「ボトルネック」という言葉。なかなか聞きなれない方もおられるかもしれませんが,僕自身はIT業界でよくこの言葉を使ってました。
ボトルを花瓶と考えれば,そのネックになる細くくびれた部分をボトルネックと言います。
要はそこがネックになって水がたくさん流れないのと同様に,システムなどでも,ある部分に処理が遅い部分があれば,それが影響で全体的な処理にも影響があるといえばよいでしょうか。
本作品では「何がボトルネックと言っているのか」がポイントになります。
読んでいけばわかりますが,まるで「パラレルワールド」的な話もあり,ファンタジーな要素もあります。
まっ,パラレルワールドがないとは言い切れないので,ファンタジーではないかもしれないですが。。。
どうやらこのパラレルワールドの境目が「東尋坊」のようです。
一体,どんなパラレルワールドなのか。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 リョウがいない世界
3.2 サキの世界とリョウの世界の違い
3.3 リョウが出した結論
4. この作品で学べたこと
● パラレルワールドのストーリーを読んでみたい
● 「ボトルネック」とは何を意味するのか
● 作者が言いたかったことは何なのか
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。
-Booksデータベースより-
1⃣ リョウがいない世界
2⃣ サキの世界とリョウの世界の違い
3⃣ リョウが出した結論
主人公の嵯峨野リョウの兄が事故で亡くなったと知らせを聞くところから話は始まります。
お通夜に出なければならない彼は,その時「東尋坊」にいました。
東尋坊と言えば,福井県の日本海側にある自○の名所と言われる場所ですね。刑事ドラマでもよく登場する断崖絶壁の場所です。
リョウはここにある人物の弔いに来ていました。諏訪ノゾミです。ノゾミはリョウの恋人でしたが,2年前にこの東尋坊から転落,事故死していました。
金沢の自宅に戻ろうとしたとき,崖の上に急に風が吹き,リョウは転落してしまいます。
というか,転落したかどうかはハッキリ描かれていませんが,次の瞬間にはリョウは金沢にいたのでした。
「自分は東尋坊で転落したはずでは。。。」そんな疑問を持ちながら自宅に戻ったリョウに驚くべきことが起こるのです。
自宅に見知らぬ女性がいます。彼女の名前は「嵯峨野サキ」と言いました。
リョウはサキのことは知りません。反対にサキもリョウのことは知らないのです。
共通しているのは,お互いが「ここは自分の家である」ということです。
頭脳明晰なサキはいろいろなことをリョウに質問します。
「あんた,家族構成言ってみ?」いろいろな質問をした結果わかったのは,この家には本当に嵯峨野サキという女性が確かに住んでいるということです。しかしリョウの部屋はどこにもない。
ひょっとして,これがパラレルワールド?
ここはリョウの住んでいた世界ではないようです。
でもサキはあからさまにリョウを拒絶することなく,リョウの気持ちを察する優しい女性にも思えます。
リョウは思い出します。リョウの世界では,かつて兄の次に生まれた姉がいたことを。しかしその姉は生まれてしばらくしてから亡くなっていました。
その姉が,サキ自身なのではないかと考えるリョウ。
つまりこの世界ではリョウは存在していないのです。ショックを受けるリョウ。どうやらサキの言っていることは本当のようです。
最初はサキ自身が偽りを話しているのかと思っていましたが,どうやらそうではなさそうです。
ここからリョウはさらなる衝撃を味わうことになるのです。
リョウが今いる世界。リョウが元々いた世界。
この2つには多くの違いがありました。
まず,この世界ではリョウの両親が仲良くしているということです。リョウの世界では常に険悪なムード。それは両親ともに不倫をしていたからでした。ではサキの世界ではなぜ仲良くしているのか。それはサキ自身が両親としっかり事実関係を話,徐々に両親がお互いのことを許したことにありました。
他にも,サキの世界では,あるアクセサリー店が存在しますが,リョウの世界では存在しません。
サキは言うのです。「あの店は私が救ったのだ」と。何かしらの手段でサキがこの店を立て直したようなんですね。
