僕が2016年から小説を毎日読み続けるキッカケになったのがこの「プラチナデータ」でした。
僕の母親が本を読むのが好きで,実家にあったこの作品を家に持って帰って読みました。学生時代,あれだけ本を読まなかった僕が,この作品で「小説の面白さ」に気づき,今でも毎日続けているのは,母親が小説好きだったおかげです。
それだけ僕にとっては大事な作品なんですね。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 Not Found!
4.2 神楽の二重人格
4.3 真のプラチナデータとは
5. この作品で学べたこと
● タイトルの「プラチナデータ」とは何か気になる
● 主人公の「二重人格」に興味がある
● 人間の遺伝子情報を管理することのデメリットを知りたい
国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システム。その開発者が殺された。神楽龍平はシステムを使い犯人を検索するが、そこに示されたのは彼の名前だった! エンターテインメント長篇。
-Booksデータベースより-
作者は東野圭吾さんです。
1958年生まれ 大阪府立大学工学部卒業
電気メーカーへ就職後,執筆活動を行う。
これまで出版された作品は100作品ほどあります。
主な受賞歴
江戸川乱歩賞(放課後)・日本推理作家協会賞(秘密,天使の耳)・吉川英治文学賞(祈りの幕が下りる時)・直木三十五賞(容疑者Xの献身)・柴田錬三郎賞(夢幻花)など
2013年に二宮和也さんが主演で映画化されてます。
この作品は,遺伝子情報であるDNAを管理し,犯人を100%の確率で検挙できるということが背景になっています。
一度犯罪を犯した人間の指紋を取り,それを管理して早期解決につなげるというのはよく知られてますが,まさかDNAまで管理するとは。。。
いつか本当に,全国民の遺伝子情報を全てプロファイリング(遺伝子情報のデータベース化)するという時代が来るのでしょうか。
髪の毛一本さえあれば,その持ち主が誰かの何親等以内にいるのかまで特定できるようになるというのには驚かされます。
賛成派,反対派,ありそうですね。
神楽龍平・・・特殊解析研究所に勤務。二重人格者である
蓼科早樹・・・遺伝子捜査システムを作った天才科学者
蓼科耕作・・・早樹の兄
浅間玲司・・・神楽を追う警部補
水上洋次郎・・脳外科医教授。神楽の担当医
この作品は,婦女暴行連続殺人事件が発生し,一人の研究者がこの事件の犯人を特定しようとするところから話は始まります。
1⃣ Not Found!
2⃣ 神楽の二重人格
3⃣ 真のプラチナデータとは
主人公は,特殊解析研究所の神楽龍平です。
彼は婦女暴行連続殺人事件を遺伝子情報による「システム」で特定しようとしますが,結果は「Not Found」となってしまいます。
かつて検挙できなかった事件がなかっただけに,神楽は捜査に行き詰ります。
そうこうしているうちに,システムの開発者である蓼科(たてしな)兄妹も殺害されてしまいます。
その妹を殺害した凶器が,婦女暴行事件で使用されたものと一致し,しかもその犯人像が「神楽」であるという分析結果が出てしまいます。
前科者ならまだしも,過去に罪を犯していない人間まで特定されるようになるというのは,少し恐ろしい気がします。
そして神楽は逃亡を始めるのです。
その神楽を刑事が追うという展開になります。
神楽は実は「二重人格」でした。
かつて陶芸家であった父親が自殺してしまったことにより精神的にショックを受け,二重人格になってしまったのです。
神楽は人格が入れ替わるとアトリエで絵を描く「リュウ」という人格が現れます。
その神楽を診ていたのが水上教授です。
二重人格だけでなく,多重人格という話は他の小説で出てくることがあります。
貴志祐介さんの「十三番目のペルソナ」という作品では13人もの人格が存在するという設定でした。いわゆる多重人格です。
今回の話では,神楽とリュウという二人の人格は,お互いは全く認識がありません。
人格が神楽の時にはリュウの記憶はないし,人格がリュウの時には神楽としての記憶はないということです。
ひょっとすると,犯人は神楽ではなくリュウの人格なのではないかと,神楽が自分自身を疑うようになってしまうのです。
そして刑事の浅間も同じように神楽を疑うようになるのです。
一体,プラチナデータとは何なのか,やはりそこが大きなポイントになります。
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神楽は同僚である白鳥の助けを得て,逃亡を続けます。
そして真のプラチナデータを持つ「モーグル」と呼ばれるプログラムを探し出すように指示されるのです。
そこに「真のプラチナデータ」があるというのです。
それは「官僚、政治家、警察上層部たちとその家族の遺伝子情報」でした。
このデータに入っている人々,つまり特権階級にいる者たちは犯罪者として特定されないというものだったのです。
この真のプラチナデータを使用して犯人が特定されます。
それは水上教授でした。そしてその目的は私利私欲のもの。
生きる価値のない人間を識別するためのものにこのプラチナデータを利用するというのです。
水上教授は,遺伝子情報こそが重要であるという「遺伝子情報主義者」で,不完全な遺伝子情報を持つものは抹殺する。
それがこの世の中から犯罪をなくし,良い世の中にできると信じ込んでいるのです。
こんな恐ろしい価値観を持った人が世の中にいたらと思うとゾッとしますよね。
この作品を読んでたら,パレートの法則を思い出しました。
柚木裕子さんが「パレートの誤算」という作品を描いてますが,そこにも描かれていますし,「働きアリの法則」とも呼んでいますね。
働きアリのうち,優秀なアリは全体の2割,普通に働くが6割,怠け者のアリが2割いる。
2:6:2の法則とでも言うのでしょうか。
しかし,このうち優秀なアリだけを同じ場所に入れても,結局はこの法則が成り立ってしまう。
つまり,2割はやっぱり怠け者になってしまうというんですね。
だから,結局は遺伝子情報でも同じことが言えるのではないかなって思います。
よい遺伝子持つ人間ばかりを集めたって,いい社会にはなっていかないと思うのです。
今回,プラチナデータを読みながら,将来、DNAを含む個人情報が全て管理されてしまう時代が来ることがあるのかと思うと恐ろしくなりました。
システム化が進み,犯罪者をいち早く検挙してほしいという気持ちはわかります。
よく警察小説でも「Nシステム」という,車のナンバーを画像データベース化し,犯罪者の追跡に利用されるということが描かれていることがあります。
犯罪者が社会の中に溶け込んでいれば,いつ自分の身に何かが起こるかもしれないですから。
システムの目的が犯罪者を突き止めることにあれば問題ないと思います。
しかし,システム化というのはよく考えないといけないもので,悪意のある人間が悪意のあるプログラムを作ってしまえば,それは何でもできてしまいます。
IT業界にいた経験があるので,よくわかります。
世の中にはコンピュータウィルスを作ったり,サイバー攻撃が起こしたり,企業のシステムを狙う人々もたくさんいるわけです。
技術の進化は素晴らしいことだと思います。
しかし,それをどう利用するか。善意なのか,悪意なのか。
結局,最後はそこかなって気がします。
● 国民全員の遺伝子情報を管理することには大きなリスクがある
● システムが「犯罪者の摘発」を目的とするのはよいが,そこに悪意があると本末転倒となってしまう
● 仮に優秀な人間を集めた社会を作ったとしても,理想的な世の中になるとは限らない。むしろ危険である。
管理することは大事ではあるけど,それをどう使うかの方が実はもっと大事なんだと思います。
管理社会への警鐘とも言える内容だったかなと思います。