります。
以前の作品の中でも、それが問題になって支配人に注意を受けていた新田は明らかに梓に不信感を持つのです。
この三人がホテルに泊まってきます。調べによるとこの三人には、先の連続殺人事件では「アリバイ」がありました。
ここで警察はこの連続殺人事件が「ローテーション殺人」ではないかと疑うのです。
ローテーション殺人とは
犯罪被害者の遺族など、強い動機を持つ者たちが複数名で結託し、それぞれが「自分の復讐対象ではない人物」を代わりに殺す。
結果として、誰一人として「直接的な犯行動機」が成立しない、さらにはアリバイが鉄壁になるというもの
ホテルにやってきた被害者遺族の3人。この3人の動向を探るも、レストランへ行ったり、スマホを見たり、何か行動するようには見えない。時々怪しい動きもしますが、本当に殺人事件が起こるのだろうか、という雰囲気が漂います。
一体、どういうことなのだろうか。新田が困っているところに助っ人が現れました。
そう、その人物こそ、山岸尚美だったのです。
山岸尚美は、ホテルコルテシアのロサンゼルス店に赴任していました。しかし、今回の事件を受けて、支配人が急遽彼女を東京へ呼び戻したのです。新田の気持ちはまさに水を得た魚のように心強さを感じているようでした。
逆に梓警部の方が尚美に対して不信感を持っているようでした。そして梓の言動に、新田同様、尚美も違和感を募らせているのです。
ま、とにかく役者は揃ったわけです。ここから被害者遺族の監視が強化されます。
コルテシアのフロントスタッフとして、山岸は宿泊客の違和感にとても敏感です。チェックイン時の不自然な態度、仮名を使っている疑いがないかどうか、ほかの宿泊客を不自然に観察している者の存在など、ホテルマンとしての客の情報をとして新田に提供していくのです。
これは警察には見えない「人間の小さな変化」を捉える、ホテルマン特有の力でもあります。それを新田に伝えるのが彼女の役割というわけです。新田にとって心強い味方であるというのはわかるような気がしますよね。
ところが、ここで新田にとって思ってもない客がやってきます。それは三輪葉月という、新田が大学時代に同じゼミだった女性でした。彼女は元検察官でしたが、ある事件をきっかけにうつ状態となってしまい、検事を辞めてしまってました。
そんな彼女が新田を見つけてしまうのです。彼女は新田が警視庁の人間だということを知っていました。ただ、新田としては暗黙にホテルマンになりすましているわけで、彼女に嘘をつきます。「このホテルに転職した」と。
新田とホテルマンという組み合わせの違和感に三輪は疑いの目で見ますが、どうやら信じてくれたようです。これも過去に二度、ホテル内の事件に関わって潜入捜査をやった経験が活きたというわけです。
さらに、沢崎弓江という女性がやってきます。とても活発そうな女性ですが、一緒にいる男性は逆に暗い感じです。羽振りがいいのか、ロイヤルスイートの部屋を頼もうとしますが、尚美は入れませんでした。実際には空いてたそうなんですけど、急遽VIPが飛び込みで宿泊するために、わざと空けていることがあるそうですね。なるほど。
そして重大なことが判明します。警察の調べで「不可解な天秤」というブログがあることを発見します。ここには三人の被害者のことも書かれていました。
ということは、被害者たちはこのサイトで繋がっているということなのでしょうか。運営しているのは森元という男でした。彼はここにいろいろなことを書き込んでいました。
精神状態によって刑事責任が問われる「心神喪失」や「心神耗弱」について詳しく解説しています。つまり刑法第39条、よく小説でも取り扱われるものです。
刑法39条とは
『刑事責任能力のない人は処罰の対象外とする、または、処罰を軽減する』という記述がされています。では、なぜこうした犯罪者をかばうような法律があるのでしょうか。
それは、違法な行為を行った者に対して責任を問うために、事理弁識能力(物事の善し悪しが判断できる能力)と行動抑制能力(自身の行動を律することができる能力)が必要とされているからです。
―ベンナビ サイトより―
ブログには、恋人(大畑誠也)に大量の安定剤を飲ませて錯乱させた上で刺殺した女性(長谷部奈央)が、精神鑑定で「心神喪失」と判断され不起訴となった事例を取り上げていました。
「この国では殺人など重大犯罪でも刑期が二十年以下というケースが珍しくない。業務上過失致死などではさらに軽い」
「過失で人を死なせても『殺人』とみなされないなら、遺族が納得できるのか?」
つまり、被害者の苦しみに対して、加害者への刑罰はあまりにも書く過ぎないか、というような被害者を擁護する発言が書かれているのです。
やはり、三人の被害者遺族は、このサイトの管理人である森元と結託して「ローテーション殺人」を実行しようとしているのでしょうか。
そして新田と尚美は、梓警部たちの横やりを交わしながら、犯人を捕まえることができるのでしょうか。
今回、本作品を読んで思ったのは、まずは刑法39条についてです。ミステリー小説では、このことが社会問題となって描かれていることが多いです。
過去の事例として適用されたものがあります。
統合失調症の女性が母親を殺害した事件
ある女性が統合失調症により幻覚・妄想状態の中で母親を殺害。
鑑定で「事件当時、自己の行動の是非を判断できなかった」とされ、心神喪失と認定され無罪となりました。
ただし、社会的影響を考慮し、医療観察法に基づく入院が命じられました。
逆に、適用されなかった事例もあります。
池田小学校事件
2001年に発生した大阪教育大学附属池田小事件では、被告の宅間守が8人の児童を殺害。
弁護側は心神喪失を主張しましたが、裁判所は宅間の計画性や犯行の冷静さから「完全責任能力がある」として、刑法39条は適用されず、死刑判決となりました。
いずれにしても、自分の親しい人物を亡くした被害者遺族の気持ちを思うと、何とも言えない気持ちになります。ここだけ見ると、加害者を赦せないと思う気持ちは変わらないし、その刑罰が軽ければ尚更怒りがこみ上げることでしょう。
ただ、本作品は加害者の視点にも注目しています。それは実際に読んでほしいと思います。
そして、読了後、あなたは号泣するかもしれません。実際僕は、ある人物の「覚悟」に号泣してしまいました。
これが何なのかも、最後の最後にわかると思います。
是非、読んでみてください!!
● 新田と山岸の連携が以前よりもパワーアップ
● 被害者遺族、加害者関係者の気持ちを考えさせられた
● 最後の新田のある覚悟に感動してしまった