リョウの世界にはない物がこの世界にはあるということに衝撃を受けるリョウ。
そしてさらに驚くべきことが。。。
実はあの諏訪ノゾミがこの世界では生きているのです。しかもサキとノゾミは顔見知り。ノゾミを目の前にしてどういう対応をしていいのか困っている様子のリョウ。
確かにそうですよね。自分のかつての恋人が,この世界では生きている。
大好きだったノゾミの中に,リョウの存在は全くない。
しかも明るく振舞っている様子を見せつけられ,リョウは大衝撃を受けるのです。逆に,この世界にはなくて,リョウの世界に存在するものがありました。
それは湖畔公園にあるイチョウの木です。
イチョウの木はこの世界では切られていました。
このイチョウの木が今回の人生の大きな「岐路」のようにも思えます。実はリョウの世界ではイチョウの木があったせいで,リョウの姉が救急車で運ばれたときにここで時間が経ってしまい,姉が亡くなってしまったようなのです。
しかしこの世界ではイチョウの木は存在しないので,救急車が足止めを食らうことはなかった。
だからサキが生きている,ということなのでしょうか。つまり,ここが分岐点だったということ?リョウにとって,今自分がいる世界,元の世界との違いをまざまざと見せつけられます。
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では,ノゾミはなぜ生きているのか。リョウの世界では亡くなっているのか。
それはサキがノゾミと東尋坊に行ったときのことです。そこにはノゾミの妹フミカもいましたが,サキはフミカの「悪意」を敏感に感じ取っていました。
東尋坊の崖の近くにある鉄柵に座るようにフミカはノゾミに言うのです。フミカは殺意があったようではないです。イタズラ心がそうさせたのでしょう。
ここがポイントなんですが,リョウの世界ではこのタイミングでノゾミは転落死しています。
しかし,こっちの世界ではその悪意に気づいたサキがノゾミの転落を防いだのでした。
この事実を知り,そしてこれまで多くの話をサキから聞いたことで,リョウはある確信をします。
「この世界ではいろいろなことがうまくいっている。両親は仲がいいし,店が続いていたり,邪魔だったイチョウの木が切られている。ノゾミも生きている」
「それに比べて,自分が生きていた世界はうまくいっていない。姉も存在しないし,両親も不仲。ノゾミも東尋坊で亡くなった」
そうなんです。リョウは自分の存在自体が自分の生活や環境を変化させてしまったと,自分で自分を責めているのです。それはサキを責めているのではなく,明らかに自分を責めている。
結局,リョウの世界では「自分自身がボトルネック」であると考えたのではないでしょうか。
サキとリョウの決定的な違い。
サキは「積極的に行動する人間」であること。
そしてリョウは「現実に起こった事実をただ受け入れる受動的な人間」であること。
これが世界を大きく変えたと感じているようでした。リョウは絶望感を味わっているようです。
「自分は決してサキのようにはなれない」と。
そして,東尋坊から自分の元いた世界に戻るのでした。
パラレルワールドって,存在するのでしょうか。何かが存在することを証明するのも難しいですけど,「無い」と証明するのも難しい。
パラレルワールドというのは実際にあって,僕自身が別の世界で生きていることがあるのだろうかと考えたりもします。
いや,ひょっとすれば今回のリョウのように存在すらしないかも。
本作品で思ったのは,苦しくても何かしらの行動をすれば状況を変化させることができるということです。
頭の中で考えてもしょうがない。状況が変わるかどうかはわからないけど,動けば何かしらの反応があって,変化するかもしれない。
何もしないことが一番よくないのではないか。それを作者は言いたかったのではないか。
そんなことを考えさせられました。最後,リョウはどうなったのか意味深な終わり方でした。
東尋坊にいるリョウにかかってきた電話,そして送られてきたメール。
どうなったのかは読者の想像にまかせますということなのかな。
別の世界を見たリョウが元の世界で,自分の力で変化を起こせるような行動をしてほしいと願います。
● 人は行動することで環境を変えられるかもしれない
● 最後の結末がどうなったのかを知りたかった
● パラレルワールドは存在するのか